World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,007 / 1,646

信用と迫る脅威

しおりを挟む
 リナムルが襲撃を受けてから、漸く留守を任されていたはずのガレウスという獣人が彼らの前に姿を現した。一族の危機にガレウスは一体今まで何をしていたのか。

 「それよりもガレウス。一体今までどこにいたんだ?まさかお前でも苦戦を強いられる奴でもいたのか?」

 「人間を上手く手懐けたようだな。丁度いい、お前にも聞いてもらいたい事がある」

 そう言って彼が付き人の獣人から受け取ったのは、何やら小さな瓶に入った液体だった。半透明で不気味な緑色をした、奇しくもどこか惹かれるそれを、ガレウスは神経系の毒だと言っていた。

 どうやら彼は、リナムルを襲撃した獣を捕らえ、その生態を調べるために拷問室に連れていくと、縛り付けたその身体から見知った薬物反応が現れたのだという。

 どこでそれを見たのか思い出そうとしたガレウスは、シン達がリナムル近郊を移動している時に襲撃した、馬車の荷台に積まれた物品のリストに目を通す。するとそこには、獣の体内から抽出されたものと同じ毒素を含む液体が見付かったのだそうだ。

 「それじゃぁ、こいつらの乗ってきた馬車に・・・」

 「そうだ。我々の憎むべき者達に関与していた疑いのある人物がいる」

 雲行きの怪しくなる彼らの会話に、自分達はリナムルへ向かう手段として護衛を引き受けただけだと主張するツクヨ。しかし獣人族は、そんな彼の言葉に耳を貸そうともしなかった。

 人間を信用しかけていたガルムにとって、彼の判断を迷わせる要素が顕になる。リストの捏造は考えられないかとツクヨが尋ねるも、揺らいだ信用を抱える彼ら人間の言葉は、ガルムが手放しに信用できるほどの言葉ではなかった。

 だが、ガルムにとっては命を救われたのも事実。それに救われたのはガルムだけではない。騙すつもりなら、わざわざ邪魔になる者達を協力してまで助けるだろうか。

 葛藤するガルムを唆すように、ガレウスは獣人族が受けた仕打ちを思い出せと言わんばかりに言葉をかける。

 「お前がどう言った状況で助けられたのかは知らんが、人間は言葉巧みに相手を騙し貶める。信用させる為に、油断させる為の行動だったのかもしれない。現にお前は今、迷っているのだろ?判断に迷った時は、我々が受けた仕打ちを思い出せ!それを許して水に流せるほどの信用なのか・・・とな」

 「ガルム、君達がどんなに酷い目にあったのかは、私達には理解し得ぬことだ・・・。だが、もし裏切るつもりならチャンスはいくらでもあったとは思わないか?それに今、ツバキやアカリは君達獣人族によって守ってもらってる状況だ。わざわざそんな状況を作り出すものか?毒と私達は無関係だ、信じてくれ!」

 「人間はいつもそうやって懐に入ろうとする。素直に殺しに来ないのは何故か。それは“弱い“からだ。弱みに漬け込み信用させ、弱ったところを狙うのだ。それが人間の常套手段だろ?」

 ガルムの意見もそっちのけで、互いの主張を言い合うガレウスとツクヨ。そこへ木の上の狙撃ポイントから降りてきたミアが、最早言葉では理解し合えないことを悟り、行動でそれを示すしかないとツクヨを宥める。

 するとガレウスは、争いに発展しなかったことを悔いるように身を引く。するとそんな彼らは、リナムルに近づいて来る複数の気配に気がつく。気配自体はリナムルを襲撃していた獣と同じだったが、彼らを驚かせたのはその数だった。

 「何だこの数は!?」
 「全部こっちに向かって来てるのか!?」
 「マズイぞ!いくら何でもこの数はッ・・・!」

 リナムルへ向かって来る複数の気配に騒ぎ出す獣人達。そして食べ物を通じて薬を盛られたミアとツクヨにも、獣の力が宿っており獣人族と同じような気配をリナムル周辺に感じていた。

 「信用問題を説いている暇はない!今は生き残る為に協力するべきだろ!?」

 思わぬ緊急事態に声を荒立てるミアに、既に覚悟を決めていたかのような表情のガレウスが戦える獣人を集めるように命令し、やって来る獣の気配を迎え討たんと準備を始める。

 「貴様らに言われんでも、こき使ってやる!銃を持った女、お前には狙撃を任せる。剣士の男には我々と共に引きつけ役をやって貰う。言っておくが拒否権はない。断ればガキ共を先に・・・」

 「言われなくてもそんな気、起こさないよ!」

 猶予のない彼らは、すぐに各々の役割を果たすための位置につく。獣人族に召集はかけてはいるが、到着までにはまだ時間が掛かる。獣の集団の到着に間に合わなければ、ここにいる者達だけで時間を稼がなければならない。

 ガレウスの戦力がどれ程のものかわからないが、行える時間稼ぎになど限りがある。それも期待できるほど長くは保たないだろう。だがこの後に及んで策を企てる暇もない。

 こちら側の戦力を把握しているガレウスの判断に全てを委ねる他ない。ミア達が期待できるものとすれば、ガレウスの戦闘能力に賭けるしかないのだから。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...