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信用と迫る脅威
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リナムルが襲撃を受けてから、漸く留守を任されていたはずのガレウスという獣人が彼らの前に姿を現した。一族の危機にガレウスは一体今まで何をしていたのか。
「それよりもガレウス。一体今までどこにいたんだ?まさかお前でも苦戦を強いられる奴でもいたのか?」
「人間を上手く手懐けたようだな。丁度いい、お前にも聞いてもらいたい事がある」
そう言って彼が付き人の獣人から受け取ったのは、何やら小さな瓶に入った液体だった。半透明で不気味な緑色をした、奇しくもどこか惹かれるそれを、ガレウスは神経系の毒だと言っていた。
どうやら彼は、リナムルを襲撃した獣を捕らえ、その生態を調べるために拷問室に連れていくと、縛り付けたその身体から見知った薬物反応が現れたのだという。
どこでそれを見たのか思い出そうとしたガレウスは、シン達がリナムル近郊を移動している時に襲撃した、馬車の荷台に積まれた物品のリストに目を通す。するとそこには、獣の体内から抽出されたものと同じ毒素を含む液体が見付かったのだそうだ。
「それじゃぁ、こいつらの乗ってきた馬車に・・・」
「そうだ。我々の憎むべき者達に関与していた疑いのある人物がいる」
雲行きの怪しくなる彼らの会話に、自分達はリナムルへ向かう手段として護衛を引き受けただけだと主張するツクヨ。しかし獣人族は、そんな彼の言葉に耳を貸そうともしなかった。
人間を信用しかけていたガルムにとって、彼の判断を迷わせる要素が顕になる。リストの捏造は考えられないかとツクヨが尋ねるも、揺らいだ信用を抱える彼ら人間の言葉は、ガルムが手放しに信用できるほどの言葉ではなかった。
だが、ガルムにとっては命を救われたのも事実。それに救われたのはガルムだけではない。騙すつもりなら、わざわざ邪魔になる者達を協力してまで助けるだろうか。
葛藤するガルムを唆すように、ガレウスは獣人族が受けた仕打ちを思い出せと言わんばかりに言葉をかける。
「お前がどう言った状況で助けられたのかは知らんが、人間は言葉巧みに相手を騙し貶める。信用させる為に、油断させる為の行動だったのかもしれない。現にお前は今、迷っているのだろ?判断に迷った時は、我々が受けた仕打ちを思い出せ!それを許して水に流せるほどの信用なのか・・・とな」
「ガルム、君達がどんなに酷い目にあったのかは、私達には理解し得ぬことだ・・・。だが、もし裏切るつもりならチャンスはいくらでもあったとは思わないか?それに今、ツバキやアカリは君達獣人族によって守ってもらってる状況だ。わざわざそんな状況を作り出すものか?毒と私達は無関係だ、信じてくれ!」
「人間はいつもそうやって懐に入ろうとする。素直に殺しに来ないのは何故か。それは“弱い“からだ。弱みに漬け込み信用させ、弱ったところを狙うのだ。それが人間の常套手段だろ?」
ガルムの意見もそっちのけで、互いの主張を言い合うガレウスとツクヨ。そこへ木の上の狙撃ポイントから降りてきたミアが、最早言葉では理解し合えないことを悟り、行動でそれを示すしかないとツクヨを宥める。
するとガレウスは、争いに発展しなかったことを悔いるように身を引く。するとそんな彼らは、リナムルに近づいて来る複数の気配に気がつく。気配自体はリナムルを襲撃していた獣と同じだったが、彼らを驚かせたのはその数だった。
「何だこの数は!?」
「全部こっちに向かって来てるのか!?」
「マズイぞ!いくら何でもこの数はッ・・・!」
リナムルへ向かって来る複数の気配に騒ぎ出す獣人達。そして食べ物を通じて薬を盛られたミアとツクヨにも、獣の力が宿っており獣人族と同じような気配をリナムル周辺に感じていた。
「信用問題を説いている暇はない!今は生き残る為に協力するべきだろ!?」
思わぬ緊急事態に声を荒立てるミアに、既に覚悟を決めていたかのような表情のガレウスが戦える獣人を集めるように命令し、やって来る獣の気配を迎え討たんと準備を始める。
「貴様らに言われんでも、こき使ってやる!銃を持った女、お前には狙撃を任せる。剣士の男には我々と共に引きつけ役をやって貰う。言っておくが拒否権はない。断ればガキ共を先に・・・」
「言われなくてもそんな気、起こさないよ!」
猶予のない彼らは、すぐに各々の役割を果たすための位置につく。獣人族に召集はかけてはいるが、到着までにはまだ時間が掛かる。獣の集団の到着に間に合わなければ、ここにいる者達だけで時間を稼がなければならない。
ガレウスの戦力がどれ程のものかわからないが、行える時間稼ぎになど限りがある。それも期待できるほど長くは保たないだろう。だがこの後に及んで策を企てる暇もない。
こちら側の戦力を把握しているガレウスの判断に全てを委ねる他ない。ミア達が期待できるものとすれば、ガレウスの戦闘能力に賭けるしかないのだから。
「それよりもガレウス。一体今までどこにいたんだ?まさかお前でも苦戦を強いられる奴でもいたのか?」
「人間を上手く手懐けたようだな。丁度いい、お前にも聞いてもらいたい事がある」
そう言って彼が付き人の獣人から受け取ったのは、何やら小さな瓶に入った液体だった。半透明で不気味な緑色をした、奇しくもどこか惹かれるそれを、ガレウスは神経系の毒だと言っていた。
どうやら彼は、リナムルを襲撃した獣を捕らえ、その生態を調べるために拷問室に連れていくと、縛り付けたその身体から見知った薬物反応が現れたのだという。
どこでそれを見たのか思い出そうとしたガレウスは、シン達がリナムル近郊を移動している時に襲撃した、馬車の荷台に積まれた物品のリストに目を通す。するとそこには、獣の体内から抽出されたものと同じ毒素を含む液体が見付かったのだそうだ。
「それじゃぁ、こいつらの乗ってきた馬車に・・・」
「そうだ。我々の憎むべき者達に関与していた疑いのある人物がいる」
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だが、ガルムにとっては命を救われたのも事実。それに救われたのはガルムだけではない。騙すつもりなら、わざわざ邪魔になる者達を協力してまで助けるだろうか。
葛藤するガルムを唆すように、ガレウスは獣人族が受けた仕打ちを思い出せと言わんばかりに言葉をかける。
「お前がどう言った状況で助けられたのかは知らんが、人間は言葉巧みに相手を騙し貶める。信用させる為に、油断させる為の行動だったのかもしれない。現にお前は今、迷っているのだろ?判断に迷った時は、我々が受けた仕打ちを思い出せ!それを許して水に流せるほどの信用なのか・・・とな」
「ガルム、君達がどんなに酷い目にあったのかは、私達には理解し得ぬことだ・・・。だが、もし裏切るつもりならチャンスはいくらでもあったとは思わないか?それに今、ツバキやアカリは君達獣人族によって守ってもらってる状況だ。わざわざそんな状況を作り出すものか?毒と私達は無関係だ、信じてくれ!」
「人間はいつもそうやって懐に入ろうとする。素直に殺しに来ないのは何故か。それは“弱い“からだ。弱みに漬け込み信用させ、弱ったところを狙うのだ。それが人間の常套手段だろ?」
ガルムの意見もそっちのけで、互いの主張を言い合うガレウスとツクヨ。そこへ木の上の狙撃ポイントから降りてきたミアが、最早言葉では理解し合えないことを悟り、行動でそれを示すしかないとツクヨを宥める。
するとガレウスは、争いに発展しなかったことを悔いるように身を引く。するとそんな彼らは、リナムルに近づいて来る複数の気配に気がつく。気配自体はリナムルを襲撃していた獣と同じだったが、彼らを驚かせたのはその数だった。
「何だこの数は!?」
「全部こっちに向かって来てるのか!?」
「マズイぞ!いくら何でもこの数はッ・・・!」
リナムルへ向かって来る複数の気配に騒ぎ出す獣人達。そして食べ物を通じて薬を盛られたミアとツクヨにも、獣の力が宿っており獣人族と同じような気配をリナムル周辺に感じていた。
「信用問題を説いている暇はない!今は生き残る為に協力するべきだろ!?」
思わぬ緊急事態に声を荒立てるミアに、既に覚悟を決めていたかのような表情のガレウスが戦える獣人を集めるように命令し、やって来る獣の気配を迎え討たんと準備を始める。
「貴様らに言われんでも、こき使ってやる!銃を持った女、お前には狙撃を任せる。剣士の男には我々と共に引きつけ役をやって貰う。言っておくが拒否権はない。断ればガキ共を先に・・・」
「言われなくてもそんな気、起こさないよ!」
猶予のない彼らは、すぐに各々の役割を果たすための位置につく。獣人族に召集はかけてはいるが、到着までにはまだ時間が掛かる。獣の集団の到着に間に合わなければ、ここにいる者達だけで時間を稼がなければならない。
ガレウスの戦力がどれ程のものかわからないが、行える時間稼ぎになど限りがある。それも期待できるほど長くは保たないだろう。だがこの後に及んで策を企てる暇もない。
こちら側の戦力を把握しているガレウスの判断に全てを委ねる他ない。ミア達が期待できるものとすれば、ガレウスの戦闘能力に賭けるしかないのだから。
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