World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,029 / 1,646

与えられた力と知識

しおりを挟む
 幾つかある注射器の内の一つを手に取り、中身に薬品を入れていくケツァル。これが彼の言う“強制強化“の薬であり、人間に取り込まれた獣の力を制御する為に必要な要素なのだろう。

 現状、身体の自由を失った状態のシンには、ケツァルの言葉を鵜呑みにし信じるしかなかった。現にミアやツクヨ達も同じ薬品を投与された事により、獣人族特有の気配を察知する能力や、自らの気配を僅かに抑える事ができるという付与効果を得ていることから、効果は確かにあるのかも知れない。

 「そ・・・それが“例“の薬品か・・・?」

 「そうだ。・・・何だ?注射は嫌いか?」

 「そう言う訳じゃないが・・・。やはりその・・・」

 不安そうな表情を浮かべるシンを見て、ミアやツクヨは茶化すように笑っていたが、ケツァルだけは彼の表面上の反応ではなく心の動揺を察して、何かと重ね合わせるかのように親身になって語ってくれた。

 「まぁ信じろと言うのは難しい話だろう。・・・私も以前に、同じような思いをした事があったから分かるよ・・・」

 「同じような思い・・・」

 彼が話してくれたのは、彼が多種族との同盟を目指すようになったキッカケとも言えるような出来事だった。



 ケツァルはガレウスとは違い、元からアズールのいた獣人族の群れの中に幼い頃から一緒にいた。アズールの家系が族長を引き継ぐ家系なら、ケツァルの家系は彼の族長への道のりを支えるべくして存在した家系とも言えるものだった。

 代々族長を支える側近として特別な立場にあったケツァルの家系は、一族を守る剣として武術や危険察知能力など、他の者達よりもより強力な力を身につける必要があった。

 嘗ては今のガレウスのように強靭な肉体に、圧倒的な武力を有していた者や、獣人族には珍しい豊富な魔力を有して兵力の増強や奇抜な策を用いて、族長となるアズールの先代を支えてきたという。

 だが、そんな様々な能力に優れた先代達の能力は、不思議な事にその血統には受け継がれる事がなかったのだ。故に、生まれてくる子孫の中には、そういった優れた血統を何も受け継がれずに生まれて来る者もいた。

 ケツァルはそんな、血統に恵まれない子供の内の一人だったのだ。

 彼が生まれ、魔力がない事は既に調べ上げられた。後に目覚めるであろう戦闘のセンスもケツァルには現れず、いくら鍛錬に勤しんでも他の子孫には見られた類まれなる才能の兆しが一切現れる事はなかった。

 指導にあたっていた者達からも、血統が受け継がれていないと知らされた彼の父親は、我が家系の汚点としてケツァルを扱い、他の者達に悟られぬよう信頼のおける友人の家系へと預けられる事になる。

 養子として育てられる事になった彼は、実の子ではないことからも愛情を与えられずにまるで奴隷と変わらぬ扱いの中育っていった。

 そんなある日、ケツァルの家系から類稀なる魔力を持って生まれた子がいると話題になる。その子供はケツァルと数日違いで生まれた子であり、当初はそのような魔力の片鱗は見えなかったのだが、成長するに連れその身に宿す魔力の頭角を表し始めたのだという。

 そしてある日、その魔力は急激に成長し、彼らの一族の中でも類を見ないほど強力な魔力を有するようになった。だが、有り余る魔力はあれど、それを教えられる者が彼らの一族の中にはいなかったのだ。

 何とかして強力な魔法を身につけさせる為、彼らは別の種族からその技術を手に入れようと考えた。当時から他の種族と同盟のような関係性を築かずに生きてきた彼らに、教えを乞うような相手などいなかった。

 ならば魔力に優れた種族から書物を盗んだり、教えられる者を連れてこようと考えたのだ。そこで目をつけたのが、魔法を使ってモンスターと戦う人間の冒険者だったのだ。

 彼らの一族が隠れ住む森の近くに、冒険者の狩場となるようなモンスターの豊富な場所があった。そこへ来る冒険者達を観察いていた彼らは、パーティーも組まずに一人で狩りに勤しむ、とある魔道士のクラスに就く冒険者に目をつけえた。

 彼らもいきなり襲い掛かるような事はせず、戦う気のない事を証明しながら、その冒険者に交渉を持ち掛けたのだ。するとその冒険者は、すぐに魔法を習得する事はできない。暫くの間、その魔法を習得させたい者を自分に預けるようにと申し出てきたのだ。

 初めは交渉を持ち掛けた獣人達もそれは出来ぬと断ったが、冒険者の条件として魔法の習得はこの森のこの場所で行うという条件を提示してきたのだった。

 目の届く場所での修行であれば、飲めぬ条件ではないとその場での交渉は一旦そこで持ち越しとなった。冒険者は暫くの間、この森を拠点に狩りをすると言っており、次の拠点に行くまでの期間であればまたここで狩りを続けているから、準備が整い次第声を掛けてくれと残し、その日はそのまま街の方へと帰って行った。

 魔法習得の目星をつけた獣人族は、その話を一族の元へと持ち帰る。しかし、いくら目の届くところとはいえ、人間という種族にいずれ強者となる才能を持った子を預けることは出来ぬという話になった。

 ならばどうやって、その才能に溢れる獣人の子に魔法を習得させるのだと口論になると、その子の父親は別の者に行かせて習得させてはどうかと言い出したのだ。

 だが、他の者では魔力自体を持たない者が殆ど。そのような状態でどうやって魔法を習得するのかという話になると、覚えられぬ場合、その冒険者を使って街のギルドや店で売られているという、魔法をストックしたアイテムを持って来させてはどうかと提案した。

 無論、そのような方法で魔法が習得出来るのかは分からなかったが、それ以外に手段はないかと話はまとまる。すると次は、ならば誰がその影武者をやるのかという話題になる。

 そこで名前が上がったのが、年も近く失っても何のデメリットもない、才能に恵まれずに生まれたケツァルだっ
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...