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危険を犯すこともせず、ただ何もせずに事の成り行きを待っていれば生きていくことはできる。
しかし、獣人族が生き残ったとして、それをただ傍観していた彼らに、必死に戦い守り抜いた者達と共に暮らしていけるような居場所はない。
助けに来なかったと蔑むようなことはしなくとも、互いの心には無意識な蟠りが生まれ、彼らに対する信用も失われていることだろう。知性を持つ生き物とは、総じてそう言うものだ
一度失った信用は、それを知る者達から綺麗に拭えるものではない。一時的に行動を共にするだけの関係ならまだしも、同じ種族でこれまで生きてきた時間を共に過ごし、一族の誇りを持って多種族に淘汰されぬよう強く生きてきた仲間達とあらば、その信用の失墜は計り知れない。
そして万が一、獣人族が今回発生した狂気の獣達に敗れることになれば、彼らは故郷を追われ、別の場所で生きていくしかなくなる。
更には、獣人族は人間との対立により様々な種族とも敵対関係や協力していくことが難しい立場にある。詰まるところ、自分達以外に頼れる存在が居なくなり、孤立することとなるのだ。
元より狩猟を主に行い生きてきた彼らは、野生の生物のように強く生きていくことも可能だろう。しかし、彼らのみならず、獣人達が犯してきた罪は周囲の種族達の間にも広がっている。それは当然、人間の元にも伝わっている。
人を攫う獣人族は、リナムルとその周辺に広がる広大な樹海において危険な存在であると、人間達にとって討伐対象となっている。最早、危険なモンスターと何ら変わらない。
そんな彼らが、故郷を失い仲間達を失った状態で、森から出ていくこともできず、多種族からの攻撃や獣人族に成り代わるように現れた狂気の獣達の脅威に怯えながら逃げ回るという、嘗ての威厳や誇りなどない余命を、惨めに過ごしていくしかない。
生き残ったとしても、そんな暗い未来しか想像できぬのなら、仲間や一族の為戦い死んでいく方が、ずっと潔く清々しい生き様を迎えられるだろう。
一同は覚悟を決めている彼の言葉に感化され、共に仲間達のいるアジトに向けて直行することに同意した。
「だが、お前だけ生贄にするような事はしない。殿を務めるのは、その時その時の状態や状況を見て判断しよう。皆もそれでいいな?」
アジトへ帰るという目的に同意した者達に、それを反対する者はいなかった。皆一様に覚悟が決まったのだろう。
そうと決まった以上こうしてはおれぬと、すぐにアジトへ向けて移動を開始する獣人達。
こうして、リナムルを離れていたアズールら獣人族やシン達は、三つの部隊に分かれてそれぞれ獣人達のアジトとなるリナムルを目指す。
初めにケツァルの指示に従って動き出した獣人族のボスであるアズールは、その立場に恥じぬ素早い身のこなしと、他の者達以上に上手く気配を消しながら、周りの獣達に気付かれる事なく見事に戦場で戦う仲間達の元へと駆けつける。
「くっクソ・・・強いッ・・・!何だってこんな奴らが俺らをッ・・・」
彼らの部隊は四人で行動していたようだ。だが、獣と対峙し戦っているのは一人だけ。他の者は二人が傷だらけの状態で倒れており、もう一人は這いつくばりながら倒れる仲間の方へ、動かない足を引き摺りながら向かおうとしている。
壊滅は間近といった危機的状況。唯一立っている獣人に向けて、その腕を彼らの血で真っ赤に染め上げた獣が、飢餓により獲物に飢えたように、或いは怒りに身を振わせ本能に身を任せるかのよう、地面を抉るほど凄まじく駆け出し、その鋭爪を槍のように突き立てる。
獣の動きは早く、負傷した状態の獣人では動きを見てから回避するのは不可能だった。獣の足に力が入る瞬間を視界に捉えた獣人は、その瞬間に獣による攻撃の射線上から逃れようと横に逸れようと飛び出すが、そのあまりの速さに回避が間に合わず、獣の爪は獣人の肩を抉るように血肉を引き裂いた。
「ぐッぁぁぁあああ!!」
避けた勢いのまま、肩を覆うように手を当てながら地面に転がる獣人。急ブレーキを掛けて飛び掛かる勢いを殺した狂気の獣は、そのまま反転し負傷した獣人にトドメを刺そうと、再びその鋭爪を突き出す。
絶体絶命の状況。その瞬間、何かが獣を上から叩き潰すかのように落下し、寸前のところで獣人は一命を取り留めた。
「あ・・・“アズール“!?なんで・・・!」
「すまない、少し遅れてしまったか」
壊滅状態に陥った部隊の元に駆けつけたアズールは、獣を足で踏みつけながらその動きを封じる。
「待っていろ、すぐに此奴を・・・」
「アズール!侮るな!そいつはッ・・・!!」
負傷した獣人が、必死に大事な何かを伝えようとしたところで、それは彼らの目の前で起きた。
アズールが踏みつけた地面に押さえ込んでいた獣は、ケツァルが見せた獣人族の肉体強化と同じ変化を見せたのだ。隆々と盛り上がる獣の体表に違和感を感じたアズールは、咄嗟にその足を退けて負傷した獣人を連れ去り距離をとる。
「あれはッ・・・!」
「アイツ・・・俺達みてぇに、肉体強化ができるんだよ・・・。それも獣人のそれとは比べ物にならない程・・・」
一見は百聞にしかずと言うように、負傷した獣人が口にするよりも眼前で起きる狂気の獣の変化を目の当たりにしたアズールは、その悍ましい変化に言葉を失う。
しかし、獣人族が生き残ったとして、それをただ傍観していた彼らに、必死に戦い守り抜いた者達と共に暮らしていけるような居場所はない。
助けに来なかったと蔑むようなことはしなくとも、互いの心には無意識な蟠りが生まれ、彼らに対する信用も失われていることだろう。知性を持つ生き物とは、総じてそう言うものだ
一度失った信用は、それを知る者達から綺麗に拭えるものではない。一時的に行動を共にするだけの関係ならまだしも、同じ種族でこれまで生きてきた時間を共に過ごし、一族の誇りを持って多種族に淘汰されぬよう強く生きてきた仲間達とあらば、その信用の失墜は計り知れない。
そして万が一、獣人族が今回発生した狂気の獣達に敗れることになれば、彼らは故郷を追われ、別の場所で生きていくしかなくなる。
更には、獣人族は人間との対立により様々な種族とも敵対関係や協力していくことが難しい立場にある。詰まるところ、自分達以外に頼れる存在が居なくなり、孤立することとなるのだ。
元より狩猟を主に行い生きてきた彼らは、野生の生物のように強く生きていくことも可能だろう。しかし、彼らのみならず、獣人達が犯してきた罪は周囲の種族達の間にも広がっている。それは当然、人間の元にも伝わっている。
人を攫う獣人族は、リナムルとその周辺に広がる広大な樹海において危険な存在であると、人間達にとって討伐対象となっている。最早、危険なモンスターと何ら変わらない。
そんな彼らが、故郷を失い仲間達を失った状態で、森から出ていくこともできず、多種族からの攻撃や獣人族に成り代わるように現れた狂気の獣達の脅威に怯えながら逃げ回るという、嘗ての威厳や誇りなどない余命を、惨めに過ごしていくしかない。
生き残ったとしても、そんな暗い未来しか想像できぬのなら、仲間や一族の為戦い死んでいく方が、ずっと潔く清々しい生き様を迎えられるだろう。
一同は覚悟を決めている彼の言葉に感化され、共に仲間達のいるアジトに向けて直行することに同意した。
「だが、お前だけ生贄にするような事はしない。殿を務めるのは、その時その時の状態や状況を見て判断しよう。皆もそれでいいな?」
アジトへ帰るという目的に同意した者達に、それを反対する者はいなかった。皆一様に覚悟が決まったのだろう。
そうと決まった以上こうしてはおれぬと、すぐにアジトへ向けて移動を開始する獣人達。
こうして、リナムルを離れていたアズールら獣人族やシン達は、三つの部隊に分かれてそれぞれ獣人達のアジトとなるリナムルを目指す。
初めにケツァルの指示に従って動き出した獣人族のボスであるアズールは、その立場に恥じぬ素早い身のこなしと、他の者達以上に上手く気配を消しながら、周りの獣達に気付かれる事なく見事に戦場で戦う仲間達の元へと駆けつける。
「くっクソ・・・強いッ・・・!何だってこんな奴らが俺らをッ・・・」
彼らの部隊は四人で行動していたようだ。だが、獣と対峙し戦っているのは一人だけ。他の者は二人が傷だらけの状態で倒れており、もう一人は這いつくばりながら倒れる仲間の方へ、動かない足を引き摺りながら向かおうとしている。
壊滅は間近といった危機的状況。唯一立っている獣人に向けて、その腕を彼らの血で真っ赤に染め上げた獣が、飢餓により獲物に飢えたように、或いは怒りに身を振わせ本能に身を任せるかのよう、地面を抉るほど凄まじく駆け出し、その鋭爪を槍のように突き立てる。
獣の動きは早く、負傷した状態の獣人では動きを見てから回避するのは不可能だった。獣の足に力が入る瞬間を視界に捉えた獣人は、その瞬間に獣による攻撃の射線上から逃れようと横に逸れようと飛び出すが、そのあまりの速さに回避が間に合わず、獣の爪は獣人の肩を抉るように血肉を引き裂いた。
「ぐッぁぁぁあああ!!」
避けた勢いのまま、肩を覆うように手を当てながら地面に転がる獣人。急ブレーキを掛けて飛び掛かる勢いを殺した狂気の獣は、そのまま反転し負傷した獣人にトドメを刺そうと、再びその鋭爪を突き出す。
絶体絶命の状況。その瞬間、何かが獣を上から叩き潰すかのように落下し、寸前のところで獣人は一命を取り留めた。
「あ・・・“アズール“!?なんで・・・!」
「すまない、少し遅れてしまったか」
壊滅状態に陥った部隊の元に駆けつけたアズールは、獣を足で踏みつけながらその動きを封じる。
「待っていろ、すぐに此奴を・・・」
「アズール!侮るな!そいつはッ・・・!!」
負傷した獣人が、必死に大事な何かを伝えようとしたところで、それは彼らの目の前で起きた。
アズールが踏みつけた地面に押さえ込んでいた獣は、ケツァルが見せた獣人族の肉体強化と同じ変化を見せたのだ。隆々と盛り上がる獣の体表に違和感を感じたアズールは、咄嗟にその足を退けて負傷した獣人を連れ去り距離をとる。
「あれはッ・・・!」
「アイツ・・・俺達みてぇに、肉体強化ができるんだよ・・・。それも獣人のそれとは比べ物にならない程・・・」
一見は百聞にしかずと言うように、負傷した獣人が口にするよりも眼前で起きる狂気の獣の変化を目の当たりにしたアズールは、その悍ましい変化に言葉を失う。
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