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それぞれの脱出術
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彼らもエイリルと同じく、足に絡まる百足を引き剥がそうと必死にもがいていた。だが、自身の足を締め上げるように密着する百足は、その胴体から生やした無数の足で彼らを逃すまいとしがみつく。
無理に剥がそうとすれば皮膚ごと持っていかれそうになり、最悪の場合その下の血肉までも巻き込みかねない。鋭爪や短剣でその身体を切り裂こうとも、百足は裂かれた部分からまた新たな百足を出現させ、更に上へと登って来ようとする。
「クソッ!キリがないッ・・・。ここは多少強引にでも・・・」
「よせ、アズール!アンタの力は俺達の要だ。無茶をされては・・・困る!」
「ならどうするのだ!?このままでは締め殺されるぞ!」
幸いにも、百足による進行は遅く、まだ彼らの片足を捕らえているだけにすぎない。だがこのまま何もしなければ、アズールの言う通り締め殺されるのも事実。
剥がすことも切り落とすことも出来ぬ百足の触手に、文字通り手も足も出せなくなる一行。そこへ頭部を吹き飛ばされた筈の男が、首から生やした百足の触手を絡ませ球体状に集めると、そこから新たな頭部を作り出した。
「自身の弱点は自分がよく知っている・・・。自分の肉体こそ最も身近で理解しやすい実験体だとは思わないかね?」
不敵な笑みを浮かべる男は、自分の身体から生える百足の触手を切り離し、地を這わせながら彼らの元へ送り込む。
「それも・・・テメェの実験の成果って訳かッ・・・?」
「そうだとも!我が肉体は彼らと共に!私は文字通り“百足人間“となったんだ。人の身体では成し得ないことも、この新たな肉体があれば容易に叶えられる」
嬉しそうに自らの肉体を自画自賛する百足男。しかし、その百足を“彼ら“と呼ぶと言うことは、身体の一部という訳ではなく召喚士のように何らかの条件の元に使役しているという可能性がある。
一か八か、沈黙を貫いていたシンは男と百足の契約を断ち切る為、ダマスクに協力を仰ぐ。
「アンタは奴のことを知っているのか?」
「いや、俺ぁあんな気色の悪い奴知らねぇな」
「奴はさっき、百足達のことを“彼ら“と言った。自分の身体の一部ならそんな言い方はしない。どうやって百足を意のままに操れる条件があるように思えるんだが・・・どう思う?」
「俺に言われてもなぁ・・・」
「アンタに一つ、手伝って貰いたいことがある」
誰に聞こえるでもなく、小声で独り言を呟くようにダマスクへ作戦の手順を伝えるシン。すると彼は、絡みつく百足を強引に引っ張りながら男の方へと向かって行った。
「おい、あの馬鹿!一人で向かって行きやがったぞ!?」
「待て、アズール。アンタの負傷は見過ごせないが、俺や彼であれば多少の犠牲はやむを得ない。彼に何か考えがあるのなら、それを見極めよう」
エイリルは強硬手段を取るシンの姿を見ても、冷静にアズールを引き止め考える時間を作り出した。
再び捕らえられているエルフ族を確認するエイリルは、そのエルフ族がまだ生きていることに着眼点を置いた。百足男は何故エルフ族を捕らえるだけで殺さないのか。
この男も研究者の一人なら、妖精のエルフの希少性に目が眩むはず。彼らエルフ族の一族も誘拐されていたようだが、すぐに自慢の能力で身を隠したことにより、その被害は種族の中では最も少なかった。
となれば、もしこの施設に誘拐した者達が連れてこられていたとすれば、実験に使える被検体の数は限られていたことだろう。その被検体が自分の元へ回ってくるまでお預けを食らっていたに違いない。
そんな珍しい実験の道具が自ら飛び込んできたとあらば、決して容易に始末するとは考えられない。
エイリルは心配そうに身体を震わせるエルフ達に、囚われた者が無事である事とその根拠を伝える。そして救出に力を貸してほしいと彼らに協力を仰いだ。
「アズール、悪いが俺は彼らの安全の確保と救出を優先する」
「だがコイツはどうする?助けに行こうにも引き剥がせねぇだろ?」
「我々精霊の加護受けたエルフ族は、ある程度自然の中で生きられるように耐性を持って生まれてくる。だからこれから俺がやる脱出方法は、アンタには使えない」
そういうとエイリルは、自分の足に絡みつく百足の頭部の方へ両手をかざす。
「だから、一体何をしようってんだ?」
アズールの言葉を背に受けながら、エイリルは魔法の詠唱へと入る。すると彼のかざした両手の周りに紫色をした毒々しい霧が立ち込める。
「“毒“だよ。それも生物の内臓を腐敗させるように、気体状にして吸い込ませるんだ。“ポイズンミスト“・・・。例え呼吸器官が無かったとしても、身体に付着すれば徐々に身体機能に異常をきたし始める」
「そんなもの!こんな近くでッ・・・!」
「安心していいよ。だからこうやって極端に範囲を狭めてるんだ。こうすればより強力で濃密な毒素となる」
それほど恐ろしい毒を使って、いくら毒に対する耐性があるとはいえ、自身に害はないのだろうか。鼻の効く獣人族のアズールは、思わず自分の鼻を覆い距離を取る。
「この虫達がどれだけの量の毒で離れるかは分からない・・・。恐らく大きさによっても違うだろうね。だから俺自身に極力被害が出ないよう・・・」
言葉を連ねようとするエイリルだが、元々色白の肌が徐々に異常をきたしているような青白さへと変わっていき、汗をかきながら口角に血を滲ませていた。
「なかなかしぶといじゃないか・・・。いいよ、こっちだって覚悟してきてるんだ・・・。お前が離すまでいくらでも・・・濃いのをくれてやるよ・・・」
不敵な笑みを浮かべながら、今にも倒れそうな様子へと変貌していくエイリル。やはり人並みの大きさの生き物を拘束するだけのことはある。彼の足に絡みつく百足も徐々に動きを鈍らせ、朽ちる前の最後の足掻きと言わんばかりにエイリルの足に無数の細かな足を何度も突き刺している。
彼の様子を見ていた妖精のエルフ達も、可能な限りエイリルの耐久力を保たせるためサポートを開始する。
「クソッ・・・!どいつもこいつも、俺には無茶するなって言って、テメェらの方が満身創痍じゃねぇか・・・。なら、俺も俺のやり方でこじ開けてやるッ・・・!!」
シンの強引な突撃や、エイリルの命懸けの持久戦を目の当たりにし、アズールは百足の絡みつく足に意識を集中させ、部分的な肉体強化を図る。
一気に膨れ上がるアズールの足にしがみ付くように絡まる百足。するとアズールは、強化して筋肉が隆々と膨れ上がる足を急速に元のサイズへと縮めた。
一瞬にして太さの変わる足に、僅かな隙間が生まれた。その隙にアズールは飛び上がると、百足の拘束から抜け出すことに成功する。
一見、容易に脱出できたかのように見えるが、強化の急速な解除は彼の足に大きな負荷を掛けるというリスクを伴っていた。
無理に剥がそうとすれば皮膚ごと持っていかれそうになり、最悪の場合その下の血肉までも巻き込みかねない。鋭爪や短剣でその身体を切り裂こうとも、百足は裂かれた部分からまた新たな百足を出現させ、更に上へと登って来ようとする。
「クソッ!キリがないッ・・・。ここは多少強引にでも・・・」
「よせ、アズール!アンタの力は俺達の要だ。無茶をされては・・・困る!」
「ならどうするのだ!?このままでは締め殺されるぞ!」
幸いにも、百足による進行は遅く、まだ彼らの片足を捕らえているだけにすぎない。だがこのまま何もしなければ、アズールの言う通り締め殺されるのも事実。
剥がすことも切り落とすことも出来ぬ百足の触手に、文字通り手も足も出せなくなる一行。そこへ頭部を吹き飛ばされた筈の男が、首から生やした百足の触手を絡ませ球体状に集めると、そこから新たな頭部を作り出した。
「自身の弱点は自分がよく知っている・・・。自分の肉体こそ最も身近で理解しやすい実験体だとは思わないかね?」
不敵な笑みを浮かべる男は、自分の身体から生える百足の触手を切り離し、地を這わせながら彼らの元へ送り込む。
「それも・・・テメェの実験の成果って訳かッ・・・?」
「そうだとも!我が肉体は彼らと共に!私は文字通り“百足人間“となったんだ。人の身体では成し得ないことも、この新たな肉体があれば容易に叶えられる」
嬉しそうに自らの肉体を自画自賛する百足男。しかし、その百足を“彼ら“と呼ぶと言うことは、身体の一部という訳ではなく召喚士のように何らかの条件の元に使役しているという可能性がある。
一か八か、沈黙を貫いていたシンは男と百足の契約を断ち切る為、ダマスクに協力を仰ぐ。
「アンタは奴のことを知っているのか?」
「いや、俺ぁあんな気色の悪い奴知らねぇな」
「奴はさっき、百足達のことを“彼ら“と言った。自分の身体の一部ならそんな言い方はしない。どうやって百足を意のままに操れる条件があるように思えるんだが・・・どう思う?」
「俺に言われてもなぁ・・・」
「アンタに一つ、手伝って貰いたいことがある」
誰に聞こえるでもなく、小声で独り言を呟くようにダマスクへ作戦の手順を伝えるシン。すると彼は、絡みつく百足を強引に引っ張りながら男の方へと向かって行った。
「おい、あの馬鹿!一人で向かって行きやがったぞ!?」
「待て、アズール。アンタの負傷は見過ごせないが、俺や彼であれば多少の犠牲はやむを得ない。彼に何か考えがあるのなら、それを見極めよう」
エイリルは強硬手段を取るシンの姿を見ても、冷静にアズールを引き止め考える時間を作り出した。
再び捕らえられているエルフ族を確認するエイリルは、そのエルフ族がまだ生きていることに着眼点を置いた。百足男は何故エルフ族を捕らえるだけで殺さないのか。
この男も研究者の一人なら、妖精のエルフの希少性に目が眩むはず。彼らエルフ族の一族も誘拐されていたようだが、すぐに自慢の能力で身を隠したことにより、その被害は種族の中では最も少なかった。
となれば、もしこの施設に誘拐した者達が連れてこられていたとすれば、実験に使える被検体の数は限られていたことだろう。その被検体が自分の元へ回ってくるまでお預けを食らっていたに違いない。
そんな珍しい実験の道具が自ら飛び込んできたとあらば、決して容易に始末するとは考えられない。
エイリルは心配そうに身体を震わせるエルフ達に、囚われた者が無事である事とその根拠を伝える。そして救出に力を貸してほしいと彼らに協力を仰いだ。
「アズール、悪いが俺は彼らの安全の確保と救出を優先する」
「だがコイツはどうする?助けに行こうにも引き剥がせねぇだろ?」
「我々精霊の加護受けたエルフ族は、ある程度自然の中で生きられるように耐性を持って生まれてくる。だからこれから俺がやる脱出方法は、アンタには使えない」
そういうとエイリルは、自分の足に絡みつく百足の頭部の方へ両手をかざす。
「だから、一体何をしようってんだ?」
アズールの言葉を背に受けながら、エイリルは魔法の詠唱へと入る。すると彼のかざした両手の周りに紫色をした毒々しい霧が立ち込める。
「“毒“だよ。それも生物の内臓を腐敗させるように、気体状にして吸い込ませるんだ。“ポイズンミスト“・・・。例え呼吸器官が無かったとしても、身体に付着すれば徐々に身体機能に異常をきたし始める」
「そんなもの!こんな近くでッ・・・!」
「安心していいよ。だからこうやって極端に範囲を狭めてるんだ。こうすればより強力で濃密な毒素となる」
それほど恐ろしい毒を使って、いくら毒に対する耐性があるとはいえ、自身に害はないのだろうか。鼻の効く獣人族のアズールは、思わず自分の鼻を覆い距離を取る。
「この虫達がどれだけの量の毒で離れるかは分からない・・・。恐らく大きさによっても違うだろうね。だから俺自身に極力被害が出ないよう・・・」
言葉を連ねようとするエイリルだが、元々色白の肌が徐々に異常をきたしているような青白さへと変わっていき、汗をかきながら口角に血を滲ませていた。
「なかなかしぶといじゃないか・・・。いいよ、こっちだって覚悟してきてるんだ・・・。お前が離すまでいくらでも・・・濃いのをくれてやるよ・・・」
不敵な笑みを浮かべながら、今にも倒れそうな様子へと変貌していくエイリル。やはり人並みの大きさの生き物を拘束するだけのことはある。彼の足に絡みつく百足も徐々に動きを鈍らせ、朽ちる前の最後の足掻きと言わんばかりにエイリルの足に無数の細かな足を何度も突き刺している。
彼の様子を見ていた妖精のエルフ達も、可能な限りエイリルの耐久力を保たせるためサポートを開始する。
「クソッ・・・!どいつもこいつも、俺には無茶するなって言って、テメェらの方が満身創痍じゃねぇか・・・。なら、俺も俺のやり方でこじ開けてやるッ・・・!!」
シンの強引な突撃や、エイリルの命懸けの持久戦を目の当たりにし、アズールは百足の絡みつく足に意識を集中させ、部分的な肉体強化を図る。
一気に膨れ上がるアズールの足にしがみ付くように絡まる百足。するとアズールは、強化して筋肉が隆々と膨れ上がる足を急速に元のサイズへと縮めた。
一瞬にして太さの変わる足に、僅かな隙間が生まれた。その隙にアズールは飛び上がると、百足の拘束から抜け出すことに成功する。
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