1,134 / 1,646
掌握からの解放
しおりを挟む
「コイツッ・・・!言葉を!?」
「惑わされるな。ただそれっぽい事を口にしてるだけだ」
果たしてそうだろうか。それがツクヨが最初に思った事だった。取り押さえられた獣は、“助けてくれ“と言った。この状態で発する言葉には適している。その上でその言葉を選んだとするならば、この獣には意思が宿っているのではないだろうか。
「いや・・・これは偶然か?彼は言葉を選んで使ってる様に思えるんだけど・・・」
「それじゃぁ何か?コイツは俺達の様に意思を持っているとでも?」
研究所で被検体となっていた者やセンチやエンプサーの様な意思を持つ虫やモンスターを目にしていない彼らには理解できないのかもしれない。エンプサーの使役するラミアに至っては、服を着てあたかも当然かのように言葉を話していた。
獣は戦闘に特化した能力を寄せ集めて作り出された、謂わば戦闘員となる駒に過ぎなかった。故に命令に従いさえすれば、それ以上に緻密な言語を理解する必要はない。
その為、言葉を喋る獣の個体数は少なくお目にかかる機会もなかった為、彼らの動揺を生んでしまった。
獣が喋ったことに対し彼らが討論を繰り広げていると、続けて獣は言葉を発していく。
「ミノガシテ・・・クレ。タノム・・・」
「・・・・・」
獣が口を開くと、彼らは唖然とした様子で獣の方を見る。二度目の発言で獣人達もただ偶然に発した言葉ではないことを認めた。
「こいつぁ驚いた・・・。確かに言葉を理解してやがる・・・」
「珍しい個体だ。街の離れたところに拘束して、アズール達の意見を聞いてみるのはどうだ?」
常に物騒な発言ばかりだった獣人達からは、珍しくまともな意見が出たとツクヨは密かに思っていた。彼のいう通り、他の獣とは明らかに違う個体は珍らしい。
街の安全を第一にしていた防衛状態のリナムルなら、危険な存在になり得るものはすぐに排除するのが定石だったのかもしれない。
しかし今のリナムルには、アズールの判断で助けた研究所の研究員達がいる。彼らの技術と知識があれば、知り得なかった情報を解き明かすことのできるチャンスかもしれない。
彼らの意見の一致により、この場で殺すことはなくなったものの、獣は彼らの会話を理解していたようで、街に連れて行かれることを拒んだ。
「ソレハ・・・ユルシテ モラエナイ ダロウカ・・・」
「何だ?殺さねぇって話で進んでんだが・・・」
「シラベ オエタラ ヨウズミ 二 ナル。コノママ ミノガシテ クレタラ アバレル コトハ ナイ ト ヤクソク シヨウ」
「交渉しようっていうのか?随分と生意気な口を利くじゃねぇか」
獣にどういった目論見があるのか分からない以上、野放しにするのもリナムルや森にやって来る者達にとっても危険であることは否めない。どちらにせよ、この場で彼らだけで決められることではなかった。
何をどうしようにも、まずはリナムルの街へ連れ帰ること。それが最優先事項だった。
「駄目だ、交渉の余地はない。今の状況がわかってるのか?お前の命運は俺達が掌握してるんだ。こうして捕まっちまった以上、お前は俺達に従う意外にねぇんだ。諦めな」
「・・・・・」
無抵抗で押さえつけられた獣は、彼らに交渉を断られてから一切言葉を発しなくなってしまった。獣人が言うように、なすがまま運命を受け入れる気になったのか、その表情からは諦めのような哀しみの感情が伺える。
だが、ツクヨがそんなものを感じていたのも束の間。大人しくなった獣を森で採ってきた蔦を使い縛り上げている途中で、獣のとった突然の行動に一行は衝撃を受けた。
肉体強化により、通常の状態の獣よりも遥かに凌ぐ力で何重にもした蔦を縛り上げていると、彼らは圧倒的に有利な状況に無意識な油断が生まれた。
首を垂らしてしまい表情が見えない獣は、突如全力の力で背後から縛り上げる獣人に体当たりをした。
「ぐッ・・・!」
尻餅をついた獣人の様子に、ツクヨともう一人の獣人は飛び上がるほど驚き、咄嗟に臨戦体勢に入るが、獣は獣人が腰に携えていたサバイバル用に使われるナイフを引き抜き、口に咥えていた。
「野郎ッ・・・!!」
「よせッ!殺すんじゃぁない!!」
吹き飛ばされた獣人は、まるで格下の相手に挑発されたかのように感情的になり、獣をもう一度地にひれ伏せさせようと腕を伸ばす。
だがそれよりも早く、獣は加えたナイフをポロリと真下に落とし、落下する中で回転したナイフの刃先が上を向くと、獣は自らの喉にそのナイフを突き刺した。
「しまったッ!自害する気だぞ!止めさせろぉぉぉッ!」
「させるかよぉぉぉッ!!」
しかし、既に喉へと突き刺さったナイフに獣を体重を乗せ、更に深々と突き刺していく。悲痛な雄叫びを上げながら、ナイフを飲み込んでしまいそうな勢いで食い込ませた獣は、チラリとツクヨ達の方へ視線を送ると、ニヤリと口角を上げた。
「惑わされるな。ただそれっぽい事を口にしてるだけだ」
果たしてそうだろうか。それがツクヨが最初に思った事だった。取り押さえられた獣は、“助けてくれ“と言った。この状態で発する言葉には適している。その上でその言葉を選んだとするならば、この獣には意思が宿っているのではないだろうか。
「いや・・・これは偶然か?彼は言葉を選んで使ってる様に思えるんだけど・・・」
「それじゃぁ何か?コイツは俺達の様に意思を持っているとでも?」
研究所で被検体となっていた者やセンチやエンプサーの様な意思を持つ虫やモンスターを目にしていない彼らには理解できないのかもしれない。エンプサーの使役するラミアに至っては、服を着てあたかも当然かのように言葉を話していた。
獣は戦闘に特化した能力を寄せ集めて作り出された、謂わば戦闘員となる駒に過ぎなかった。故に命令に従いさえすれば、それ以上に緻密な言語を理解する必要はない。
その為、言葉を喋る獣の個体数は少なくお目にかかる機会もなかった為、彼らの動揺を生んでしまった。
獣が喋ったことに対し彼らが討論を繰り広げていると、続けて獣は言葉を発していく。
「ミノガシテ・・・クレ。タノム・・・」
「・・・・・」
獣が口を開くと、彼らは唖然とした様子で獣の方を見る。二度目の発言で獣人達もただ偶然に発した言葉ではないことを認めた。
「こいつぁ驚いた・・・。確かに言葉を理解してやがる・・・」
「珍しい個体だ。街の離れたところに拘束して、アズール達の意見を聞いてみるのはどうだ?」
常に物騒な発言ばかりだった獣人達からは、珍しくまともな意見が出たとツクヨは密かに思っていた。彼のいう通り、他の獣とは明らかに違う個体は珍らしい。
街の安全を第一にしていた防衛状態のリナムルなら、危険な存在になり得るものはすぐに排除するのが定石だったのかもしれない。
しかし今のリナムルには、アズールの判断で助けた研究所の研究員達がいる。彼らの技術と知識があれば、知り得なかった情報を解き明かすことのできるチャンスかもしれない。
彼らの意見の一致により、この場で殺すことはなくなったものの、獣は彼らの会話を理解していたようで、街に連れて行かれることを拒んだ。
「ソレハ・・・ユルシテ モラエナイ ダロウカ・・・」
「何だ?殺さねぇって話で進んでんだが・・・」
「シラベ オエタラ ヨウズミ 二 ナル。コノママ ミノガシテ クレタラ アバレル コトハ ナイ ト ヤクソク シヨウ」
「交渉しようっていうのか?随分と生意気な口を利くじゃねぇか」
獣にどういった目論見があるのか分からない以上、野放しにするのもリナムルや森にやって来る者達にとっても危険であることは否めない。どちらにせよ、この場で彼らだけで決められることではなかった。
何をどうしようにも、まずはリナムルの街へ連れ帰ること。それが最優先事項だった。
「駄目だ、交渉の余地はない。今の状況がわかってるのか?お前の命運は俺達が掌握してるんだ。こうして捕まっちまった以上、お前は俺達に従う意外にねぇんだ。諦めな」
「・・・・・」
無抵抗で押さえつけられた獣は、彼らに交渉を断られてから一切言葉を発しなくなってしまった。獣人が言うように、なすがまま運命を受け入れる気になったのか、その表情からは諦めのような哀しみの感情が伺える。
だが、ツクヨがそんなものを感じていたのも束の間。大人しくなった獣を森で採ってきた蔦を使い縛り上げている途中で、獣のとった突然の行動に一行は衝撃を受けた。
肉体強化により、通常の状態の獣よりも遥かに凌ぐ力で何重にもした蔦を縛り上げていると、彼らは圧倒的に有利な状況に無意識な油断が生まれた。
首を垂らしてしまい表情が見えない獣は、突如全力の力で背後から縛り上げる獣人に体当たりをした。
「ぐッ・・・!」
尻餅をついた獣人の様子に、ツクヨともう一人の獣人は飛び上がるほど驚き、咄嗟に臨戦体勢に入るが、獣は獣人が腰に携えていたサバイバル用に使われるナイフを引き抜き、口に咥えていた。
「野郎ッ・・・!!」
「よせッ!殺すんじゃぁない!!」
吹き飛ばされた獣人は、まるで格下の相手に挑発されたかのように感情的になり、獣をもう一度地にひれ伏せさせようと腕を伸ばす。
だがそれよりも早く、獣は加えたナイフをポロリと真下に落とし、落下する中で回転したナイフの刃先が上を向くと、獣は自らの喉にそのナイフを突き刺した。
「しまったッ!自害する気だぞ!止めさせろぉぉぉッ!」
「させるかよぉぉぉッ!!」
しかし、既に喉へと突き刺さったナイフに獣を体重を乗せ、更に深々と突き刺していく。悲痛な雄叫びを上げながら、ナイフを飲み込んでしまいそうな勢いで食い込ませた獣は、チラリとツクヨ達の方へ視線を送ると、ニヤリと口角を上げた。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる