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自身の存在について
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地上へ上がっていくエレベーターの中で、二人は地下で受けたダメージと疲労を癒していた。とは言っても、アイテムを使用したり魔力によるものではなく、現実の世界と同じように壁にもたれかかり、そのまま座り込んでいるだけだった。
それでも彼らのようなWoFのユーザーという存在には効果があった。ツクヨの手についた刃による切り傷も、ゆっくりではあるがみるみる内にその範囲を狭めており、出血などとうの昔に止まっていた。
本来であれば便利な身体だと喜ぶものなのだろうが、現実世界の不便な身体の事を思い出すと、自分がこの世の者ではないことを実感していた。
「傷が治ってきた・・・」
「え?」
沈黙を破ったツクヨの言葉には、その言葉の意味とは反対に全く感情が篭っていなかった。
「さっきあの人にやられた痛みも、すっかり身体から抜けてる・・・。今まであんまり考えて・・・考える余裕がなかったのかもしれないけど、やっぱりこれは“普通“じゃないんだね・・・」
「ここはゲームの・・・WoFの世界だから。現実とは違う」
シンの言葉は正しいのかもしれない。別の世界で別の身体を自分のものとして使っているからこそ、痛みや死に対して鈍感になっているのかもしれない。しかし、シンのように割り切れずにいたツクヨは、一度現実世界は戻っているシンにその時の話を聞いてみる。
「そういえばシンは、現実世界の方に戻ってたよね?」
「あぁ・・・うん、そうだけど」
「どうだったの?身体に異変とか、気持ちの変化とか・・・」
変化という点では、シンはそもそも現実世界に侵食してきたWoFのモンスターに襲われ、危ないところをミアによって助けられこちらの異世界へとやって来た。
心の変化で言えば、シンはその時から少しずつ両方の世界に異変が起きていることを理解し、受け入れていった。それは彼が元々WoFをゲームとして遊んでいた影響も大きいだろう。
普段からゲームにはあまり触れてこなかったツクヨには、その受け入れといった部分が今になってやって来たのかもしれない。これはこういうものだと深く考える事なく、利用できるものは利用する。そこにデメリットがあるのだとしても、その特異な力があるからこそ出来ることもある。
現に彼らは、幾つもの国や村、人々の人生を変えてきた。先程二人を襲った黒いコートの人物がいうように、この世界にも異変と呼ぶべきエラーが起きているのなら、シン達が戦ってきた結果や救った命によって、本来行われるクエストの循環という環から外れた存在や物語が存在しているのだろう。
そういったエラーが起きている中心には、いつもシン達のようなWoFのユーザーが関与していた。だからこそあの黒いコートの人物は、シンの記憶を読み取りその原因や要因を見定めようとしていたのかもしれない。
「気持ちの変化って・・・。俺も現実の世界で突然、こっちの世界のモンスターに襲われてパニックになって。そこへミアが来て、こっちの世界への行き方と戦い方を教えてもらったんだ。ゲームのWoFとそっくりだと思ったよ。実際、知ってる風景や街並み、アイテム何かもあったし妙に馴染みやすかった。だからかもしれない。こういう身体でも、そういうものなんだって受け入らられたのは・・・」
「そうか・・・やっぱり経験の差、なのかな?私はあまりこういうゲームはやったことがなかったから。妻や娘がやってたみたいで、よくその話を聞いてたけどね」
ツクヨは現実世界での事件がきっかけで、このWoFの世界へと入り込んだ。誰かに教えられた訳でもなく、望んでいた訳でもない。ただ偶然起動したゲームに意識ごと飲み込まれるようにして転移して来た。
明らかに現実世界とは別の世界である事を知った彼は、妻と娘がこっちの世界に来てしまっているではないかと考え、二人を探し始めた。大きな国に転移したのは彼にとって幸運だったのかもしれない。
もしこの世界のことを何も知らない彼が、人里離れたモンスターの生息するフィールドに放たれていたのなら、今彼らが考えているこの世界での“死“を体験することになっていたかもしれない。
「こっちの世界を知ってから、現実世界での君の身体には異変はあったかい?」
「それは勿論。生身の肉体事態には変化はないけど、こっちの世界のこの身体を自分の身体に投影できるようになっていたんだ」
「投影・・・?」
「要するに、現実の世界でもこの身体と能力になれるってこと」
普通に考えれば、それはとても危険な事のように思える。彼らのいるこちらの世界の姿のまま現実世界に行けるのなら、身体能力は常人の比ではない。ちょっとした拳ですら大怪我を負わせてしまう程身体の作りが違い、能力やスキル、魔法なんてものもあるのなら、それこそ危険な思考を持ち合わせた者がいれば大事件を引き起こしかねない。
「え!?それじゃ現実の世界はどうなってるんだ!?おかしな奴が暴れたりしてるんじゃないのか!?」
ツクヨの反応は当然といえば当然のものだろう。だが、シンが現実の世界に戻った時には、それほど大騒ぎになっているという様子はなかった。日常的に起こり得る事件や事故は起きていたが、彼らの持つその能力による大きな事件というものは起きていなかった。
それというのも、その力を用いて壊した建物は現実のものとは異なり、もし現実世界の人物に影響が及ぶような事態になれば、事故や怪奇現象のように処理され反映されるようなのだ。
アサシンギルドの仲間達と高速道路を移動した際に起きた出来事がそれに該当する。襲撃を受けたシン達の戦いに巻き込まれた車や道路の損壊は、高速道路で起きた大きな事故として処理されていた。
「それがそうでもないんだ・・・。俺にも詳しくは分からないけど、その力で現実に影響を与えられるのには限度があるみたいだ。それに、同じ力を持っている人間がいても、その力の存在自体に気づいていない者もいるようなんだ。何かきっかけや導いてくれる人がいないと、自分にそんな力があるのかさえ気づけないみたいだ・・・」
「きっかけ・・・。それはやっぱり、このWoFという世界に関係してるのかな?」
こちらの世界に転移した者や、シンが現実の世界で出会ったその能力に覚醒した者達は、皆一様にWoFというゲームのユーザーであったのは確かだった。
異変に巻き込まれているのがWoFという作品に関係している人物達であるのは間違いない。それに加え、現実世界には別の世界から転移してきたというアサシンギルドのメンバーや、フィアーズのようなWoFユーザーのように特殊な能力を携えた者達もいるという事実。
彼らは何故、シン達の世界へ転移させられてきたのか。その原因もまた分からないままだった。
それでも彼らのようなWoFのユーザーという存在には効果があった。ツクヨの手についた刃による切り傷も、ゆっくりではあるがみるみる内にその範囲を狭めており、出血などとうの昔に止まっていた。
本来であれば便利な身体だと喜ぶものなのだろうが、現実世界の不便な身体の事を思い出すと、自分がこの世の者ではないことを実感していた。
「傷が治ってきた・・・」
「え?」
沈黙を破ったツクヨの言葉には、その言葉の意味とは反対に全く感情が篭っていなかった。
「さっきあの人にやられた痛みも、すっかり身体から抜けてる・・・。今まであんまり考えて・・・考える余裕がなかったのかもしれないけど、やっぱりこれは“普通“じゃないんだね・・・」
「ここはゲームの・・・WoFの世界だから。現実とは違う」
シンの言葉は正しいのかもしれない。別の世界で別の身体を自分のものとして使っているからこそ、痛みや死に対して鈍感になっているのかもしれない。しかし、シンのように割り切れずにいたツクヨは、一度現実世界は戻っているシンにその時の話を聞いてみる。
「そういえばシンは、現実世界の方に戻ってたよね?」
「あぁ・・・うん、そうだけど」
「どうだったの?身体に異変とか、気持ちの変化とか・・・」
変化という点では、シンはそもそも現実世界に侵食してきたWoFのモンスターに襲われ、危ないところをミアによって助けられこちらの異世界へとやって来た。
心の変化で言えば、シンはその時から少しずつ両方の世界に異変が起きていることを理解し、受け入れていった。それは彼が元々WoFをゲームとして遊んでいた影響も大きいだろう。
普段からゲームにはあまり触れてこなかったツクヨには、その受け入れといった部分が今になってやって来たのかもしれない。これはこういうものだと深く考える事なく、利用できるものは利用する。そこにデメリットがあるのだとしても、その特異な力があるからこそ出来ることもある。
現に彼らは、幾つもの国や村、人々の人生を変えてきた。先程二人を襲った黒いコートの人物がいうように、この世界にも異変と呼ぶべきエラーが起きているのなら、シン達が戦ってきた結果や救った命によって、本来行われるクエストの循環という環から外れた存在や物語が存在しているのだろう。
そういったエラーが起きている中心には、いつもシン達のようなWoFのユーザーが関与していた。だからこそあの黒いコートの人物は、シンの記憶を読み取りその原因や要因を見定めようとしていたのかもしれない。
「気持ちの変化って・・・。俺も現実の世界で突然、こっちの世界のモンスターに襲われてパニックになって。そこへミアが来て、こっちの世界への行き方と戦い方を教えてもらったんだ。ゲームのWoFとそっくりだと思ったよ。実際、知ってる風景や街並み、アイテム何かもあったし妙に馴染みやすかった。だからかもしれない。こういう身体でも、そういうものなんだって受け入らられたのは・・・」
「そうか・・・やっぱり経験の差、なのかな?私はあまりこういうゲームはやったことがなかったから。妻や娘がやってたみたいで、よくその話を聞いてたけどね」
ツクヨは現実世界での事件がきっかけで、このWoFの世界へと入り込んだ。誰かに教えられた訳でもなく、望んでいた訳でもない。ただ偶然起動したゲームに意識ごと飲み込まれるようにして転移して来た。
明らかに現実世界とは別の世界である事を知った彼は、妻と娘がこっちの世界に来てしまっているではないかと考え、二人を探し始めた。大きな国に転移したのは彼にとって幸運だったのかもしれない。
もしこの世界のことを何も知らない彼が、人里離れたモンスターの生息するフィールドに放たれていたのなら、今彼らが考えているこの世界での“死“を体験することになっていたかもしれない。
「こっちの世界を知ってから、現実世界での君の身体には異変はあったかい?」
「それは勿論。生身の肉体事態には変化はないけど、こっちの世界のこの身体を自分の身体に投影できるようになっていたんだ」
「投影・・・?」
「要するに、現実の世界でもこの身体と能力になれるってこと」
普通に考えれば、それはとても危険な事のように思える。彼らのいるこちらの世界の姿のまま現実世界に行けるのなら、身体能力は常人の比ではない。ちょっとした拳ですら大怪我を負わせてしまう程身体の作りが違い、能力やスキル、魔法なんてものもあるのなら、それこそ危険な思考を持ち合わせた者がいれば大事件を引き起こしかねない。
「え!?それじゃ現実の世界はどうなってるんだ!?おかしな奴が暴れたりしてるんじゃないのか!?」
ツクヨの反応は当然といえば当然のものだろう。だが、シンが現実の世界に戻った時には、それほど大騒ぎになっているという様子はなかった。日常的に起こり得る事件や事故は起きていたが、彼らの持つその能力による大きな事件というものは起きていなかった。
それというのも、その力を用いて壊した建物は現実のものとは異なり、もし現実世界の人物に影響が及ぶような事態になれば、事故や怪奇現象のように処理され反映されるようなのだ。
アサシンギルドの仲間達と高速道路を移動した際に起きた出来事がそれに該当する。襲撃を受けたシン達の戦いに巻き込まれた車や道路の損壊は、高速道路で起きた大きな事故として処理されていた。
「それがそうでもないんだ・・・。俺にも詳しくは分からないけど、その力で現実に影響を与えられるのには限度があるみたいだ。それに、同じ力を持っている人間がいても、その力の存在自体に気づいていない者もいるようなんだ。何かきっかけや導いてくれる人がいないと、自分にそんな力があるのかさえ気づけないみたいだ・・・」
「きっかけ・・・。それはやっぱり、このWoFという世界に関係してるのかな?」
こちらの世界に転移した者や、シンが現実の世界で出会ったその能力に覚醒した者達は、皆一様にWoFというゲームのユーザーであったのは確かだった。
異変に巻き込まれているのがWoFという作品に関係している人物達であるのは間違いない。それに加え、現実世界には別の世界から転移してきたというアサシンギルドのメンバーや、フィアーズのようなWoFユーザーのように特殊な能力を携えた者達もいるという事実。
彼らは何故、シン達の世界へ転移させられてきたのか。その原因もまた分からないままだった。
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