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音が満ち溢れる街
しおりを挟む 暫くすると、施設の扉が開く音が聞こえてくる。どうやらツバキの出発の準備が整ったようだ。ミアを先頭にゾロゾロと何人かの者達が現れる。ついて来ていたのは施設にいた獣人と研究所の人間のようだ。
「ありがとう。君の発明品は街の復興に大いな影響を与える素晴らしいものだ。有効に活用させてもらうよ」
「おうよ!もう変なものを燃料にしようなんて思うなよ?」
彼が子供故だろうか。周りの者達が思わず息を呑んでしまうようなブラックジョークが放たれる。しかし、研究員の男はそんな空気を笑い飛ばすように笑顔で答えた。
「大丈夫。我々はもう他人に利用されたりしないさ。ここにいる様々な種族の人達と共に生きていく。死ぬ時は彼らと一緒だ」
「おいおい、これから街を出ようって奴に死ぬ時の話なんかするなよな?縁起でもねぇ」
「ははは、すまない」
すると、そんな彼を小突いたのは隣にいた獣人族だった。
「そうだぜ。俺達のスタートもこれからなんだ。未だにアンタらを恨む奴らも少なくはないが、俺らだけの知識じゃ復興できねぇのも事実。今はしがらみを忘れて一丸とならねぇとな」
「わかっているとも。我々は皆、罪の意識を持っている。無知である事と言われるがまま己を持たぬということはそれだけで罪になる。楽に身を投じるということは他者に責務を負わせ、不幸を振り撒くものとなる。私は研究所を出てそれを学んだよ・・・」
彼らの感謝の言葉と決意表明を受けたのちに、ツバキは握手を交わしてシン達の元へと戻ってきた。彼も悪い気はしなかったようで、その表情には笑みが溢れていた。
「いよいよ出発か!?こちとら待ちくたびれてんだ!」
「商人の馬車次第だ。だがまぁ、話じゃもうすぐ着くみたいだしな。早くても今日の夕方頃には出発できるんじゃねぇか?」
事前にリナムルから発った調査隊の話を伺っていたミア達は、外の街などとの流通がいつになったら完了するのかを調べていた。どうやら今日中に調査隊の帰還が見込めるらしく、安全が確保され次第、外との物流が再開されるのだという。
進路を確保した調査隊がリナムルへ戻ってきたら、滞在していた冒険者達も商人達に同行し、リナムルを発つそうだ。
「もう次の街についての情報は掴んでるのかい?」
「いや、アタシは調査隊の話しか聞いてねぇな。シンの方は?」
ミアに尋ねられたシンは、アカリの方を見た。すると彼女は街で商人に聞かされたという“音が満ち溢れる街“という場所へ行ってみたいという話を一行に告げる。
「行ってみたいって?旅行じゃねぇんだぞぉ!?」
「いいじゃないですか、別に!皆さんが目指しているというアークシティというところへの進路上にある街なんですよ?」
「シン、確かな情報なのか?」
「さぁ・・・どうだろう。どちらにせよ、調査隊が戻り次第商人達が向かう街を聞いてみよう。アークシティへの進路上にあるのなら、立ち寄ってみても良いかもしれない」
「シンまでアカリを甘やかすのかぁ!?」
ツバキにも行きたいところでもあるのだろうか。やけにアカリの言う行き先について突っかかって来る。そこでシンは、アカリが聞かされた街に行くことに乗っかった彼なりの理由を一行に説明した。
シン達と同行し始めてから、アカリや紅葉はろくな目に合っていない。それどころかこんな僅かな期間に何度も命の危機にさらされて、何一ついい思いをしていないことに、シンは申し訳なさを感じていたと。
ツバキとアカリには語っていないが、恐らく彼らが毎度事件に巻き込まれるのは、彼らがWoFのユーザーであるからに違いない。彼女らがこの世界の住人と別の旅を繰り広げていたら、こんな目に遭わずに済んだのかもしれない。
そんなシンの話を聞いて、ミアとツクヨは次の目的地について、アカリの言う“音が満ち溢れる街“に賛同した。ツバキも渋い顔をしながらも、確かにそれは可哀想だと思ったのか、これまでの態度を改め、素直にアカリに強く当たったことに対する謝罪の言葉を送った。
「そうだな・・・お前は祭りも知らないんだもんな。世の中にはもっと面白いものや楽しいものもあるんだ。そう言うのを見て回るのも、悪くねぇかもな・・・」
「あら?やけに素直になられましたのね?でも嬉しいです、わかって貰えたようで。勿論、皆さんの旅の邪魔をするつもりはありません。あくまで目的地に着くまでの道中での範囲と考えております」
「そんな急いでる訳でもねぇんだ。ツバキもアカリも、行きたい街とかあるんだったら遠慮するなよ」
まだ幼い彼らの気持ちを尊重し、ミアが優しく言葉をかける。
「マジかよ!?じゃぁさッ・・・」
「戻るとかは無しだがな」
再びいつもの調子に戻った一行は、調査隊が帰還するまでの間リナムルの街を巡り、世話になった者達に挨拶巡りをした。別れを惜しむ者や、感謝を告げる者もいた。
そして快復のため療養しているダラーヒムは、今回の一件の解決を感謝し、キングにいい報告ができると嬉しそうにしていた。直接子供達を助けることは出来なかったが、少なくともそんな非道な実験を行う場が一つでも潰せたことは、キングにとっても吉報となるだろう。
最後にリナムルを訪れ一悶着あり、最も協力関係にあった獣人族の長であるアズールを探したが、どこを回っても誰に聞いても、彼の行方を知る者はいなかった。
「側近のガルムやケルムでも知らねぇのはおかしくないか?」
「どうなってるの、一体・・・」
「あれだけ肉弾戦の強い獣人も、そうはいないから大丈夫だと思うけど、確かに妙だな・・・」
妙なことはそれだけではなかった。自分達の長が見当たらないというの、ガルムもケルムも全く慌てているような様子がない。それどころか、彼らだけでなく他の獣人達も探しに行っているような様子もない。
それこそ、まるで彼らに何かを隠しているかのように。
「ありがとう。君の発明品は街の復興に大いな影響を与える素晴らしいものだ。有効に活用させてもらうよ」
「おうよ!もう変なものを燃料にしようなんて思うなよ?」
彼が子供故だろうか。周りの者達が思わず息を呑んでしまうようなブラックジョークが放たれる。しかし、研究員の男はそんな空気を笑い飛ばすように笑顔で答えた。
「大丈夫。我々はもう他人に利用されたりしないさ。ここにいる様々な種族の人達と共に生きていく。死ぬ時は彼らと一緒だ」
「おいおい、これから街を出ようって奴に死ぬ時の話なんかするなよな?縁起でもねぇ」
「ははは、すまない」
すると、そんな彼を小突いたのは隣にいた獣人族だった。
「そうだぜ。俺達のスタートもこれからなんだ。未だにアンタらを恨む奴らも少なくはないが、俺らだけの知識じゃ復興できねぇのも事実。今はしがらみを忘れて一丸とならねぇとな」
「わかっているとも。我々は皆、罪の意識を持っている。無知である事と言われるがまま己を持たぬということはそれだけで罪になる。楽に身を投じるということは他者に責務を負わせ、不幸を振り撒くものとなる。私は研究所を出てそれを学んだよ・・・」
彼らの感謝の言葉と決意表明を受けたのちに、ツバキは握手を交わしてシン達の元へと戻ってきた。彼も悪い気はしなかったようで、その表情には笑みが溢れていた。
「いよいよ出発か!?こちとら待ちくたびれてんだ!」
「商人の馬車次第だ。だがまぁ、話じゃもうすぐ着くみたいだしな。早くても今日の夕方頃には出発できるんじゃねぇか?」
事前にリナムルから発った調査隊の話を伺っていたミア達は、外の街などとの流通がいつになったら完了するのかを調べていた。どうやら今日中に調査隊の帰還が見込めるらしく、安全が確保され次第、外との物流が再開されるのだという。
進路を確保した調査隊がリナムルへ戻ってきたら、滞在していた冒険者達も商人達に同行し、リナムルを発つそうだ。
「もう次の街についての情報は掴んでるのかい?」
「いや、アタシは調査隊の話しか聞いてねぇな。シンの方は?」
ミアに尋ねられたシンは、アカリの方を見た。すると彼女は街で商人に聞かされたという“音が満ち溢れる街“という場所へ行ってみたいという話を一行に告げる。
「行ってみたいって?旅行じゃねぇんだぞぉ!?」
「いいじゃないですか、別に!皆さんが目指しているというアークシティというところへの進路上にある街なんですよ?」
「シン、確かな情報なのか?」
「さぁ・・・どうだろう。どちらにせよ、調査隊が戻り次第商人達が向かう街を聞いてみよう。アークシティへの進路上にあるのなら、立ち寄ってみても良いかもしれない」
「シンまでアカリを甘やかすのかぁ!?」
ツバキにも行きたいところでもあるのだろうか。やけにアカリの言う行き先について突っかかって来る。そこでシンは、アカリが聞かされた街に行くことに乗っかった彼なりの理由を一行に説明した。
シン達と同行し始めてから、アカリや紅葉はろくな目に合っていない。それどころかこんな僅かな期間に何度も命の危機にさらされて、何一ついい思いをしていないことに、シンは申し訳なさを感じていたと。
ツバキとアカリには語っていないが、恐らく彼らが毎度事件に巻き込まれるのは、彼らがWoFのユーザーであるからに違いない。彼女らがこの世界の住人と別の旅を繰り広げていたら、こんな目に遭わずに済んだのかもしれない。
そんなシンの話を聞いて、ミアとツクヨは次の目的地について、アカリの言う“音が満ち溢れる街“に賛同した。ツバキも渋い顔をしながらも、確かにそれは可哀想だと思ったのか、これまでの態度を改め、素直にアカリに強く当たったことに対する謝罪の言葉を送った。
「そうだな・・・お前は祭りも知らないんだもんな。世の中にはもっと面白いものや楽しいものもあるんだ。そう言うのを見て回るのも、悪くねぇかもな・・・」
「あら?やけに素直になられましたのね?でも嬉しいです、わかって貰えたようで。勿論、皆さんの旅の邪魔をするつもりはありません。あくまで目的地に着くまでの道中での範囲と考えております」
「そんな急いでる訳でもねぇんだ。ツバキもアカリも、行きたい街とかあるんだったら遠慮するなよ」
まだ幼い彼らの気持ちを尊重し、ミアが優しく言葉をかける。
「マジかよ!?じゃぁさッ・・・」
「戻るとかは無しだがな」
再びいつもの調子に戻った一行は、調査隊が帰還するまでの間リナムルの街を巡り、世話になった者達に挨拶巡りをした。別れを惜しむ者や、感謝を告げる者もいた。
そして快復のため療養しているダラーヒムは、今回の一件の解決を感謝し、キングにいい報告ができると嬉しそうにしていた。直接子供達を助けることは出来なかったが、少なくともそんな非道な実験を行う場が一つでも潰せたことは、キングにとっても吉報となるだろう。
最後にリナムルを訪れ一悶着あり、最も協力関係にあった獣人族の長であるアズールを探したが、どこを回っても誰に聞いても、彼の行方を知る者はいなかった。
「側近のガルムやケルムでも知らねぇのはおかしくないか?」
「どうなってるの、一体・・・」
「あれだけ肉弾戦の強い獣人も、そうはいないから大丈夫だと思うけど、確かに妙だな・・・」
妙なことはそれだけではなかった。自分達の長が見当たらないというの、ガルムもケルムも全く慌てているような様子がない。それどころか、彼らだけでなく他の獣人達も探しに行っているような様子もない。
それこそ、まるで彼らに何かを隠しているかのように。
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