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強制強化の薬
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まだ街の様子や仲間達の状況を把握していないケツァルと、アジトで獣人族と人間が協力し合っていた様子を見たガルムに導かれ、シン達一行は囚われていた巨大樹へと戻ってきた。
外観は大きく破損してはいるものの、建物としての構造が崩れるといった程の被害ではないようだ。元々の入り口の他に、獣達によって開けられたと思われる大穴が幾つかあり、その周辺には武装した獣人族と、シン達と共に馬車に乗っていた護衛の冒険者の顔ぶれもあった。
「彼らも無事だったんだね」
「ガレウスとて、人間だからと言って見つけるや否や直ぐに殺すような真似はしないさ。ただ、拘束する際に抵抗されたから痛めつけたんだろう」
シンやダラーヒムが馬車に乗って、獣人族の襲撃を受けた時に見た、違う馬車に付着していた血液はその争いの跡だったのだろう。果たしてそこまでする必要があったのかと言われると疑問が残るが、現に彼ら冒険者が生きているのを見て、シン達は少し安心したような表情を浮かべる。
この短時間に壮絶な事があったが、漸く同じ種族の生き物の顔を見て、災害の際に自分以外の人間も居るのを見て僅かながらの安心感を得るのと同じで、無意識に同じような感情に包まれていたのかもしれない。
ケツァルとガルムを先頭に歩いてくる彼らを見て、冒険者の人間達は険しい表情を浮かべるも、共にいた獣人族に説得されたのか構えるように手を添えていた武器を手放す。
「ケツァルか!無事だったんだな?」
「あぁ、お前達も無事なようで何よりだ。・・・他の者達の被害は?」
アジトの入り口で見張りをしていた獣人にケツァルが話しかける。すると彼は見ての通りだと、入口から身体をどかして中の様子を見せる。覗くようにケツァル達が開かれた扉の方へ身を乗り出すと、そこには床に敷かれたシートの上で寝そべる獣人や人間の姿が至る所に見受けられた。
ベッドの数が足りないらしく、満足に休ませられるような場所もないのだという。軽傷者に関してはシン達と共にリナムルを目指す馬車に乗っていた冒険者の中にいた、治癒魔法を使える者が手当をしているようだが、ひっきりなしにやって来る怪我人に、彼の魔力が持たず治癒が間に合っていない状況だった。
そんな彼の他にも、応援で駆けつけていたエルフ族が魔法による回復や持ち込んだ薬による治癒を図ってくれているのだという。獣人族もリナムルにある薬品を持ち出し、エルフ族や人間と共に調合の手伝いをし、少しでも多くの怪我人へ薬や治癒が行き届くように試みてはいるが、間に合っていないのが現状なのだという。
そして街の様子は見た通り、あちこちから戦火の跡と思われる煙が立ち込めている。どの施設が潰れ、どこが無事なのかもまだ完全に把握しきれていないのだそうだ。
アズール達の到着後、獣達の最後の襲撃となる布陣を退けた後に、リナムルの捜索に何人かの獣人達を向かわせたのだというが、連絡は届いておらず自ら動ける軽傷者は自分の足で安全なアジトまで戻って来ている。
「この様子じゃぁツバキを休ませられる場所はなさそうだね・・・」
「仕方がないさ。重傷者を最優先にするのは正しい。ツバキは軽傷だ、何処か寄りかかれる場所でもあれば・・・」
シン達の会話を耳にして、申し訳なさそうな表情を浮かべていたケツァルは、思い出したかのように見張りの獣人に、とある薬がまだ残っているのかを確認する。
「そうだ。“強制強化“の薬はまだ残っているか?」
「あぁ、それなら無事だ。何本か使っちまったが、数本なら残ってる。悪いが俺達は持ち場を離れられないから、自分で勝手に持って行ってくれ」
「あぁ、そのつもりだ。ありがとう」
そこで見張りの者達との会話を終えると、ケツァルはシン達について来いと言って巨大樹の中を進んでいく。道中、同じ馬車に乗っていた者や、行商人の者達に無事だったかと声をかけられながらも、上の階層へと上がって行き、シンとダラーヒムが連れていかれた後に、残されたミア達が運ばれた部屋の方へと向かっていく。
「ここは・・・あの場所か?」
「そういえば、シンと彼が連れていかれた後気を失って・・・。気づいたらここにいたんだよね?」
「“強制強化“の薬と言っていたな?それはどういう物なんだ?」
ケツァルと見張りの獣人との会話に出てきた“強制強化“の薬とは、ミア達が打ち込まれた薬の別の呼び方だったらしく、本来は獣人族の肉体強化を強制的に発現させる為に研究されたものなのだという。
非戦闘員の中には、自らの意思で肉体強化を行えない者が殆ど。そんな彼らの中でも一族の為に戦いたいと思っている者達は何人もいた。そんな彼らの願いを叶える為の薬が、強制強化の薬だった。
しかしその研究の段階で、別の種族にその薬を投与することで、効果を制御し耐え切れた者には獣の力を一部手にすることが出来ることが分かった。これはガレウスの拷問を受けた者達を使って行われた実験の中で発見されたもので、憔悴していた人間はこの薬の投与によって凶暴化する者や死に至る者も少なくなかったのだそうだ。
外観は大きく破損してはいるものの、建物としての構造が崩れるといった程の被害ではないようだ。元々の入り口の他に、獣達によって開けられたと思われる大穴が幾つかあり、その周辺には武装した獣人族と、シン達と共に馬車に乗っていた護衛の冒険者の顔ぶれもあった。
「彼らも無事だったんだね」
「ガレウスとて、人間だからと言って見つけるや否や直ぐに殺すような真似はしないさ。ただ、拘束する際に抵抗されたから痛めつけたんだろう」
シンやダラーヒムが馬車に乗って、獣人族の襲撃を受けた時に見た、違う馬車に付着していた血液はその争いの跡だったのだろう。果たしてそこまでする必要があったのかと言われると疑問が残るが、現に彼ら冒険者が生きているのを見て、シン達は少し安心したような表情を浮かべる。
この短時間に壮絶な事があったが、漸く同じ種族の生き物の顔を見て、災害の際に自分以外の人間も居るのを見て僅かながらの安心感を得るのと同じで、無意識に同じような感情に包まれていたのかもしれない。
ケツァルとガルムを先頭に歩いてくる彼らを見て、冒険者の人間達は険しい表情を浮かべるも、共にいた獣人族に説得されたのか構えるように手を添えていた武器を手放す。
「ケツァルか!無事だったんだな?」
「あぁ、お前達も無事なようで何よりだ。・・・他の者達の被害は?」
アジトの入り口で見張りをしていた獣人にケツァルが話しかける。すると彼は見ての通りだと、入口から身体をどかして中の様子を見せる。覗くようにケツァル達が開かれた扉の方へ身を乗り出すと、そこには床に敷かれたシートの上で寝そべる獣人や人間の姿が至る所に見受けられた。
ベッドの数が足りないらしく、満足に休ませられるような場所もないのだという。軽傷者に関してはシン達と共にリナムルを目指す馬車に乗っていた冒険者の中にいた、治癒魔法を使える者が手当をしているようだが、ひっきりなしにやって来る怪我人に、彼の魔力が持たず治癒が間に合っていない状況だった。
そんな彼の他にも、応援で駆けつけていたエルフ族が魔法による回復や持ち込んだ薬による治癒を図ってくれているのだという。獣人族もリナムルにある薬品を持ち出し、エルフ族や人間と共に調合の手伝いをし、少しでも多くの怪我人へ薬や治癒が行き届くように試みてはいるが、間に合っていないのが現状なのだという。
そして街の様子は見た通り、あちこちから戦火の跡と思われる煙が立ち込めている。どの施設が潰れ、どこが無事なのかもまだ完全に把握しきれていないのだそうだ。
アズール達の到着後、獣達の最後の襲撃となる布陣を退けた後に、リナムルの捜索に何人かの獣人達を向かわせたのだというが、連絡は届いておらず自ら動ける軽傷者は自分の足で安全なアジトまで戻って来ている。
「この様子じゃぁツバキを休ませられる場所はなさそうだね・・・」
「仕方がないさ。重傷者を最優先にするのは正しい。ツバキは軽傷だ、何処か寄りかかれる場所でもあれば・・・」
シン達の会話を耳にして、申し訳なさそうな表情を浮かべていたケツァルは、思い出したかのように見張りの獣人に、とある薬がまだ残っているのかを確認する。
「そうだ。“強制強化“の薬はまだ残っているか?」
「あぁ、それなら無事だ。何本か使っちまったが、数本なら残ってる。悪いが俺達は持ち場を離れられないから、自分で勝手に持って行ってくれ」
「あぁ、そのつもりだ。ありがとう」
そこで見張りの者達との会話を終えると、ケツァルはシン達について来いと言って巨大樹の中を進んでいく。道中、同じ馬車に乗っていた者や、行商人の者達に無事だったかと声をかけられながらも、上の階層へと上がって行き、シンとダラーヒムが連れていかれた後に、残されたミア達が運ばれた部屋の方へと向かっていく。
「ここは・・・あの場所か?」
「そういえば、シンと彼が連れていかれた後気を失って・・・。気づいたらここにいたんだよね?」
「“強制強化“の薬と言っていたな?それはどういう物なんだ?」
ケツァルと見張りの獣人との会話に出てきた“強制強化“の薬とは、ミア達が打ち込まれた薬の別の呼び方だったらしく、本来は獣人族の肉体強化を強制的に発現させる為に研究されたものなのだという。
非戦闘員の中には、自らの意思で肉体強化を行えない者が殆ど。そんな彼らの中でも一族の為に戦いたいと思っている者達は何人もいた。そんな彼らの願いを叶える為の薬が、強制強化の薬だった。
しかしその研究の段階で、別の種族にその薬を投与することで、効果を制御し耐え切れた者には獣の力を一部手にすることが出来ることが分かった。これはガレウスの拷問を受けた者達を使って行われた実験の中で発見されたもので、憔悴していた人間はこの薬の投与によって凶暴化する者や死に至る者も少なくなかったのだそうだ。
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