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影の容器と策略
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周りの視線を釘付けにしたシンの動きは、急激に変化を見せた。アズールの肩の上で俯きながら立ち尽くしていたシンは、僅かに膝を折る素振りを見せるとそこから一瞬にして姿を消し、ダラーヒムの方へと弾丸のように飛び込んで行く。
「ッ・・・!?」
シンがアズールの元へ向かう前、彼から何らかの話を聞いていた筈のダラーヒムだったが、とても問題を解決して戻って来たとは思えぬシンの行動に、目を見開いて驚いていた。
向かってくるシンの見ている光景に、自分の姿など映っていない事を悟ったダラーヒムは、突っ込んでくるシンを横に飛び込んで回避する。
すると当然、同じ斜線上にいるガレウスらの元へシンが向かう事になる。本人も恐らく、初めからダラーヒムへ向けた攻撃ではなく、後ろにいた獣人達を狙って飛び込んで来たのだろう。
「野郎ッ・・・!やっぱり飲み込まれてるじゃねぇか!」
啖呵を切って向かった割にはあっさりと打ち負けてしまったシンに呆れつつ、これで何の躊躇いもなく人間を殺すことが出来ると考えたガレウスは、シンの初手となる一撃を紙一重で躱す。
シンの蹴りが空を切り、ガレウスの頬を掠めそうになる。冷静にそれを処理したガレウスは、彼の飛び込んでくる勢いを利用したカウンターとなる強烈な一撃をシンの身体に見舞う。
「悪く思うなよ・・・。こうなってしまっては“仕方もない”事だ」
僅かにガレウスの視線がダラーヒムの方へと向く。仮にも仲間である筈のシンが殴られる場面を目にして、彼の表情は意外にも動揺している様子はなかった。
それどころか、空中でガレウスの拳がシンの身体にめり込んで行く間に、何かを仕掛けようというのか二人の元へ向かってくる素振りすら見せていた。だが、ガレウスはダラーヒムの動きを待つ事なく、拳を振り抜きシンを元の場所に戻すかのように、その身体を後方へと吹き飛ばした。
瞬時に地面に触れたダラーヒムは、錬金術で地中から木の根を掘り起こすと飛ばされるシンの身体を網のように張り巡らせた根っこのネットでキャッチすると、彼を包み込むように球体状へと変化していく。
「おい、今更そいつを庇おうったってそうはいかねぇぞ・・・」
「安心しな。そんなんじゃねぇよ」
ダラーヒムのスキルに包まれたシンの身体から、彼のものではない別の声色をした声が小さく漏れ出していた。それはガレウスら獣人達の胸を突くような驚きを与えた。
「なっ・・・何だ・・・これは?俺は一体、どうなっちまったんだ?」
その声は、先程までアズールの身体から這い出していた煙の人物の声だったのだ。その得体の知れぬ煙は、シンの身体を乗っ取ることが出来たのか否か。木の根の球体の外にいる者達には、その気配を完全に感知することは出来なかった。
だがそれダラーヒムによって意図的に組まれていたものだった。外部から気配を読み取れなくした球体に何かの札を貼ると、彼はそれを地面の中へと引き摺り込んでいく。
「おい!何をしている!?」
「封印の一種さ。木の根を使ってるから生態系や自然に影響はない。奴はシンの身体の中に取り憑こうとしていたが、恐らくそれは力の全部を使ったものではない。だが、シンの挑発で大半の魔力を使って一瞬の内に乗っ取ろうとした筈だ」
彼のいう通り、煙の人物が驚異的な気配を一点に集中し始めたのは、対象のシンの身体を瞬時に乗っ取ろうとしての準備段階だった。そして一気にシンの身体へと煙を送り込んだ事により、気体という煙の状態から身体という容器を得た。
しかしそれは、自ら檻の中に飛び込んでいくような行為に過ぎない。アズールの身体の中、そして更に奥深くの部分である精神の中に入り込むことは、外部から影響を受けづらいというメリットがある反面、外に出るまでの段階を増やす事にもなる。
精神の中にまで入り込まれてしまっては、ダラーヒムにそれを引き摺り出す手段はない。だが外部の身体を封印することで、内部のものを外に出られなくすることは出来る。
そして肝心のシンは、煙の人物の乗っ取りからダラーヒムを守る為に覆った自身の影にメインのシンとしての核を移し、自分の半分の魔力を使い影の分身体を作っていた。
要は分身体であるシンがアズールの元へ向かい、本体のシンはダラーヒムと共にあったのだ。そして分身体は煙の人物をその身体に取り込み、ガレウスに殴られる事による勢いを利用し、ダラーヒムの作った木の根のネットに衝突すると同時に分身体を解除し、煙の人物の容器は消滅した。
一人木の根で出来た球体に取り残された煙の人物は、ダラーヒムによって封印され、地中深くに引き摺り込まれたというのが、これまでのシンの作戦だった。
「あんな正体の分からない奴だ。魔力によってこの世に存在を留めているに違いない。封印出来たのは奴の魔力の一部だろうが、これで他に分散した奴の魔力はだいぶ力を失ったはずだ・・・」
その言葉と共に、ダラーヒムの身体を覆っていた薄い影が彼の身体から地面へと剥がれていき、人の形へと成るとそこから酷くダメージと疲労を負ったシンが姿を現した。
「うッ・・・とんでもない馬鹿力で殴りやがって・・・。アンタ一体どんな挑発をしたんだ・・・?」
「気付かれてちゃ手ぇ抜かれるだろ?」
「そもそもガレウスは人間を恨んでるって話だっただろ?気付かれたところで、遠慮なく殴れると分かればそれなりの力で殴った筈だろ」
つまり、シンの分身体をガレウスに吹き飛ばしてもらえれば何でもよかったのだが、何も知らないガレウスはシンが煙の人物に乗っ取られたと思い込み、殺すつもりで殴り飛ばしたという訳だ。
影とは本体の人間と密接な関係にある。忍術や魔法によって作り出す分身とは違い、自分の影で作り出した分身は大きなダメージを食らったり、消滅するほどの攻撃を受ければ本体へも大きなリスクが伴う。
分身を作り出すだけで半分の魔力を消費してしまい、その上ガレウスによる渾身の一撃で本体にも衝撃が伝わり、酷く憔悴した状態でシンは元の身体へと戻る羽目になった。
「それよりどうなんだ?奴はちゃんと中に残して来たのか?」
「あぁ・・・それは問題ない。分身を消す寸前まで奴の気配はあった。後はアズールや周りの入れ物を見れば、結果がわかるだろうよ・・・」
シンの言葉の通り、アズールを乗っ取っていたであろう煙の人物の能力が弱まったのか、彼の身体はすっかりおとなしくなり、アズール自身の気配も濃くなり始めていた。
「ッ・・・!?」
シンがアズールの元へ向かう前、彼から何らかの話を聞いていた筈のダラーヒムだったが、とても問題を解決して戻って来たとは思えぬシンの行動に、目を見開いて驚いていた。
向かってくるシンの見ている光景に、自分の姿など映っていない事を悟ったダラーヒムは、突っ込んでくるシンを横に飛び込んで回避する。
すると当然、同じ斜線上にいるガレウスらの元へシンが向かう事になる。本人も恐らく、初めからダラーヒムへ向けた攻撃ではなく、後ろにいた獣人達を狙って飛び込んで来たのだろう。
「野郎ッ・・・!やっぱり飲み込まれてるじゃねぇか!」
啖呵を切って向かった割にはあっさりと打ち負けてしまったシンに呆れつつ、これで何の躊躇いもなく人間を殺すことが出来ると考えたガレウスは、シンの初手となる一撃を紙一重で躱す。
シンの蹴りが空を切り、ガレウスの頬を掠めそうになる。冷静にそれを処理したガレウスは、彼の飛び込んでくる勢いを利用したカウンターとなる強烈な一撃をシンの身体に見舞う。
「悪く思うなよ・・・。こうなってしまっては“仕方もない”事だ」
僅かにガレウスの視線がダラーヒムの方へと向く。仮にも仲間である筈のシンが殴られる場面を目にして、彼の表情は意外にも動揺している様子はなかった。
それどころか、空中でガレウスの拳がシンの身体にめり込んで行く間に、何かを仕掛けようというのか二人の元へ向かってくる素振りすら見せていた。だが、ガレウスはダラーヒムの動きを待つ事なく、拳を振り抜きシンを元の場所に戻すかのように、その身体を後方へと吹き飛ばした。
瞬時に地面に触れたダラーヒムは、錬金術で地中から木の根を掘り起こすと飛ばされるシンの身体を網のように張り巡らせた根っこのネットでキャッチすると、彼を包み込むように球体状へと変化していく。
「おい、今更そいつを庇おうったってそうはいかねぇぞ・・・」
「安心しな。そんなんじゃねぇよ」
ダラーヒムのスキルに包まれたシンの身体から、彼のものではない別の声色をした声が小さく漏れ出していた。それはガレウスら獣人達の胸を突くような驚きを与えた。
「なっ・・・何だ・・・これは?俺は一体、どうなっちまったんだ?」
その声は、先程までアズールの身体から這い出していた煙の人物の声だったのだ。その得体の知れぬ煙は、シンの身体を乗っ取ることが出来たのか否か。木の根の球体の外にいる者達には、その気配を完全に感知することは出来なかった。
だがそれダラーヒムによって意図的に組まれていたものだった。外部から気配を読み取れなくした球体に何かの札を貼ると、彼はそれを地面の中へと引き摺り込んでいく。
「おい!何をしている!?」
「封印の一種さ。木の根を使ってるから生態系や自然に影響はない。奴はシンの身体の中に取り憑こうとしていたが、恐らくそれは力の全部を使ったものではない。だが、シンの挑発で大半の魔力を使って一瞬の内に乗っ取ろうとした筈だ」
彼のいう通り、煙の人物が驚異的な気配を一点に集中し始めたのは、対象のシンの身体を瞬時に乗っ取ろうとしての準備段階だった。そして一気にシンの身体へと煙を送り込んだ事により、気体という煙の状態から身体という容器を得た。
しかしそれは、自ら檻の中に飛び込んでいくような行為に過ぎない。アズールの身体の中、そして更に奥深くの部分である精神の中に入り込むことは、外部から影響を受けづらいというメリットがある反面、外に出るまでの段階を増やす事にもなる。
精神の中にまで入り込まれてしまっては、ダラーヒムにそれを引き摺り出す手段はない。だが外部の身体を封印することで、内部のものを外に出られなくすることは出来る。
そして肝心のシンは、煙の人物の乗っ取りからダラーヒムを守る為に覆った自身の影にメインのシンとしての核を移し、自分の半分の魔力を使い影の分身体を作っていた。
要は分身体であるシンがアズールの元へ向かい、本体のシンはダラーヒムと共にあったのだ。そして分身体は煙の人物をその身体に取り込み、ガレウスに殴られる事による勢いを利用し、ダラーヒムの作った木の根のネットに衝突すると同時に分身体を解除し、煙の人物の容器は消滅した。
一人木の根で出来た球体に取り残された煙の人物は、ダラーヒムによって封印され、地中深くに引き摺り込まれたというのが、これまでのシンの作戦だった。
「あんな正体の分からない奴だ。魔力によってこの世に存在を留めているに違いない。封印出来たのは奴の魔力の一部だろうが、これで他に分散した奴の魔力はだいぶ力を失ったはずだ・・・」
その言葉と共に、ダラーヒムの身体を覆っていた薄い影が彼の身体から地面へと剥がれていき、人の形へと成るとそこから酷くダメージと疲労を負ったシンが姿を現した。
「うッ・・・とんでもない馬鹿力で殴りやがって・・・。アンタ一体どんな挑発をしたんだ・・・?」
「気付かれてちゃ手ぇ抜かれるだろ?」
「そもそもガレウスは人間を恨んでるって話だっただろ?気付かれたところで、遠慮なく殴れると分かればそれなりの力で殴った筈だろ」
つまり、シンの分身体をガレウスに吹き飛ばしてもらえれば何でもよかったのだが、何も知らないガレウスはシンが煙の人物に乗っ取られたと思い込み、殺すつもりで殴り飛ばしたという訳だ。
影とは本体の人間と密接な関係にある。忍術や魔法によって作り出す分身とは違い、自分の影で作り出した分身は大きなダメージを食らったり、消滅するほどの攻撃を受ければ本体へも大きなリスクが伴う。
分身を作り出すだけで半分の魔力を消費してしまい、その上ガレウスによる渾身の一撃で本体にも衝撃が伝わり、酷く憔悴した状態でシンは元の身体へと戻る羽目になった。
「それよりどうなんだ?奴はちゃんと中に残して来たのか?」
「あぁ・・・それは問題ない。分身を消す寸前まで奴の気配はあった。後はアズールや周りの入れ物を見れば、結果がわかるだろうよ・・・」
シンの言葉の通り、アズールを乗っ取っていたであろう煙の人物の能力が弱まったのか、彼の身体はすっかりおとなしくなり、アズール自身の気配も濃くなり始めていた。
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