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襲撃者、再び
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シンは早速ダマスクの記憶の中へ入る為、ダラーヒムに彼の入った小瓶を渡してツクヨに意識を失った後の自分の身体を任せると、速やかにスキルを発動。
彼の影は本体から離れ、ダラーヒムの身体を経由し小瓶の中へと入り込み、中の黒い煙と同化するように溶け込んでいく。見えてきたのは以前にも見た施設の内部らしき景色と、見知らぬ顔の研究員と歩いていると思われるダマスクの様子からだった。
「珍しいですね。貴方が直々に足を運ぶなんて・・・。何か用事でも?」
ダマスク共に施設内を歩く白衣の男は、彼よりも少し小柄で肩の辺りに精霊のようなものを連れている。
「あぁ~・・・いや、ここへはただ近くに来る用事があったから寄っただけだ。そんなに深い理由はないよ。後は少し、研究の様子をこの目で見ておこうと思ってね。どうだい?研究は順調かな?」
「えぇ、お陰様で順調です。もうすぐいい報告ができそうですよ!」
「ほぅ~、それは感心感心。実は別の研究所でちょっとしたトラブルがあってね・・・。それの埋め合わせに新しいサンプルが必要になりそうなんだ。ただ立ち寄っただけだったがこれはいい収穫だったな」
「他でトラブル?」
男はダマスクの問いには答える事なく笑ってはぐらかした。
「あぁ大丈夫大丈夫、全然問題ないから。それに現場の君達が心配することでもないよ。だから研究に集中してくれたまえ」
二人が通路を歩いていると、セキュリティーの掛けられた扉に行き着く。ダマスクが白衣の中のポケットを探り、セキュリティーを解除するカードを探しているようだが中々見つからない。
「どうしたね?」
「あぁ~・・・すみません、カードを置いてきてしまったみたいで・・・」
「なら俺のカードを・・・」
「いえ、大丈夫です。うちの施設はコードの入力でも解除可能なので」
そういうと、ダマスクは扉の横にあるパネルを起動し、シン達が今最も必要としている施設内に入り込む為の解除キーを入力し始めた。見逃さぬよう意識を集中させ、ダマスクの指の動きに注目する。
入力を終えるとパネルから音声が流れ、暫くした後に扉が開く。先に奥へと進んだ白衣の男はその場で振り返ると、ダマスクに研究へ戻るよう伝える。
「ここで十分だ。君は研究に戻ってくれたまえ」
「え?でも・・・」
「さっきも言っただろ?俺は他の要件のついでに立ち寄っただけだ。君達の邪魔はしたくない。それとも俺一人では不安かぁ?」
「いえ、すみませんでした。では私はこれで・・・。奥は実験体の段階もかなり進んでいますので、“ニコラ“さんも気をつけて下さいね」
「あぁ、ご忠告ありがとう」
扉が閉まるのと同時に、奥へと歩いていく白衣の男の後ろ姿を眺めるダマスクの視点でその記憶は終わった。
今回の記憶探索は、入る側のシンも入られる側のダマスクも目的がハッキリしていた為、長くは掛からなかった。目を覚ましたシンは忘れぬ内に扉に掛けられたセキュリティーを解除するコードを入力する。
すると扉が開き、地下へと続く階段が現れる。
と、一行は思っていたのだが、そこにあったのは先の見えない移動ポータルの展開された光景だったのだ。
「おっおい!これ・・・」
最初に扉の奥を目にしたシンが慌てた様子を見せると、側にいた者から開いた扉の中身を覗き込む。
「こいつは驚いたな・・・。扉が守っていたのは移動ポータルだったのか・・・」
「どうりでいくら探しても見つからねぇ訳だ。なるほど、こいつはしてやられたな」
ケツァルとガレウスは、長らく探し回った施設が実は森の中にあるのではなく、ポータルによって繋がれた別の場所に隠されていた事に驚きを隠せなかった。
多くの生き物が痕跡も残さず姿を消すなどあり得ない事だとは思っていたが、確かにこれなら獣人族の嗅覚や気配感知、それにエルフ族の魔力探知を掻い潜れる訳だと、妙に納得のいくカラクリであった事に驚愕した。
「どうする?これでは何処に通じているかも分からないぞ?それに戻ってこれるかも・・・」
現地ではなく移動先の施設にワープするとは思っても見なかった一行は、ツクヨの言葉に思わず息を呑んだ。彼の言う通り、移動ポータルを使用すれば恐らく施設には辿り着けるだろう。
しかし、これが何処に通じているのか、使用した後に戻ってくることが可能なのかどうかも分からない。施設の場所を突き止め、壊滅させる覚悟は出来ていたが、万が一森から遠く離れた場所に移動させられてしまえば、リナムルに戻るのが遅れ、奇襲を受ける危険性も出てくる。
人間達と獣人族が移動ポータルを前に尻込みしていると、エルフ達が出現したポータルへと集まり、その特殊な魔力を使ってポータルの詳細について調べ始めたのだ。
「おっおい・・・!」
唯一の人間タイプのエルフが、彼らが一体何を始めたのかについて話し始める。
「大丈夫だ。彼らならこのポータルが、どのくらいの距離を移動するものなのかを探ることができるそうだ」
「本当か!?」
「それにポータル自体にも細工が可能だという。つまり、勝手に向こうから破壊されることを妨害できるかも知れないと・・・」
彼らの言葉が本当なら、これで一行の悩みの種も解決する。
しかし、順調に思われていた一行の施設の捜索だったが、ここにきて不自然なほど動きの無かった敵サイドに、漸くそれらしく動きが現れ始めた。地中の移動ポータルの調査を始めたところで、何処に隠れていたのか一行を取り囲むように、ダマスクが意識を乗っ取り操っていた獣達とよく似た獣達が襲ってきた。
それに加え、襲撃してきた獣達はダマスクのものとは違い、既に異形の形へ肉体を強化した状態でやって来たのだ。
彼の影は本体から離れ、ダラーヒムの身体を経由し小瓶の中へと入り込み、中の黒い煙と同化するように溶け込んでいく。見えてきたのは以前にも見た施設の内部らしき景色と、見知らぬ顔の研究員と歩いていると思われるダマスクの様子からだった。
「珍しいですね。貴方が直々に足を運ぶなんて・・・。何か用事でも?」
ダマスク共に施設内を歩く白衣の男は、彼よりも少し小柄で肩の辺りに精霊のようなものを連れている。
「あぁ~・・・いや、ここへはただ近くに来る用事があったから寄っただけだ。そんなに深い理由はないよ。後は少し、研究の様子をこの目で見ておこうと思ってね。どうだい?研究は順調かな?」
「えぇ、お陰様で順調です。もうすぐいい報告ができそうですよ!」
「ほぅ~、それは感心感心。実は別の研究所でちょっとしたトラブルがあってね・・・。それの埋め合わせに新しいサンプルが必要になりそうなんだ。ただ立ち寄っただけだったがこれはいい収穫だったな」
「他でトラブル?」
男はダマスクの問いには答える事なく笑ってはぐらかした。
「あぁ大丈夫大丈夫、全然問題ないから。それに現場の君達が心配することでもないよ。だから研究に集中してくれたまえ」
二人が通路を歩いていると、セキュリティーの掛けられた扉に行き着く。ダマスクが白衣の中のポケットを探り、セキュリティーを解除するカードを探しているようだが中々見つからない。
「どうしたね?」
「あぁ~・・・すみません、カードを置いてきてしまったみたいで・・・」
「なら俺のカードを・・・」
「いえ、大丈夫です。うちの施設はコードの入力でも解除可能なので」
そういうと、ダマスクは扉の横にあるパネルを起動し、シン達が今最も必要としている施設内に入り込む為の解除キーを入力し始めた。見逃さぬよう意識を集中させ、ダマスクの指の動きに注目する。
入力を終えるとパネルから音声が流れ、暫くした後に扉が開く。先に奥へと進んだ白衣の男はその場で振り返ると、ダマスクに研究へ戻るよう伝える。
「ここで十分だ。君は研究に戻ってくれたまえ」
「え?でも・・・」
「さっきも言っただろ?俺は他の要件のついでに立ち寄っただけだ。君達の邪魔はしたくない。それとも俺一人では不安かぁ?」
「いえ、すみませんでした。では私はこれで・・・。奥は実験体の段階もかなり進んでいますので、“ニコラ“さんも気をつけて下さいね」
「あぁ、ご忠告ありがとう」
扉が閉まるのと同時に、奥へと歩いていく白衣の男の後ろ姿を眺めるダマスクの視点でその記憶は終わった。
今回の記憶探索は、入る側のシンも入られる側のダマスクも目的がハッキリしていた為、長くは掛からなかった。目を覚ましたシンは忘れぬ内に扉に掛けられたセキュリティーを解除するコードを入力する。
すると扉が開き、地下へと続く階段が現れる。
と、一行は思っていたのだが、そこにあったのは先の見えない移動ポータルの展開された光景だったのだ。
「おっおい!これ・・・」
最初に扉の奥を目にしたシンが慌てた様子を見せると、側にいた者から開いた扉の中身を覗き込む。
「こいつは驚いたな・・・。扉が守っていたのは移動ポータルだったのか・・・」
「どうりでいくら探しても見つからねぇ訳だ。なるほど、こいつはしてやられたな」
ケツァルとガレウスは、長らく探し回った施設が実は森の中にあるのではなく、ポータルによって繋がれた別の場所に隠されていた事に驚きを隠せなかった。
多くの生き物が痕跡も残さず姿を消すなどあり得ない事だとは思っていたが、確かにこれなら獣人族の嗅覚や気配感知、それにエルフ族の魔力探知を掻い潜れる訳だと、妙に納得のいくカラクリであった事に驚愕した。
「どうする?これでは何処に通じているかも分からないぞ?それに戻ってこれるかも・・・」
現地ではなく移動先の施設にワープするとは思っても見なかった一行は、ツクヨの言葉に思わず息を呑んだ。彼の言う通り、移動ポータルを使用すれば恐らく施設には辿り着けるだろう。
しかし、これが何処に通じているのか、使用した後に戻ってくることが可能なのかどうかも分からない。施設の場所を突き止め、壊滅させる覚悟は出来ていたが、万が一森から遠く離れた場所に移動させられてしまえば、リナムルに戻るのが遅れ、奇襲を受ける危険性も出てくる。
人間達と獣人族が移動ポータルを前に尻込みしていると、エルフ達が出現したポータルへと集まり、その特殊な魔力を使ってポータルの詳細について調べ始めたのだ。
「おっおい・・・!」
唯一の人間タイプのエルフが、彼らが一体何を始めたのかについて話し始める。
「大丈夫だ。彼らならこのポータルが、どのくらいの距離を移動するものなのかを探ることができるそうだ」
「本当か!?」
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彼らの言葉が本当なら、これで一行の悩みの種も解決する。
しかし、順調に思われていた一行の施設の捜索だったが、ここにきて不自然なほど動きの無かった敵サイドに、漸くそれらしく動きが現れ始めた。地中の移動ポータルの調査を始めたところで、何処に隠れていたのか一行を取り囲むように、ダマスクが意識を乗っ取り操っていた獣達とよく似た獣達が襲ってきた。
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