1,028 / 1,646
強制強化の薬
しおりを挟む
まだ街の様子や仲間達の状況を把握していないケツァルと、アジトで獣人族と人間が協力し合っていた様子を見たガルムに導かれ、シン達一行は囚われていた巨大樹へと戻ってきた。
外観は大きく破損してはいるものの、建物としての構造が崩れるといった程の被害ではないようだ。元々の入り口の他に、獣達によって開けられたと思われる大穴が幾つかあり、その周辺には武装した獣人族と、シン達と共に馬車に乗っていた護衛の冒険者の顔ぶれもあった。
「彼らも無事だったんだね」
「ガレウスとて、人間だからと言って見つけるや否や直ぐに殺すような真似はしないさ。ただ、拘束する際に抵抗されたから痛めつけたんだろう」
シンやダラーヒムが馬車に乗って、獣人族の襲撃を受けた時に見た、違う馬車に付着していた血液はその争いの跡だったのだろう。果たしてそこまでする必要があったのかと言われると疑問が残るが、現に彼ら冒険者が生きているのを見て、シン達は少し安心したような表情を浮かべる。
この短時間に壮絶な事があったが、漸く同じ種族の生き物の顔を見て、災害の際に自分以外の人間も居るのを見て僅かながらの安心感を得るのと同じで、無意識に同じような感情に包まれていたのかもしれない。
ケツァルとガルムを先頭に歩いてくる彼らを見て、冒険者の人間達は険しい表情を浮かべるも、共にいた獣人族に説得されたのか構えるように手を添えていた武器を手放す。
「ケツァルか!無事だったんだな?」
「あぁ、お前達も無事なようで何よりだ。・・・他の者達の被害は?」
アジトの入り口で見張りをしていた獣人にケツァルが話しかける。すると彼は見ての通りだと、入口から身体をどかして中の様子を見せる。覗くようにケツァル達が開かれた扉の方へ身を乗り出すと、そこには床に敷かれたシートの上で寝そべる獣人や人間の姿が至る所に見受けられた。
ベッドの数が足りないらしく、満足に休ませられるような場所もないのだという。軽傷者に関してはシン達と共にリナムルを目指す馬車に乗っていた冒険者の中にいた、治癒魔法を使える者が手当をしているようだが、ひっきりなしにやって来る怪我人に、彼の魔力が持たず治癒が間に合っていない状況だった。
そんな彼の他にも、応援で駆けつけていたエルフ族が魔法による回復や持ち込んだ薬による治癒を図ってくれているのだという。獣人族もリナムルにある薬品を持ち出し、エルフ族や人間と共に調合の手伝いをし、少しでも多くの怪我人へ薬や治癒が行き届くように試みてはいるが、間に合っていないのが現状なのだという。
そして街の様子は見た通り、あちこちから戦火の跡と思われる煙が立ち込めている。どの施設が潰れ、どこが無事なのかもまだ完全に把握しきれていないのだそうだ。
アズール達の到着後、獣達の最後の襲撃となる布陣を退けた後に、リナムルの捜索に何人かの獣人達を向かわせたのだというが、連絡は届いておらず自ら動ける軽傷者は自分の足で安全なアジトまで戻って来ている。
「この様子じゃぁツバキを休ませられる場所はなさそうだね・・・」
「仕方がないさ。重傷者を最優先にするのは正しい。ツバキは軽傷だ、何処か寄りかかれる場所でもあれば・・・」
シン達の会話を耳にして、申し訳なさそうな表情を浮かべていたケツァルは、思い出したかのように見張りの獣人に、とある薬がまだ残っているのかを確認する。
「そうだ。“強制強化“の薬はまだ残っているか?」
「あぁ、それなら無事だ。何本か使っちまったが、数本なら残ってる。悪いが俺達は持ち場を離れられないから、自分で勝手に持って行ってくれ」
「あぁ、そのつもりだ。ありがとう」
そこで見張りの者達との会話を終えると、ケツァルはシン達について来いと言って巨大樹の中を進んでいく。道中、同じ馬車に乗っていた者や、行商人の者達に無事だったかと声をかけられながらも、上の階層へと上がって行き、シンとダラーヒムが連れていかれた後に、残されたミア達が運ばれた部屋の方へと向かっていく。
「ここは・・・あの場所か?」
「そういえば、シンと彼が連れていかれた後気を失って・・・。気づいたらここにいたんだよね?」
「“強制強化“の薬と言っていたな?それはどういう物なんだ?」
ケツァルと見張りの獣人との会話に出てきた“強制強化“の薬とは、ミア達が打ち込まれた薬の別の呼び方だったらしく、本来は獣人族の肉体強化を強制的に発現させる為に研究されたものなのだという。
非戦闘員の中には、自らの意思で肉体強化を行えない者が殆ど。そんな彼らの中でも一族の為に戦いたいと思っている者達は何人もいた。そんな彼らの願いを叶える為の薬が、強制強化の薬だった。
しかしその研究の段階で、別の種族にその薬を投与することで、効果を制御し耐え切れた者には獣の力を一部手にすることが出来ることが分かった。これはガレウスの拷問を受けた者達を使って行われた実験の中で発見されたもので、憔悴していた人間はこの薬の投与によって凶暴化する者や死に至る者も少なくなかったのだそうだ。
外観は大きく破損してはいるものの、建物としての構造が崩れるといった程の被害ではないようだ。元々の入り口の他に、獣達によって開けられたと思われる大穴が幾つかあり、その周辺には武装した獣人族と、シン達と共に馬車に乗っていた護衛の冒険者の顔ぶれもあった。
「彼らも無事だったんだね」
「ガレウスとて、人間だからと言って見つけるや否や直ぐに殺すような真似はしないさ。ただ、拘束する際に抵抗されたから痛めつけたんだろう」
シンやダラーヒムが馬車に乗って、獣人族の襲撃を受けた時に見た、違う馬車に付着していた血液はその争いの跡だったのだろう。果たしてそこまでする必要があったのかと言われると疑問が残るが、現に彼ら冒険者が生きているのを見て、シン達は少し安心したような表情を浮かべる。
この短時間に壮絶な事があったが、漸く同じ種族の生き物の顔を見て、災害の際に自分以外の人間も居るのを見て僅かながらの安心感を得るのと同じで、無意識に同じような感情に包まれていたのかもしれない。
ケツァルとガルムを先頭に歩いてくる彼らを見て、冒険者の人間達は険しい表情を浮かべるも、共にいた獣人族に説得されたのか構えるように手を添えていた武器を手放す。
「ケツァルか!無事だったんだな?」
「あぁ、お前達も無事なようで何よりだ。・・・他の者達の被害は?」
アジトの入り口で見張りをしていた獣人にケツァルが話しかける。すると彼は見ての通りだと、入口から身体をどかして中の様子を見せる。覗くようにケツァル達が開かれた扉の方へ身を乗り出すと、そこには床に敷かれたシートの上で寝そべる獣人や人間の姿が至る所に見受けられた。
ベッドの数が足りないらしく、満足に休ませられるような場所もないのだという。軽傷者に関してはシン達と共にリナムルを目指す馬車に乗っていた冒険者の中にいた、治癒魔法を使える者が手当をしているようだが、ひっきりなしにやって来る怪我人に、彼の魔力が持たず治癒が間に合っていない状況だった。
そんな彼の他にも、応援で駆けつけていたエルフ族が魔法による回復や持ち込んだ薬による治癒を図ってくれているのだという。獣人族もリナムルにある薬品を持ち出し、エルフ族や人間と共に調合の手伝いをし、少しでも多くの怪我人へ薬や治癒が行き届くように試みてはいるが、間に合っていないのが現状なのだという。
そして街の様子は見た通り、あちこちから戦火の跡と思われる煙が立ち込めている。どの施設が潰れ、どこが無事なのかもまだ完全に把握しきれていないのだそうだ。
アズール達の到着後、獣達の最後の襲撃となる布陣を退けた後に、リナムルの捜索に何人かの獣人達を向かわせたのだというが、連絡は届いておらず自ら動ける軽傷者は自分の足で安全なアジトまで戻って来ている。
「この様子じゃぁツバキを休ませられる場所はなさそうだね・・・」
「仕方がないさ。重傷者を最優先にするのは正しい。ツバキは軽傷だ、何処か寄りかかれる場所でもあれば・・・」
シン達の会話を耳にして、申し訳なさそうな表情を浮かべていたケツァルは、思い出したかのように見張りの獣人に、とある薬がまだ残っているのかを確認する。
「そうだ。“強制強化“の薬はまだ残っているか?」
「あぁ、それなら無事だ。何本か使っちまったが、数本なら残ってる。悪いが俺達は持ち場を離れられないから、自分で勝手に持って行ってくれ」
「あぁ、そのつもりだ。ありがとう」
そこで見張りの者達との会話を終えると、ケツァルはシン達について来いと言って巨大樹の中を進んでいく。道中、同じ馬車に乗っていた者や、行商人の者達に無事だったかと声をかけられながらも、上の階層へと上がって行き、シンとダラーヒムが連れていかれた後に、残されたミア達が運ばれた部屋の方へと向かっていく。
「ここは・・・あの場所か?」
「そういえば、シンと彼が連れていかれた後気を失って・・・。気づいたらここにいたんだよね?」
「“強制強化“の薬と言っていたな?それはどういう物なんだ?」
ケツァルと見張りの獣人との会話に出てきた“強制強化“の薬とは、ミア達が打ち込まれた薬の別の呼び方だったらしく、本来は獣人族の肉体強化を強制的に発現させる為に研究されたものなのだという。
非戦闘員の中には、自らの意思で肉体強化を行えない者が殆ど。そんな彼らの中でも一族の為に戦いたいと思っている者達は何人もいた。そんな彼らの願いを叶える為の薬が、強制強化の薬だった。
しかしその研究の段階で、別の種族にその薬を投与することで、効果を制御し耐え切れた者には獣の力を一部手にすることが出来ることが分かった。これはガレウスの拷問を受けた者達を使って行われた実験の中で発見されたもので、憔悴していた人間はこの薬の投与によって凶暴化する者や死に至る者も少なくなかったのだそうだ。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる