1,062 / 1,646
同じ目的へ
しおりを挟む
施設の一室へと繋がる扉が開き、中から研究員の男が現れる。すると、扉のすぐ向こう側には二人の同じ白衣姿をした研究員の男が立っていた。
「おぉ、何だお前らどこへ行っていた?」
「すみません、ちょっと息抜きに外へ・・・」
「外・・・?」
部屋の中から出てきた研究員の男は、外にいたという二人の様子に頭を傾げていた。シン達が転移ポータルを起動させ、隠された施設のある場所へやってきていた頃、何でも施設内では警戒態勢に入っていたようだ。
とはいうものの、中の研究員達に何らかの命令が掛かっていた訳ではない。単純に外が騒がしくなった事と、問題を起こさぬようにという警告が出されていた程度だった。
そんな中、何故研究員の二人が外へ出ていたのかを疑問に感じていたようだ。
「あの・・・すみません、私が実験の過程で気分が悪くなってしまい、彼に同行してもらって少し部屋の外へ出ていました」
二人組の研究員の後ろに立っていた方が、怪しむ研究員に対し咄嗟に細かな詳細を話すと、相手の研究員の男は納得したように頷き始めた。
「まぁ、あまり気分のいい実験ではないからな・・・。実験の結果によっては精神を病んでしまう者も少なくない。もう大丈夫なのか?」
「はい、お陰様で・・・」
「それならよかった。お前もいい対応をしたな。それじゃぁな」
「お疲れ様です」
何気ない会話を終え、中から出てきた研究員は通路へ出ると喫煙所と書かれた部屋へと向かっていった。彼を見送り二人の研究員は部屋の中へと入っていく。
中では照明が焚かれておらず、間接照明のみで被検体に対する何らかの実験が行われているようだった。研究員達は実験に使う光から目を守る為、特殊なゴーグルを付けて容器に入れられた植物を摂取したり、土の世話をしている。
部屋へと入った二人も、周りの研究員と同じように首から下げられたゴーグルをし、机や棚を避けながら奥へと進んでいく。そして部屋の片隅へとやって来ると、二人の研究員は周囲を確認し小声で会話を始める。
「どうだ?上手くいっただろ?」
「どういう原理だこれは?幻覚の類なのか?」
部屋へ入ってきた二人の研究員は、施設へ潜入したアズールとエイリルだったのだ。二人がどうして研究員やカメラの認証を掻い潜り、部屋の中へと入り込めたのか。それはエイリルによる特殊なスキルによるものだった。
本来幻覚を見せるスキルは、対象者に掛けるスキルであり、カメラなどの生命体以外の物には効果がない筈。それにスキルを掛けるにしても、出入り口で出会った研究員だけならまだしも、部屋の中にいる研究員にまで気付かれないのはおかしいと、アズール自身妙に感じていた。
「違う違う。幻覚は相手にかけるもので、それではここまでは来れなかった。私がスキルを使ったのは、我々自身にだ」
エイリル曰く、彼の使ったスキルは彼ら自身の認識を変化させるものであり、彼らの姿を見た者には変化した後の姿に見えるようになっていたのだ。要するに変身や擬態といったものに近い。
事前に変化する姿をエイリル自身がその目で確認することで、その対象者と同じ姿形へと認識させることが出来るのだという。
「幸いだったのは、カメラに魔力探知機能が付いていなかった事だな。これは通路に待たせてきたエルフ達に感謝しなければ・・・」
部屋へ向かい前、前もってカメラの機能がどの程度のものなのかを確認するため、探知されても異常が見られないくらいの微量な魔力を、部屋へ出入りする研究員に付与し様子を見ていた。
だが、カメラに異常は現れず、どうやらカメラが認証していたのは研究員の外見状の見た目だけだった事を突き止める。
「さて、長居は無用だな。中を調べて目的のものがなければ、すぐにここを出よう。この調子で虱潰しにしていけば、いずれ目的のものも見つかるだろう。このスキルはいつまで保つ?」
「私の魔力次第だが、二人分なら余裕がある。妙な探知システムでも無い限り気付かれる事もないだろう」
二人は手分けをして部屋の中を探り、破壊すべき機材を探しながら周りに怪しまれぬよう行動を開始する。しかし、その部屋には彼らの想像していたような生物実験の様子は見られず、またそれに関する資料なども見当たらない。
粗方調べ尽くした二人は、タイミングを見計らい順番に部屋を後にする。後に通路で合流した二人は、そのまま次々に同じ階層にある部屋を順次調べて回るが、どこも同じような研究ばかりでこれといった手掛かりは見当たらなかった。
「おい、何か見つけたか?」
「いや・・・何も。何かおかしくないか?アズール」
「あぁ。これではまるで、ただの植物を研究する施設に過ぎない・・・。そんな事はない筈なのに・・・」
彼らの部隊もまた、先行して向かったシン達の部隊と同様に、施設に対する違和感を強めていった。何故こうも何も見つからないのか。彼らの想像していた悍ましい研究の様子は何処にもなく、囚われているかもしれない同族の姿も見当たらなかった。
「だがこんな場所、今まで見つかることはなかったんだ。あの人間もここがその場所だと確信しているようだった・・・。何より捕らえた奴の記憶にあったのがこの場所だったのだから、ここで間違いない筈・・・」
「このまま部屋を一つ一つ調べていってもいいが、これではいつまで掛かるか分からん。それに私の魔力もそう長くは保たない・・・。まずは施設の見取り図的なものを探してみてはどうだろう?何か目に見えぬものが見つかるかもしれない」
自ずと彼らもシン達と同じく、施設の全体像を測る為何処かにあるであろう施設のマップを探すことにした。
「おぉ、何だお前らどこへ行っていた?」
「すみません、ちょっと息抜きに外へ・・・」
「外・・・?」
部屋の中から出てきた研究員の男は、外にいたという二人の様子に頭を傾げていた。シン達が転移ポータルを起動させ、隠された施設のある場所へやってきていた頃、何でも施設内では警戒態勢に入っていたようだ。
とはいうものの、中の研究員達に何らかの命令が掛かっていた訳ではない。単純に外が騒がしくなった事と、問題を起こさぬようにという警告が出されていた程度だった。
そんな中、何故研究員の二人が外へ出ていたのかを疑問に感じていたようだ。
「あの・・・すみません、私が実験の過程で気分が悪くなってしまい、彼に同行してもらって少し部屋の外へ出ていました」
二人組の研究員の後ろに立っていた方が、怪しむ研究員に対し咄嗟に細かな詳細を話すと、相手の研究員の男は納得したように頷き始めた。
「まぁ、あまり気分のいい実験ではないからな・・・。実験の結果によっては精神を病んでしまう者も少なくない。もう大丈夫なのか?」
「はい、お陰様で・・・」
「それならよかった。お前もいい対応をしたな。それじゃぁな」
「お疲れ様です」
何気ない会話を終え、中から出てきた研究員は通路へ出ると喫煙所と書かれた部屋へと向かっていった。彼を見送り二人の研究員は部屋の中へと入っていく。
中では照明が焚かれておらず、間接照明のみで被検体に対する何らかの実験が行われているようだった。研究員達は実験に使う光から目を守る為、特殊なゴーグルを付けて容器に入れられた植物を摂取したり、土の世話をしている。
部屋へと入った二人も、周りの研究員と同じように首から下げられたゴーグルをし、机や棚を避けながら奥へと進んでいく。そして部屋の片隅へとやって来ると、二人の研究員は周囲を確認し小声で会話を始める。
「どうだ?上手くいっただろ?」
「どういう原理だこれは?幻覚の類なのか?」
部屋へ入ってきた二人の研究員は、施設へ潜入したアズールとエイリルだったのだ。二人がどうして研究員やカメラの認証を掻い潜り、部屋の中へと入り込めたのか。それはエイリルによる特殊なスキルによるものだった。
本来幻覚を見せるスキルは、対象者に掛けるスキルであり、カメラなどの生命体以外の物には効果がない筈。それにスキルを掛けるにしても、出入り口で出会った研究員だけならまだしも、部屋の中にいる研究員にまで気付かれないのはおかしいと、アズール自身妙に感じていた。
「違う違う。幻覚は相手にかけるもので、それではここまでは来れなかった。私がスキルを使ったのは、我々自身にだ」
エイリル曰く、彼の使ったスキルは彼ら自身の認識を変化させるものであり、彼らの姿を見た者には変化した後の姿に見えるようになっていたのだ。要するに変身や擬態といったものに近い。
事前に変化する姿をエイリル自身がその目で確認することで、その対象者と同じ姿形へと認識させることが出来るのだという。
「幸いだったのは、カメラに魔力探知機能が付いていなかった事だな。これは通路に待たせてきたエルフ達に感謝しなければ・・・」
部屋へ向かい前、前もってカメラの機能がどの程度のものなのかを確認するため、探知されても異常が見られないくらいの微量な魔力を、部屋へ出入りする研究員に付与し様子を見ていた。
だが、カメラに異常は現れず、どうやらカメラが認証していたのは研究員の外見状の見た目だけだった事を突き止める。
「さて、長居は無用だな。中を調べて目的のものがなければ、すぐにここを出よう。この調子で虱潰しにしていけば、いずれ目的のものも見つかるだろう。このスキルはいつまで保つ?」
「私の魔力次第だが、二人分なら余裕がある。妙な探知システムでも無い限り気付かれる事もないだろう」
二人は手分けをして部屋の中を探り、破壊すべき機材を探しながら周りに怪しまれぬよう行動を開始する。しかし、その部屋には彼らの想像していたような生物実験の様子は見られず、またそれに関する資料なども見当たらない。
粗方調べ尽くした二人は、タイミングを見計らい順番に部屋を後にする。後に通路で合流した二人は、そのまま次々に同じ階層にある部屋を順次調べて回るが、どこも同じような研究ばかりでこれといった手掛かりは見当たらなかった。
「おい、何か見つけたか?」
「いや・・・何も。何かおかしくないか?アズール」
「あぁ。これではまるで、ただの植物を研究する施設に過ぎない・・・。そんな事はない筈なのに・・・」
彼らの部隊もまた、先行して向かったシン達の部隊と同様に、施設に対する違和感を強めていった。何故こうも何も見つからないのか。彼らの想像していた悍ましい研究の様子は何処にもなく、囚われているかもしれない同族の姿も見当たらなかった。
「だがこんな場所、今まで見つかることはなかったんだ。あの人間もここがその場所だと確信しているようだった・・・。何より捕らえた奴の記憶にあったのがこの場所だったのだから、ここで間違いない筈・・・」
「このまま部屋を一つ一つ調べていってもいいが、これではいつまで掛かるか分からん。それに私の魔力もそう長くは保たない・・・。まずは施設の見取り図的なものを探してみてはどうだろう?何か目に見えぬものが見つかるかもしれない」
自ずと彼らもシン達と同じく、施設の全体像を測る為何処かにあるであろう施設のマップを探すことにした。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる