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身体に残る痕跡
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巨大樹の一室から見えたのは、獣の調査の為に外に残っていたアズール達が何かと戦っている光景だった。一目見ただけでは彼らが何と戦っているのか分からない。
急ぎ巨大樹の周りや、先頭の行われるリナムル周辺の気配を探ってみても、彼らを襲撃した獣の気配や、外部からの敵襲の気配は感じ取れない。ならばこの騒動の原因は何なのか。
それは暫くその光景を凝視して、漸く見え始めてきた。何かを抑え込むように獣人達が群がっている。その中心にいるのは彼ら獣人族の長であるアズールだったのだ。
彼が直接何かを抑え込み、それを周りの獣人達が囲むように抑え込んでいるのかと思われたが、その実押さえ込まれていたのはアズール自身だったのだ。
「どうした?何が起こってる?」
窓から外を眺めたまま動かないケツァルに、薬の効果で本来の力を取り戻したシンが声をかける。すると、その声で我に帰ったケツァルは目にした光景をそのまま彼らに伝える。
しかし、巨大樹に避難するまでの間、共に獣達と戦っていた者達がぶつかり合う光景など想像できなかったシン達も、急ぎ窓の方へと向かいケツァルの言葉を自身の目で確認する。
彼らがその光景を目にする頃には事態も進んでおり、取り押さえられていたと思われるアズールが群がる獣人達の中から姿を現し、次々に彼らの身体を投げ飛ばしていく。
「どういうことだ!?何故アズールがッ・・・!」
「ガレウスやダラーヒムはどうしたんだ!」
アズールの側には、獣人族随一の戦闘力と言われているガレウスと、拷問を受けるかなでも自身の身体を修復し彼らの目を欺いていたという頭のキレを見せたダラーヒムがいた筈。
彼らがいながらこの事態を招いてしまったとはどういう事なのか。緊急事態を目の当たりにして、ケツァルは割れた窓に残るガラスを払い、今にも飛び出さんと身を乗り出す。
「ケツァル!」
「悪いが今は話してる時間も惜しい」
「分かってる!俺も行く。アンタの打ってくれた薬のおかげで、今度こそ力になれそうだ」
ケツァルから頼まれずとも、シンは獣人族の問題の解決に手を貸すつもりだった。勿論、理由はそれだけではないが、共に獣達と戦ってきたシン達の協力はケツァルにとっても非常にありがたい戦力だった。
「・・・すまない、恩に着る!」
自らの足を強化しながら窓を乗り越え、下へと降りていくケツァル。シン達は全員でその場に向かう事はなく、アカリやツバキの側にミアが残り、シンとツクヨはケツァルの後を追うように窓から飛び出していく。
何故か突然暴れ出したと思われるアズールを止めていた獣人達の中に、肉体強化を施したガレウスの姿もあった。距離を空けた彼は、アズールに投げ飛ばされた仲間達をキャッチして、アズールの様子を伺っている。
巨大樹の窓からでは死角になっていた彼らの背後に、ダラーヒムがしゃがみ込んでいる。地面に手をつき、錬金術によって地中から木の根を伸ばし、アズールの身体に絡めるように動きを封じていた。
目を真っ赤に光らせながら、獣のような咆哮をあげてもがき苦しむアズール。その様子からは辛うじて自我があるのか、必死に何かに抗うように自分の身体を押さえ込もうとしている。
「ガレウス!これは一体ッ・・・!?」
「分からねぇよ!突然アズールの奴が暴れ出して・・・。あの人間が言うには、奴らの血を浴びた事が関係してるんじゃねぇかって・・・」
「奴らの血・・・?しかしそれは水で洗い流した!それでアズールの幻覚は止まった筈・・・。まだ何か秘密があるとでも言うのか!?」
アズールの身に何か起きたのだとすれば、ダラーヒムの推測通り獣の血を浴びた事に関係していると見るのが最も現実的だろう。だがそれは、ダラーヒムが錬金術により集めた森の水で洗い流し、解決したと思われていた。
彼らが考えているよりも、獣の血に含まれる何らかの様子が呪いのように対象の中に浸透していたと言う事なのだろうか。
ガレウスの話では、彼らが獣の調査を始めた時と同じくらいにアズールの様子がおかしくなり、声を掛けたところアズールは何か別のものに言い聞かせるように独り言を叫んでいたのだという。
当初から血液中に含まれる成分に謎が隠されているのではないかと踏んでいたダラーヒムは、戦闘不能にした獣に行う筈だった調査を直接アズールへと試みた。
外見上では取り除かれたと思っていた血の作用を探るため、アズールの腕を掴み錬金術で彼の血中濃度を変化させたダラーヒムだったが、その結果を確かめる前に彼によって振り解かれてしまう。
だが、血中濃度を変えたところで何かおかしな変化が起こることはなかったことから、アズールの身体に流れる血には異常がないであろうことが予想される。
ならば、獣から浴びた血は彼の皮膚から血液へ到達する前に、アズールの身体に変化を及ぼしたのではないかと語った。
ガレウスにその時の様子を話した後、ダラーヒムはアズールの事をガレウスに任せ、その間に再起不能になった獣の身体に、同じように錬金術による調査を施していた。
しかし意外なことに、獣の身体からもダラーヒムの期待するような調査結果は得られなかったのだ。おかしくなったアズールや、変貌した獣の体内に何かが起きたという確たる証拠は得られなかったが、一つダラーヒムの脳裏に疑問を残したものがあるとすれば、それは肉体という魂の入れ物に本人のものとは別の意志が入り込んだのではないかという、漠然とした気配を感じ他というものだった。
急ぎ巨大樹の周りや、先頭の行われるリナムル周辺の気配を探ってみても、彼らを襲撃した獣の気配や、外部からの敵襲の気配は感じ取れない。ならばこの騒動の原因は何なのか。
それは暫くその光景を凝視して、漸く見え始めてきた。何かを抑え込むように獣人達が群がっている。その中心にいるのは彼ら獣人族の長であるアズールだったのだ。
彼が直接何かを抑え込み、それを周りの獣人達が囲むように抑え込んでいるのかと思われたが、その実押さえ込まれていたのはアズール自身だったのだ。
「どうした?何が起こってる?」
窓から外を眺めたまま動かないケツァルに、薬の効果で本来の力を取り戻したシンが声をかける。すると、その声で我に帰ったケツァルは目にした光景をそのまま彼らに伝える。
しかし、巨大樹に避難するまでの間、共に獣達と戦っていた者達がぶつかり合う光景など想像できなかったシン達も、急ぎ窓の方へと向かいケツァルの言葉を自身の目で確認する。
彼らがその光景を目にする頃には事態も進んでおり、取り押さえられていたと思われるアズールが群がる獣人達の中から姿を現し、次々に彼らの身体を投げ飛ばしていく。
「どういうことだ!?何故アズールがッ・・・!」
「ガレウスやダラーヒムはどうしたんだ!」
アズールの側には、獣人族随一の戦闘力と言われているガレウスと、拷問を受けるかなでも自身の身体を修復し彼らの目を欺いていたという頭のキレを見せたダラーヒムがいた筈。
彼らがいながらこの事態を招いてしまったとはどういう事なのか。緊急事態を目の当たりにして、ケツァルは割れた窓に残るガラスを払い、今にも飛び出さんと身を乗り出す。
「ケツァル!」
「悪いが今は話してる時間も惜しい」
「分かってる!俺も行く。アンタの打ってくれた薬のおかげで、今度こそ力になれそうだ」
ケツァルから頼まれずとも、シンは獣人族の問題の解決に手を貸すつもりだった。勿論、理由はそれだけではないが、共に獣達と戦ってきたシン達の協力はケツァルにとっても非常にありがたい戦力だった。
「・・・すまない、恩に着る!」
自らの足を強化しながら窓を乗り越え、下へと降りていくケツァル。シン達は全員でその場に向かう事はなく、アカリやツバキの側にミアが残り、シンとツクヨはケツァルの後を追うように窓から飛び出していく。
何故か突然暴れ出したと思われるアズールを止めていた獣人達の中に、肉体強化を施したガレウスの姿もあった。距離を空けた彼は、アズールに投げ飛ばされた仲間達をキャッチして、アズールの様子を伺っている。
巨大樹の窓からでは死角になっていた彼らの背後に、ダラーヒムがしゃがみ込んでいる。地面に手をつき、錬金術によって地中から木の根を伸ばし、アズールの身体に絡めるように動きを封じていた。
目を真っ赤に光らせながら、獣のような咆哮をあげてもがき苦しむアズール。その様子からは辛うじて自我があるのか、必死に何かに抗うように自分の身体を押さえ込もうとしている。
「ガレウス!これは一体ッ・・・!?」
「分からねぇよ!突然アズールの奴が暴れ出して・・・。あの人間が言うには、奴らの血を浴びた事が関係してるんじゃねぇかって・・・」
「奴らの血・・・?しかしそれは水で洗い流した!それでアズールの幻覚は止まった筈・・・。まだ何か秘密があるとでも言うのか!?」
アズールの身に何か起きたのだとすれば、ダラーヒムの推測通り獣の血を浴びた事に関係していると見るのが最も現実的だろう。だがそれは、ダラーヒムが錬金術により集めた森の水で洗い流し、解決したと思われていた。
彼らが考えているよりも、獣の血に含まれる何らかの様子が呪いのように対象の中に浸透していたと言う事なのだろうか。
ガレウスの話では、彼らが獣の調査を始めた時と同じくらいにアズールの様子がおかしくなり、声を掛けたところアズールは何か別のものに言い聞かせるように独り言を叫んでいたのだという。
当初から血液中に含まれる成分に謎が隠されているのではないかと踏んでいたダラーヒムは、戦闘不能にした獣に行う筈だった調査を直接アズールへと試みた。
外見上では取り除かれたと思っていた血の作用を探るため、アズールの腕を掴み錬金術で彼の血中濃度を変化させたダラーヒムだったが、その結果を確かめる前に彼によって振り解かれてしまう。
だが、血中濃度を変えたところで何かおかしな変化が起こることはなかったことから、アズールの身体に流れる血には異常がないであろうことが予想される。
ならば、獣から浴びた血は彼の皮膚から血液へ到達する前に、アズールの身体に変化を及ぼしたのではないかと語った。
ガレウスにその時の様子を話した後、ダラーヒムはアズールの事をガレウスに任せ、その間に再起不能になった獣の身体に、同じように錬金術による調査を施していた。
しかし意外なことに、獣の身体からもダラーヒムの期待するような調査結果は得られなかったのだ。おかしくなったアズールや、変貌した獣の体内に何かが起きたという確たる証拠は得られなかったが、一つダラーヒムの脳裏に疑問を残したものがあるとすれば、それは肉体という魂の入れ物に本人のものとは別の意志が入り込んだのではないかという、漠然とした気配を感じ他というものだった。
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