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神代 コウ

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リナムルの一大事

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 それぞれが位置につき、激撃の準備を整えると、リナムルへ向かって来ていた気配の先頭が彼らの前に姿を現す。少しでも隙を作る為だと、ガレウスは側近の者達とツクヨを近くの物陰に隠し、すぐに不意打ちや散開などの行動に移れるよう待機させる。

 囮役を引き受けたガレウスは、草木を掻き分けて飛び出してきた者の気配に合わせ、攻撃態勢に入る。しかしそこで彼の前に姿を現したのは、彼と同じ獣人族だったのだ。

 「ッ・・・!?」

 「たッ助けてくれ!!もうダメだぁ!!」

 必死の形相で飛び込んできた見慣れた姿に、驚きを隠せないガレウス。そこへ逃げ込んできた獣人を狙っていた獣が複数飛び出してくる。すぐに視線を戻し迎撃するガレウス。

 一番初めに飛び掛かってきた獣を躱すと、その足を掴み力任せに振り回すと、数体の獣を巻き込んで大きく後方へと吹き飛ばす。獲物をガレウスに絞った獣達は、すかさず彼に向かって飛び掛かってくる。

 立て続けに攻撃を仕掛けてくる獣を、その巨体からは想像もつかない身のこなしで躱していくと、攻撃の手が緩んだ僅かな隙に自身の戦闘能力を上げる肉体強化を行うガレウス。

 彼の肉体強化は、これまでのケツァルやアズールとも違い、変化としてそれほど大きく見た目に現れるものではなかった。戦闘能力も僅かに向上はしているものの、急激なパワーアップは果たせていないようにもとれる。

 これが獣人族で一番戦闘能力に特化した獣人の力なのか。飛ばされていく獣達に次々にトドメを刺していくミアとツクヨ。そして彼の側近達も、やはりそれなりの戦闘能力を有していたようで、ガルムよりも早くそして力強い一撃で、獣を仕留めていく。

 僅かに遅れを見せるガルムだったが、ミアやツクヨのアシストを受け何とか戦えている。それでも一度獣達の前に姿を現したからには、そこからは不意打ちのない真っ向勝負となる。

 彼らはまだ知る由もないが、ここで懸念されるのは獣達の肉体強化だった。戦いが長引けば長引くほどこちらが不利になる。それでも手を止めることなく戦う彼らの元に、更なる悲報が告げられる。

 召集を命じていた筈の獣人が一人で戻ってくると、リナムルへ向かって来ていた気配は、彼らが相手にしている者達だけではなく、リナムルを取り囲むように周囲に潜んでおり、戦闘開始を合図に次々にリナムルの施設を攻撃し始めたのだという。

 「ガレウス!敵襲だ!奴らアジトの周りで潜んでやがったんだ!召集に応じてられる場合じゃねぇ!各地でまた戦いが起きちまってる!」


「何だぁ!?クソッ・・・こっちだって手ぇいっぱいだっての!」

 獣達が獣人族と同じように、肉体を強化することもできれば、気配を消すことも出来ることを彼らはすっかり忘れてしまっていたのだ。

 獣の襲撃は見境なく行われ、ツバキやアカリのいる店や施設にも入り込んでいた。そこら中から聞こえてくるガラスが割れる音や物が壊れる音に、最初の襲撃を迎え撃ったミア達の焦りは増していった。

 ツバキのいたジャンク屋の窓から、数体の獣が飛び込んで来る。しかし、家屋の中は薄暗く灯りが付いていない。先程までツバキや獣人達がいた時には、確かに灯りが点されていた。

 獲物を探すように鼻をひくひくとさせながら家屋を彷徨く獣達。何処かに身を隠しているのか、獣の鼻を持ってしてもツバキらを見つけることが出来ない様子。

 すると、天井から淡い光と共に徐々に大きくなるギアを上げていくかのような機械音が鳴り響く。獣達が一斉に顔を上げて見上げると、そこには天井に張り付く獣人達の姿があった。

 そしてその足には、ツバキが店のジャンク品から作り出したガジェットが取り付けられていた。ガジェットの側面に取り付けられているコアのような球体が高速回転し、青白い稲妻のようなものを発生させている。

 「試してもいねぇのに、すげぇ力が凝縮していくのが分かるぜ!」
 「あぁ、今俺の蹴りはあの世界樹“ユグドラシル“にさえも風穴を開ける勢いだ!」

 漸く見つけた獲物を前に、魔獣のような恐ろしい形相へと変わる獣達。床に爪がめり込む程の力を溜めて体勢を低くすると、力強い跳躍で跳び上がり天井の獣人族目掛けて飛び掛かる。

 同時に獣人族も、その足に溜め込んだ力を見せつけんとばかりに天井を蹴って飛び降りると、目にも止まらぬ閃光のような蹴りを放つ。薄暗い室内に一瞬の光が駆け抜けていくと、獣の身体は瞬く間に千切れ飛んだ。
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