World of Fantasia

神代 コウ

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慣れた光景

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 「さぁ、もういいだろ?我々はいがみ合う為に集まったのではない。皆の前では控えてくれよ?」

 「分かってるさ。俺もそこまでガキじゃねぇ!」

 「あぁ、私も協力は惜しまない。あんな場所には二度と戻りたくない・・・。そもそも見つかれば殺されるかもしれないんだ。尚更、孤立する理由はない」

 街の中や他の仲間達の前では明かすことのなかった、胸の内に秘めていた感情。互いにその片鱗を覗かせたところでガルムによる静止が入る。

 一行は当初の裏の目的であった獣の調査を終え、関所で伝えた表向きの目的を果たして街へ帰る事にした。対象となった獣は、その場で息の根が止められ近くの大樹の元に埋められる事になった。

 「人並みの墓すら用意できないとは・・・」

 「埋めて貰えるだけマシさ・・・。他の奴らは野晒しにされてたりバラバラに・・・」

 木の根元にこんもりとかけられた柔らかい土。そこへ簡素ではあるが供養のための石と花が添えられる。ガルムと獣人の会話にもあった通り、他の獣人族をベースに作られた獣達は、その戦いの最中で供養される暇もなく倒され、モンスターなどとは違い、その場に残る遺体もあった。

 死を迎えた段階で身体が消滅する者達と、そうではない者達の違いはベースとなった肉体にある。獣人族や人間をベースに作られた獣達は、元となった生命体の部分が多く、モンスターのように消滅する事はない。

 しかし、元のベースが生命体であっても実験の段階で多くの魔力を注入された個体や、元の肉体とはかけ離れた改造が施された個体は元の生物として認識されなくなってしまったからか、肉体がその場に留まることはなかった。

 残された遺体についての話をする研究員の声は、獣人達に届いているのか反応は薄かった。彼らに変わり、あまり獣達との接点のないミアが研究員に質問を続けながら、彼らは嘗ての同胞の墓を後にした。

 「後は狩猟を行って街に帰るだけだ。我々で持ち帰れるだけ持ち帰ろう」

 「お前にも持って貰うからな?」

 「わっ分かってる・・・。だが君達にように数は持てないぞ」

 ガルムに言われた通り、獣人族と研究員はそれぞれ先程までの重たい空気を感じさせないほど自然に会話をしている。その光景を見たミアは、現実世界と同じだなと感じていた。

 本当の気持ちや感情を隠し、話したくもない上司に媚び諂う自分の姿を重ねる。職場の空気や周りとの関係性を壊さぬように気を使い、どんどん自分らしさというものを殺していく。それが社会に溶け込むという事なのだと言わしめるかのように。

 そんな、この場にいながらこの世ではない世界の光景を見ていた彼女にガルムが声をかける。

 「ミア?どうした、ぼーっとして?」

 「ん?あぁ、すまない。何の話だ?」

 「主な狩猟は君に任せたい。関所でも言ってただろ?“音の出ない銃弾“を使えるって。それがあれば猟なんて軽いものだろう。動物の気配は我々に任せてくれ」

 彼はしっかり出発前の事を覚えていた。どうやら表向きの目的を簡単にすませる為に、はなからミアの能力を当てにしていたようだった。

 「まさかアタシが隊に加わる事まで計算してたのか?」

 「ははは、まさか。あれは偶然だよ、偶然」

 笑いながら獲物の方へと歩みを進めるガルム。上手く嵌められたとため息をついたミアは、仕方なく彼の指示に従い森の野生生物を狩る狩猟へと赴いていった。



 その頃、木材を取りに向かう部隊に同行していたツクヨは、珍しい性質を持つという湖付近に生える木を目指していた。こちらの部隊はミア達のように狩猟へ向かう小隊とは違い、荷台や人数もそれなりに多かった。

 森を進む以上、獣達の残党やモンスターに襲われないとも限らない。こちらも数人の獣人族と冒険者が同行し、安全の確保とスキルによる伐採を行っていた。

 「目的の湖までは、あとどれくらいなんです?」

 「そんなに掛からないよ。ただ、水が豊富にあることもあって野生動物やモンスターも多く集まるんだ。多かれ少なかれ戦闘になるかもしれないから、準備はしておいてくれよ」

 「たっ戦うんですね・・・。あんまり激しいのはなぁ・・・」

 戦闘と聞いて、これまでのような獣達や研究所での戦いを想像していたツクヨ。しかし、話を聞く限りそれほど危険なものではないようで、部隊の中にいる獣人族やエルフ達がモンスターや獣の残党の気配に気を配ってくれてくれているのだそうだ。

 「それなら安心ですね!他にも経験豊富そうな方々もいるようですし・・・。この調子なら私の出番はなさそうですねぇ」

 だが、そんな簡単な任務になるはずもなく、厄介ごとに巻き込まれる体質でも持ち合わせているかのように、彼らの部隊は湖を前にして足並みを止める。

 「ん?どうした、突然止まって」

 「・・・気配がする」

 「モンスターか!?どれくらいの数になる?」

 「違う、モンスターじゃない・・・“奴ら“だ・・・」

 突如、重苦しい空気が彼らを包み込む。周囲の気配を探りながら部隊を率いていた獣人達は、目的地の湖から感じるその気配に覚えがあるのだという。神妙な面持ちで大粒の汗を流しているその様子から、彼らの感じ取ったその気配というのが只者ではないことが窺える。

 「奴らって・・・まさか」

 「あぁ・・・この先に“獣“がいるッ・・・!」
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