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神代 コウ

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エルフ達の脱出

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 すっかり様変わりしてしまった光景に唖然とするシンとアズール。その物々しさは、本来そこにあったはずの光景を知らないツクヨであっても、言葉を失うほどだった。

 「ぁっ・・・え?リフト・・・?」

 「いや、あそこに到着したリフトがあった筈なんだ!これは一体・・・」

 彼らがエンプサーの研究室内で戦っている間に何かが行われていたのは明らか。そしてそれは敵側にとってもシン達側にとっても異常な事態と見て間違いない。

 今ここで、そこの知れぬ暗闇に首を突っ込むのは危険だと考えたアズールは、先に地下研究所の奥へ進むことを提案する。上層階へ戻るにしても、ツクヨがエンプサーに連れられて乗ってきたというエレベーターがある。

 百足男と戦いながら降りてきたリフトの件には、これ以上関わらないのが賢明だとシンもツクヨも彼の提案に同意し、現状最も戦闘を行うことのできるツクヨが先導し、薄暗い通路を進んでいく。

 左右にはそれぞれ幾つかの扉があり、中を除いてはそこが彼らの目的の場所であるか。これ以上研究や実験、多種族の者達の誘拐を行わせない為、重要となる機材があるかどうかを確かめていく。

 そして、彼らも薄々感じていた不気味な雰囲気を持つ扉が、最新部に見えてきた。当然、外の者に見られて困るものがあるのは、最も人目につき辛い最新部にあると考えるのが妥当。

 「やっぱり・・・あそこ、だよね?」

 「あぁ、行こう。ちゃっちゃと済ませて、こんな所とはおさらばだ・・・」

 戦闘による疲労からか、それとも研究所内に漂う陰鬱な雰囲気に当てられた事による弊害か。胸の奥がモヤモヤとし呼吸自体もしづらく感じていた彼らは、一刻も早くこの地下研究所から立ち去りたいという気持ちで同じだった。

 慎重に扉を開けるツクヨ。中は真っ暗で開けており、数歩先ですら床の状況も分からないほど何も見えない。シンは照明アイテムであるランタンを取り出しツクヨに渡すと、火を灯し周りの様子を照らし出す。

 するとその開けた室内の中には、これまで連れ拐われていたと思われる人間や獣人、エルフ族など様々な者達が柵のような物に囚われていた。



 シン達がエンプサーと戦闘を始めた頃、リフトを離れ妖精族のエルフ達を避難させるため離脱していたエイリルは、リフトを動かしていたものの正体を知り、地下へと通じる大穴を移動するその巨大生物を避けて地上を目指していた。

 巨大生物の体内にあったリフトから脱出し、大穴の窪みに身を隠していたが、移動するだけで周りに影響を及ぼす巨大生物に邪魔され、足止めを食らっていたのだが・・・。

 「地上へのポータルを作る、だと?」

 「はい、一度見た景色であれば移動先も明確に出来ますし」
 「それに地上までならそれ程魔力は使わない!」
 「でも、研究所の外は無理かも・・・。あくまで地上の研究所内だけど・・・」

 初めは飛んで地上を目指そうと考えていたエイリルだったが、大穴に巻き起こる巨大生物の降下によって生み出される風の影響でで、それも不可能となる。風が治るのを待っていてはいつになるか分からない。

 それに今も尚戦っているシンとアズールが無事に事を成し得るかも分からない中で、時間を無駄にすることは出来ない。そこで妖精のエルフ達が提案したのは、大穴の窪みからここに到達するまでに通った地上の研究所内に通じる転移ポータルを作ろうというものだった。

 しかし、転移ポータルは便利な代物故に、それに伴い消費する魔力量も馬鹿にならない。今ここで彼らの魔力を消費してしまっては、脱出の際にも必要となる転移ポータル分の魔力が確保できない可能性もある。

 「しかしッ・・・。それでは最終的な脱出の際に必要となるポータル作りに影響が出るのでは・・・?」

 「今、この状況でそんな事を言ってる場合ですか!?」
 「そうだぜ、兄ちゃん。先の事よりも先ずは今起きてる問題を解決しないことには始まらないぜ」
 「そっそれに。その事については私達にも考えがありますので・・・」

 他にも更に考えがあるのだという妖精のエルフ達。その考えとやらが何なのかは気になるが、今は彼らの言う通り時間がない。エイリルは彼らに任せ地上への転移ポータルを作成してもらう事に。

 そして出来上がったポータルへ入ると、エイリルがアズールと共に身を隠しながら通った見覚えなある研究所内の一室へと移動する。

 「ここは・・・。上にあった研究所だ、間違いない。助かった、これでッ・・・!?」

 ふと妖精のエルフ達に視線を送ると、彼らは今のポータルの作成で酷く消耗しており、飛んでいる事すらままならない状態に陥っていたのだ。

 「おい!大丈夫かッ!?」

 思わず声を出してしまうエイリルを落ち着くように促すエルフ達。

 「大丈夫、心配しないで・・・」
 「今はちぃとばかし、一気に魔力を使ったせいで疲れただけだ」
 「うへぇ・・・やっぱりもう駄目かもぉ・・・」

 思いのほか元気そうな彼らの様子を見て、想定していたよりかは最悪の状況にはならなかったと安堵するエイリル。口では虚勢を見せるエルフ達だが、これでは今彼らのいる室内から移動することもできない。それではいずれここを訪れる研究員がいるかも知れない。

 彼らだけでは暫くは移動もままならないと判断したエイリルは、研究所の外まで彼らを抱えて移動することに。道中の隠密のサポートは任せ、来た時よりもスムーズに出入り口へと戻っていくエイリル。

 今度は入ってきた屋上からではなく、ポータルから近い正規の入口から脱出を図る為、研究員達の隙を見つけては物陰を移動していく。しかし当然ながら、研究所の者達も使う出入り口であればセキュリティは厳しい。

 そこで、小さい身体を利用し、エルフ族の彼らだけでも外へと逃す為、通気口から彼らを脱出させる事にした。

 「ここからならバレずに外へと出られる。申し訳ないが、こちらの手筈が完了するまで身を隠していてくれ」

 「分かりました。こちらの心配はご無用です。貴方は貴方のことを・・・」
 「ポータルの件も心配しなくていいぜ?」
 「ふぅ・・・外に出られればこっちのもんですからねぇ」

 すっかり安堵の表情を浮かべる彼らを見て、不思議とエイリルも彼らの言葉を信じて自分の事に集中できるという気になった。ここまで来て彼らが自分達だけで逃げるとも思えなかったエイリルは、後の事を彼らに託し再び研究所内にある地下研究所を目指す。
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