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心のケア
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花にはセラピー効果があるとされている。
具体的な効果として挙げられるのは、リラックス効果だろう。花そのものを見ることにより、α波と呼ばれる動物の脳が発する電気的信号こと脳波が多く発生するようだ。
主に安静時や閉眼時において、他の周波数成分に比べてα波の占める比率が高いことから、動物の基礎的な律動の主成分を成していると言われている。
花を見て心が和むという現象は、必ずしも全ての動物に効果がある訳ではないが、花の持つ色合いや香り、或いはハーブなどにすることにより味わう事で、様々なセラピー効果が得られる。
カラーセラピーやアロマセラピー、そういった複数の効果を持っているのではないかとされているのが、花によるセラピー効果、所謂フラワーセラピーである。
街を襲撃された恐怖や仲間達を失ったことによる悲しみ。生々しい血の臭いと家屋や木材の焼ける臭いにより心身共に傷付いてきたリナムルに集まる人々には、癒しが必要だった。
フラワーセラピーによるリラックス効果を提唱していたのは、多種族が住む森の中でも最も存在自体が珍しいとされていた妖精のエルフ族だった。
誰よりも自然に近い存在である彼らは、花のもたらす効果で傷付いた者達の心を癒そうと、森に存在する様々な色や香りを持つ種類の花をリストにし、各関所に採取クエストとして依頼を出していた。
香りがあるものに関しては、獣人族の鼻があればそう難しいことではないだろう。これらの採取クエストは、ミア達のような討伐クエストを担当する者達やツクヨ達のように、特定の位置までの開拓していく者達により安全の確保されたエリア内で行われる。
その為小隊よりも更に少ない人数で出掛ける事ができ、特殊なスキルも戦闘経験も必要ない。故に手の空いている者なら誰でも参加しやすいクエストになっているのだが、街の再建復興が最優先とされる中、これらのクエストの優先順位はかなり低く見られていた。
リナムルの森で多種族を恐怖に貶め、様々な非人道的な実験や研究の数々を行っていた施設の破壊に大きな貢献をしたシンは、広場で少年と約束した弔いの花を採ってこようと関所にあった採取クエストのパーティに加わり、森の中へと足を踏み入れていた。
「街の周りはだいぶ穏やかだな」
「えぇ、皆さんが見回りをしてモンスターや獣の残党を退治してくれたおかげです」
シンの問いに答えたのは、同行していた研究所の研究員だった。彼は率先して街の復興の為、自身に出来ることを片っ端からやっているのだという。
知らず知らずの内にやらされていたとはいえ、非道な研究に加担してしまっていたという罪悪感や森に巣食う者達への罪滅ぼしとしての行いという気持ちは勿論あったが、それ以上に外を自由に歩き回れるということが、彼にとって自由と感じるほどに嬉しいことだったのだという。
「実際に外を歩けるのは初めてですよ。私は生まれた街から外に出た記憶があまりありません・・・。外はモンスターがいて危険でしたし、人攫いなんかもいて中々ギルドや政府によって守られた国や街から出られないという人は多いと思います」
研究所に連れていかれる以前の話だろうか。WoFの世界での事情としても、メタ的な事を言えばNPCが好き勝手に外に出られないという背景はあるだろう。
ただ、研究所で出会った黒いコートの人物が言っていたように、全てがシステム通りに事が運んでいる訳ではない。それがこの世界にも起きているという“異変“なのだろう。
「どういった経緯であの研究所へ連れて行かれたんだ?」
シンは話の中で、彼が研究所へやって来た経緯を伺う。その中でもしかしたら、異変に関する情報に繋がる何かを得られるかもしれないと思っての事だった。だが、それが異変による行動や運命の変化なのかを判断することは出来ない。
「元々私の家系は、街で植物学を研究する研究一家でした。父や母の影響で、私も同じ道を歩んでいました。勿論、私自身も興味がありましたし強制されていた訳ではありません。しかしある時、街の研究所へアークシティからやって来たという使者が来ました。新たな研究の人材を募集しているということで、最先端技術に触れることのできるチャンスだと、研究所のみんなも活気立ってました」
彼の街がどの程度発展した街なのかは分からないが、それでもWoF内における技術力の集大成がアークシティにはある。その研究の一員に加われると言われれば食いつかない方が珍しいのだと彼は語る。
自分が新たなステージ、新たなランクへ足を踏み入れることが出来ると言われれば、魅力的に感じることも分からなくはない。そのアークシティの使者というのが、黒いコートの人物達による差金なのだろうか。
末端の研究員の一人に過ぎない彼からは、それ以上の情報はなかった。暫く彼の身の上話を聞きながら目的地へと向かっていると、彼の話が終わるよりも先に、同行していた獣人が花の匂いを見つけたようだ。
妖精のエルフがそれを確認し、一行はいくつかの花を摘んで別の花のある場所へと向かう。
「花は良いですよ。見ても良し、嗅いでも良し、食べても良し。いろんな方法で私達の心を癒してくれます。街の復興には、施設などの建物を再建するのが重要だというのは承知しています。でもそれ以上に、心のケアも重要だと私は思います・・・」
「それは・・・分かる気がする・・・」
広場で出会った獣人の少年もそうだが、傷付いた街というのはそこにいる者達もまた傷付いているもの。街自体の士気が上がれば、クエストの効率化も捗るのかもしれない。
街を復興させようと外出する者達も、不安や心配事を抱えたままでは作業に身が入らない。彼やエルフ達が提唱するように心のケア、フラワーセラピーも決して蔑ろに出来ない重要な要素なのだと、シンは改めて思い知らされていた。
具体的な効果として挙げられるのは、リラックス効果だろう。花そのものを見ることにより、α波と呼ばれる動物の脳が発する電気的信号こと脳波が多く発生するようだ。
主に安静時や閉眼時において、他の周波数成分に比べてα波の占める比率が高いことから、動物の基礎的な律動の主成分を成していると言われている。
花を見て心が和むという現象は、必ずしも全ての動物に効果がある訳ではないが、花の持つ色合いや香り、或いはハーブなどにすることにより味わう事で、様々なセラピー効果が得られる。
カラーセラピーやアロマセラピー、そういった複数の効果を持っているのではないかとされているのが、花によるセラピー効果、所謂フラワーセラピーである。
街を襲撃された恐怖や仲間達を失ったことによる悲しみ。生々しい血の臭いと家屋や木材の焼ける臭いにより心身共に傷付いてきたリナムルに集まる人々には、癒しが必要だった。
フラワーセラピーによるリラックス効果を提唱していたのは、多種族が住む森の中でも最も存在自体が珍しいとされていた妖精のエルフ族だった。
誰よりも自然に近い存在である彼らは、花のもたらす効果で傷付いた者達の心を癒そうと、森に存在する様々な色や香りを持つ種類の花をリストにし、各関所に採取クエストとして依頼を出していた。
香りがあるものに関しては、獣人族の鼻があればそう難しいことではないだろう。これらの採取クエストは、ミア達のような討伐クエストを担当する者達やツクヨ達のように、特定の位置までの開拓していく者達により安全の確保されたエリア内で行われる。
その為小隊よりも更に少ない人数で出掛ける事ができ、特殊なスキルも戦闘経験も必要ない。故に手の空いている者なら誰でも参加しやすいクエストになっているのだが、街の再建復興が最優先とされる中、これらのクエストの優先順位はかなり低く見られていた。
リナムルの森で多種族を恐怖に貶め、様々な非人道的な実験や研究の数々を行っていた施設の破壊に大きな貢献をしたシンは、広場で少年と約束した弔いの花を採ってこようと関所にあった採取クエストのパーティに加わり、森の中へと足を踏み入れていた。
「街の周りはだいぶ穏やかだな」
「えぇ、皆さんが見回りをしてモンスターや獣の残党を退治してくれたおかげです」
シンの問いに答えたのは、同行していた研究所の研究員だった。彼は率先して街の復興の為、自身に出来ることを片っ端からやっているのだという。
知らず知らずの内にやらされていたとはいえ、非道な研究に加担してしまっていたという罪悪感や森に巣食う者達への罪滅ぼしとしての行いという気持ちは勿論あったが、それ以上に外を自由に歩き回れるということが、彼にとって自由と感じるほどに嬉しいことだったのだという。
「実際に外を歩けるのは初めてですよ。私は生まれた街から外に出た記憶があまりありません・・・。外はモンスターがいて危険でしたし、人攫いなんかもいて中々ギルドや政府によって守られた国や街から出られないという人は多いと思います」
研究所に連れていかれる以前の話だろうか。WoFの世界での事情としても、メタ的な事を言えばNPCが好き勝手に外に出られないという背景はあるだろう。
ただ、研究所で出会った黒いコートの人物が言っていたように、全てがシステム通りに事が運んでいる訳ではない。それがこの世界にも起きているという“異変“なのだろう。
「どういった経緯であの研究所へ連れて行かれたんだ?」
シンは話の中で、彼が研究所へやって来た経緯を伺う。その中でもしかしたら、異変に関する情報に繋がる何かを得られるかもしれないと思っての事だった。だが、それが異変による行動や運命の変化なのかを判断することは出来ない。
「元々私の家系は、街で植物学を研究する研究一家でした。父や母の影響で、私も同じ道を歩んでいました。勿論、私自身も興味がありましたし強制されていた訳ではありません。しかしある時、街の研究所へアークシティからやって来たという使者が来ました。新たな研究の人材を募集しているということで、最先端技術に触れることのできるチャンスだと、研究所のみんなも活気立ってました」
彼の街がどの程度発展した街なのかは分からないが、それでもWoF内における技術力の集大成がアークシティにはある。その研究の一員に加われると言われれば食いつかない方が珍しいのだと彼は語る。
自分が新たなステージ、新たなランクへ足を踏み入れることが出来ると言われれば、魅力的に感じることも分からなくはない。そのアークシティの使者というのが、黒いコートの人物達による差金なのだろうか。
末端の研究員の一人に過ぎない彼からは、それ以上の情報はなかった。暫く彼の身の上話を聞きながら目的地へと向かっていると、彼の話が終わるよりも先に、同行していた獣人が花の匂いを見つけたようだ。
妖精のエルフがそれを確認し、一行はいくつかの花を摘んで別の花のある場所へと向かう。
「花は良いですよ。見ても良し、嗅いでも良し、食べても良し。いろんな方法で私達の心を癒してくれます。街の復興には、施設などの建物を再建するのが重要だというのは承知しています。でもそれ以上に、心のケアも重要だと私は思います・・・」
「それは・・・分かる気がする・・・」
広場で出会った獣人の少年もそうだが、傷付いた街というのはそこにいる者達もまた傷付いているもの。街自体の士気が上がれば、クエストの効率化も捗るのかもしれない。
街を復興させようと外出する者達も、不安や心配事を抱えたままでは作業に身が入らない。彼やエルフ達が提唱するように心のケア、フラワーセラピーも決して蔑ろに出来ない重要な要素なのだと、シンは改めて思い知らされていた。
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