World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,058 / 1,646

潜入部隊の編成

しおりを挟む
 ポータルを抜け、何処ともわからぬ森の中へ飛ばされたアズールは、着地と同時にそこが踏みなれた大地であることを確信する。エルフ族が言っていた通り、やはり施設があったのは彼らの巣食う森の中だったようだ。

 「この土、この匂い・・・間違いない、俺の知る森のものだ。やはり敵はすぐ側に隠れていたのか・・・」

 顔を上げると前方に見えるのは、施設と言う割には想像していたものよりも小さな建造物だった。今まで何気なく過ごして場所に、斯くも恐ろしいものが存在していようとはと目を疑うアズールの元に、先に転移していたエルフ族の戦士が歩み寄る。

 「獣人族の長よ。貴方も気付いているようだな、この異様な雰囲気に・・・」

 気配や魔力を、より鮮明に感じ取ることが出来る種族達だからこそ、目の前の施設内から感じる通常とは異なる生命の鼓動や、今までに感じたこともない異様な生物の気配に、屈強な戦士であっても背筋に寒気さを感じているようだった。

 「アズールで構わん。確かに、生物というには些か不気味な気配が混じっている・・・これも研究とやらがもたらした結果なのか・・・」

 「ならば私も“エイリル“と呼んでくれ。中から我々エルフ族の魔力も感じる・・・。だが貴方の言う通り、私達の魔力とは違って別のものが混じっているようだ・・・」

 「森に巣食う他種族を捕らえていたのは、生物実験を行う為と見て間違いなさそうだな・・・。クソッ・・・!こんな物に今まだ気づけなかったとは・・・!」

 「仕方がないさ。そもそも魔力や気配を遮断する為に、こういった仕掛けまで準備していたんだ。それだけ相手も身を隠す術を心得ていて、我々を警戒していたと言うことなんだろう」

 エルフの戦士は名を“エイリル“と言った。彼もまた自分と同じ魔力を施設内に感じ取っているようだ。だがそれは彼らと同じ魔力ではなく、別の生物の魔力や人工的に作り出された何かによる不純物で犯されている語る。

 オルレラの研究施設では、人間の子供を燃料としていたくらいだ。より自然な魔力を保有するエルフ族や、肉体的に強靭である獣人族といった者達の存在は、彼らにとってとても魅力的な実験体であったに違いない。

 「だけど私達のような人間の気配もしないかい?まぁ、正確には少し違うみたいだけど・・・」

 獣の力の影響で、ツクヨとシンにもある程度ではあるが、施設内の気配の動きが感じ取れていた。その中には、全く魔力を持たない人間と思われる気配も多く存在していた。

 「多分、俺達と違って全く魔力を持っていない者達もいるんだろう。数的に施設の関係者ってところだろうな」

 連れ攫われた生物の中には人間も混じっていた。全く魔力を持たない人間の中には、実験体として拉致された者達もいるだろうが、その大半は施設の研究者であった。

 当時のダマスクと同様、彼らも様々な理由や意思を持って研究を行なっているのかもしれないが、周りから見ればとても真面とは思えないマッドサイエンティストと呼ばれても相違ない者達に思われるだろう。

 現にダマスクは研究の段階で精神を壊してしまい、常人の精神を持った人間では躊躇われるような研究にも、何も感じることなく寧ろ好奇心が彼らの背中を押しているような雰囲気さえある。

 「私達の目的は、施設の機能停止・・・だよね?彼らも殺すのかい?」

 指揮系統は依然として獣人族の長であるアズールにある。人間を酷く恨んでいた彼ならば、一族を玩具にした者達を前に実力行使を実行しかねない。恐る恐る彼の心境を確認するツクヨ。だが、アズールもポータルの外に置いてきた二人の言葉に、冷静に目的の最優先を謳う。

 「殲滅してやりたい気持ちも無くはない。だがあくまで我々の目的は施設の機能停止、並びに重要機材と思われる物の破壊だ。その為にダラーヒムという人間から小型の爆弾を託されたんだ。それに・・・ポータルの外では彼らがまだ戦っている筈・・・。すぐに事を成し遂げ、彼らの援護に向かう」

 思っていたよりもずっと冷静なな判断を下せていたアズールに、一行は安心と信頼の眼差しで彼を見つめては力強く頷く。

 「さて、潜入するに当たり全員で突入するには目立ち過ぎる。そこで作業の効率化も図り部隊を二手に分ける。そこの人間二人に関しては、戦力や能力はある程度把握しているが・・・エイリル、お前はどの程度戦える?」

 シンとツクヨに関しては、森での獣達との戦闘やケツァルから戦力としての力を認めていたアズール。しかし、戦士の格好をした人間サイズのエルフ族であるエイリルに関しては情報が未知数だった。

 「そうだな・・・人間の種族で言うところの“魔法剣士“のクラスと思ってくれて構わない。ただ剣術よりも、魔法寄りといった感じだがな」

 魔法剣士のクラス自体は珍しいものではない。戦士のクラススキルと、魔法使いや魔道士のクラススキルを保有し、武器や防具に魔法を纏わせることにより、相手の弱点を突いた戦い方や戦闘の補助、ある程度の支援スキルといった幅広い戦略が可能というバランスのいいクラスだ。

 ただし、器用であるが故に特化した戦闘力というものはない。臨機応変に闘うことは可能だが、相手の弱点を突けなければ、火力面で不足を感じることはあるだろう。

 部隊を二つに分ける時、火力面で不安のあるエイリルに最適の人材が彼らの中にはいた。

 「なるほど・・・ならば丁度いい。俺とお前で隊を組む。お前達も人間同士の方が何かと都合が良かろう」

 「あぁ、手の内が知れてるもの同士の方が連携が取りやすいからな、助かるよ」

 「この者達の配置については・・・」

 二人ずつで分かれる事となった彼らは、残りの妖精姿のエルフ族をどう分けるかについて思考する。ポータルを通りこちらへやって来たのは五人。それぞれが自分自身を別の場所へ転移させることができる能力を持っている。

 しかし、別の者を転移させるとなると二人以上の力が必要となり、数によって準備にかかる時間も変わってくるのだという。

 そこでシンが提案したのは、アズール達の方に三人、そしてシン達の方に二人という采配だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...