1,006 / 1,646
本当の功労者
しおりを挟む
アズールがケツァルの指示に従い同胞の救助へ向かった頃、獣達の襲撃を受けていたリナムルでは、逃げ延びていた獣人族の生き残りと協力し、ミア達が奮闘することで様々な施設が開放されていた。
「いいのか!?これも使っちゃって!」
「あっあぁ、だがそんなガラクタ何に使う気だ?」
リナムルがまだ人の住む街だった頃、樹海の中へ向かう冒険者達はここで旅支度を整えていた。その時の名残をそのまま利用していた雑貨屋に、開放されたツバキと彼らに命を救われた非戦闘員の獣人が入り込み、何やら物を漁っている。
「アンタらにはガラクタに見えるのかい?まぁ見てなって!すげぇモン作ってやっから!」
「・・・?」
元々造船技師として働いていたツバキは、不要となったジャンク品を使って様々な物を作り出すことにも長けていた。その器用さからオルレラの研究所では自身の運動能力を飛躍的に向上させるガジェットを生成していた。
リナムルにはオルレラの研究所以上に彼の好奇心をくすぐる代物が揃っており、誰に言われるでもなくツバキはこの状況をひっくり返す道具の発明を始めた。
救助した獣人は、非戦闘員とはいえ人間以上の身体能力を持ち、素手でも戦えることからミア達やガルムのような戦闘を行う者達に追従するよりも、戦えぬ者達の護衛役も兼ねて、ツバキと行動を共にしていた。
一方、別のところでも施設は開放されており、同じようにそこでも救助された獣人族と共に避難するアカリと紅葉の姿があった。
「まぁ!見たこともない植物がいっぱい!ここはどんなところですの?」
「薬屋・・・だったようだな。俺達もそのまま利用させてもらってる」
目を輝かせて棚に並ぶ植物を眺めるアカリに、獣人の一人が奥から持ってきた分厚い本を持ってきて彼女に見せる。そこには人間の文字で、各植物が持つ生物に与える効能と、別の薬品との組み合わせにより様々な状態異常や病気に効く薬となることが記されていた。所謂、調合リストと呼ばれるものだ。
「我々の中にも人間でいうところの薬剤師のようなことができる者がいる。ここの施設は我々にとっても重要な場所だ。被害が少ないようでよかった・・・」
「凄いわね!これ、私にもできるのかしら・・・」
「どうだろうな。人間にはクラスと呼ばれるものが必要だと聞いたことがあるが・・・。それに薬とは、一歩間違えれば死を与える危険な物にもなりかねんぞ?」
「でも、ここに記されている通りにすれば大丈夫なのよね?」
調合とは便利であるものと同時に、簡単に命を奪える危険なものにもなり得るということをアカリに伝えようとする獣人だったが、彼女の溢れる好奇心を止めることはできなかった。
鳥籠から開放された紅葉は、飛び回ることもせず大人しくアカリが書物に目を通しているのを眺めていた。その間に獣人達も、他の負傷した同胞を治療するための薬を奥から持ち出し、別の診療所へと運んで行った。
リナムルでの戦闘は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。残りの残党を、ミア達は獣人族と協力して速やかに排除していく。それは図らずとも、シン達が獣の始末をしていた方法と同じく、まともに戦うのではなく動きの速い獣人が囮となり、ミアやツクヨが不意をついて仕留めるという暗殺に近い戦法だった。
故に、アズールの時のような肉体強化を行う間も無く絶命させることに成功していた。しかし相変わらず獣の遺体は消滅することはなかった。やはりベースの肉体がモンスターではなく別の何かであるからなのだろう。
「よし!今だ、やってくれ!」
「・・・・・」
最初の協力者であった獣人のガルムが、獣を誘き出し周りに遮蔽物のない見晴らしのいい場所で、獣の動きを止める。幸い、獣は彼らの言葉を理解してはおらず、大声で話をしていても彼らの作戦を理解している様子はなかった。
木の上で静かに狙いを定めるミアは、ガルムの合図を聞き獣の頭に銃弾を撃ち込む。何度か試みるうちに、獣はただの銃弾ではあまり効果的なダメージにはならないことを把握したミアは、より確実に一発で仕留める為、ある特殊な銃弾を用いていた。
それは彼女がシンと出会い最初に対峙することになる、WoFの異変であった召喚士メアとの戦いで見せた、神獣ベヒーモスの強靭な肉体をも貫く銃弾、彼女が“DF2(デビルズ・ファング・フラワー)“と呼ぶ、弾丸の先端に空洞があり、複数のエッジ状に分かれた部分が対象に命中することで、エッジ部分が花開くように広がり肉を食い破る仕掛けになっている弾丸。
本来であれば大きな対象物や、強固な外殻を持つものに用いることで弾丸が体内に残り激痛を与える用途で用いるのだが、獣の頭部を吹き飛ばす分には申し分ない威力だった。
抑え込んでいた獣の頭部が爆発でもされたかのように吹き飛ぶ。ガルムは力の抜けた身体を放り投げ、返り血を拭って次の獣を探す。近くにいた獣の反応には他の獣人とツクヨが対応していた。
同じく獣人が囮となり獣の動きを止めると、別の場所に身を隠していたツクヨが忍び寄り、獣の首を一撃の元に両断し跳ね飛ばす。それだけでも十分反応は消えているが、獣人族は念の為その頭部を踏み潰し、完全に再起不能へと持っていく。
「ガルム!街中の反応はこれが最後だ。周辺に幾つか奴らの反応があるが、十分にリナムルは戦況を立て直せた。お前の功績だ、見事だったな」
「俺じゃないんだ、ガレウス・・・。本当なら俺はもう・・・」
「・・・・・」
ツクヨの跳ね飛ばした獣の頭部を踏み潰した獣人と共に彼らの前に現れたのは、アズール不在のリナムルの留守を任されていたガレウスだった。彼はこの難局を乗り越え多くの獣人族を救った功労者であるミア達の活躍を、認めようとはしなかった。それは偏に彼らが憎むべき人間であるからという理由だからだった。
「いいのか!?これも使っちゃって!」
「あっあぁ、だがそんなガラクタ何に使う気だ?」
リナムルがまだ人の住む街だった頃、樹海の中へ向かう冒険者達はここで旅支度を整えていた。その時の名残をそのまま利用していた雑貨屋に、開放されたツバキと彼らに命を救われた非戦闘員の獣人が入り込み、何やら物を漁っている。
「アンタらにはガラクタに見えるのかい?まぁ見てなって!すげぇモン作ってやっから!」
「・・・?」
元々造船技師として働いていたツバキは、不要となったジャンク品を使って様々な物を作り出すことにも長けていた。その器用さからオルレラの研究所では自身の運動能力を飛躍的に向上させるガジェットを生成していた。
リナムルにはオルレラの研究所以上に彼の好奇心をくすぐる代物が揃っており、誰に言われるでもなくツバキはこの状況をひっくり返す道具の発明を始めた。
救助した獣人は、非戦闘員とはいえ人間以上の身体能力を持ち、素手でも戦えることからミア達やガルムのような戦闘を行う者達に追従するよりも、戦えぬ者達の護衛役も兼ねて、ツバキと行動を共にしていた。
一方、別のところでも施設は開放されており、同じようにそこでも救助された獣人族と共に避難するアカリと紅葉の姿があった。
「まぁ!見たこともない植物がいっぱい!ここはどんなところですの?」
「薬屋・・・だったようだな。俺達もそのまま利用させてもらってる」
目を輝かせて棚に並ぶ植物を眺めるアカリに、獣人の一人が奥から持ってきた分厚い本を持ってきて彼女に見せる。そこには人間の文字で、各植物が持つ生物に与える効能と、別の薬品との組み合わせにより様々な状態異常や病気に効く薬となることが記されていた。所謂、調合リストと呼ばれるものだ。
「我々の中にも人間でいうところの薬剤師のようなことができる者がいる。ここの施設は我々にとっても重要な場所だ。被害が少ないようでよかった・・・」
「凄いわね!これ、私にもできるのかしら・・・」
「どうだろうな。人間にはクラスと呼ばれるものが必要だと聞いたことがあるが・・・。それに薬とは、一歩間違えれば死を与える危険な物にもなりかねんぞ?」
「でも、ここに記されている通りにすれば大丈夫なのよね?」
調合とは便利であるものと同時に、簡単に命を奪える危険なものにもなり得るということをアカリに伝えようとする獣人だったが、彼女の溢れる好奇心を止めることはできなかった。
鳥籠から開放された紅葉は、飛び回ることもせず大人しくアカリが書物に目を通しているのを眺めていた。その間に獣人達も、他の負傷した同胞を治療するための薬を奥から持ち出し、別の診療所へと運んで行った。
リナムルでの戦闘は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。残りの残党を、ミア達は獣人族と協力して速やかに排除していく。それは図らずとも、シン達が獣の始末をしていた方法と同じく、まともに戦うのではなく動きの速い獣人が囮となり、ミアやツクヨが不意をついて仕留めるという暗殺に近い戦法だった。
故に、アズールの時のような肉体強化を行う間も無く絶命させることに成功していた。しかし相変わらず獣の遺体は消滅することはなかった。やはりベースの肉体がモンスターではなく別の何かであるからなのだろう。
「よし!今だ、やってくれ!」
「・・・・・」
最初の協力者であった獣人のガルムが、獣を誘き出し周りに遮蔽物のない見晴らしのいい場所で、獣の動きを止める。幸い、獣は彼らの言葉を理解してはおらず、大声で話をしていても彼らの作戦を理解している様子はなかった。
木の上で静かに狙いを定めるミアは、ガルムの合図を聞き獣の頭に銃弾を撃ち込む。何度か試みるうちに、獣はただの銃弾ではあまり効果的なダメージにはならないことを把握したミアは、より確実に一発で仕留める為、ある特殊な銃弾を用いていた。
それは彼女がシンと出会い最初に対峙することになる、WoFの異変であった召喚士メアとの戦いで見せた、神獣ベヒーモスの強靭な肉体をも貫く銃弾、彼女が“DF2(デビルズ・ファング・フラワー)“と呼ぶ、弾丸の先端に空洞があり、複数のエッジ状に分かれた部分が対象に命中することで、エッジ部分が花開くように広がり肉を食い破る仕掛けになっている弾丸。
本来であれば大きな対象物や、強固な外殻を持つものに用いることで弾丸が体内に残り激痛を与える用途で用いるのだが、獣の頭部を吹き飛ばす分には申し分ない威力だった。
抑え込んでいた獣の頭部が爆発でもされたかのように吹き飛ぶ。ガルムは力の抜けた身体を放り投げ、返り血を拭って次の獣を探す。近くにいた獣の反応には他の獣人とツクヨが対応していた。
同じく獣人が囮となり獣の動きを止めると、別の場所に身を隠していたツクヨが忍び寄り、獣の首を一撃の元に両断し跳ね飛ばす。それだけでも十分反応は消えているが、獣人族は念の為その頭部を踏み潰し、完全に再起不能へと持っていく。
「ガルム!街中の反応はこれが最後だ。周辺に幾つか奴らの反応があるが、十分にリナムルは戦況を立て直せた。お前の功績だ、見事だったな」
「俺じゃないんだ、ガレウス・・・。本当なら俺はもう・・・」
「・・・・・」
ツクヨの跳ね飛ばした獣の頭部を踏み潰した獣人と共に彼らの前に現れたのは、アズール不在のリナムルの留守を任されていたガレウスだった。彼はこの難局を乗り越え多くの獣人族を救った功労者であるミア達の活躍を、認めようとはしなかった。それは偏に彼らが憎むべき人間であるからという理由だからだった。
0
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる