World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,142 / 1,646

食の違いと狩猟文化

しおりを挟む
 狩猟へ向かうはずだったミアは、妙なことからアズールの指示によって動いていたガルムの部隊と行動を共にする事になり、獣の調査へ向かっていた。未だリナムルや森に住む者達にとって未知の部分の多い獣。その見た目や身体的な特徴から、アズール達は獣の元になったのは獣人族なのではないかと推測していた。

 それを確かめる為の極秘任務をガルムは受けていた。研究所の者を連れていき、現地で調査を行ってその真意を確かめる。

 結果として分かったことは、獣の姿でリナムルと森に住む者達を襲っていた者の正体は、行方不明になっていた獣人族をベースに作られたモンスターだったことが判明。

 だが、肉体のベースが獣人族なだけで、すでに元の獣人族としての記憶や意思などは排除されており、ただ戦闘に特化した指示に従うだけのロボットのようになっていた。

 研究員の話では、排除された意思そのものは研究所内に保存されていたようだが、今となっては瓦礫の下敷きとなり現存するものは無いだろう。

 獣の調査を終えた一行は、嘗て同胞だったその獣を埋め、表向きに関所を出てきた目的である狩猟を開始する。

 リナムルには今、多くの種族と人数が避難し共存の道を辿ろうとしている。そうなれば当然、食料もこれまで以上に必要となるだろう。

 街の周辺に設けられた関所では様々なクエストが発注されており、食料確保のための狩猟クエストも多くあった。肉や植物、飲み水の確保から魔力の補充などが行えるアイテムの入手など様々で、食文化の違いもある為、獣人族のように生肉のまま食べられたりモンスターを食すことのできない種族もいる。

 「人間ってのは面倒だな。いちいち調理しねぇと食えねぇのか?」

 「悪かったね。我々は繊細で弱い生き物なんだ。摂取できるものには限りがあり、身体の中で分解できる要素も限界がある。君達のように何でもと言う訳にはいかないんだ」

 「それもお得意の“研究“って奴で分かったのか?」

 獣人が研究員に質問をするが、研究員は俯いてしまいその質問に対しての返答を行わなかった。彼も毒を吐くつもりはなかったのだろう。これも種族や個人としての考え方の違いだろう。角のたつ言い方になってしまったのは、獣人の彼に研究員の心境を読み取ることができなかったことによるものだった。

 「悪かったよ・・・。別に責めるつもりなんてもうねぇんだ。ただ・・・どうやって言葉にしたものか分からねぇんだ」

 「大丈夫だ。君の言う通り、我々はとんでもないことに加担してきたしまった。強制されていたとはいえ、その事実は変わらない。ならばそこで得た知識を無駄にしないことが重要なのだろうと、私は思っている。だから何でも聞いてくれて構わない。答えられることなら何でも答えるよ」

 狩猟で獲得した獲物や果実などを荷物にまとめる彼らは、他愛のない会話の中で徐々に互いのことを知っていき、己に足らないものや種族の違いなどを確かめ合っていた。

 狩猟を担当していたのはミアとガルムを含む数人の獣人族。野生動物の狩猟を中心に行っていたのはミアだった。人間でも食べられるであろうものを見定めると、バディを組んでいたガルムにその気配を探ってもらい場所を特定する。

 そして、音を消した狙撃により次々に動物を狩っていく。動物達に警戒心を与えない位置からの狙撃は順調に進んでいき、あっという間に持ち運べる量の上限の調達を完了する。

 「これは驚いた。君の力があれば我々も食料には困らなそうだな」

 「そいつはどうも。だがアンタらだって猟くらいは、いくらでもしてきただろ?」

 「それはそうだが、これほど手際良くはない。獲物に警戒されれば、いくら我々でも捕らえることは難しいからな。その点モンスターは楽でいい。自らこちらへ向かってきてくれるからな」

 どんなに強く賢い者であっても、確実に獲物を仕留めることができるわけではない。それは自然の中で生き抜いてきた獣人族といえど例外ではない。それなりの知性を持ち、他の種族よりも優れた身体能力を持つ獣人族であっても、野生動物を狩猟することは難しい。

 何故なら体格差や彼らしか知らない抜け道などを利用され、逃げ切られてしまうことがあるからだ。その点、ミアの音もなく獲物を遠距離から仕留めることのできると言うのは、獣人族の気配感知と相性が抜群だった。

 相手の位置を知ることのできる獣人族と、獲物を警戒させることなく音の無い銃弾で仕留めることの出来るミア。謂わば感知はできるが武器の無い状態と、武器はあるが感知できない状態が合わさった状態にある。まさに鬼に金棒といったところだろう。

 「まぁ確かにモンスターが食えりゃぁそんなに困らないか。いいよなぁ、食に困らないって」

 「言っておくがデメリットもあるからな?」

 ガルムの言うデメリットとは、モンスターの持つ特殊な性質を持った魔力の摂取による者だった。通常の量であれば、獣人の体内で消費され分解することができるが、消費させることなく蓄積させ続けると、分解することが出来ずモンスターのように自我を失ってしまうことがある。所謂、モンスター化と言うものだ。

 一度モンスター化を発症してしまうと元には戻れず、無作為に仲間達や周りにいる者を攻撃してしまう危険な状態へと陥ってしまう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...