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二つの裏切り
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周囲に誰もいないことを確認し壁に張り付くと、中から聞こえてくる声に耳を傾ける。ダラン以外に聞こえてくる声は一人で、男の声と思われる低めの声色をしていた。
「さぁ、約束は果たしたんだ。報酬はいつくれるんだ?」
「そう焦るな。信用していたからこそ、こうして持って来たんだからな」
何か重たい物を机の上に置く音がする。その後木造の机の上を滑らせるような音がすると、カチっと何かを開く音がする。直後に中身を見たであろうダランの唸る声が店内に響いた。
「おぉぉ・・・!まさか“これだけ“の事でこれ程の報酬を貰っても・・・?」
「我々には必要な“もの“だったのでな。理解のない連中は倫理だ道徳だの騒ぎ、今の自分がそういった犠牲の基にあることを見ようとはしない。本当に・・・?」
男の話よりもダランは、男の持ってきた報酬の方に釘付けになっていたようだ。その様子を見た男は話を切り上げ、この者もその“話の分からぬ連中“と同じだと憐れむように軽いため息をつく。
「報酬を受け取ったら、さっさとこんなところからは去ることだ。何か情報が漏れればお前も・・・」
「心配ないさね。これだけあれば、他所でも裕福に暮らせていける。こんなところよりもっと便利で発展した街にでも行くさ」
ダランの口から信じられないような言葉が次々と出てくる。いつもガレウスやリタに優しく接してくれていた彼からは想像もできない言動だった。
「だがどうして彼らの相手をしていたのだ?街の他の者達は、あまり好意的ではなかったようだが?」
「誰もあんなガキ共、好き好んで世話したりしねぇさ。利用価値があったから相手してやったんだ。そしたら馴れ馴れしく纏わりつくようになっちまってな・・・。まぁ、こうして俺の努力が実を結んだんだ。そんじゃ俺はとんずらさせてもらうよ」
そう男に言い残すと、ダランはガレウスが盗み聞きしていた裏口の方へとやってくる。近づいてくる足音に、慌てて近くの物陰に身を隠すガレウス。大きな鞄を大事そうに抱えながら、前もって準備していたのか通りに停まっていた馬車に乗り込み、ダランは街を逃げるように去って行ってしまった。
一方その頃、ダランの店に一人残ったままだった男がゆっくりと彼の出て行った裏口から現れる。その様子を隠れたままのガレウスは、息を殺して見送る。
「馬鹿な男だ・・・。うまい話には裏があるものだとは考えなかったのか?まぁ、自分は大丈夫だとでも思っていたのだろうがな・・・。さて、俺も“後始末“をして戻るとするか。新たな発見の為の実験を行う時ほど、胸が踊ることはないからな」
人目につかぬところでぶつぶつと持論を漏らした男は、まるで舞台俳優かのようの恥ずかしげもなく身振り手振りを披露した後に、歩いて街の外へと一人向かっていった。
ダランと男の一連の会話を聞いたガレウスは、いつバレるかも分からぬ緊張から解き放たれ、硬直していた身体と共に全身から力が抜けてしまう。同時に、その時は必死に抑えていた感情が一気に押し寄せ、彼の瞳からは涙が溢れ出していた。
信じていた者に裏切られ、大切な仲間達を置き去りにして逃げた情けない自分に、怒りとも嘆きとも分からぬ言いようのない感情に押し潰された。
立ち去った男を追えば何か掴めるかもしれないが、森で襲われていたリタ達の様子がフラッシュバックのように蘇る。すると彼の身体は、自分の身体ではないかのように動かなくなってしまう。
震える身体が、ガレウスの立ち向かおうとする意志を嘲笑うかのようにへし折る。二度と同じ浅はかな考えを犯さぬよう、ドス黒い恐怖が彼の心を包み込む。
もうこの街には居られない。信頼できる者はおらず、失った仲間の家族に合わせる顔がない。それ以前に彼らの家族は、獣人のガレウスと連むことを快く思ってはいなかった。
あらぬ疑いをかけられる前にここを去らねば。それだけが当時のガレウスに残った感情と呼べるようなものだった。
人目を避けるように街を逃げ出し、仲間の襲われた恐怖の森をモンスターに襲われながらも必死で走り抜け、道とは言えぬような場所を隠れるように無心で走った。
そしていつしか辿り着いた場所で、アズールやケツァルのいる獣人族の群れに合流する事となる。
嘗ての仲間達の幻覚に、当時の自分を思い出してしまったガレウスは、獣を前に戦意を失ってしまっていた。
そこへ、布都御魂剣を手にしたツクヨが彼の周りに集る獣を一掃する。ツクヨの瞼の裏で見ている、彼の斬ろうとしたものだけを斬りつける斬撃により、ガレウスの向こう側にいる獣をも斬りつける。
霧を振り払うようにして放たれたツクヨの一閃により、ガレウスの見ていた幻覚も一緒に振り払われた。彼らにはその幻覚が何のトリガーによって引き起こされていたのかは分からない。
だが、目の前から嘗ての仲間の姿が消えた事により、ガレウスは意識を今現在の自分に引き戻すことに成功したようで、ハッと我に返る様子を見せる。
「うッ・・・俺は・・・一体何を・・・」
「大丈夫かい?何か謝っていた様だけど・・・?」
「謝る・・・?そうか、俺はまだあの時の事を・・・クソッ・・・!!」
漸く本調子に戻ったのか、ガレウスはそれまで彼を取り巻いていた邪念や幻覚を振り払うように獣の群れの中へ飛び込んでいくと、無我夢中で暴れ回った。
「さぁ、約束は果たしたんだ。報酬はいつくれるんだ?」
「そう焦るな。信用していたからこそ、こうして持って来たんだからな」
何か重たい物を机の上に置く音がする。その後木造の机の上を滑らせるような音がすると、カチっと何かを開く音がする。直後に中身を見たであろうダランの唸る声が店内に響いた。
「おぉぉ・・・!まさか“これだけ“の事でこれ程の報酬を貰っても・・・?」
「我々には必要な“もの“だったのでな。理解のない連中は倫理だ道徳だの騒ぎ、今の自分がそういった犠牲の基にあることを見ようとはしない。本当に・・・?」
男の話よりもダランは、男の持ってきた報酬の方に釘付けになっていたようだ。その様子を見た男は話を切り上げ、この者もその“話の分からぬ連中“と同じだと憐れむように軽いため息をつく。
「報酬を受け取ったら、さっさとこんなところからは去ることだ。何か情報が漏れればお前も・・・」
「心配ないさね。これだけあれば、他所でも裕福に暮らせていける。こんなところよりもっと便利で発展した街にでも行くさ」
ダランの口から信じられないような言葉が次々と出てくる。いつもガレウスやリタに優しく接してくれていた彼からは想像もできない言動だった。
「だがどうして彼らの相手をしていたのだ?街の他の者達は、あまり好意的ではなかったようだが?」
「誰もあんなガキ共、好き好んで世話したりしねぇさ。利用価値があったから相手してやったんだ。そしたら馴れ馴れしく纏わりつくようになっちまってな・・・。まぁ、こうして俺の努力が実を結んだんだ。そんじゃ俺はとんずらさせてもらうよ」
そう男に言い残すと、ダランはガレウスが盗み聞きしていた裏口の方へとやってくる。近づいてくる足音に、慌てて近くの物陰に身を隠すガレウス。大きな鞄を大事そうに抱えながら、前もって準備していたのか通りに停まっていた馬車に乗り込み、ダランは街を逃げるように去って行ってしまった。
一方その頃、ダランの店に一人残ったままだった男がゆっくりと彼の出て行った裏口から現れる。その様子を隠れたままのガレウスは、息を殺して見送る。
「馬鹿な男だ・・・。うまい話には裏があるものだとは考えなかったのか?まぁ、自分は大丈夫だとでも思っていたのだろうがな・・・。さて、俺も“後始末“をして戻るとするか。新たな発見の為の実験を行う時ほど、胸が踊ることはないからな」
人目につかぬところでぶつぶつと持論を漏らした男は、まるで舞台俳優かのようの恥ずかしげもなく身振り手振りを披露した後に、歩いて街の外へと一人向かっていった。
ダランと男の一連の会話を聞いたガレウスは、いつバレるかも分からぬ緊張から解き放たれ、硬直していた身体と共に全身から力が抜けてしまう。同時に、その時は必死に抑えていた感情が一気に押し寄せ、彼の瞳からは涙が溢れ出していた。
信じていた者に裏切られ、大切な仲間達を置き去りにして逃げた情けない自分に、怒りとも嘆きとも分からぬ言いようのない感情に押し潰された。
立ち去った男を追えば何か掴めるかもしれないが、森で襲われていたリタ達の様子がフラッシュバックのように蘇る。すると彼の身体は、自分の身体ではないかのように動かなくなってしまう。
震える身体が、ガレウスの立ち向かおうとする意志を嘲笑うかのようにへし折る。二度と同じ浅はかな考えを犯さぬよう、ドス黒い恐怖が彼の心を包み込む。
もうこの街には居られない。信頼できる者はおらず、失った仲間の家族に合わせる顔がない。それ以前に彼らの家族は、獣人のガレウスと連むことを快く思ってはいなかった。
あらぬ疑いをかけられる前にここを去らねば。それだけが当時のガレウスに残った感情と呼べるようなものだった。
人目を避けるように街を逃げ出し、仲間の襲われた恐怖の森をモンスターに襲われながらも必死で走り抜け、道とは言えぬような場所を隠れるように無心で走った。
そしていつしか辿り着いた場所で、アズールやケツァルのいる獣人族の群れに合流する事となる。
嘗ての仲間達の幻覚に、当時の自分を思い出してしまったガレウスは、獣を前に戦意を失ってしまっていた。
そこへ、布都御魂剣を手にしたツクヨが彼の周りに集る獣を一掃する。ツクヨの瞼の裏で見ている、彼の斬ろうとしたものだけを斬りつける斬撃により、ガレウスの向こう側にいる獣をも斬りつける。
霧を振り払うようにして放たれたツクヨの一閃により、ガレウスの見ていた幻覚も一緒に振り払われた。彼らにはその幻覚が何のトリガーによって引き起こされていたのかは分からない。
だが、目の前から嘗ての仲間の姿が消えた事により、ガレウスは意識を今現在の自分に引き戻すことに成功したようで、ハッと我に返る様子を見せる。
「うッ・・・俺は・・・一体何を・・・」
「大丈夫かい?何か謝っていた様だけど・・・?」
「謝る・・・?そうか、俺はまだあの時の事を・・・クソッ・・・!!」
漸く本調子に戻ったのか、ガレウスはそれまで彼を取り巻いていた邪念や幻覚を振り払うように獣の群れの中へ飛び込んでいくと、無我夢中で暴れ回った。
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