World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,052 / 1,646

捜査開始

しおりを挟む
 各々アジト内に避難している関係者との会話を済ませ、一行はリナムル近郊の森の中へと足を踏み入れる。

 シンがアズールの中で見たという、ダマスクの嘗ての記憶に記された場所はそれほど遠い場所ではなかった。そこには目印となるよな、少し特徴的な幹をした樹木が生えている。

 言われてみれば確かにそう見えるというくらいの僅かな違いだが、樹皮が他の樹木と違った剥がれ方をしており、森の生き物や自然のものとは思えぬ不自然な剥がれ方をしているのだ。

 それは一本や二本ではなく、周囲に数本見つかり何処かへ導くように立っているとも言えなくもない。シンがダマスクの記憶の中で見つけていなければ、全くといっていいほど気にしないものだったに違いない。

 「こんなものが目印に・・・?」

 「森に住む者達でも、注意しなければ気づかない程だ。言われてみれば確かに人工的とも言えなくは無いが・・・」

 考えるのは後で、今は施設を見つけるのが先だと、一行は目印を頼りに更に奥へと進んでいく。すると次に見つけたのは、先程の樹皮の目印がある木に挟まれた別の木に施された仕掛けだった。

 これもまた、ダマスクの記憶を頼りにしていなければ気付くことのない仕掛けだったようで、今度はその木の根元に施設へのヒントが隠されていた。根元には掘り返されたような土の跡が残っており、そこを掘り返していくと太い木の根に突き当たった。

 「・・・何もない・・・」

 「そんな事はねぇだろ。どれ、見せてみろ」

 シンがダマスクの記憶の中で見たのは、あくまでその木の根元が掘り返されていたという跡に過ぎない。そこに何が隠されているのか、どんなヒントがあるのか。その時の記憶の映像では掘り返している記憶はなかったのだ。

 「森の動物が掘り返したという事は?」

 「いや、それは無いだろう。土は何度か掘り返された形跡がある。何か目的があって何度も同じ場所を掘っては埋めていたんだろうな」

 「そんな事をするのは、人間並みの知性を持つものだと?」

 「間違いない。ご丁寧に掘り返された土と埋めるのに使われた土は同じ場所の同じ土であり、かなり柔らかくなっている。見ろ、土の中に枯れた葉を粉々にしたようなものが混じっている。野生動物やモンスターが行ったのではこうはならん」

 森に詳しいケツァルが言うのだ、人工的な難度も掘り返された痕跡とみて間違いないだろう。しかし、土の中には何もなかった。掘り返されている柔らかい土の範囲には何もなく、行き止まりと言わんばかりに木の太い根っこがそれ以上の掘り返しを阻止しようと壁のように立ちはだかる。

 すると、何かに気づいた様子のケツァルが食い入るように穴の中を覗き込む。どうやら何も無いのではなく、それにこそヒントが記されているのだという。

 「待てッ!これは・・・。木の根の表面・・・何か切れ込みのようなものがある。エルフの者達よ、何か魔力のようなものを感じ取る事はできるか?もしかしたら罠かも知れない・・・」

 ケツァルの指示通り、掘り返した穴に見える木の根を調べるエルフ達。すると、彼が危惧していたように、微量ながら魔力による細工が施されており、特殊な加工方法により根っこの表面が張り替えられている事が判明した。

 そしてそれが剥がされると、簡単な術式が解除され何処かに解除されたという通知が届くという仕掛けが施されているのだという。エルフ族の者達と相談し、何とか通知が届かないようにこのトラップを解除できないかと掛け合うケツァル。すると、術式自体は至極単純なもので、通知を切る事も再度同じ術式を貼る事も簡単だと言う。

 ならば、表面を剥がし再び元通りに戻せば気づかれる事もない。すぐに仕掛けに触れようとするケツァルだったが、ガレウスに呼び止められ作業を行うのはあくまで人間の仕事だと、その役割をシンに押し付ける。

 エルフ族が調べたとは言え、他の仕掛けが組まれているとも限らない。ある程度の信用は回復しただろうが、これまでの関係が最悪だった獣人族と人間の間からすれば、一族の仲間、それも戦力を把握している親しい者を危険に晒すことは出来ない。

 初めからそのつもりだと言わんばかりに、シンは何も言わず木の根の表面を、取り出した短剣の刃で優しく剥がす。すると中から現れたのは、何かの座標のような数字とアルファベットだったのだ。

 「何かの暗号か?言葉か文章か・・・或いは」

 「“座標“・・・だな、こりゃぁ。だがこれだけじゃさっぱりだ。こんなところに隠すように記してあるって事は、この森の施設の場所を記しているのかも知れねぇが、問題はどんな座標かによって場所も方角も異なるって事だ」

 「つまり、その“標“自体を調べないと解読出来ないって訳か・・・」

 ダマスクの記憶を辿り、施設の場所を導き出そうとした一行だったが、ここにきて致命的な壁にぶつかることとなってしまった。木の根に記された座標が、何の標を元にして計測されたものなのか。それが分からなければ、この暗号を読み解く事ができない。

 とりあえずリナムルにあった座標を調べてみるかと、ケツァルは地図を取り出し確認を始める。他にもエルフ族の間に伝わる古の地図の座標や、獣人族が使っているものなど、各々できる限りの事を尽くす中、シンは自身の目に埋め込まれた白獅の発明品、テュルプ・オーブにより彼に座標について調べられないか、密かに連絡を取っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...