World of Fantasia

神代 コウ

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獣と妖精の侵攻

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 一行はダマスクに案内されるまま、研究施設の一室にある警報装置の元へと向かった。彼は施設内に警報を鳴らし、その詳細を調べようとする研究員が機材を弄り始めたところを狙おうという目論見らしい。

 警報が鳴らされた場所、被検体の状態、空間の環境状態の把握などを行った後に処理へと動き出す研究所のマニュアルを、ダマスクは記憶ではなく今はなき身体に刷り込まれていた。

 一連の行動が今も尚、研究所の対処方法として使われているのなら、モニターに施設の全体図が映し出される筈だと、ダマスクは語った。

 「しかし、いいのかい?確かに良い作戦だとは思うけど、一時的に施設内がパニック状態に陥ると思うんだけど・・・」

 「確かに・・・。騒ぎを起こしてアズール達の動きに支障は出ないだろうか・・・」

 「知らせを届けるという意味では心配ないだろう。なぁ?エルフの者達よぉ」

 それぞれの部隊にエルフ族を分かれさせたのは、何も転移の魔法を頼りにしていただけと言う訳でもなかった。どうやら妖精の姿をしたエルフ族には、虫の知らせのように離れた同族は危機を知らせる術を持ち合わせているのだという。

 感覚的なものではなく、電話や通信機のように言葉を送ることも可能だという。だが当然、彼らの言葉でしかやりとりは出来ないようで、人の言葉や獣人族の言葉、そういったものは送ることが出来ない。

 「知らせは送る。後は奴ら次第、と言うわけだな」

 「警報が上層部・・・施設のお偉いさんに疑われるようなことは・・・?」

 「少なからず警戒はされるかもしれんが、警報自体は珍しいことでもない筈だ。それが侵入者の事と関係していないとなれば、奴らも放っておくだろう」

 「そんなに上手くいくか?」

 「他に案があるなら、是非聞かせてもらいたいものだな」

 関係者以外、機材を触ることは出来ない。正確には施設の機材には個人を特定する為の認証システムが組み込まれている他、プロジェクト毎にパスワードが設けられている。

 いくら当時の記憶がダマスクにあったとしても、今現在行われている研究を調べることは不可能になっている。シンやツクヨに別の案を捻り出すような知識も方法も浮かばない。

 一行はエルフ族の意思疎通による連絡を待ち、完了の合図と共に警報装置へと手を伸ばす。



 一方、シン達と別れ別行動をしていたアズールとエイリルは、施設へ潜入する方法を探っていた。正面は勿論、外と通じる扉を利用するのは難しい。と、いうのも全ての扉には施設の者である認証をクリアする必要があるようで、物陰から様子を見ていた彼らは、扉の前で顔認証を行なっている研究員の姿を目にしていた。

 「どうする、アズール。中に入るにも一筋縄では行かなそうだな」

 「正規法が駄目なら、非常口や窓、通気口など中に通じるものなら何でもいい。それに、最悪こいつらの力で壁一枚くらいなら転移させられるんだろ?」

 僅かながらエルフ族についての知識を持ち合わせていたアズール。脱出の方法を耳にした時、条件付きではあるが距離のある転移が可能なら、壁の一枚くらい抜けるような転移など造作もないのではないかと考えた。

 そして彼の思惑通り、妖精の姿をしたエルフ族の力で僅かな距離を移動させる事が可能だと分かった。そしてその術の発動には人数がいる。幸い彼らの部隊についてきたエルフ族の人員は三人。十分にその条件を満たしていた。

 「問題は何処から入るか・・・だな」

 「下の階層は既にあいつらが調べ始めているだろう。なら我々は上から攻めるとしよう。エイリル、上まで飛べるか?」

 「問題ない。仮にも俺もエルフだ。鳥のように自由に空を飛ぶことは出来ないが、ある程度の高度であれば飛行することも出来る」

 「便利な身体だな。なら先に行く。お前も周囲に警戒しながら屋上に上がって来い」

 そういうとアズールは、自身の足を強化し凄まじい脚力で施設の屋上へ軽々と飛び上がっていった。エイリルはエルフ族にアズールへついて行くよう伝えると、背中にしまっていた羽を広げ跳躍を交えながら彼も屋上へと向かう。

 先に到着していたアズールは既に潜入するべき場所を探るため、壁の向こう側に人の気配がないかどうかを調べていた。

 「どうだ?入れそうなところはあったか?」

 「流石に屋上付近の反応は薄い。だが、すぐ下の階層にはそれなりに人の反応があるな・・・。近くに研究を行なっている部屋でもあるのか?」

 「それならすぐにでも中に入ろう。中に反応がないなら、寧ろ外の方が警戒されやすい」

 エルフ族が壁に三角形の魔法陣を張ると、そこから中へ通じるゲートが出現。アズールとエイリルはそこから施設の中へと入り込むと、すぐに身を隠せる場所へ移動し、人の気配を分からな探りながら奥へと進んでいく。

 内部にある扉も出入り口と同様に、研究員それぞれの何かを認証するシステムで開閉しているようだった。毎回エルフ族の術に頼る訳には行かない。更には施設の内部ともなれば魔力感知システムが設けられていたとしてもおかしくはない。

 「さて・・・中へ入ったはいいが、これでは調べるどころではないな・・・どうする?」

 「彼らはどうやって出入りしている?何を認証して扉が開閉しているのか、もう少し情報が欲しい」

 情報があれば何か手立てがあるのだろうか。だが、エイリルのいう事にも一理ある。扉の開閉の条件が何かを確かめる為、とある部屋の扉を見張る一行は出入りする研究員の様子を伺う。

 しかし、カードを機材に通している様子もなければパスワードを打ち込んでいる様子もない。見た目はそれこそ自動ドアのように開閉しているようにしか見えない。足元に重力感知パネルでもあるのだろうか。

 暫く様子を見てきると、その扉の開閉のカラクリが見えてきた。研究員自体に何かあるのではなく、扉の上部の方にカメラのようなものがあり、研究員の全身を読み取り認証しているようだった。

 「おい、ありぁカメラだな。俺達じゃ中に入れんぞ・・・」

 「いや、寧ろ好都合だ。姿形さえ“それに見えれば“簡単に開閉するってことだ。なら、私のスキルで突破可能だ」

 するとエイリルは、今まで見せなかった手の内を明かし、スキルによる扉の看破を敢行する。
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