1,016 / 1,646
嘗ての忌まわしき記憶
しおりを挟む
素早い身のこなしで周囲の獣達による猛攻を潜り抜けると、高く飛び上がったツクヨはガレウスまでの距離を一気に詰める。彼が着地するであろう場所を定めたミアは、彼が降りて来る前に足場を確保しようと、地上の獣達へ向けて威嚇も込めた無数の弾丸を撃ち放つ。
スナイパーライフルからアサルトライフルへと持ち替えたミアは、特に狙いを定めることもなく蜘蛛の子を散らすように弾をばら撒く。彼女の狙い通り、銃弾をばら撒いた場所から離れていく獣達。何発かは命中したようだが、僅かに怯ませた程度でこれといったダメージにはなっていないだろう。
そこへ布都御魂剣を携えたツクヨが降りてくる。彼の着地を見送った獣達は、そのただ成らぬ雰囲気に圧されるようにして後退りする。だが血に飢えた獣にその場から退くなどという選択肢はなかったようだ。
躊躇いはしたものも、再び魔獣のような目付きでツクヨを睨みつけると、土を巻き上げながら大地を蹴り上げ、鋭利な爪を剥き出しにして飛び掛かる。
ツクヨは依然として目を閉じたまま布都御魂剣を手に、抜刀術のような構えのまましゃがみ込んでいる。獣達が取り囲むように一斉に飛び掛かってくる刹那、彼の手によって鞘から引き抜かれたその宝剣は、周囲に向け一瞬の間に広がる波紋のような衝撃波を打ち放つ。
獣達は出血することもなく、飛び掛かる途中でピクリとも動かなくなる。自分達の身に何が起きたのかさえ分からないといった様子で、殺虫剤を浴びた羽虫のように地面へと落ちていく。
布都御魂剣によって斬られた獣達は、内側に宿る邪悪な意志や魔力を断ち切られたように大きく戦闘力を落とした。そして普通に斬りつけるよりも長い間、まるで自分が何をしていたのか忘れてしまったかのような忘却状態にしていた。
瞬く間にガレウスの周りに集る獣達を討ち払っていくツクヨだったが、依然としてガレウスは別の何かと会話するように言葉を発していた。
「ガレウス!どうしたんんだ!?早くコイツらを倒さないと他の味方がッ・・!」
「よせ!やはり人間は俺達の敵だ・・・!」
ブツブツと何かを呟いていたガレウスは、なんと救助に訪れたツクヨ目がけてその鋭爪を振るったのだ。ツクヨは彼を斬り捨てることも出来ず、その攻撃を受け止める。
「なッ!?ちょっと!どうしたっての!?」
ガレウスの攻撃に手加減などという様子は伺えない。力で押し負けるツクヨの身体がどんどんと地面に吸い寄せられるようにして沈んでいく。
「ガレウス!今はそいつぁ敵じゃねぇだろ!?」
「どうしちまったんだ!?しっかりしてくれよッ!」
一時的に協力関係を結んだ筈の人間を襲っていたガレウスを見て、側近の獣人達が彼の目を覚まさせようと声をかける。同じ種族の声は届いているのか、彼らの声を聞いたガレウスは、すぐにツクヨへの攻撃をやめて後退りする。
「なッ・・・馬鹿な!なんでお前がここに!?」
「はぁ・・・はぁ・・・何にが、見えてるんだい・・・?」
布都御魂剣の効果で、目を閉じている間、周囲の気配やオーラを可視化することのできるツクヨは、周りに隠れている邪悪な気配をも見つけることができる状態にある。
しかし、そんな彼の能力を持ってしてもガレウスの見ていいる何かを見つけることは出来なかった。それもその筈。いくら邪を払う力を持ってしても、幻覚症状に見舞われている者の見ている景色を把握することまでは出来ないのだ。
ガレウスの目を覚まさせる事ができない以上、原因を取り除く他ない。だが、彼がいつの間に幻覚を見るようになってしまったかなど、その場にいた誰にも分かることではなかった。
すると、ガレウスはツクヨを見ながら何かと勘違いしているかのような発言をしていた。それが聞こえたのは、側にいたツクヨだけ。だがそれを聞いてツクヨは、ガレウスが幻覚の類を見ているだろうということに気がつく。
「お前は・・・アズール達と森へ向かった筈だろ?何故お前一人が戻ってきたんだ、“ケツァル“!」
「・・・ケツァル?今度は私を何かと勘違いしているのか・・・?いや、これは幻覚を見させられているのか?」
すぐに異変を感じ取ったツクヨは、ガレウスの周辺の獣達を粗方斬り伏せるとその場を離れ、ミアに今起きた出来事を伝える。攻撃をされたり、違う者と間違えられたりと、その様子からもミアはツクヨと同じ結論に至った。
戦いの中でガレウスは、いつの間にか幻覚を見るようになってしまったのだと。人間である彼らでは、言葉や行動を起こしても裏目に出るだけかもしれない。事情を話し、ガレウスの側近の獣人達に声をかけてもらうことにした二人は、作戦を一時中断し今度は獣人の助けるために動く。
再び布都御魂剣の力で獣達を斬り捨てて行ったツクヨは、獣人達を救助しながら事情を話す。
「幻覚だぁ!?・・・確かに、そんな様子だな・・・ありゃぁ」
「あぁ、普段のアイツならこんなに押されることもねぇ筈だ・・・。分かった!アンタらのいう通りやってみるぜ!」
一部始終を目にしていたこともあり、彼らもガレウスの様子がおかしいことには気がついていた。このままでは囮を買って出るのはいいものの、いずれジリ貧になり囲まれてしまう。
ツクヨの言葉に辻褄が通っていると判断した獣人達は、獣を退けながらガレウスの元へと向かう。
「おい!ガレウス!遊んでる場合じゃねぇぞ!ここにケツァルの奴はいねぇ!お前の見てるのは幻覚だ!目ぇ覚ませッ!」
一人の獣人が大声を出してガレウスに呼びかける。彼が注目を集めている内に、もう一人の獣人がガレウスに接触し、彼の肩を掴んで身体を揺さぶる。
「ガレウス!しっかりしてくれ!」
「やめろ・・・俺は・・・お前達を置いて・・・」
何かに苛まれるように頭を抱えてしまうガレウス。いつにもなく弱気な姿に、側近の獣人も驚いた様子を見せる。
「・・・ガレウス?」
「すまない・・・俺は・・・臆病者だった・・・」
スナイパーライフルからアサルトライフルへと持ち替えたミアは、特に狙いを定めることもなく蜘蛛の子を散らすように弾をばら撒く。彼女の狙い通り、銃弾をばら撒いた場所から離れていく獣達。何発かは命中したようだが、僅かに怯ませた程度でこれといったダメージにはなっていないだろう。
そこへ布都御魂剣を携えたツクヨが降りてくる。彼の着地を見送った獣達は、そのただ成らぬ雰囲気に圧されるようにして後退りする。だが血に飢えた獣にその場から退くなどという選択肢はなかったようだ。
躊躇いはしたものも、再び魔獣のような目付きでツクヨを睨みつけると、土を巻き上げながら大地を蹴り上げ、鋭利な爪を剥き出しにして飛び掛かる。
ツクヨは依然として目を閉じたまま布都御魂剣を手に、抜刀術のような構えのまましゃがみ込んでいる。獣達が取り囲むように一斉に飛び掛かってくる刹那、彼の手によって鞘から引き抜かれたその宝剣は、周囲に向け一瞬の間に広がる波紋のような衝撃波を打ち放つ。
獣達は出血することもなく、飛び掛かる途中でピクリとも動かなくなる。自分達の身に何が起きたのかさえ分からないといった様子で、殺虫剤を浴びた羽虫のように地面へと落ちていく。
布都御魂剣によって斬られた獣達は、内側に宿る邪悪な意志や魔力を断ち切られたように大きく戦闘力を落とした。そして普通に斬りつけるよりも長い間、まるで自分が何をしていたのか忘れてしまったかのような忘却状態にしていた。
瞬く間にガレウスの周りに集る獣達を討ち払っていくツクヨだったが、依然としてガレウスは別の何かと会話するように言葉を発していた。
「ガレウス!どうしたんんだ!?早くコイツらを倒さないと他の味方がッ・・!」
「よせ!やはり人間は俺達の敵だ・・・!」
ブツブツと何かを呟いていたガレウスは、なんと救助に訪れたツクヨ目がけてその鋭爪を振るったのだ。ツクヨは彼を斬り捨てることも出来ず、その攻撃を受け止める。
「なッ!?ちょっと!どうしたっての!?」
ガレウスの攻撃に手加減などという様子は伺えない。力で押し負けるツクヨの身体がどんどんと地面に吸い寄せられるようにして沈んでいく。
「ガレウス!今はそいつぁ敵じゃねぇだろ!?」
「どうしちまったんだ!?しっかりしてくれよッ!」
一時的に協力関係を結んだ筈の人間を襲っていたガレウスを見て、側近の獣人達が彼の目を覚まさせようと声をかける。同じ種族の声は届いているのか、彼らの声を聞いたガレウスは、すぐにツクヨへの攻撃をやめて後退りする。
「なッ・・・馬鹿な!なんでお前がここに!?」
「はぁ・・・はぁ・・・何にが、見えてるんだい・・・?」
布都御魂剣の効果で、目を閉じている間、周囲の気配やオーラを可視化することのできるツクヨは、周りに隠れている邪悪な気配をも見つけることができる状態にある。
しかし、そんな彼の能力を持ってしてもガレウスの見ていいる何かを見つけることは出来なかった。それもその筈。いくら邪を払う力を持ってしても、幻覚症状に見舞われている者の見ている景色を把握することまでは出来ないのだ。
ガレウスの目を覚まさせる事ができない以上、原因を取り除く他ない。だが、彼がいつの間に幻覚を見るようになってしまったかなど、その場にいた誰にも分かることではなかった。
すると、ガレウスはツクヨを見ながら何かと勘違いしているかのような発言をしていた。それが聞こえたのは、側にいたツクヨだけ。だがそれを聞いてツクヨは、ガレウスが幻覚の類を見ているだろうということに気がつく。
「お前は・・・アズール達と森へ向かった筈だろ?何故お前一人が戻ってきたんだ、“ケツァル“!」
「・・・ケツァル?今度は私を何かと勘違いしているのか・・・?いや、これは幻覚を見させられているのか?」
すぐに異変を感じ取ったツクヨは、ガレウスの周辺の獣達を粗方斬り伏せるとその場を離れ、ミアに今起きた出来事を伝える。攻撃をされたり、違う者と間違えられたりと、その様子からもミアはツクヨと同じ結論に至った。
戦いの中でガレウスは、いつの間にか幻覚を見るようになってしまったのだと。人間である彼らでは、言葉や行動を起こしても裏目に出るだけかもしれない。事情を話し、ガレウスの側近の獣人達に声をかけてもらうことにした二人は、作戦を一時中断し今度は獣人の助けるために動く。
再び布都御魂剣の力で獣達を斬り捨てて行ったツクヨは、獣人達を救助しながら事情を話す。
「幻覚だぁ!?・・・確かに、そんな様子だな・・・ありゃぁ」
「あぁ、普段のアイツならこんなに押されることもねぇ筈だ・・・。分かった!アンタらのいう通りやってみるぜ!」
一部始終を目にしていたこともあり、彼らもガレウスの様子がおかしいことには気がついていた。このままでは囮を買って出るのはいいものの、いずれジリ貧になり囲まれてしまう。
ツクヨの言葉に辻褄が通っていると判断した獣人達は、獣を退けながらガレウスの元へと向かう。
「おい!ガレウス!遊んでる場合じゃねぇぞ!ここにケツァルの奴はいねぇ!お前の見てるのは幻覚だ!目ぇ覚ませッ!」
一人の獣人が大声を出してガレウスに呼びかける。彼が注目を集めている内に、もう一人の獣人がガレウスに接触し、彼の肩を掴んで身体を揺さぶる。
「ガレウス!しっかりしてくれ!」
「やめろ・・・俺は・・・お前達を置いて・・・」
何かに苛まれるように頭を抱えてしまうガレウス。いつにもなく弱気な姿に、側近の獣人も驚いた様子を見せる。
「・・・ガレウス?」
「すまない・・・俺は・・・臆病者だった・・・」
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる