World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,055 / 1,646

襲撃者、再び

しおりを挟む
 シンは早速ダマスクの記憶の中へ入る為、ダラーヒムに彼の入った小瓶を渡してツクヨに意識を失った後の自分の身体を任せると、速やかにスキルを発動。

 彼の影は本体から離れ、ダラーヒムの身体を経由し小瓶の中へと入り込み、中の黒い煙と同化するように溶け込んでいく。見えてきたのは以前にも見た施設の内部らしき景色と、見知らぬ顔の研究員と歩いていると思われるダマスクの様子からだった。

 「珍しいですね。貴方が直々に足を運ぶなんて・・・。何か用事でも?」

 ダマスク共に施設内を歩く白衣の男は、彼よりも少し小柄で肩の辺りに精霊のようなものを連れている。

 「あぁ~・・・いや、ここへはただ近くに来る用事があったから寄っただけだ。そんなに深い理由はないよ。後は少し、研究の様子をこの目で見ておこうと思ってね。どうだい?研究は順調かな?」

 「えぇ、お陰様で順調です。もうすぐいい報告ができそうですよ!」

 「ほぅ~、それは感心感心。実は別の研究所でちょっとしたトラブルがあってね・・・。それの埋め合わせに新しいサンプルが必要になりそうなんだ。ただ立ち寄っただけだったがこれはいい収穫だったな」

 「他でトラブル?」

 男はダマスクの問いには答える事なく笑ってはぐらかした。

 「あぁ大丈夫大丈夫、全然問題ないから。それに現場の君達が心配することでもないよ。だから研究に集中してくれたまえ」

 二人が通路を歩いていると、セキュリティーの掛けられた扉に行き着く。ダマスクが白衣の中のポケットを探り、セキュリティーを解除するカードを探しているようだが中々見つからない。

 「どうしたね?」

 「あぁ~・・・すみません、カードを置いてきてしまったみたいで・・・」

 「なら俺のカードを・・・」

 「いえ、大丈夫です。うちの施設はコードの入力でも解除可能なので」

 そういうと、ダマスクは扉の横にあるパネルを起動し、シン達が今最も必要としている施設内に入り込む為の解除キーを入力し始めた。見逃さぬよう意識を集中させ、ダマスクの指の動きに注目する。

 入力を終えるとパネルから音声が流れ、暫くした後に扉が開く。先に奥へと進んだ白衣の男はその場で振り返ると、ダマスクに研究へ戻るよう伝える。

 「ここで十分だ。君は研究に戻ってくれたまえ」

 「え?でも・・・」

 「さっきも言っただろ?俺は他の要件のついでに立ち寄っただけだ。君達の邪魔はしたくない。それとも俺一人では不安かぁ?」

 「いえ、すみませんでした。では私はこれで・・・。奥は実験体の段階もかなり進んでいますので、“ニコラ“さんも気をつけて下さいね」

 「あぁ、ご忠告ありがとう」

 扉が閉まるのと同時に、奥へと歩いていく白衣の男の後ろ姿を眺めるダマスクの視点でその記憶は終わった。

 今回の記憶探索は、入る側のシンも入られる側のダマスクも目的がハッキリしていた為、長くは掛からなかった。目を覚ましたシンは忘れぬ内に扉に掛けられたセキュリティーを解除するコードを入力する。

 すると扉が開き、地下へと続く階段が現れる。

 と、一行は思っていたのだが、そこにあったのは先の見えない移動ポータルの展開された光景だったのだ。

 「おっおい!これ・・・」

 最初に扉の奥を目にしたシンが慌てた様子を見せると、側にいた者から開いた扉の中身を覗き込む。

 「こいつは驚いたな・・・。扉が守っていたのは移動ポータルだったのか・・・」

 「どうりでいくら探しても見つからねぇ訳だ。なるほど、こいつはしてやられたな」

 ケツァルとガレウスは、長らく探し回った施設が実は森の中にあるのではなく、ポータルによって繋がれた別の場所に隠されていた事に驚きを隠せなかった。

 多くの生き物が痕跡も残さず姿を消すなどあり得ない事だとは思っていたが、確かにこれなら獣人族の嗅覚や気配感知、それにエルフ族の魔力探知を掻い潜れる訳だと、妙に納得のいくカラクリであった事に驚愕した。

 「どうする?これでは何処に通じているかも分からないぞ?それに戻ってこれるかも・・・」

 現地ではなく移動先の施設にワープするとは思っても見なかった一行は、ツクヨの言葉に思わず息を呑んだ。彼の言う通り、移動ポータルを使用すれば恐らく施設には辿り着けるだろう。

 しかし、これが何処に通じているのか、使用した後に戻ってくることが可能なのかどうかも分からない。施設の場所を突き止め、壊滅させる覚悟は出来ていたが、万が一森から遠く離れた場所に移動させられてしまえば、リナムルに戻るのが遅れ、奇襲を受ける危険性も出てくる。

 人間達と獣人族が移動ポータルを前に尻込みしていると、エルフ達が出現したポータルへと集まり、その特殊な魔力を使ってポータルの詳細について調べ始めたのだ。

 「おっおい・・・!」

 唯一の人間タイプのエルフが、彼らが一体何を始めたのかについて話し始める。

 「大丈夫だ。彼らならこのポータルが、どのくらいの距離を移動するものなのかを探ることができるそうだ」

 「本当か!?」

 「それにポータル自体にも細工が可能だという。つまり、勝手に向こうから破壊されることを妨害できるかも知れないと・・・」

 彼らの言葉が本当なら、これで一行の悩みの種も解決する。

 しかし、順調に思われていた一行の施設の捜索だったが、ここにきて不自然なほど動きの無かった敵サイドに、漸くそれらしく動きが現れ始めた。地中の移動ポータルの調査を始めたところで、何処に隠れていたのか一行を取り囲むように、ダマスクが意識を乗っ取り操っていた獣達とよく似た獣達が襲ってきた。

 それに加え、襲撃してきた獣達はダマスクのものとは違い、既に異形の形へ肉体を強化した状態でやって来たのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...