World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,153 / 1,646

音が満ち溢れる街

しおりを挟む
 暫くすると、施設の扉が開く音が聞こえてくる。どうやらツバキの出発の準備が整ったようだ。ミアを先頭にゾロゾロと何人かの者達が現れる。ついて来ていたのは施設にいた獣人と研究所の人間のようだ。

 「ありがとう。君の発明品は街の復興に大いな影響を与える素晴らしいものだ。有効に活用させてもらうよ」

 「おうよ!もう変なものを燃料にしようなんて思うなよ?」

 彼が子供故だろうか。周りの者達が思わず息を呑んでしまうようなブラックジョークが放たれる。しかし、研究員の男はそんな空気を笑い飛ばすように笑顔で答えた。

 「大丈夫。我々はもう他人に利用されたりしないさ。ここにいる様々な種族の人達と共に生きていく。死ぬ時は彼らと一緒だ」

 「おいおい、これから街を出ようって奴に死ぬ時の話なんかするなよな?縁起でもねぇ」

 「ははは、すまない」

 すると、そんな彼を小突いたのは隣にいた獣人族だった。

 「そうだぜ。俺達のスタートもこれからなんだ。未だにアンタらを恨む奴らも少なくはないが、俺らだけの知識じゃ復興できねぇのも事実。今はしがらみを忘れて一丸とならねぇとな」

 「わかっているとも。我々は皆、罪の意識を持っている。無知である事と言われるがまま己を持たぬということはそれだけで罪になる。楽に身を投じるということは他者に責務を負わせ、不幸を振り撒くものとなる。私は研究所を出てそれを学んだよ・・・」

 彼らの感謝の言葉と決意表明を受けたのちに、ツバキは握手を交わしてシン達の元へと戻ってきた。彼も悪い気はしなかったようで、その表情には笑みが溢れていた。

 「いよいよ出発か!?こちとら待ちくたびれてんだ!」

 「商人の馬車次第だ。だがまぁ、話じゃもうすぐ着くみたいだしな。早くても今日の夕方頃には出発できるんじゃねぇか?」

 事前にリナムルから発った調査隊の話を伺っていたミア達は、外の街などとの流通がいつになったら完了するのかを調べていた。どうやら今日中に調査隊の帰還が見込めるらしく、安全が確保され次第、外との物流が再開されるのだという。

 進路を確保した調査隊がリナムルへ戻ってきたら、滞在していた冒険者達も商人達に同行し、リナムルを発つそうだ。

 「もう次の街についての情報は掴んでるのかい?」

 「いや、アタシは調査隊の話しか聞いてねぇな。シンの方は?」

 ミアに尋ねられたシンは、アカリの方を見た。すると彼女は街で商人に聞かされたという“音が満ち溢れる街“という場所へ行ってみたいという話を一行に告げる。

 「行ってみたいって?旅行じゃねぇんだぞぉ!?」

 「いいじゃないですか、別に!皆さんが目指しているというアークシティというところへの進路上にある街なんですよ?」

 「シン、確かな情報なのか?」

 「さぁ・・・どうだろう。どちらにせよ、調査隊が戻り次第商人達が向かう街を聞いてみよう。アークシティへの進路上にあるのなら、立ち寄ってみても良いかもしれない」

 「シンまでアカリを甘やかすのかぁ!?」

 ツバキにも行きたいところでもあるのだろうか。やけにアカリの言う行き先について突っかかって来る。そこでシンは、アカリが聞かされた街に行くことに乗っかった彼なりの理由を一行に説明した。

 シン達と同行し始めてから、アカリや紅葉はろくな目に合っていない。それどころかこんな僅かな期間に何度も命の危機にさらされて、何一ついい思いをしていないことに、シンは申し訳なさを感じていたと。

 ツバキとアカリには語っていないが、恐らく彼らが毎度事件に巻き込まれるのは、彼らがWoFのユーザーであるからに違いない。彼女らがこの世界の住人と別の旅を繰り広げていたら、こんな目に遭わずに済んだのかもしれない。

 そんなシンの話を聞いて、ミアとツクヨは次の目的地について、アカリの言う“音が満ち溢れる街“に賛同した。ツバキも渋い顔をしながらも、確かにそれは可哀想だと思ったのか、これまでの態度を改め、素直にアカリに強く当たったことに対する謝罪の言葉を送った。

 「そうだな・・・お前は祭りも知らないんだもんな。世の中にはもっと面白いものや楽しいものもあるんだ。そう言うのを見て回るのも、悪くねぇかもな・・・」

 「あら?やけに素直になられましたのね?でも嬉しいです、わかって貰えたようで。勿論、皆さんの旅の邪魔をするつもりはありません。あくまで目的地に着くまでの道中での範囲と考えております」

 「そんな急いでる訳でもねぇんだ。ツバキもアカリも、行きたい街とかあるんだったら遠慮するなよ」

 まだ幼い彼らの気持ちを尊重し、ミアが優しく言葉をかける。

 「マジかよ!?じゃぁさッ・・・」

 「戻るとかは無しだがな」

 再びいつもの調子に戻った一行は、調査隊が帰還するまでの間リナムルの街を巡り、世話になった者達に挨拶巡りをした。別れを惜しむ者や、感謝を告げる者もいた。

 そして快復のため療養しているダラーヒムは、今回の一件の解決を感謝し、キングにいい報告ができると嬉しそうにしていた。直接子供達を助けることは出来なかったが、少なくともそんな非道な実験を行う場が一つでも潰せたことは、キングにとっても吉報となるだろう。

 最後にリナムルを訪れ一悶着あり、最も協力関係にあった獣人族の長であるアズールを探したが、どこを回っても誰に聞いても、彼の行方を知る者はいなかった。

 「側近のガルムやケルムでも知らねぇのはおかしくないか?」

 「どうなってるの、一体・・・」

 「あれだけ肉弾戦の強い獣人も、そうはいないから大丈夫だと思うけど、確かに妙だな・・・」

 妙なことはそれだけではなかった。自分達の長が見当たらないというの、ガルムもケルムも全く慌てているような様子がない。それどころか、彼らだけでなく他の獣人達も探しに行っているような様子もない。

 それこそ、まるで彼らに何かを隠しているかのように。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...