1,018 / 1,646
白衣の者達
しおりを挟む
人里離れた森の中。動物や魔物達も近付かぬ開けた草木の一角に、白衣を着た数人の人間が集まっている。一人の男が地面を撫でるように触り、土の様子を確かめるように指を何度も擦り合わせている。
「ここでは駄目なのか?」
「あぁ。ここは街に近過ぎる。それに我々の調査でモンスターが近寄らなくなったことをいい事に、立ち入る者が増えたそうだ」
「立ち入る・・・?何だってこんなところに・・・」
「食べ物や薬の素材となる植物を採りに来てるのだそうだ」
「ふぅ~ん・・・そんなに困ってるのかねぇ。いや、待てよ・・・巷の噂で聞かぬということは、それはギルドを通したものではないということか?」
モンスターが蔓延るWoFの世界で、人通りの少ないような危険な場所に採取や採掘といった資源の調達を行う場合、安全を確保する為に冒険者ギルドと協力して現地の護衛や、魔物払いを行うのが普通のこと。
だが、そのような動きは彼らのいる森には行われていない。冒険者ギルドが動いているのなら、街の子供ですらその事を知っている筈。それが無いということは、ギルドを通さぬ個人的な行いである可能性が大きい。
またはギルドを通さずとも、モンスターを追い払えるだけの力を持った者達の仕業か。どちらにせよ少数での行動であることを、男は察していた。
「まぁギルドは通して無いだろうねぇ。つまり、ここがモンスターの近寄らぬ場所と知った者が、他の者達に気付かれぬようこっそりと行っているようだ」
「ほうほう・・・それは興味深いな。少し様子を見るか」
そういって彼らはその場を離れ、暫くの間姿を見せることはなかった。彼らが何者かは分からないが、彼らが去った後もその場所にはモンスターが近寄ることはなかった。
数日後、ガレウスとリタは採取した物を引き取ってくれているダランに呼び出される。どうやら彼らの採って来た素材から作られた薬の売れ行きが良かったようで、再度素材の調達を頼みたいのだと言う。
「何だよ、もう売れちまったのか?まぁ金になるなら俺達は構わねぇけど・・・。なぁ?ガレウス」
「そうだな。これなら今度こそ贅沢できそうだ!」
二人にとっては願ってもないことだった。貧しい彼らが金になる話を断るはずがなかった。するとダランは、いつもの様子とは少し違い、申し訳なさそうに二人へ仕事の依頼を出す。
「それでなぁ、今回は少し量が必要で。他の連中にも話して来てくれないかい?ほ、報酬は弾むからさぁ」
「えぇ~、そんな急ぎなのかよ?人数が増えると一人当たりの報酬が減るから嫌なんだけどなぁ~・・・」
「いいじゃないか、リタ。この前の蓄えはまだ十分に残ってるんだろ?今度はパーティーでも開こうぜ!」
金を持っていても、使わなければしょうがないと考えていたガレウスは、リタのように貯蓄して買いたい物もなかった為、新たな仕事で美味い物を食べられると乗り気だった。
「そうだよリタ、今回は臨時だからねぇ。いつもの報酬に更に上乗せしておくよ。これでどうだい?」
「へぇ、随分と気前がいいじゃないか?そんなに景気がいいってのか・・・。まぁいいぜ?んじゃ早速、他の連中にも声かけてくるか!ガレウス、手分けしようぜ。声かけたらいつもの場所で集合な!」
「おう!」
「助かるよ二人とも。き、気をつけてな」
慌ただしく準備を済ませて出掛ける二人を見送った後、それまでの騒がしさが嘘のように静かになる店内で、扉のガラス越しに映る二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送るダラン。すると、店の奥から何者かが姿を表す。
仲間を募ったリタとガレウスは、街のすぐ外で待ち合わせると他の者達に気付かれぬよう迂回していつもの森の中へと入っていった。
集まったのは二人を除いて三人。みんな人間の子供だった。孤児はリタだけだったが、みんな同じく貧しい家系の出身のようで、街で暮らす他の子供達よりも薄汚れた格好をしている。
何故ガレウスだけが獣人なのか。人間と共存しているからといって、違う種族の子供達と頻繁に遊ぶのはガレウスだけだった。そのせいで獣人の子供達から省かれてしまっていた。
彼がそんなことを気にすることはなかったが、リタはそのことを知って孤児である自分とどこか重ねていたのだろう。他の者達以上にガレウスと共に時間を共有するようになる。
「さぁ、さっさと集めちまおうぜ!」
「いっいつモンスターが来るかも分からないしね・・・」
「大丈夫だって!俺とリタが毎回ここで採ってんだから。いつもモンスターどころか動物だって近づきやしないんだから」
口ではそう言いながらも、離れる事なく固まって採取し続ける彼らの元に、それまで全く気配の感じなかった動物が一頭だけ現れる。唯一気配を感じることのできるガレウスでさえ、その気配に気が付かなかった。
「おっおい、何だこいつ・・・いつの間に」
「ガレウス?気配があったら言えって言ってるだろ」
「知ってるよ。けど俺達以外に気配なんて感じなかったんだ。嘘じゃない!」
一見オオカミの子供のような姿をしたその獣は、彼らを警戒することもなく近づいて来る。トボトボとした足取りでやって来たその獣は、採取する彼らの輪の中に入り込む。
「でもモンスターじゃない。ただのオオカミじゃないか?」
「ほっホントだ。なら大丈夫だよね?」
「あぁ、ガレウスがいれば何ともなさそうだが・・・。群れから逸れちゃったのか?」
心配するようにリタがオオカミに近づくと、その小さな身体の内側に子供のオオカミのものとは思えぬ邪悪な気配をガレウスが察知する。
「ここでは駄目なのか?」
「あぁ。ここは街に近過ぎる。それに我々の調査でモンスターが近寄らなくなったことをいい事に、立ち入る者が増えたそうだ」
「立ち入る・・・?何だってこんなところに・・・」
「食べ物や薬の素材となる植物を採りに来てるのだそうだ」
「ふぅ~ん・・・そんなに困ってるのかねぇ。いや、待てよ・・・巷の噂で聞かぬということは、それはギルドを通したものではないということか?」
モンスターが蔓延るWoFの世界で、人通りの少ないような危険な場所に採取や採掘といった資源の調達を行う場合、安全を確保する為に冒険者ギルドと協力して現地の護衛や、魔物払いを行うのが普通のこと。
だが、そのような動きは彼らのいる森には行われていない。冒険者ギルドが動いているのなら、街の子供ですらその事を知っている筈。それが無いということは、ギルドを通さぬ個人的な行いである可能性が大きい。
またはギルドを通さずとも、モンスターを追い払えるだけの力を持った者達の仕業か。どちらにせよ少数での行動であることを、男は察していた。
「まぁギルドは通して無いだろうねぇ。つまり、ここがモンスターの近寄らぬ場所と知った者が、他の者達に気付かれぬようこっそりと行っているようだ」
「ほうほう・・・それは興味深いな。少し様子を見るか」
そういって彼らはその場を離れ、暫くの間姿を見せることはなかった。彼らが何者かは分からないが、彼らが去った後もその場所にはモンスターが近寄ることはなかった。
数日後、ガレウスとリタは採取した物を引き取ってくれているダランに呼び出される。どうやら彼らの採って来た素材から作られた薬の売れ行きが良かったようで、再度素材の調達を頼みたいのだと言う。
「何だよ、もう売れちまったのか?まぁ金になるなら俺達は構わねぇけど・・・。なぁ?ガレウス」
「そうだな。これなら今度こそ贅沢できそうだ!」
二人にとっては願ってもないことだった。貧しい彼らが金になる話を断るはずがなかった。するとダランは、いつもの様子とは少し違い、申し訳なさそうに二人へ仕事の依頼を出す。
「それでなぁ、今回は少し量が必要で。他の連中にも話して来てくれないかい?ほ、報酬は弾むからさぁ」
「えぇ~、そんな急ぎなのかよ?人数が増えると一人当たりの報酬が減るから嫌なんだけどなぁ~・・・」
「いいじゃないか、リタ。この前の蓄えはまだ十分に残ってるんだろ?今度はパーティーでも開こうぜ!」
金を持っていても、使わなければしょうがないと考えていたガレウスは、リタのように貯蓄して買いたい物もなかった為、新たな仕事で美味い物を食べられると乗り気だった。
「そうだよリタ、今回は臨時だからねぇ。いつもの報酬に更に上乗せしておくよ。これでどうだい?」
「へぇ、随分と気前がいいじゃないか?そんなに景気がいいってのか・・・。まぁいいぜ?んじゃ早速、他の連中にも声かけてくるか!ガレウス、手分けしようぜ。声かけたらいつもの場所で集合な!」
「おう!」
「助かるよ二人とも。き、気をつけてな」
慌ただしく準備を済ませて出掛ける二人を見送った後、それまでの騒がしさが嘘のように静かになる店内で、扉のガラス越しに映る二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送るダラン。すると、店の奥から何者かが姿を表す。
仲間を募ったリタとガレウスは、街のすぐ外で待ち合わせると他の者達に気付かれぬよう迂回していつもの森の中へと入っていった。
集まったのは二人を除いて三人。みんな人間の子供だった。孤児はリタだけだったが、みんな同じく貧しい家系の出身のようで、街で暮らす他の子供達よりも薄汚れた格好をしている。
何故ガレウスだけが獣人なのか。人間と共存しているからといって、違う種族の子供達と頻繁に遊ぶのはガレウスだけだった。そのせいで獣人の子供達から省かれてしまっていた。
彼がそんなことを気にすることはなかったが、リタはそのことを知って孤児である自分とどこか重ねていたのだろう。他の者達以上にガレウスと共に時間を共有するようになる。
「さぁ、さっさと集めちまおうぜ!」
「いっいつモンスターが来るかも分からないしね・・・」
「大丈夫だって!俺とリタが毎回ここで採ってんだから。いつもモンスターどころか動物だって近づきやしないんだから」
口ではそう言いながらも、離れる事なく固まって採取し続ける彼らの元に、それまで全く気配の感じなかった動物が一頭だけ現れる。唯一気配を感じることのできるガレウスでさえ、その気配に気が付かなかった。
「おっおい、何だこいつ・・・いつの間に」
「ガレウス?気配があったら言えって言ってるだろ」
「知ってるよ。けど俺達以外に気配なんて感じなかったんだ。嘘じゃない!」
一見オオカミの子供のような姿をしたその獣は、彼らを警戒することもなく近づいて来る。トボトボとした足取りでやって来たその獣は、採取する彼らの輪の中に入り込む。
「でもモンスターじゃない。ただのオオカミじゃないか?」
「ほっホントだ。なら大丈夫だよね?」
「あぁ、ガレウスがいれば何ともなさそうだが・・・。群れから逸れちゃったのか?」
心配するようにリタがオオカミに近づくと、その小さな身体の内側に子供のオオカミのものとは思えぬ邪悪な気配をガレウスが察知する。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる