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儚き夢の日々
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アークシティは大都市であるが故に、それぞれのエリアや場所によって生活水準が異なり、一般的には先進国とされているがその実貧富の差が激しい。とはいっても、平均的な生活を送れる者であればそれなりの補償を受けられるので、他所から来た者達には殆どその違いは分からないのだという。
ダマスクはそんなアークシティでも医療の分野に秀でたメディキーナ地区に潜り込み、ローズの為になる書物や薬品を求めて街の中を散策しながら食糧と飲み物を調達し、建築予定地や解体の決まった建物の中を移り住みながら暮らしていた。
だがそんな最先端の街で、いつまでも素性を隠し暮らせる筈もなく、何処からか彼らの噂を聞きつけた警備隊の者達による捜索が行われた。身を隠しながら盗み聞いた話によると、警備隊は既にダマスクとローズの名前や容姿、素性など様々な情報を入手しているようだった。
どうやら彼らに捜査の依頼を送ったのは、ダマスクらがいた施設の者達だったようだ。アークシティにいるであろう彼らの関係者と連絡を取り合い、その動向を報告していたのだった。
特別な隠密スキルなども持たないダマスクとローズが、アークシティの捜索隊から逃げ切れる筈もなく、動きの見え始めたその日の夜には彼らの住処を暴き出し見つかってしまった。
必死にローズの手を引いて逃げるダマスクであったが、街の構造を把握している警備隊の誘導によってまんまと追い込まれてしまう。
目隠しをされ取り押さえられたダマスクとローズは乗り物に乗せられると、その後着いた何処かの建物内で別々の部屋に幽閉されてしまう。
拘束器具を取り付けられ目隠しが外されると、そこは何処かのオフィスの一室のような真っ白で整理された場所だった。水道やトイレに加えシャワー室なども完備されており、人を閉じ込めておく場所にして妙に綺麗なところだった。
不思議そうな表情で周囲を見渡し困惑するダマスクに、警備隊の者は多くを語る事はなく一言だけ、時間が来るまでここにいろとだけ伝えると、彼を一人残して部屋を出ていった。
扉がロックされた音からも、ダマスクは捕らえられた事には変わりないが、これまでの質素な暮らしに比べ、時間になれば食事も出されるそこはまるでホテルのような充実さだった。
ただ一つ、ローズがどうなっているのか、何処にいるのかという問題を除いて・・・。
ダマスクが幽閉されている間、ローズも同じ建物内に囚われていた。被検体としての記憶とダマスクに連れられてからの知識しか持たない彼女は、今自分が置かれている状況すら把握していないだろう。
自分が何故ここへ連れて来られたのか。何故囚われているのか、そもそも囚われているという意識すら持ち合わせていないのかもしれない。それでもまるで迷子になった子供のように、姿の見えないダマスクの名前を呼びながら不安そうな表情を浮かべていた。
そんな彼女の元へやって来たのは、彼女らがいた施設でも見たことのある白衣を着た人物達数名だった。それを見て何かを思い出したのか、本能的に恐るように後退りし警戒するローズ。
白衣の者達は彼女に優しい口調で言葉を掛けながら、その身体に一本の注射を行う。何かの薬品を投与された彼女は徐々に眠気に襲われ、その場で意識を失ってしまう。
二人が囚われ会えない日が数日続いた後に、ダマスクのいる部屋にローズの元へ訪れた者達と同じ白衣を着た人物が数名やって来る。当然ダマスクは警戒し、部屋の隅を背にして彼らから距離を取る。
記憶を失っているローズとは違い、どんな言葉を掛けられようと決して警戒心を解かないダマスクに、白衣の人物はローズに会わせてやると言い出したのだ。
彼女の話を出されてはダマスクに従う以外の選択肢がなくなる。白衣の者達もそれを分かっていて、どうしても従う気のない時の為に彼女の名前を伏せていたのだろう。
奥の手を出され従うしかなくなったダマスクは、彼らに連れられて建物内の別の部屋へと通される。道中目にする事になる窓からは、街の街灯や照明の光で彩られた人口的な星の海を連想させる綺麗な光景が見えていた。
この光景をローズと一緒に見れたならどんなに幸せか。ここでの待遇がダマスクにほんの少しだけ希望を与えていた。もしかしたら自分達は救われたのではないか。
心を失うような研究の日々と、生き物の命を弄ぶかのような実験の毎日に罪の意識は知らず知らずの内に積み重なっていった。そこに現れたローズの存在は、ダマスクにとって人生の転機であり、変わるきっかけとなった。
脱走を許さぬ組織を抜け出し、命を狙われる中でも彼らは生を実感し互いに新たな感情を与え合う、人生の中でも充実した数日を送っていた。
だがそんな幻想など、現実の前に押し潰されるのが世の常である。
ダマスクが連れて来られた部屋は、彼が囚われていた部屋とよく似ていたが物が極端に取り払われた殺風景なものだった。真っ暗な部屋に彼らが足を踏み入れると明かりが付く。
そこには床に座り込んだローズの姿があった。すぐに駆け寄るダマスクは彼女の名を呼びながら、俯いた彼女の顔を覗き込む。顔色はいたって普通だったが、何をされたのかその瞳は光を失ったように虚になっていた。
様子のおかしくなったローズの姿を見て、声を荒立てながら白衣の人物に掴みかかろうとするダマスク。取り押さえられた彼に、上司らしき白衣の人物はローズに投薬した薬について語り始める。
ダマスクはそんなアークシティでも医療の分野に秀でたメディキーナ地区に潜り込み、ローズの為になる書物や薬品を求めて街の中を散策しながら食糧と飲み物を調達し、建築予定地や解体の決まった建物の中を移り住みながら暮らしていた。
だがそんな最先端の街で、いつまでも素性を隠し暮らせる筈もなく、何処からか彼らの噂を聞きつけた警備隊の者達による捜索が行われた。身を隠しながら盗み聞いた話によると、警備隊は既にダマスクとローズの名前や容姿、素性など様々な情報を入手しているようだった。
どうやら彼らに捜査の依頼を送ったのは、ダマスクらがいた施設の者達だったようだ。アークシティにいるであろう彼らの関係者と連絡を取り合い、その動向を報告していたのだった。
特別な隠密スキルなども持たないダマスクとローズが、アークシティの捜索隊から逃げ切れる筈もなく、動きの見え始めたその日の夜には彼らの住処を暴き出し見つかってしまった。
必死にローズの手を引いて逃げるダマスクであったが、街の構造を把握している警備隊の誘導によってまんまと追い込まれてしまう。
目隠しをされ取り押さえられたダマスクとローズは乗り物に乗せられると、その後着いた何処かの建物内で別々の部屋に幽閉されてしまう。
拘束器具を取り付けられ目隠しが外されると、そこは何処かのオフィスの一室のような真っ白で整理された場所だった。水道やトイレに加えシャワー室なども完備されており、人を閉じ込めておく場所にして妙に綺麗なところだった。
不思議そうな表情で周囲を見渡し困惑するダマスクに、警備隊の者は多くを語る事はなく一言だけ、時間が来るまでここにいろとだけ伝えると、彼を一人残して部屋を出ていった。
扉がロックされた音からも、ダマスクは捕らえられた事には変わりないが、これまでの質素な暮らしに比べ、時間になれば食事も出されるそこはまるでホテルのような充実さだった。
ただ一つ、ローズがどうなっているのか、何処にいるのかという問題を除いて・・・。
ダマスクが幽閉されている間、ローズも同じ建物内に囚われていた。被検体としての記憶とダマスクに連れられてからの知識しか持たない彼女は、今自分が置かれている状況すら把握していないだろう。
自分が何故ここへ連れて来られたのか。何故囚われているのか、そもそも囚われているという意識すら持ち合わせていないのかもしれない。それでもまるで迷子になった子供のように、姿の見えないダマスクの名前を呼びながら不安そうな表情を浮かべていた。
そんな彼女の元へやって来たのは、彼女らがいた施設でも見たことのある白衣を着た人物達数名だった。それを見て何かを思い出したのか、本能的に恐るように後退りし警戒するローズ。
白衣の者達は彼女に優しい口調で言葉を掛けながら、その身体に一本の注射を行う。何かの薬品を投与された彼女は徐々に眠気に襲われ、その場で意識を失ってしまう。
二人が囚われ会えない日が数日続いた後に、ダマスクのいる部屋にローズの元へ訪れた者達と同じ白衣を着た人物が数名やって来る。当然ダマスクは警戒し、部屋の隅を背にして彼らから距離を取る。
記憶を失っているローズとは違い、どんな言葉を掛けられようと決して警戒心を解かないダマスクに、白衣の人物はローズに会わせてやると言い出したのだ。
彼女の話を出されてはダマスクに従う以外の選択肢がなくなる。白衣の者達もそれを分かっていて、どうしても従う気のない時の為に彼女の名前を伏せていたのだろう。
奥の手を出され従うしかなくなったダマスクは、彼らに連れられて建物内の別の部屋へと通される。道中目にする事になる窓からは、街の街灯や照明の光で彩られた人口的な星の海を連想させる綺麗な光景が見えていた。
この光景をローズと一緒に見れたならどんなに幸せか。ここでの待遇がダマスクにほんの少しだけ希望を与えていた。もしかしたら自分達は救われたのではないか。
心を失うような研究の日々と、生き物の命を弄ぶかのような実験の毎日に罪の意識は知らず知らずの内に積み重なっていった。そこに現れたローズの存在は、ダマスクにとって人生の転機であり、変わるきっかけとなった。
脱走を許さぬ組織を抜け出し、命を狙われる中でも彼らは生を実感し互いに新たな感情を与え合う、人生の中でも充実した数日を送っていた。
だがそんな幻想など、現実の前に押し潰されるのが世の常である。
ダマスクが連れて来られた部屋は、彼が囚われていた部屋とよく似ていたが物が極端に取り払われた殺風景なものだった。真っ暗な部屋に彼らが足を踏み入れると明かりが付く。
そこには床に座り込んだローズの姿があった。すぐに駆け寄るダマスクは彼女の名を呼びながら、俯いた彼女の顔を覗き込む。顔色はいたって普通だったが、何をされたのかその瞳は光を失ったように虚になっていた。
様子のおかしくなったローズの姿を見て、声を荒立てながら白衣の人物に掴みかかろうとするダマスク。取り押さえられた彼に、上司らしき白衣の人物はローズに投薬した薬について語り始める。
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