World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,070 / 1,646

百足男

しおりを挟む
 咄嗟に振り払おうとするアズールだったが、その百足のように長い胴体に無数の足を生やした虫は、彼の皮膚に噛み付き必死に振り落とされまいと耐えていた。

 暴れるアズールの動きを止め、急停止によって大きく振られて浮いた百足の胴体を、シンが短剣で両断する。アズールの背に取り残された頭側半分の虫に、エイリルが脱力の魔法を掛け顎の力を削ぐ。

 噛み付く力すら奪われた百足は床に落ち、その様子を目にしたアズールは百足を躊躇いなく踏み潰した。

  しかし、彼らに聞こえていた声は再度別の場所から聞こえてきた。さっきの声の主は百足のいたところから聞こえていたが、今度の声は部屋全体に響き渡るような放送機の音のように彼らの耳に届けられる。

 「ふははははは。そう慌てるな、ただの挨拶がわりだよ」

 「陰険な奴だ。自信があるのなら姿を見せたらどうだ?それとも勝てる見込みがねぇと表には出れねぇタイプなのか?」

 「・・・安い挑発だ。いいだろう、元々これも実験の一環だったんだ。もう獣達相手ではデータが取れなくてね。アレを退けられる者達で試さないと・・・ねぇ」

 男の言葉が途切れると、シンが切り落とした尻尾側半分の百足が動き出し、ブクブクと膨れ上がっていく。警戒して飛び退くシンは、後退しながら数本の短剣を投擲し命中させていくが、彼の投げ放った短剣は膨れ上がる肉の塊に飲み込まれていった。

 「うっ・・・!何だこれは」

 皮膚を纏わぬ肉の塊は徐々に形を形成していき、人の姿へと変わっていく。大きさにして三メートル程で髪や服までも肉塊から作り上げていた。白衣を纏うには似つかわしく無い体格のその男は、変身を終えると彼らの方へ振り返る。

 「おいおい、変身中に攻撃するなんて御法度だろぉ?そういう“常識“、教わってない訳ぇ?」

 「今の常識はやられる前にやるんだよ。知らねぇのか?虫野郎ぉ」

 人の姿へと変貌した肉塊は、胴体よりも逞しい百足の尻尾を腰から生やしていた。肉塊が形を変えている隙に、アズールもまた自身の肉体強化を果たし、一気にケリをつけようと、まだ初々しく生まれ変わったばかりの男との距離を一瞬にして詰め寄り、鋭い拳を撃ち放つ。

 アズールの拳は見事に男の頭部に命中。男の頭は跡形もなく吹き飛び、首を失った胴体は棒立ちの状態で立ち尽くしていた。

 あまりにも呆気なく決まった一撃に、一行は唖然としていたが、それは男の異形な存在を垣間見る発端に過ぎなかった。

 頭部を失った男の首元から無数の百足が触手のように生え、アズールの腕を絡みとる。

 「くッ・・・!何だってんだこいつぁ!?」

 アズールは捕まった腕を引き剥がそうと後ろへ下がるも、ズルズルと伸びる百足の触手はそれを許さなかった。

 すかさずシンとエイリルが百足の触手へ刃を突き立てる。一見硬そうに見えるその百足の触手だったが、彼らの一撃で容易に切断する事ができた。二人のおかげで腕を解放する事ができたアズールは、自分の腕に異常がないかどうか調べる。

 「以外にも簡単に切れたな」

 「力で引き剥がそうとしても、あの身体からはいくらでも出てくるのかもな。斬属性に耐性がないようだ。打撃よりも切断をメインに攻めた方が良さそうだな」

 本体から切り離された百足の触手は、それまでの拘束力を失いアズールの力で簡単に引き剥がすことができた。つまり本体と繋がっていなければ本来の力を引き出せないのだろう。

 「なるほど・・・。耐性が分かっちまえばそれほどでもねぇって訳だ」

 力任せの肉体強化から、今度は爪を刃のように鋭く変化させたアズールは戦闘方法を変更し、今度は棒立ちになる男の胴体を両断せんと懐へ飛び込んでいく。

 一行の中で最も火力があるのはアズールで間違いない。迫るアズールを近づけまいと男の身体からは百足の触手が差し向けられる。

 本体を守るように立ち塞がる触手を、シンとエイリルが左右に分かれ見事な連携で切断し、アズールの活路を開く。

 そして男の懐まで接近することができたアズールは、鋭利に尖らせた爪で男の身体を引き裂いた。身体を両断するまでには至らなかったが、肩口から脇腹の辺りまで深々と切り裂かれた男の身体からは、人のものと同じ真っ赤な血飛沫が噴き出す。

 「うッ・・・!」

 ダマスクの一件で返り血に抵抗感を覚えていたアズールは、なるべくその血を浴びぬようにとすぐに距離を取った。

 「どうだ?なかなかいい一撃が入ったとは思うが・・・」

 「攻撃方法についてはアズールに任せるさ。俺達では負荷では与えられない・・・。ならばサポートと奴の能力の解析に努める。エルフ達にはどこかに身を隠して・・・!」

 とても戦闘には参加させられない妖精のエルフ達には、戦況を見ながら巻き込まれない場所へ身を隠してもらおうとしたその時、三人いた筈のエルフの内の一人が見当たらないことにエイリルが気づく。

 「何ッ!?お前達、もう一人はどこへ・・・」

 周囲を見渡すと、いつの間にか壁から生えていた百足の触手に絡め取られ、動けなくなっているエルフを見つける。

 「何故あんなところに触手がッ・・・!?」

 すぐに解放させようと動き出すエイリルだったが、その足は何かに絡め取られるように動かなくなっていた。視線を下ろすと床からも同じ百足の触手が現れ、蠢くようにエイリルの足に絡まりながら登ってきていた。

 「何ぃッ!?これはまさかッ・・・!」

 何かに気づいた様子のエイリルがシンやアズールの方を向くと、彼らもまた百足の触手に捕まり動きを封じられていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...