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命を弄んだ悪魔
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走馬灯のように駆け巡った過去の美しくも儚い日々と、過ちに塗れた凄惨な日々。どんな想いや理由があろうと、彼女の犯した罪が消える事はない。誰からも許される事はない。
それでも今のエンプサーがあるのは、ラウルを元の人の姿に戻したいという彼に対する感謝と恋心があったからだった。だがそれを叶えるには、彼女の手はあまりに多種族の血に塗れていた。
そして今、彼女の視界は自身の血によって赤く染まり、嘗て殺して来た多くの命が今だに生を謳歌し自分の研究欲満たす汚れた魂に贖罪をと手を伸ばす。
「あぁ・・・そうだった。妾は・・・」
絶叫に歪んだ蛇女ことエンプサーの顔は、これまでの悍ましさがまるで嘘のようにまっさら虚無の表情をしていた。そんな彼女の表情を見たアズールは、一瞬だけ剣を押し込む足の力を緩めたが、すぐに一族の恨みを思い出し振り抜く寸前まで全力を絞り出した。
エンプサーの身体は、仰け反りながら仰向けに地面へと叩きつけられる。凄まじい勢いで蹴り付けられたことが、傍観者達にもはっきりと伝わるほど床を広く砕き、剥き出しの地面にクレーターのような跡を残した。
着地したアズールは全ての力を使い果たしたかのように、その場に膝から崩れ落ち彼女とは反対にうつ伏せの状態で倒れた。
唖然とした様子で決着を見届けていたシンとツクヨは、すぐに残りのラミアの残党を始末しなければと危機感を持つが、エンプサーの眷属であるラミア達は彼女が倒されたことにより消滅していった。
「終わった・・・のか?」
「はぁ・・・よかった。まだ生きていたらどうしようかと・・・。もう戦えないよ。それよりシン!意識を取り戻していたんだね?」
「ちょっと前のことだけどね。それより本当に死んだのか確かめない事には・・・」
瓦礫に手を置いて立ち上がったシンは、土煙にシルエットを残すエンプサーの倒れている、地面に空いた窪みに近づく。すると彼女の頭部はアズールの強烈な蹴りと叩きつけられた衝撃により、見るも無惨な程にぐちゃぐちゃになっていた。
脈や気配を確かめるまでもなく、息絶えているのは明らかだった。ツクヨによって身体を両断された時のような復活の様子もない。恐らく一度きりの能力だったのだろう。
「大丈夫か?」
側で倒れるアズールの身体は、肉体強化の効果が失われ元の大きさへと戻っていた。傷だらけの身体に溜まった疲労が積み重なり、息をするだけでも精一杯といった様子だった。
シンやツクヨのようなユーザーの身体ではない彼らは、自然治癒にも限度があり、傷は癒せても肉体が負った疲労が完全に癒える事はない。それでもシンは、持ち合わせの回復アイテムを彼に使い、少しでも身体の傷を癒やし疲労の回復を促進させた。
「時間がない・・・。外でガレウス達が待っているんだ。休んでなどいられない・・・」
「そんな事言ったって、真面に歩けないんじゃ脱出も出来ないでしょ。私とシンが爆弾を仕掛けて来るから、それまで休んでてよ」
「何を馬鹿なことをッ・・・!?」
アズールを心配するツクヨの言葉に抗おうと、寝ていた身体を起こし彼の方へ視線を送る。ツクヨとて怪我を負っていたのは同じ筈。しかし、彼の傷は回復アイテムの影響ですぐに治癒していくのが目に入った。
「もう立ち上がれる程に・・・?」
「あぁ、私は疲労によるダウンじゃないからね。でもあの剣をそのまま握るのはもう懲り懲りかな」
茶化すように困り顔を浮かべたツクヨは、アズールがエンプサーの額に押し込んだ剣を拾いに向かう。室内にうっすらと光る淡い光を反射し、黒光した剣身が血みどろの地面に突き刺さっている。
今度は自らの手を傷付けぬようにと慎重に引き抜いたツクヨは、その剣に宿る不思議な力と雰囲気に魅せられた。それは彼の持つ宝剣、布都御魂剣を手にしている時と同じ感覚を彷彿とさせるものだとツクヨは口にした。
シンはアズールに肩を貸すように頼まれると、彼の側で膝を突き腕を肩に回して引き上げるように立ち上がる。ツクヨは拾った剣と共に、エンプサーによって奪われた自身の武器を探す。
そう遠くに運ばれていなかったようで、少し瓦礫をひっくり返したところでツクヨの武器を収納した箱を見つけ取り戻すと、不思議な魅力を感じたその剣を戦利品として持ち物へ加えた。
「まだ探索できてないけど、部屋ってここだけじゃないよね?」
シン達とは違った方法で地下へと降りて来たツクヨは、エンプサーに連れられるままにこの研究室へとやって来ており、他の部屋へ通じる扉を見掛けてはいなかった。
「あぁ、恐らくは・・・。て、それよりツクヨはどうやって地下へ降りて来たんだ?リフトには居なかっただろ?」
彼はエンプサーが妻である十六夜に姿を変え目の前に現れた事と、リフトのある部屋とは別に地下へ通じるエレベーターがあった事を二人に話した。それを知った彼らは、脱出の際に使えるとエレベーターの場所を確認し、今度はシンとアズールが運ばれていた通路の方へとツクヨを案内する。
研究室から出た彼らは、一度リフトとなっていた部屋の方へと戻ると、そこにあった筈の扉がいつの間にか破壊されており、上からは不気味な血の雨が降り注いでいた。
それでも今のエンプサーがあるのは、ラウルを元の人の姿に戻したいという彼に対する感謝と恋心があったからだった。だがそれを叶えるには、彼女の手はあまりに多種族の血に塗れていた。
そして今、彼女の視界は自身の血によって赤く染まり、嘗て殺して来た多くの命が今だに生を謳歌し自分の研究欲満たす汚れた魂に贖罪をと手を伸ばす。
「あぁ・・・そうだった。妾は・・・」
絶叫に歪んだ蛇女ことエンプサーの顔は、これまでの悍ましさがまるで嘘のようにまっさら虚無の表情をしていた。そんな彼女の表情を見たアズールは、一瞬だけ剣を押し込む足の力を緩めたが、すぐに一族の恨みを思い出し振り抜く寸前まで全力を絞り出した。
エンプサーの身体は、仰け反りながら仰向けに地面へと叩きつけられる。凄まじい勢いで蹴り付けられたことが、傍観者達にもはっきりと伝わるほど床を広く砕き、剥き出しの地面にクレーターのような跡を残した。
着地したアズールは全ての力を使い果たしたかのように、その場に膝から崩れ落ち彼女とは反対にうつ伏せの状態で倒れた。
唖然とした様子で決着を見届けていたシンとツクヨは、すぐに残りのラミアの残党を始末しなければと危機感を持つが、エンプサーの眷属であるラミア達は彼女が倒されたことにより消滅していった。
「終わった・・・のか?」
「はぁ・・・よかった。まだ生きていたらどうしようかと・・・。もう戦えないよ。それよりシン!意識を取り戻していたんだね?」
「ちょっと前のことだけどね。それより本当に死んだのか確かめない事には・・・」
瓦礫に手を置いて立ち上がったシンは、土煙にシルエットを残すエンプサーの倒れている、地面に空いた窪みに近づく。すると彼女の頭部はアズールの強烈な蹴りと叩きつけられた衝撃により、見るも無惨な程にぐちゃぐちゃになっていた。
脈や気配を確かめるまでもなく、息絶えているのは明らかだった。ツクヨによって身体を両断された時のような復活の様子もない。恐らく一度きりの能力だったのだろう。
「大丈夫か?」
側で倒れるアズールの身体は、肉体強化の効果が失われ元の大きさへと戻っていた。傷だらけの身体に溜まった疲労が積み重なり、息をするだけでも精一杯といった様子だった。
シンやツクヨのようなユーザーの身体ではない彼らは、自然治癒にも限度があり、傷は癒せても肉体が負った疲労が完全に癒える事はない。それでもシンは、持ち合わせの回復アイテムを彼に使い、少しでも身体の傷を癒やし疲労の回復を促進させた。
「時間がない・・・。外でガレウス達が待っているんだ。休んでなどいられない・・・」
「そんな事言ったって、真面に歩けないんじゃ脱出も出来ないでしょ。私とシンが爆弾を仕掛けて来るから、それまで休んでてよ」
「何を馬鹿なことをッ・・・!?」
アズールを心配するツクヨの言葉に抗おうと、寝ていた身体を起こし彼の方へ視線を送る。ツクヨとて怪我を負っていたのは同じ筈。しかし、彼の傷は回復アイテムの影響ですぐに治癒していくのが目に入った。
「もう立ち上がれる程に・・・?」
「あぁ、私は疲労によるダウンじゃないからね。でもあの剣をそのまま握るのはもう懲り懲りかな」
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シンはアズールに肩を貸すように頼まれると、彼の側で膝を突き腕を肩に回して引き上げるように立ち上がる。ツクヨは拾った剣と共に、エンプサーによって奪われた自身の武器を探す。
そう遠くに運ばれていなかったようで、少し瓦礫をひっくり返したところでツクヨの武器を収納した箱を見つけ取り戻すと、不思議な魅力を感じたその剣を戦利品として持ち物へ加えた。
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