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寄せ集めの力
しおりを挟む「ツクヨだったらこれ・・・消せんのかな・・・?」
燃え移った黒い炎はシンの衣服を蝕むように大きくなっていく。普通の炎とは燃え上がる速度も違うようで、黒炎は長い苦しみを与えるかのようにゆっくりと広がっていく。
シンの身体にはまだ深刻なダメージは現れていない。彼は懐に隠していたダマスクの小瓶を取り出す。封印は解け、既に中身は空っぽの状態だった。よく見るとだいぶ前から封印のスキルは解除されていたようだ。
つまりダマスクは、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せる状態にあったことが分かる。それを見つけたシンは、自由の身でありながら何故彼はシン達を襲わず囚われの身を演じていたのか考えていた。
ツクヨは今、自分の内側に入り込んだ何者かの気配に見舞われている。霧を払うように腕を振るい、時折頭を抑えるような仕草をしている。依然として近づくのは危険だが、こちらから何もしなければ危険はない。
後はダマスクによるツクヨの精神の救出の戦いとなる。シンは一旦戦いから退き、ツクヨの様子とアズールらの戦いが把握できる位置に身を潜めた。黒炎というタイムリミットが近づく中、ダマスクを信じ彼はアズールのサポートに徹した。
側から見ればまるでモンスター同士の戦いだった。肉体強化により大柄になったアズールの倍はあろうかという大きさを誇る蛇姿の女。尻尾の先まで含めればその大きさは計り知れない。
アズールの動きについていけるくらいには素早く、強靭な尻尾は獣人の鋭爪も岩のように硬い拳も受け付けない。ダメージを与えるのならやはり、生身である上半身になるだろう。
彼の動きからも、自由自在に動き回る蛇の尻尾を躱し、本体へ攻撃しようとしているのが見て取れる。だがそんな守りを抜けたところで待っているのは、幾つもの武器や魔法を携えた複数本の腕を持つ上半身。
多彩な攻撃方法とそもそも耐性のない魔法攻撃に苦戦を強いられるアズール。
「ハッ!魔法は苦手かえ?先程から攻め手に欠けるようじゃが」
「それも他人から盗んだ力か?」
「盗んだとは人聞きの悪い!そ奴らでは引き出せぬ力を妾が使ってやっておるのじゃ。力はあれど使い方が間違っていては、何の為に生まれた力か分からぬではないか。そうは思わんかえ?」
「それが連れ去って身体をいじくり回して奪い取った奴の言い草か・・・。反吐が出るな」
「下等な生物には理解できぬ。妾もお前が理解できるなどとは思っておらぬ。それよりお前の強化に興味がそそられる。他の個体とは明らかに違う変化・・・。是非とも我がものとしたい!」
それを皮切りに攻撃の手数を増やし始める蛇女。だが実際、決め手に欠けるのも事実。獣人族の持ち味である身体能力の強さと、それを増幅させる肉体強化。それを持ってしても押し切れずにいるのだ。
手を抜いているつもりはアズールにはない。寧ろ、一族の者達を実験に使われその中にはもしかしたら、嘗ていなくなった彼の恋人も目の前の女の手によって実験に使われ、最悪の場合殺されているかもしれない。
彼女がいなくなってからだいぶ長い歳月が過ぎている。アズールも物分かりが悪い方ではない。既に彼女が生きていないであろうことは分かっている。それでも彼の中に残された怒りや後悔は、目の前の女の発言で蘇り沸々と込み上げてきていた。
アズールが再び蛇女の尻尾を掻い潜り、本体のところへ飛び込んでいく。
「獣は獣人となっても頭の方は変わらぬようじゃなぁ!何度も同じ手は通じぬぞ」
「・・・同じじゃねぇさ」
アズールには見えていた。研究室の端で戦っていたツクヨとシンの戦いを見ていた彼は、シンの合図に気が付いていた。次のアズールの攻撃に合わせてシンはスキルを使う。蛇女が思っているような展開にはならない。
シンの影を使うスキルのことは戦いの中で身に付いていた。アズールが飛び込むタイミングで動きを止めるつもりなのだろう。それを期待して、アズールは今まで以上に腕の強化を高める。
並々ならぬ気持ちを込めて次の攻撃を放つつもりだと気が付いた蛇女は、腕の一本を後ろへ隠し自身への補助魔法をかけようとしていた。
「何か考えがあるようじゃが、そうはっ・・・!?」
魔法を掛けようとした蛇女の腕が突如動かなくなる。違和感を覚えた彼女は一瞬だけアズールから視線を逸らしたのだ。後方に何かいる。そう考えた時に脳裏に過ったのはシンとツクヨの姿だった。
これまで全く意に介していなかったもう一つの戦いの事を思い出す。そういえば妙に静かになったと。目の前の敵から意識を逸らした内に、アズールの渾身の一撃が遂に蛇女の本体に命中する。
燃え移った黒い炎はシンの衣服を蝕むように大きくなっていく。普通の炎とは燃え上がる速度も違うようで、黒炎は長い苦しみを与えるかのようにゆっくりと広がっていく。
シンの身体にはまだ深刻なダメージは現れていない。彼は懐に隠していたダマスクの小瓶を取り出す。封印は解け、既に中身は空っぽの状態だった。よく見るとだいぶ前から封印のスキルは解除されていたようだ。
つまりダマスクは、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せる状態にあったことが分かる。それを見つけたシンは、自由の身でありながら何故彼はシン達を襲わず囚われの身を演じていたのか考えていた。
ツクヨは今、自分の内側に入り込んだ何者かの気配に見舞われている。霧を払うように腕を振るい、時折頭を抑えるような仕草をしている。依然として近づくのは危険だが、こちらから何もしなければ危険はない。
後はダマスクによるツクヨの精神の救出の戦いとなる。シンは一旦戦いから退き、ツクヨの様子とアズールらの戦いが把握できる位置に身を潜めた。黒炎というタイムリミットが近づく中、ダマスクを信じ彼はアズールのサポートに徹した。
側から見ればまるでモンスター同士の戦いだった。肉体強化により大柄になったアズールの倍はあろうかという大きさを誇る蛇姿の女。尻尾の先まで含めればその大きさは計り知れない。
アズールの動きについていけるくらいには素早く、強靭な尻尾は獣人の鋭爪も岩のように硬い拳も受け付けない。ダメージを与えるのならやはり、生身である上半身になるだろう。
彼の動きからも、自由自在に動き回る蛇の尻尾を躱し、本体へ攻撃しようとしているのが見て取れる。だがそんな守りを抜けたところで待っているのは、幾つもの武器や魔法を携えた複数本の腕を持つ上半身。
多彩な攻撃方法とそもそも耐性のない魔法攻撃に苦戦を強いられるアズール。
「ハッ!魔法は苦手かえ?先程から攻め手に欠けるようじゃが」
「それも他人から盗んだ力か?」
「盗んだとは人聞きの悪い!そ奴らでは引き出せぬ力を妾が使ってやっておるのじゃ。力はあれど使い方が間違っていては、何の為に生まれた力か分からぬではないか。そうは思わんかえ?」
「それが連れ去って身体をいじくり回して奪い取った奴の言い草か・・・。反吐が出るな」
「下等な生物には理解できぬ。妾もお前が理解できるなどとは思っておらぬ。それよりお前の強化に興味がそそられる。他の個体とは明らかに違う変化・・・。是非とも我がものとしたい!」
それを皮切りに攻撃の手数を増やし始める蛇女。だが実際、決め手に欠けるのも事実。獣人族の持ち味である身体能力の強さと、それを増幅させる肉体強化。それを持ってしても押し切れずにいるのだ。
手を抜いているつもりはアズールにはない。寧ろ、一族の者達を実験に使われその中にはもしかしたら、嘗ていなくなった彼の恋人も目の前の女の手によって実験に使われ、最悪の場合殺されているかもしれない。
彼女がいなくなってからだいぶ長い歳月が過ぎている。アズールも物分かりが悪い方ではない。既に彼女が生きていないであろうことは分かっている。それでも彼の中に残された怒りや後悔は、目の前の女の発言で蘇り沸々と込み上げてきていた。
アズールが再び蛇女の尻尾を掻い潜り、本体のところへ飛び込んでいく。
「獣は獣人となっても頭の方は変わらぬようじゃなぁ!何度も同じ手は通じぬぞ」
「・・・同じじゃねぇさ」
アズールには見えていた。研究室の端で戦っていたツクヨとシンの戦いを見ていた彼は、シンの合図に気が付いていた。次のアズールの攻撃に合わせてシンはスキルを使う。蛇女が思っているような展開にはならない。
シンの影を使うスキルのことは戦いの中で身に付いていた。アズールが飛び込むタイミングで動きを止めるつもりなのだろう。それを期待して、アズールは今まで以上に腕の強化を高める。
並々ならぬ気持ちを込めて次の攻撃を放つつもりだと気が付いた蛇女は、腕の一本を後ろへ隠し自身への補助魔法をかけようとしていた。
「何か考えがあるようじゃが、そうはっ・・・!?」
魔法を掛けようとした蛇女の腕が突如動かなくなる。違和感を覚えた彼女は一瞬だけアズールから視線を逸らしたのだ。後方に何かいる。そう考えた時に脳裏に過ったのはシンとツクヨの姿だった。
これまで全く意に介していなかったもう一つの戦いの事を思い出す。そういえば妙に静かになったと。目の前の敵から意識を逸らした内に、アズールの渾身の一撃が遂に蛇女の本体に命中する。
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