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言葉で状況や心境を伝えたところで、その場に居なかった者達に黒いコートの人物の威圧感や恐怖を言い表すことは難しい。だが、あの獣人族をまとめ上げる長であるアズールが、これ程までにその危険性を身振り手振りを踏まえて説明しているところを見ると、彼が言うようにアークシティの刺客よりも恐ろしいことが伝わってくる。
「そっそれ程の者がいるのか・・・?」
「だが何故、その者はアンタを逃したんだ?それどころか誰も殺されなかったのだろ?」
「見逃す理由はなんだ?それともこれは、我々などいつでも消せるという証明か?」
見逃された理由については、シンやツクヨといったこの世界にエラーを起こしている原因だと思われる者との接触、そしてその者らの記憶からエラーの起きている地域や人物などを調べに来たのが、本来の目的であると思われる。
しかし、アズールやエイリル、この世界の住人達にそれを説明するのは難しい。そこで考えたのは、シン達が旅をする中で巻き込まれた事件に用があったとする事だった。
彼らが関わった出来事で一大事件といえば、聖都ユスティーチの陥落。絶対的な正義と秩序を掲げていたシュトラールの死は、世界に大きな衝撃を与えた。
そしてもう一つ。事件ではないが、大海原で行われた大規模な歴史あるレースにて、三大海賊以外の上位入賞者が現れたのも、世間では大きなニュースとなっていた。
当時の様子を調べる為に二人を襲い、その真相を探りにやって来たと黒いコートの人物が語ったとシンは説明した。リナムルにいた者達には俄には信じ難い話だったが、その場に居合わせた商人や冒険者の中には、シン達の名を知る者もいたようだった。
「ならば我々には被害は及ばぬと?」
「アークシティへの報告はどうなる?研究所が丸ごと破壊されたんだ。何かしらの報告が上層部へいってるのでは?」
「それは否めん・・・。故に警戒は必要だ。だが、我々は以前のようにバラバラの個ではない。今回の一件を通じて協力し合うことができた。迫る問題があるにせよ、今までのようにはいかない!」
アズールの力強い言葉は、リナムルとその周辺に生きる者達の魂を奮い立たせた。実際に、彼らが誘拐事件に遭遇した時はそれぞれの種族がバラバラであり、尚且つ歪み合うという最悪の関係性だった。
その事からも獣人族は人間を恨み、エルフ族は誰にも悟られぬよう身を隠した。結果、個としての彼らは未知なる力と存在に惑わされ、仲間達の誘拐と種族間の亀裂を大きくしてしまっていく事となった。
研究所で生み出された獣や、次なる刺客を迎え撃つ体制が整った彼らに、同じ未来は訪れない。会議場に集まった彼らは、アークシティの報復と謎の人物の存在に不安を抱きながらも、共に戦う仲間達の存在に勇気と希望を持ち始めた。
アークシティ北東に位置する、化学を担当するケミア地区。そのはずれにあるとある研究所に、シンとツクヨを襲った黒いコートの人物と、とある一人の人物が人目に付かぬよう密会していた。
「おい、リナムル件は一体どうなった?研究所が爆破されたと報告があったぞ?」
「大丈夫、何も問題はないよ」
焦った様子で問いただす人物とは打って変わり、気楽な口調で返答する黒いコートの人物。リナムル側の者達が危惧していた通り、リナムルの研究所で起きた一件についての報告は、アークシティにいる上層部の人間と思われる者の耳にも届いていた。
「研究の成果はどうなる!?全て消えたんだぞ?それに犯行に及んだ連中はどうした?情報が外部に漏れる可能性だってあるんだ。他の地区の統治者どもに知られれば、俺もタダでは済まない・・・」
アークシティは四つの地区からなっている。彼らのいる場所は、その中の一つである化学という分野で大きく成長を果たした、ケミア地区と呼ばれる場所に位置している。
それぞれの地区は互いに特出した分野で地位を確立し、アークシティ全体の技術力の発展に大きく貢献している。だが当然、非道な研究や実験による成果は認められず、悪事に手を染めた嘗ての分野は悉く制裁を受けてきた。
二人の会話からも、彼らの行なってきた研究は公に出来ないものであり、その情報が漏れればケミア地区自体の存亡にも関わる一大事になる事は明らかだった。
「同じことを何度も言わせないでよ。僕が大丈夫って言ったら大丈夫なんだって」
「何が大丈夫なものかッ!こうなればリナムルとその周辺を焼き払う他ない・・・」
「何を言ってるんだい?それこそ大事になるじゃないか」
「アンタのミスでこんな事になってるんだろうがッ!どう責任を取るつもりだ!?」
声を荒立てる人物に、呆れた様子で首を振る黒いコートの人物。
「はぁ・・・何を言っても不毛だね。やっぱり“人らしさ“なんて持つと碌な事にならない」
「何をブツブツと言っている!?」
「五月蝿いから黙って従わせようって話だよ。君は僕に言われた通りにしてればいいんだよ、“ニコラ“君」
黒いコートの人物がニコラという人物に手をかざすと、突然彼は自我を失った無機質なものにでもなったかのように全身の力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。
「攻略されたクエストは元通り。その後の彼らは報復を恐れて、外部に情報を漏らすことはない。そもそも僕がそれを修正するから、そんな展開にはさせないけどね・・・。難易度は少し上がるけど、これも想定の範囲内でエラーにはならなそうだ。問題は“彼ら“と、捕らえた“アレ“だよね。一体何者なんだろう?」
黒いコートの人物は、何事もなかったかのように倒れるニコラを放置してその場を立ち去る。黒いコートの人物と話していたニコラという人物は、オルレラの街でツクヨの前に現れた修復士だった。
彼はアークシティのケミア地区に属する研究員の一人で、燃料についての研究をする上層部の人間の内に一人だったのだ。
「そっそれ程の者がいるのか・・・?」
「だが何故、その者はアンタを逃したんだ?それどころか誰も殺されなかったのだろ?」
「見逃す理由はなんだ?それともこれは、我々などいつでも消せるという証明か?」
見逃された理由については、シンやツクヨといったこの世界にエラーを起こしている原因だと思われる者との接触、そしてその者らの記憶からエラーの起きている地域や人物などを調べに来たのが、本来の目的であると思われる。
しかし、アズールやエイリル、この世界の住人達にそれを説明するのは難しい。そこで考えたのは、シン達が旅をする中で巻き込まれた事件に用があったとする事だった。
彼らが関わった出来事で一大事件といえば、聖都ユスティーチの陥落。絶対的な正義と秩序を掲げていたシュトラールの死は、世界に大きな衝撃を与えた。
そしてもう一つ。事件ではないが、大海原で行われた大規模な歴史あるレースにて、三大海賊以外の上位入賞者が現れたのも、世間では大きなニュースとなっていた。
当時の様子を調べる為に二人を襲い、その真相を探りにやって来たと黒いコートの人物が語ったとシンは説明した。リナムルにいた者達には俄には信じ難い話だったが、その場に居合わせた商人や冒険者の中には、シン達の名を知る者もいたようだった。
「ならば我々には被害は及ばぬと?」
「アークシティへの報告はどうなる?研究所が丸ごと破壊されたんだ。何かしらの報告が上層部へいってるのでは?」
「それは否めん・・・。故に警戒は必要だ。だが、我々は以前のようにバラバラの個ではない。今回の一件を通じて協力し合うことができた。迫る問題があるにせよ、今までのようにはいかない!」
アズールの力強い言葉は、リナムルとその周辺に生きる者達の魂を奮い立たせた。実際に、彼らが誘拐事件に遭遇した時はそれぞれの種族がバラバラであり、尚且つ歪み合うという最悪の関係性だった。
その事からも獣人族は人間を恨み、エルフ族は誰にも悟られぬよう身を隠した。結果、個としての彼らは未知なる力と存在に惑わされ、仲間達の誘拐と種族間の亀裂を大きくしてしまっていく事となった。
研究所で生み出された獣や、次なる刺客を迎え撃つ体制が整った彼らに、同じ未来は訪れない。会議場に集まった彼らは、アークシティの報復と謎の人物の存在に不安を抱きながらも、共に戦う仲間達の存在に勇気と希望を持ち始めた。
アークシティ北東に位置する、化学を担当するケミア地区。そのはずれにあるとある研究所に、シンとツクヨを襲った黒いコートの人物と、とある一人の人物が人目に付かぬよう密会していた。
「おい、リナムル件は一体どうなった?研究所が爆破されたと報告があったぞ?」
「大丈夫、何も問題はないよ」
焦った様子で問いただす人物とは打って変わり、気楽な口調で返答する黒いコートの人物。リナムル側の者達が危惧していた通り、リナムルの研究所で起きた一件についての報告は、アークシティにいる上層部の人間と思われる者の耳にも届いていた。
「研究の成果はどうなる!?全て消えたんだぞ?それに犯行に及んだ連中はどうした?情報が外部に漏れる可能性だってあるんだ。他の地区の統治者どもに知られれば、俺もタダでは済まない・・・」
アークシティは四つの地区からなっている。彼らのいる場所は、その中の一つである化学という分野で大きく成長を果たした、ケミア地区と呼ばれる場所に位置している。
それぞれの地区は互いに特出した分野で地位を確立し、アークシティ全体の技術力の発展に大きく貢献している。だが当然、非道な研究や実験による成果は認められず、悪事に手を染めた嘗ての分野は悉く制裁を受けてきた。
二人の会話からも、彼らの行なってきた研究は公に出来ないものであり、その情報が漏れればケミア地区自体の存亡にも関わる一大事になる事は明らかだった。
「同じことを何度も言わせないでよ。僕が大丈夫って言ったら大丈夫なんだって」
「何が大丈夫なものかッ!こうなればリナムルとその周辺を焼き払う他ない・・・」
「何を言ってるんだい?それこそ大事になるじゃないか」
「アンタのミスでこんな事になってるんだろうがッ!どう責任を取るつもりだ!?」
声を荒立てる人物に、呆れた様子で首を振る黒いコートの人物。
「はぁ・・・何を言っても不毛だね。やっぱり“人らしさ“なんて持つと碌な事にならない」
「何をブツブツと言っている!?」
「五月蝿いから黙って従わせようって話だよ。君は僕に言われた通りにしてればいいんだよ、“ニコラ“君」
黒いコートの人物がニコラという人物に手をかざすと、突然彼は自我を失った無機質なものにでもなったかのように全身の力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。
「攻略されたクエストは元通り。その後の彼らは報復を恐れて、外部に情報を漏らすことはない。そもそも僕がそれを修正するから、そんな展開にはさせないけどね・・・。難易度は少し上がるけど、これも想定の範囲内でエラーにはならなそうだ。問題は“彼ら“と、捕らえた“アレ“だよね。一体何者なんだろう?」
黒いコートの人物は、何事もなかったかのように倒れるニコラを放置してその場を立ち去る。黒いコートの人物と話していたニコラという人物は、オルレラの街でツクヨの前に現れた修復士だった。
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