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自分の意思で・・・
しおりを挟む そんな折に彼が耳にしたのは、ケツァルが何か良からぬ事を企んでいるのではないかという噂話だった。確かに以前から、ケツァルはガレウスのやり方に反対的ではあった。その事でもめている場面を目にすることも何度かあったが、その時のガルムはガレウスの言うように人間は卑劣で狡猾な生き物だと思い込んでいたのだ。
一度別の種族にそういった印象を受けると、なかなか払拭できるものではない。人間を見るだけで嫌悪感を抱くほど憎くて堪らなくなる。だが、拷問の手伝いをする中で、そんな者達の弱った姿や自分と同じ憎しみの目を見ていく内に、考え方が変わってしまったのだ。
ガルムは良くも悪くも、一つの事柄を貫き、信じきれる性分ではなかったようだ。しかし、彼の周りには同じく人間に友人や恋人、家族を拐われた者や中には目の前で殺された者がおり、とてもそのような事を相談できる相手がいなかった。
一人で悩んでいる内に、リナムルへ近づいてくる人間の馬車がやって来るのを知った獣人達は、このタイミングで多くの荷物を運び込む馬車を、周辺に潜む人間への物資なのではないかと考え、捕らえることを計画する。
人間が住んでいた頃のリナムルとの交易は、それまでとても珍しいものだった。だが、ある時期からリナムルで採れる木材が良質なものであることが広まり、訪れる者が増えたのだそうだ。
そしてそれに巻き込まれたのがシン達であり、実際にその馬車には怪しげな薬が積まれていた。その事からも、やはり馬車に乗っていた何者かが樹海に潜む人間に何かを届けようとした可能性は大きい。
救護室に着いた一行は運んできたアカリと紅葉をベッドに寝かせ休ませると、その容態を確認する。外傷はなく、彼らが受けているダメージはその殆どが内面的なものだった。
単なる回復薬では治療の施しようもない為、彼らは一旦アカリと紅葉をその場に預け、リナムル全域で戦う他の同胞達を助けるため、各々手分けして救援に向かう。
場面はミアやツクヨがガレウスらと共に残った、獣の群れの先陣を引き受けていたところへと戻る。
ガレウス率いる武闘派の獣人族のおかげで、戦線は彼らにとって有利に運んでいた。襲い掛かる獣達の猛攻を受け止める獣人族に、隙をついて急所を引き裂くツクヨの斬撃。
そして、鷹の目と言わんばかりに鋭いミアの狙撃は、獲物を確実に一撃で仕留めていく。通常の銃弾とは異なる弾を使っていた彼女の狙撃は、銃弾が獣の身体や頭部を貫通する事なく、ガレウスや他の獣人達を巻き添えにすることがなかった。
銃弾は獣の体内で弾頭を開き、鋭いエッジが牙のように肉を裂いて留まる事で、単に狙撃によって撃ち抜くよりも致命的なダメージを与える。
しかし、特別な銃弾が故にその在庫には限りがある。ツクヨの不意打ちによる攻撃に期待しつつ、残りの獣をどうやって仕留めていくかのペース配分が重要となる。
そして彼らの前でも、一瞬で仕留め切れずに戦闘が長引いた個体が、アズールが戦った獣と同じように自身の肉体を強化し始めたのだ。明らかに異質な雰囲気を放ち始める個体に、彼らの注目も集まった。
「何だありゃぁ・・・俺らの真似事かぁ?」
「ガレウス!今までと様子が違う!嫌な予感がするぜ、変化が完了する前に仕留めちまおう!」
標的を強化状態へ移行した個体に絞ると、ガレウスの側近の二人の獣人が迫り来る獣を押し退け、ガレウスの向かう道を作り出す。
「手は足りるかい?」
「元から足りてんだよ。人間如きがしゃしゃり出るな」
「あぁそうかい。頼もしい限りだねぇ」
敵の気配というものに疎かったツクヨだったが、このリナムルで受けた獣の力のおかげでより鮮明に気配の強さや、その危険度を感覚で掴めるようになっていた。その彼の感覚も言っているように、敵である獣の肉体強化はまだその完成形を見る事なく、手に負えぬほどに悍ましいと想像がついていた。
何としても強化を途中で止めなければならないと、ガレウスに手を貸そうとしたツクヨだったが、その差し伸べた手は強い言葉と共に払い退けられてしまう。
だが、ガレウスの戦闘能力が並はずれているのも事実。ツクヨもミアも、その力を目にしているが故に彼らに任せても大丈夫だろうという、どこか安心した気持ちでいた。
実際にツクヨも簡単に手が離せる状況にはない。そしてミアも、複数を同時に狙撃することは出来ず、彼女にとっての救うべき対象の優先順位もある。危機が迫れば、ミアはガレウスら獣人達よりも仲間であるツクヨの命を優先する。
そんな中、一行の期待を一身に受けたガレウスは、側近の獣人が開いた道を凄まじい駆け足で潜り抜け、あっという間に肉体強化を始めていた獣の元へと辿り着いてしまう。
間近に迫ったことで、ガレウスにはその獣の中で蠢く恐ろしいものの気配が伝わって来ていた。不気味に身体をうねらせる獣の中に、何か別の生き物でも入っているのではないかという予感が、ガレウスの脳裏を過ぎる。
何かが獣の皮を破り生まれてくる前に、その息の根を止めてしまわねば。ガレウスは自身の腕を一瞬にして肉体強化させると、その剛腕で獣の頭を鷲掴みにし、果実を握り潰すように獣の頭部を破壊した。
「不気味な野郎だ・・・。だが、そんな状態を見せられて見逃す程、俺らはッ・・・!」
言葉を続けようとしたガレウスの口を止めたのは、いつの間にか取り囲むように周囲に集まっていた獣達の姿だった。
一度別の種族にそういった印象を受けると、なかなか払拭できるものではない。人間を見るだけで嫌悪感を抱くほど憎くて堪らなくなる。だが、拷問の手伝いをする中で、そんな者達の弱った姿や自分と同じ憎しみの目を見ていく内に、考え方が変わってしまったのだ。
ガルムは良くも悪くも、一つの事柄を貫き、信じきれる性分ではなかったようだ。しかし、彼の周りには同じく人間に友人や恋人、家族を拐われた者や中には目の前で殺された者がおり、とてもそのような事を相談できる相手がいなかった。
一人で悩んでいる内に、リナムルへ近づいてくる人間の馬車がやって来るのを知った獣人達は、このタイミングで多くの荷物を運び込む馬車を、周辺に潜む人間への物資なのではないかと考え、捕らえることを計画する。
人間が住んでいた頃のリナムルとの交易は、それまでとても珍しいものだった。だが、ある時期からリナムルで採れる木材が良質なものであることが広まり、訪れる者が増えたのだそうだ。
そしてそれに巻き込まれたのがシン達であり、実際にその馬車には怪しげな薬が積まれていた。その事からも、やはり馬車に乗っていた何者かが樹海に潜む人間に何かを届けようとした可能性は大きい。
救護室に着いた一行は運んできたアカリと紅葉をベッドに寝かせ休ませると、その容態を確認する。外傷はなく、彼らが受けているダメージはその殆どが内面的なものだった。
単なる回復薬では治療の施しようもない為、彼らは一旦アカリと紅葉をその場に預け、リナムル全域で戦う他の同胞達を助けるため、各々手分けして救援に向かう。
場面はミアやツクヨがガレウスらと共に残った、獣の群れの先陣を引き受けていたところへと戻る。
ガレウス率いる武闘派の獣人族のおかげで、戦線は彼らにとって有利に運んでいた。襲い掛かる獣達の猛攻を受け止める獣人族に、隙をついて急所を引き裂くツクヨの斬撃。
そして、鷹の目と言わんばかりに鋭いミアの狙撃は、獲物を確実に一撃で仕留めていく。通常の銃弾とは異なる弾を使っていた彼女の狙撃は、銃弾が獣の身体や頭部を貫通する事なく、ガレウスや他の獣人達を巻き添えにすることがなかった。
銃弾は獣の体内で弾頭を開き、鋭いエッジが牙のように肉を裂いて留まる事で、単に狙撃によって撃ち抜くよりも致命的なダメージを与える。
しかし、特別な銃弾が故にその在庫には限りがある。ツクヨの不意打ちによる攻撃に期待しつつ、残りの獣をどうやって仕留めていくかのペース配分が重要となる。
そして彼らの前でも、一瞬で仕留め切れずに戦闘が長引いた個体が、アズールが戦った獣と同じように自身の肉体を強化し始めたのだ。明らかに異質な雰囲気を放ち始める個体に、彼らの注目も集まった。
「何だありゃぁ・・・俺らの真似事かぁ?」
「ガレウス!今までと様子が違う!嫌な予感がするぜ、変化が完了する前に仕留めちまおう!」
標的を強化状態へ移行した個体に絞ると、ガレウスの側近の二人の獣人が迫り来る獣を押し退け、ガレウスの向かう道を作り出す。
「手は足りるかい?」
「元から足りてんだよ。人間如きがしゃしゃり出るな」
「あぁそうかい。頼もしい限りだねぇ」
敵の気配というものに疎かったツクヨだったが、このリナムルで受けた獣の力のおかげでより鮮明に気配の強さや、その危険度を感覚で掴めるようになっていた。その彼の感覚も言っているように、敵である獣の肉体強化はまだその完成形を見る事なく、手に負えぬほどに悍ましいと想像がついていた。
何としても強化を途中で止めなければならないと、ガレウスに手を貸そうとしたツクヨだったが、その差し伸べた手は強い言葉と共に払い退けられてしまう。
だが、ガレウスの戦闘能力が並はずれているのも事実。ツクヨもミアも、その力を目にしているが故に彼らに任せても大丈夫だろうという、どこか安心した気持ちでいた。
実際にツクヨも簡単に手が離せる状況にはない。そしてミアも、複数を同時に狙撃することは出来ず、彼女にとっての救うべき対象の優先順位もある。危機が迫れば、ミアはガレウスら獣人達よりも仲間であるツクヨの命を優先する。
そんな中、一行の期待を一身に受けたガレウスは、側近の獣人が開いた道を凄まじい駆け足で潜り抜け、あっという間に肉体強化を始めていた獣の元へと辿り着いてしまう。
間近に迫ったことで、ガレウスにはその獣の中で蠢く恐ろしいものの気配が伝わって来ていた。不気味に身体をうねらせる獣の中に、何か別の生き物でも入っているのではないかという予感が、ガレウスの脳裏を過ぎる。
何かが獣の皮を破り生まれてくる前に、その息の根を止めてしまわねば。ガレウスは自身の腕を一瞬にして肉体強化させると、その剛腕で獣の頭を鷲掴みにし、果実を握り潰すように獣の頭部を破壊した。
「不気味な野郎だ・・・。だが、そんな状態を見せられて見逃す程、俺らはッ・・・!」
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