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変貌する姿
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宙に舞う獣の巨体は草木を薙ぎ倒し、緑の深海へと消えていった。悍ましく強化された獣を流れるように受け流すようにして投げたアズールは、その直後に僅かに顔を歪めるも再び自身の肉体強化を再開する。
「いつ見ても恐れ入る・・・。一体どうやってるんだ?普通、強化状態に入っちまったら暫くは自分でもどうにも出来ない筈なのに・・・」
「難しいことではない。ただ単に、強化の過程で肉体の変化を急停止させただけだ」
「“だけ“って・・・。それが出来りゃ何人の同胞が生き延びられたか・・・」
アズールが見せた肉体強化中の行動は、本来であれば考えられない事のようだ。一度強化段階に入ってしまうと、本人でも止めることが出来ず、その間が完全な無防備状態となってしまう。
故に戦闘に肉体強化を行う場合は、それを完了させるだけの時間を作らねばならない。その為に彼らは最低でも二人以上で行動することが多く、互いに相手を押さえ込んでいく実力を有している程、少人数での行動が可能としているようだ。
だがこれもあくまで基本的な考え方であり、今回のような不測の事態での行動はなるべく少人数は避け、小隊を組んで行動するという形をとっていた。アジトに残り、アズールの代わりに指揮をとっていたガレウスの判断は、アズールが同じ立場でも行おうとしていたくらいのもので、そこからも彼の一族の生存を意識している事が窺える。
ケツァルに向けられる一族の疑いよりは、ガレウスの方が現状では信用度が高いというのがアズールの見解だった。
「だが多様は出来ない。これだけの強化の弱点を補うものが、何のでもリットも無い訳ではない。身体の寿命を縮めるようなものだ・・・。長としても、なるべくこのような真似は同胞にはして欲しくない・・・」
「死んでしまっては元も子もないがな」
皮肉を言われながらも肉体強化を完了させたアズールは、来たる魔獣の攻撃に備える。
アズールによって投げ飛ばされた魔獣は、すぐに彼らの元を目指し戻ってくる気配を放っていた。近づいてくる魔獣の気配に神経を集中させるアズール。魔獣は気配殺しを使用しているようだが、感覚までもが研ぎ覚まされた状態になる強化を経たアズールには、それも通用しない。
緑の中を駆け回る音が徐々に大きくなり、魔獣の接近を知らせている。小さく聞こえ始めた音はあっという間に間近にまで迫り、再びアズールを仕留めようと魔獣の魔の手が差し向けられる。
すると、大きな音と共に草木の中から姿を表したのは、先程の肉体強化をおこなった魔獣ではなく、地中から根っこごと引き摺り出されたかのような大木だったのだ。
「ッ!!」
「おいおいッ!嘘だろ!?」
二人は咄嗟に、向かってくる大木を飛び込むようにして左右に分かれ回避する。撒き散らされる土煙に目を細めながら、通り過ぎる大木に目をやると、なんと魔獣は投げて寄越した大木の乗って潜んでいたのだ。
魔獣はアズールの方を狙い、生い茂る枝木の中から真っ赤に光る魔物の目を輝かせて飛び掛かった。思いもしない攻撃方法に肝を冷やされるアズールだったが、強化された身体能力のおかげで間一髪、魔獣の鋭爪をまともに食らうことだけは避けられた。
しかし、伊達に魔獣も肉体強化をしてはいなかったようで、その爪はアズールの腕を擦り鮮血を散らす。自身の痛みになどで怯んでいる暇などないといった様子で、アズールはすれ違うように宙を駆ける魔獣の足を掴み、地面に叩きつけた。
地に落ちた魔獣に、アズールは空かさず渾身の拳を叩き込む。だが、一見無防備なところに打ち込まれた有効打のようだったが、彼のその拳に伝わったのは歯応えのない感触だった。
隆々と盛り上がる魔獣の肉体に、アズールの拳の跡が残る。見た目程の手応えを感じなかったアズールは違和感を感じ取ると、すぐに飛び退いて魔獣と距離を取る。
すぐにトドメを刺そうとしなかったアズールの様子を不思議に思った獣人が、一体何があったのか尋ねる。
「どうした?何故退いたんだ、アズール!」
「感触が妙だ・・・。お前達はこの魔獣を一度退けたと言ったな?その時何か違和感を感じなかったか?」
「違和感?さぁな、そんなの気にしてる余裕がなかったから、すぐに全員で連携して息の根を止めたよ。それがどうした・・・!?」
二人が会話をしていると、アズールによって沈められた魔獣の身体に異変が起き始める。攻撃を受けた痛みに悶えるのとは違い、不自然な動きを見せ始める魔獣。
不気味な動きで起き上がると、その獣人族を超える程に盛り上がる肉体がもぞもぞと動き出し、魔獣の肉体を突き破り腕のようなものが内側から飛び出した。
「なッ・・・!?」
「何だぁ!?」
魔獣の身体から現れたその腕は、魔獣のドロっとした血に覆われていたが皮膚を剥がれた肉肉しいものではなく、まるで獣の腕のように体毛が生えていた。
魔獣はその背中に三本目の腕を生やし、何事もなかったかのように再びアズールの方を向き対峙する。腕は自在に動かせるのか、今はただ魔獣の背中に取り付けられているだけかのように、ぶらりと垂れ下がっている。
「いつ見ても恐れ入る・・・。一体どうやってるんだ?普通、強化状態に入っちまったら暫くは自分でもどうにも出来ない筈なのに・・・」
「難しいことではない。ただ単に、強化の過程で肉体の変化を急停止させただけだ」
「“だけ“って・・・。それが出来りゃ何人の同胞が生き延びられたか・・・」
アズールが見せた肉体強化中の行動は、本来であれば考えられない事のようだ。一度強化段階に入ってしまうと、本人でも止めることが出来ず、その間が完全な無防備状態となってしまう。
故に戦闘に肉体強化を行う場合は、それを完了させるだけの時間を作らねばならない。その為に彼らは最低でも二人以上で行動することが多く、互いに相手を押さえ込んでいく実力を有している程、少人数での行動が可能としているようだ。
だがこれもあくまで基本的な考え方であり、今回のような不測の事態での行動はなるべく少人数は避け、小隊を組んで行動するという形をとっていた。アジトに残り、アズールの代わりに指揮をとっていたガレウスの判断は、アズールが同じ立場でも行おうとしていたくらいのもので、そこからも彼の一族の生存を意識している事が窺える。
ケツァルに向けられる一族の疑いよりは、ガレウスの方が現状では信用度が高いというのがアズールの見解だった。
「だが多様は出来ない。これだけの強化の弱点を補うものが、何のでもリットも無い訳ではない。身体の寿命を縮めるようなものだ・・・。長としても、なるべくこのような真似は同胞にはして欲しくない・・・」
「死んでしまっては元も子もないがな」
皮肉を言われながらも肉体強化を完了させたアズールは、来たる魔獣の攻撃に備える。
アズールによって投げ飛ばされた魔獣は、すぐに彼らの元を目指し戻ってくる気配を放っていた。近づいてくる魔獣の気配に神経を集中させるアズール。魔獣は気配殺しを使用しているようだが、感覚までもが研ぎ覚まされた状態になる強化を経たアズールには、それも通用しない。
緑の中を駆け回る音が徐々に大きくなり、魔獣の接近を知らせている。小さく聞こえ始めた音はあっという間に間近にまで迫り、再びアズールを仕留めようと魔獣の魔の手が差し向けられる。
すると、大きな音と共に草木の中から姿を表したのは、先程の肉体強化をおこなった魔獣ではなく、地中から根っこごと引き摺り出されたかのような大木だったのだ。
「ッ!!」
「おいおいッ!嘘だろ!?」
二人は咄嗟に、向かってくる大木を飛び込むようにして左右に分かれ回避する。撒き散らされる土煙に目を細めながら、通り過ぎる大木に目をやると、なんと魔獣は投げて寄越した大木の乗って潜んでいたのだ。
魔獣はアズールの方を狙い、生い茂る枝木の中から真っ赤に光る魔物の目を輝かせて飛び掛かった。思いもしない攻撃方法に肝を冷やされるアズールだったが、強化された身体能力のおかげで間一髪、魔獣の鋭爪をまともに食らうことだけは避けられた。
しかし、伊達に魔獣も肉体強化をしてはいなかったようで、その爪はアズールの腕を擦り鮮血を散らす。自身の痛みになどで怯んでいる暇などないといった様子で、アズールはすれ違うように宙を駆ける魔獣の足を掴み、地面に叩きつけた。
地に落ちた魔獣に、アズールは空かさず渾身の拳を叩き込む。だが、一見無防備なところに打ち込まれた有効打のようだったが、彼のその拳に伝わったのは歯応えのない感触だった。
隆々と盛り上がる魔獣の肉体に、アズールの拳の跡が残る。見た目程の手応えを感じなかったアズールは違和感を感じ取ると、すぐに飛び退いて魔獣と距離を取る。
すぐにトドメを刺そうとしなかったアズールの様子を不思議に思った獣人が、一体何があったのか尋ねる。
「どうした?何故退いたんだ、アズール!」
「感触が妙だ・・・。お前達はこの魔獣を一度退けたと言ったな?その時何か違和感を感じなかったか?」
「違和感?さぁな、そんなの気にしてる余裕がなかったから、すぐに全員で連携して息の根を止めたよ。それがどうした・・・!?」
二人が会話をしていると、アズールによって沈められた魔獣の身体に異変が起き始める。攻撃を受けた痛みに悶えるのとは違い、不自然な動きを見せ始める魔獣。
不気味な動きで起き上がると、その獣人族を超える程に盛り上がる肉体がもぞもぞと動き出し、魔獣の肉体を突き破り腕のようなものが内側から飛び出した。
「なッ・・・!?」
「何だぁ!?」
魔獣の身体から現れたその腕は、魔獣のドロっとした血に覆われていたが皮膚を剥がれた肉肉しいものではなく、まるで獣の腕のように体毛が生えていた。
魔獣はその背中に三本目の腕を生やし、何事もなかったかのように再びアズールの方を向き対峙する。腕は自在に動かせるのか、今はただ魔獣の背中に取り付けられているだけかのように、ぶらりと垂れ下がっている。
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