1,003 / 1,646
一族の未来の為に
しおりを挟む
動揺する彼の姿に、ケツァルは同胞の治療にあたりながらも何があったのかと尋ねる。しかし、アズールはどこかはっきりとしない口ぶりで、戦闘にも身が入っていないようだった。
「どうしたんだ!?アズール!しっかりしてくれ!」
「ケツァル・・・お前は・・・。お前はこの獣の姿に見覚えはないのか?」
「見覚え?」
突然の質問の内容に、彼が何を伝えようとしているのか分からなかったが、負傷した同胞がアズールの対峙する魔獣の変貌した姿を見た時に驚いたように、ケツァルもその禍々しい姿に見覚えなどないと答えた。
魔獣の千切れた前足部分からは背中に生えているものと同じ獣の腕が、断面の肉を突き破り無数に生えていた。それらは絡まり合うように結合し、一つの大きな腕として機能し始めたのだ。
再生した腕と共に、再び立ち上がる魔獣。それを見たアズールも、雑念を振り払うようにして目の前の脅威に鋭い目を向ける。
「切り落とした腕が・・・復活した?」
それまで相手にしてきた獣にはない能力に、全く異質なものを感じるケツァル。アズールが伝えようとしていたのは、魔獣から感じるその異質な雰囲気のことなのだろうか。
再び激しくぶつかり合う魔獣とアズールの戦いを目にしていると、樹海で採れた薬草を使った獣人族特製の回復薬で目覚めた同胞が意識を取り戻す。
「うっ・・・ぁ・・・俺は・・・俺は生きてるのか・・・?」
「よかった・・・あぁ、生きているぞ。遅れてすまなかったな」
「ケツァル・・・?なんでお前が・・・。アズールと森へ行ったんじゃ・・・」
「アジトが襲撃されたと聞いて戻ってきたんだ。そしたら森中に化け物が・・・。今は少しでも情報が必要だ、何か奴らの目的や生態について分かっていることはないか?」
暗殺や不意打ちで獣の息の根を止めてきたケツァル達は、時間に迫られていたこともあり、この獣達が現れた経緯や目的、弱点や今目の前にいるような特別な変化が可能であったことすら知らない。
情報が少ない中では、同じように後手に回ってしまうことになる。少しでもこの獣の生態や目的について情報があれば、現状を打開する鍵となるかもしれない。
だが、目覚めたばかりの同胞も目の前で暴れる巨大な化け物の姿に酷く動揺していた。その様子からも、彼らもこの魔獣の姿に見覚えがないことが分かる。
襲われた時のトラウマが蘇ったのか、目を覚ました同胞は魔獣の姿に怯え、少しでも遠ざかろうともがき始める。今はアズールが魔獣を抑えているから大丈夫だと彼を落ち着かせたケツァルは、これ以上何を聞いても何も情報は引き出せそうにないと、彼が望むように少し離れた場所へと運ぶ。
シンとダラーヒムは、ケツァルの指示により他の倒れた同胞を連れ、同じ場所へと彼らを集める。アズールには手を出すなと言われたが、ケツァルはいざとなればその身を挺して彼を助ける覚悟でいた。
例えアズールに恨まれようと、今彼を失う訳にはいかない。というのも、アズールがいなくなれば次の族長として候補に上がるのは、共に獣人族を束ねてきたケツァルかガレウスのどちらかになるだろう。
しかし、今ケツァルの抱えている誤解を引き摺ったままでは確実に次の長はガレウスとなるだろう。そうなれば他種族との関係は崩れ、いずれ最悪の未来を辿り兼ねない。それだけは何としても避けなければ。
周囲に他の獣の気配はない。同胞達をシンとダラーヒムに任せ、その場を離れようとするケツァルを呼び止めるシン。何をする気だと尋ねると、自らの潔白を証明しなければ助かったとて死んだも同然だと語る。
だが、あの魔獣を前に倒せる算段でもあるのかと尋ねるも、彼から帰ってくる明確な答えはなかった。それでも獣人族の存続を考えるのならば、アズールの存在は不可欠だと断言するケツァル。
何か方法はないかと考える一行の元に、魔獣と戦っているアズールの雄叫びが届く。まだ本来の力を取り戻せずにいるシンをその場に残し、すぐにでも戦闘に参加が可能な二人、ケツァルとダラーヒムが彼の元へと向かう。
悲痛な声ではないことから、アズールの身に何かがあったのではないと予想していたケツァル達だったが、彼らが目にしたのは倒れた魔獣の身体から引き摺り出した肉の塊を抱くアズールの姿だった。
「どうしたんだ!?アズール!しっかりしてくれ!」
「ケツァル・・・お前は・・・。お前はこの獣の姿に見覚えはないのか?」
「見覚え?」
突然の質問の内容に、彼が何を伝えようとしているのか分からなかったが、負傷した同胞がアズールの対峙する魔獣の変貌した姿を見た時に驚いたように、ケツァルもその禍々しい姿に見覚えなどないと答えた。
魔獣の千切れた前足部分からは背中に生えているものと同じ獣の腕が、断面の肉を突き破り無数に生えていた。それらは絡まり合うように結合し、一つの大きな腕として機能し始めたのだ。
再生した腕と共に、再び立ち上がる魔獣。それを見たアズールも、雑念を振り払うようにして目の前の脅威に鋭い目を向ける。
「切り落とした腕が・・・復活した?」
それまで相手にしてきた獣にはない能力に、全く異質なものを感じるケツァル。アズールが伝えようとしていたのは、魔獣から感じるその異質な雰囲気のことなのだろうか。
再び激しくぶつかり合う魔獣とアズールの戦いを目にしていると、樹海で採れた薬草を使った獣人族特製の回復薬で目覚めた同胞が意識を取り戻す。
「うっ・・・ぁ・・・俺は・・・俺は生きてるのか・・・?」
「よかった・・・あぁ、生きているぞ。遅れてすまなかったな」
「ケツァル・・・?なんでお前が・・・。アズールと森へ行ったんじゃ・・・」
「アジトが襲撃されたと聞いて戻ってきたんだ。そしたら森中に化け物が・・・。今は少しでも情報が必要だ、何か奴らの目的や生態について分かっていることはないか?」
暗殺や不意打ちで獣の息の根を止めてきたケツァル達は、時間に迫られていたこともあり、この獣達が現れた経緯や目的、弱点や今目の前にいるような特別な変化が可能であったことすら知らない。
情報が少ない中では、同じように後手に回ってしまうことになる。少しでもこの獣の生態や目的について情報があれば、現状を打開する鍵となるかもしれない。
だが、目覚めたばかりの同胞も目の前で暴れる巨大な化け物の姿に酷く動揺していた。その様子からも、彼らもこの魔獣の姿に見覚えがないことが分かる。
襲われた時のトラウマが蘇ったのか、目を覚ました同胞は魔獣の姿に怯え、少しでも遠ざかろうともがき始める。今はアズールが魔獣を抑えているから大丈夫だと彼を落ち着かせたケツァルは、これ以上何を聞いても何も情報は引き出せそうにないと、彼が望むように少し離れた場所へと運ぶ。
シンとダラーヒムは、ケツァルの指示により他の倒れた同胞を連れ、同じ場所へと彼らを集める。アズールには手を出すなと言われたが、ケツァルはいざとなればその身を挺して彼を助ける覚悟でいた。
例えアズールに恨まれようと、今彼を失う訳にはいかない。というのも、アズールがいなくなれば次の族長として候補に上がるのは、共に獣人族を束ねてきたケツァルかガレウスのどちらかになるだろう。
しかし、今ケツァルの抱えている誤解を引き摺ったままでは確実に次の長はガレウスとなるだろう。そうなれば他種族との関係は崩れ、いずれ最悪の未来を辿り兼ねない。それだけは何としても避けなければ。
周囲に他の獣の気配はない。同胞達をシンとダラーヒムに任せ、その場を離れようとするケツァルを呼び止めるシン。何をする気だと尋ねると、自らの潔白を証明しなければ助かったとて死んだも同然だと語る。
だが、あの魔獣を前に倒せる算段でもあるのかと尋ねるも、彼から帰ってくる明確な答えはなかった。それでも獣人族の存続を考えるのならば、アズールの存在は不可欠だと断言するケツァル。
何か方法はないかと考える一行の元に、魔獣と戦っているアズールの雄叫びが届く。まだ本来の力を取り戻せずにいるシンをその場に残し、すぐにでも戦闘に参加が可能な二人、ケツァルとダラーヒムが彼の元へと向かう。
悲痛な声ではないことから、アズールの身に何かがあったのではないと予想していたケツァル達だったが、彼らが目にしたのは倒れた魔獣の身体から引き摺り出した肉の塊を抱くアズールの姿だった。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる