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偽りの姿、真実の姿
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蛇女の煽りに一瞬眉を顰めるアズールだったが、この者らに怒りを抱いてきたのは今に始まったことではない。本格的に怒りや憎しみを抱き始めたのは、アズールがまだ獣人族の長に選ばれる前。
恋人のミルネが襲われ、姿を見せなくなってから彼は変わり始めた。ガレウスや他の者達のように公にその態度を表すことはなかった。族長という立場上、皆には頼れるところを見せていかねばならなかったが、ここに嘗ての彼を知る者はいない。
「そうか・・・。良かったよ、連れて来たのが余所者のコイツらで・・
・」
「ぁあ?頭でも打ったのか、それとも元々知能が低いからかのぅ?」
「何とでも言え。今更やすい挑発なんぞに乗ってやるつもりもない。初めから暴れてやるつもりで来たんだ。最初は隠密なんて作戦で拍子抜けしてたが・・・。思う存分、溜まったモンをぶちまけられる相手がいて良かった」
静かに燃え上がるアズールの闘志は、肉体強化という形で可視化されていく。みるみる姿を変えていくアズールに、蛇女は変化の過程の内に攻撃を始める。
再び大きな尻尾を勢いよく振り、その鱗を弾丸のように飛ばす。彼女も語っていたように獣人族の肉体強化の能力については、研究や実験の中で既に知っているようだった。
「ハッ!やはり野蛮な脳筋種族は芸がないッ!強化なんてもう調べ尽くした過去の能力ぞッ!」
獣人族が肉体強化を行う際、その間無防備になることを既に研究済みだったようで、蛇女はアズールのその隙を狙ったつもりだったようだが、彼は他の獣人達とは違い肉体強化の段階を途中で止めることができる。
途中まで強化された足を使い、素早い身のこなしで蛇女の鱗を避けながら距離を詰める。振り払った尻尾を今度は防御の為に巻き戻し、アズールの攻撃から身を守る壁として立ち塞ぐ。
大きい割に戻りの早い女の尻尾は、アズールが近づく前に螺旋状の壁を隔てるが、彼は直前で足を止めると大きく跳躍し、天井を蹴って尻尾の壁の中へ入り込む。
「でかい図体の割には素早い動きだな・・・。だが速さじゃ俺の方が上だったな」
「強化を途中で止められるのか。面白い個体だのう。殺すのではなくそのメカニズムの解明の為に生かして捕まえてやる。それと・・・」
アズールは天井を蹴り上げた勢いと共に身体を回転させ、強力な踵落としを蛇女の頭上に振り下ろすが、これを両手で受け止める。強化されたアズールの一撃は凄まじく、僅かに蛇女の身体を沈めて風圧が辺りに巻き起こり、机や機材が二人を中心に吹き飛ばされていく。
そしてここで、アズールの感じていた違和感の正体が遂に姿を現した。獣人族は彼女自身が認めている通り、他の種族よりも圧倒的な怪力を有する種族。蛇女の蛇の部分も素早い動きと強力なパワーを有しているが、上半身自体は人間のそれと変わらない。
彼女の華奢な上半身では、アズールの強化された攻撃を防ぎ切るなど到底不可能な筈。だがそれを可能にしているのは、彼女の上半身もまたただの人間のものではない事が要因となっていた。
アズールの足を受け止めているのは、彼女の上半身から生える複数の腕による堅牢な守りのせいだったのだ。
「おいおい・・・下だけじゃなく、上まで奇妙な身体をしてやがるなッ・・・!」
「レディーの身体をじろじろ見るなんて・・・やはり獣じゃな」
彼女の上半身は、ヒンドゥー教の神である血と殺戮を好む戦いの女神カーリーを模したと思われる造形をしていたのだ。
「それと・・・この尻尾の壁はお前の進行を妨げるものではない。お前を閉じ込める為のものぞ」
するとアズールの攻撃を防いでいた彼女の腕は回転し向きを変えると、その足を鷲掴みにし逃げられないように捕らえる。
「ッ!?」
彼女の複数の腕を足場に、掴まれた自らの足を引き抜こうとするアズールだったが、彼の力を持ってしてもその拘束から逃れることは出来なかった。その見た目からは想像も出来ぬ凄まじい握力に、指が彼の足にメリメリと食い込んでいく。
「このままへし折ってやってもいい。足や腕の一本くらい、欠損したところで研究に差し支えないからのう」
「それは生憎だったな。物理的な拘束は俺には通用せん」
アズールは百足の拘束から逃れた時と同じように、部分的な強化による足の肥大化を行う。すると鷲掴んでいた彼女の指は徐々に解かれていき、その手で掴める容量をとっくにオーバーしていた。
「部分的に肉体強化をッ!?それならッ・・・!」
蛇女は手による拘束を解き、今度はその大きな下半身の尻尾を使ってアズールを掴み取ろうとする。肉体強化により膨れ上がった足を急速解除で元のサイズにまで戻したアズールは、今度は力技ではなく樹海の中で身につけた木々の間を飛び回るように、尻尾の隙間をくぐり抜け拘束から逃れる。
「力づくの下半身に、素早く器用な上半身。それが研究とやらで導き出したお前の答えか?蛇女」
「部分的な強化に、肉体強化の急停止と解除。ここまで自身の身体を自由自在にコントロールできる個体は初めてだ・・・。前言を撤回しよう。妾はお前に興味が出てきたぞ!光栄に思うがよい。その身体を余す事なくばらして調べ上げてやろう」
本来の姿を現したところで、アズールと蛇女の戦いは第二ラウンドへと突入する。
その一方、シンとツクヨの戦いは二人の怪物じみた戦いによって荒らされた研究室の物を利用した、シンとダマスクに軍配が上がった。物が近くに飛ばされて来たことにより、狂人となったツクヨに悟られる事なく作戦を進めることができ、遂に接触を果たしていた。
恋人のミルネが襲われ、姿を見せなくなってから彼は変わり始めた。ガレウスや他の者達のように公にその態度を表すことはなかった。族長という立場上、皆には頼れるところを見せていかねばならなかったが、ここに嘗ての彼を知る者はいない。
「そうか・・・。良かったよ、連れて来たのが余所者のコイツらで・・
・」
「ぁあ?頭でも打ったのか、それとも元々知能が低いからかのぅ?」
「何とでも言え。今更やすい挑発なんぞに乗ってやるつもりもない。初めから暴れてやるつもりで来たんだ。最初は隠密なんて作戦で拍子抜けしてたが・・・。思う存分、溜まったモンをぶちまけられる相手がいて良かった」
静かに燃え上がるアズールの闘志は、肉体強化という形で可視化されていく。みるみる姿を変えていくアズールに、蛇女は変化の過程の内に攻撃を始める。
再び大きな尻尾を勢いよく振り、その鱗を弾丸のように飛ばす。彼女も語っていたように獣人族の肉体強化の能力については、研究や実験の中で既に知っているようだった。
「ハッ!やはり野蛮な脳筋種族は芸がないッ!強化なんてもう調べ尽くした過去の能力ぞッ!」
獣人族が肉体強化を行う際、その間無防備になることを既に研究済みだったようで、蛇女はアズールのその隙を狙ったつもりだったようだが、彼は他の獣人達とは違い肉体強化の段階を途中で止めることができる。
途中まで強化された足を使い、素早い身のこなしで蛇女の鱗を避けながら距離を詰める。振り払った尻尾を今度は防御の為に巻き戻し、アズールの攻撃から身を守る壁として立ち塞ぐ。
大きい割に戻りの早い女の尻尾は、アズールが近づく前に螺旋状の壁を隔てるが、彼は直前で足を止めると大きく跳躍し、天井を蹴って尻尾の壁の中へ入り込む。
「でかい図体の割には素早い動きだな・・・。だが速さじゃ俺の方が上だったな」
「強化を途中で止められるのか。面白い個体だのう。殺すのではなくそのメカニズムの解明の為に生かして捕まえてやる。それと・・・」
アズールは天井を蹴り上げた勢いと共に身体を回転させ、強力な踵落としを蛇女の頭上に振り下ろすが、これを両手で受け止める。強化されたアズールの一撃は凄まじく、僅かに蛇女の身体を沈めて風圧が辺りに巻き起こり、机や機材が二人を中心に吹き飛ばされていく。
そしてここで、アズールの感じていた違和感の正体が遂に姿を現した。獣人族は彼女自身が認めている通り、他の種族よりも圧倒的な怪力を有する種族。蛇女の蛇の部分も素早い動きと強力なパワーを有しているが、上半身自体は人間のそれと変わらない。
彼女の華奢な上半身では、アズールの強化された攻撃を防ぎ切るなど到底不可能な筈。だがそれを可能にしているのは、彼女の上半身もまたただの人間のものではない事が要因となっていた。
アズールの足を受け止めているのは、彼女の上半身から生える複数の腕による堅牢な守りのせいだったのだ。
「おいおい・・・下だけじゃなく、上まで奇妙な身体をしてやがるなッ・・・!」
「レディーの身体をじろじろ見るなんて・・・やはり獣じゃな」
彼女の上半身は、ヒンドゥー教の神である血と殺戮を好む戦いの女神カーリーを模したと思われる造形をしていたのだ。
「それと・・・この尻尾の壁はお前の進行を妨げるものではない。お前を閉じ込める為のものぞ」
するとアズールの攻撃を防いでいた彼女の腕は回転し向きを変えると、その足を鷲掴みにし逃げられないように捕らえる。
「ッ!?」
彼女の複数の腕を足場に、掴まれた自らの足を引き抜こうとするアズールだったが、彼の力を持ってしてもその拘束から逃れることは出来なかった。その見た目からは想像も出来ぬ凄まじい握力に、指が彼の足にメリメリと食い込んでいく。
「このままへし折ってやってもいい。足や腕の一本くらい、欠損したところで研究に差し支えないからのう」
「それは生憎だったな。物理的な拘束は俺には通用せん」
アズールは百足の拘束から逃れた時と同じように、部分的な強化による足の肥大化を行う。すると鷲掴んでいた彼女の指は徐々に解かれていき、その手で掴める容量をとっくにオーバーしていた。
「部分的に肉体強化をッ!?それならッ・・・!」
蛇女は手による拘束を解き、今度はその大きな下半身の尻尾を使ってアズールを掴み取ろうとする。肉体強化により膨れ上がった足を急速解除で元のサイズにまで戻したアズールは、今度は力技ではなく樹海の中で身につけた木々の間を飛び回るように、尻尾の隙間をくぐり抜け拘束から逃れる。
「力づくの下半身に、素早く器用な上半身。それが研究とやらで導き出したお前の答えか?蛇女」
「部分的な強化に、肉体強化の急停止と解除。ここまで自身の身体を自由自在にコントロールできる個体は初めてだ・・・。前言を撤回しよう。妾はお前に興味が出てきたぞ!光栄に思うがよい。その身体を余す事なくばらして調べ上げてやろう」
本来の姿を現したところで、アズールと蛇女の戦いは第二ラウンドへと突入する。
その一方、シンとツクヨの戦いは二人の怪物じみた戦いによって荒らされた研究室の物を利用した、シンとダマスクに軍配が上がった。物が近くに飛ばされて来たことにより、狂人となったツクヨに悟られる事なく作戦を進めることができ、遂に接触を果たしていた。
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