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神代 コウ

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本当の功労者

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 アズールがケツァルの指示に従い同胞の救助へ向かった頃、獣達の襲撃を受けていたリナムルでは、逃げ延びていた獣人族の生き残りと協力し、ミア達が奮闘することで様々な施設が開放されていた。

 「いいのか!?これも使っちゃって!」

 「あっあぁ、だがそんなガラクタ何に使う気だ?」

 リナムルがまだ人の住む街だった頃、樹海の中へ向かう冒険者達はここで旅支度を整えていた。その時の名残をそのまま利用していた雑貨屋に、開放されたツバキと彼らに命を救われた非戦闘員の獣人が入り込み、何やら物を漁っている。

 「アンタらにはガラクタに見えるのかい?まぁ見てなって!すげぇモン作ってやっから!」

 「・・・?」

 元々造船技師として働いていたツバキは、不要となったジャンク品を使って様々な物を作り出すことにも長けていた。その器用さからオルレラの研究所では自身の運動能力を飛躍的に向上させるガジェットを生成していた。

 リナムルにはオルレラの研究所以上に彼の好奇心をくすぐる代物が揃っており、誰に言われるでもなくツバキはこの状況をひっくり返す道具の発明を始めた。

 救助した獣人は、非戦闘員とはいえ人間以上の身体能力を持ち、素手でも戦えることからミア達やガルムのような戦闘を行う者達に追従するよりも、戦えぬ者達の護衛役も兼ねて、ツバキと行動を共にしていた。

 一方、別のところでも施設は開放されており、同じようにそこでも救助された獣人族と共に避難するアカリと紅葉の姿があった。

 「まぁ!見たこともない植物がいっぱい!ここはどんなところですの?」

 「薬屋・・・だったようだな。俺達もそのまま利用させてもらってる」

 目を輝かせて棚に並ぶ植物を眺めるアカリに、獣人の一人が奥から持ってきた分厚い本を持ってきて彼女に見せる。そこには人間の文字で、各植物が持つ生物に与える効能と、別の薬品との組み合わせにより様々な状態異常や病気に効く薬となることが記されていた。所謂、調合リストと呼ばれるものだ。

 「我々の中にも人間でいうところの薬剤師のようなことができる者がいる。ここの施設は我々にとっても重要な場所だ。被害が少ないようでよかった・・・」

 「凄いわね!これ、私にもできるのかしら・・・」

 「どうだろうな。人間にはクラスと呼ばれるものが必要だと聞いたことがあるが・・・。それに薬とは、一歩間違えれば死を与える危険な物にもなりかねんぞ?」

 「でも、ここに記されている通りにすれば大丈夫なのよね?」

 調合とは便利であるものと同時に、簡単に命を奪える危険なものにもなり得るということをアカリに伝えようとする獣人だったが、彼女の溢れる好奇心を止めることはできなかった。

 鳥籠から開放された紅葉は、飛び回ることもせず大人しくアカリが書物に目を通しているのを眺めていた。その間に獣人達も、他の負傷した同胞を治療するための薬を奥から持ち出し、別の診療所へと運んで行った。

 リナムルでの戦闘は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。残りの残党を、ミア達は獣人族と協力して速やかに排除していく。それは図らずとも、シン達が獣の始末をしていた方法と同じく、まともに戦うのではなく動きの速い獣人が囮となり、ミアやツクヨが不意をついて仕留めるという暗殺に近い戦法だった。

 故に、アズールの時のような肉体強化を行う間も無く絶命させることに成功していた。しかし相変わらず獣の遺体は消滅することはなかった。やはりベースの肉体がモンスターではなく別の何かであるからなのだろう。

 「よし!今だ、やってくれ!」

 「・・・・・」

 最初の協力者であった獣人のガルムが、獣を誘き出し周りに遮蔽物のない見晴らしのいい場所で、獣の動きを止める。幸い、獣は彼らの言葉を理解してはおらず、大声で話をしていても彼らの作戦を理解している様子はなかった。

 木の上で静かに狙いを定めるミアは、ガルムの合図を聞き獣の頭に銃弾を撃ち込む。何度か試みるうちに、獣はただの銃弾ではあまり効果的なダメージにはならないことを把握したミアは、より確実に一発で仕留める為、ある特殊な銃弾を用いていた。

 それは彼女がシンと出会い最初に対峙することになる、WoFの異変であった召喚士メアとの戦いで見せた、神獣ベヒーモスの強靭な肉体をも貫く銃弾、彼女が“DF2(デビルズ・ファング・フラワー)“と呼ぶ、弾丸の先端に空洞があり、複数のエッジ状に分かれた部分が対象に命中することで、エッジ部分が花開くように広がり肉を食い破る仕掛けになっている弾丸。

 本来であれば大きな対象物や、強固な外殻を持つものに用いることで弾丸が体内に残り激痛を与える用途で用いるのだが、獣の頭部を吹き飛ばす分には申し分ない威力だった。

 抑え込んでいた獣の頭部が爆発でもされたかのように吹き飛ぶ。ガルムは力の抜けた身体を放り投げ、返り血を拭って次の獣を探す。近くにいた獣の反応には他の獣人とツクヨが対応していた。

 同じく獣人が囮となり獣の動きを止めると、別の場所に身を隠していたツクヨが忍び寄り、獣の首を一撃の元に両断し跳ね飛ばす。それだけでも十分反応は消えているが、獣人族は念の為その頭部を踏み潰し、完全に再起不能へと持っていく。

 「ガルム!街中の反応はこれが最後だ。周辺に幾つか奴らの反応があるが、十分にリナムルは戦況を立て直せた。お前の功績だ、見事だったな」

 「俺じゃないんだ、ガレウス・・・。本当なら俺はもう・・・」

 「・・・・・」

 ツクヨの跳ね飛ばした獣の頭部を踏み潰した獣人と共に彼らの前に現れたのは、アズール不在のリナムルの留守を任されていたガレウスだった。彼はこの難局を乗り越え多くの獣人族を救った功労者であるミア達の活躍を、認めようとはしなかった。それは偏に彼らが憎むべき人間であるからという理由だからだった。
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