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神代 コウ

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克服と感謝の言葉

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 小さくも勇ましく戦う小さな気配が突然、電源の落ちた機械のように動かなくなるのを感じたツクヨがツバキの気配の方を向くと、そこには彼の危惧していた通りの光景があった。

 「ツバキ!クソッ・・・邪魔をするな!!」

 ツクヨの持つ布都御魂剣の能力に危機感を覚えたのか、獣達は最初に狙うべき相手を本能で定めているかのように、ツクヨの周りへと集まり出す。助けに向かいたくても数の暴力を前に、ツクヨは動くことが出来ない。

 自分ではどうにも出来ない状況に、狙撃による援護を行っていたミアに状況を知らせツバキを助けられないかと考えたツクヨだったが、彼女の反応も幾つかの獣の気配に追われており、それどころではなかった。

 「ミアッ!ツバキがッ・・・!」

 「分かってるッ!だがコイツらが邪魔でッ・・・!」

 他に動ける者はいないかと探すも、皆一様に同じ状況に置かれており、とてもではないが助けに向かえる様子ではなかった。何よりガレウスを含め側近の獣人達は一緒に戦ってるとはいえ、憎んでいる人間を自ら助けに行ってくれるとも思えない。それはツクヨも薄々感じていた事だ。

 戦いの中でも、手を借りたい時に獣人達は動いてくれることはなく、あくまで自分達や仲間の獣人、そしてガレウスの為に動いている。彼らにも優先すべき事柄の順位がある。そこはツクヨ達と何も変わらない。ピンチに陥ったからといってそれが揺らぐこともないのだろう。

 彼らの戦う姿からそんな様子を感じ取ったツクヨは、何も出来ない自分に歯痒い気持ちを、彼の行く手を阻む獣達へとぶつける。

 すると、一つの気配が獣達の間を擦り抜けるように駆けて行き、捕まっているツバキの元へと向かっていった。

 「くッ・・・はっ離せ・・・!!」

 次の瞬間、ツバキの首を掴んでいた肉体強化をした獣の腕が、何かに斬られたかのように両断される。地面に落ちたツバキが激しく咳き込んでいると、彼を掴んでいた獣は、突如現れたその者によって一瞬にして首を刎ねられていた。

 「あっアンタは・・・」

 「・・・・・」

 その者自身も、自分が何故彼を助けたのか理解できないといった様子で、獣の血に濡れたその両手をじっと見つめていた。彼だけではない。周りの者達も、意外な人物の意外な行動に言葉を失っていた。

 その者はこの場において最も人間を恨み憎んでいる筈で、誰よりも助けに向かうなど思えなかった人物だったのだから。

 「な・・・ガレウス!?」
 「なんでアンタが人間のガキを・・・」

 ピンチのツバキを助けたのはガレウスだった。彼の行動に側近の獣人達驚きを隠せなかった。何の気まぐれか分からなかったが、ツバキが解放されたことに安堵したツクヨは、すぐに纏わり付くように寄ってくる獣達を斬り払い、彼の元へと向かった。

 「すまない、助かったよ。ありがとう」

 「俺は・・・」

 ツバキが獣に捕まった時、ガレウスの目には幼少期の親友であったリタの姿が見えていた。仲間に助けを求めるその視線が、当時のリタのものと重なり何も出来なかった頃の自分の姿を思い出していたのだ。

 彼はあの時から大きく成長した。それは肉体だけにあらず、心も同様に強くなろうとしていた。力がなく恐怖に屈した嘗ての自分に決別する。これまでにも何度も仲間を助けるような状況はあったが、今回はそのどれとも違っていた。

 それもその筈。ガレウスはダランの裏切りや、アズール達と出会ってから見てきた人間の所業の数々に、言葉では言い表せないほどの憎しみを溜め込んでいた。

 そんな彼が人間の子供を助けた。相手が人間であった事、そしてその対象が子供であった事が何よりも当時のトラウマを呼び起こすトリガーとなったのだろう。まさに当時の状況と全く同じ。成長したのは自分だけ。

 あの時の自分からどれほど変われたのかを試すには、これ以上ない状況だった。頭で考えるよりも先に身体が動いていた。ガレウスの獣人としての本能もそれを望んでいたのかもしれない。

 人間嫌いのガレウスの意外な弱点。それは怪物に襲われる少年の助けを求める視線と声だったのだ。意外なところでトラウマの克服をすることの出来たガレウスは、助けてくれたことに対し感謝を述べるツバキの言葉にも、不思議と嫌悪感を抱かなくなっていた。
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