994 / 1,646
一族の長として
しおりを挟む
アズールがケツァルの指示に従い、化け物となった獣と戦う仲間の元へ向かい、当の本人がシンとダラーヒムという憎き人間を連れて、樹海に潜む邪魔な獣を排除しに向かった直後、アズールの“ケツァルの判断に従うか否か“を問われた獣人達は、それでも裏切り者と疑わしきケツァルに従う意志はない。
「どうする?このままここに居ても、なんの解決にもならないぞ?」
「だがあのケツァルに従うのは御免だ。アズールはあんな事を言っていたが、裏切り者と言われてるような奴の指示になど従えるものか!」
「そうだ。アズールが同行者として俺達を選んだのは、奴に共感する派閥じゃないからだろ?ってことは、アズールも疑ってたってことじゃねぇか」
「ケツァルは“黒“だ。アズールは利用されちまうに違いねぇ・・・」
獣人族の間に、多種族と連むことなく独立する道を望む派閥と、ケツァルのように他の種族とも協力する道を模索するべきと唱える派閥に分かれていたことは、アズール自身も随分と前から気がついていた。
それにより獣人族が二つに分かれ、協調性を失いつつあることも。だが、獣人族をまとめる立場として、どちらか一方を選ぶということは、もう一方の派閥とは袂を分つ結果に繋がることに、彼は悩んでいた。
しかし、そんな姿を同胞達の前で晒すわけにはいかない。長となった者は、彼らの道標として一族を繁栄と平和、そして獣人族の誇りを重んじ示さなければならない。
本来、そんな彼を支える為の立場として、ケツァルとガレウスというそれぞれの分野で優秀な者達を幹部としていたが、あろうことかその二人が派閥のリーダーとなってしまっている。
どちらかに相談すれば、どちらかに加担していると思われ、余計な火種を産んでしまうと誰にも胸の内を打ち明けられず、ここまで来てしまった。
今回の一件は、偶然とはいえアズールが決断を下す為の機会となったのだ。ケツァルが本当に一族のことを重く捉えているのなら、本人であるアズールやガレウス、その他の多くの同胞達を救う策を講じる筈。
もし彼が裏切り者ならば、アズールを犠牲にすることはなくとも、少なからず自分を裏切り者だと派閥の溝を広げようとしているガレウスや、その一派の多くを犠牲にするかもしれない。
非道な判断と思われるかもしれない。しかしアズールは、同胞達の命を使って、ケツァルが裏切り者か否かを測る天秤にかけたのだ。
その為に彼にとって不利な状況まで用意して。
アズールが同行者として選んだ同胞の中に、ケツァル派の獣人は一人として選別していない。それどころか、ケツァルの意志に靡きそうな中立な思想を持つ者さえ連れてきてはいなかった。
敵だらけの状況、そして駒として扱うには犠牲に選びやすいガレウス派の者達だけで構成していた。そんな彼らは、案の定ケツァルに従うということを良しと思わず、例え獣人族の長であるアズールが従うと言っても、考えを曲げることはなかった。
「ならどうするよ?ここに居たって、あのヤベェ気配がこっちに来ないとも限らないだろ」
「アズールは、“ケツァルに従うかどうか“を自分達で決めろと言っただけだ。なら、俺達は俺達で出来ることをしよう」
「どうするつもりだ?」
目標を失い、どうするべきか悩む彼らの中で、自分達に出来ることをしようと先導する者が現れた。彼の言う通り、このまま手をこまねいていても何も始まらない。
それに、アズールは“何もするな“とは言っていない。彼はそこに注目し、自分なりにアズールの意志を汲み取ったようだ。
「アジトに戻ろう・・・」
「アジトって・・・正気か!?この気配、お前も気づいてないはずはないだろ?ケツァルじゃねぇが、このままアジトに直行するにしろ迂回するにしろ、気付かれずになんて無理だぞ!?」
「分かってるさ!」
「なら、どうするつもりだよ?見つかる度に一体ずつ袋叩きにでもするか?」
他の獣人達も、アジトに戻ると言い出した者に分かってて聞いているようだった。道中にいる獣を、いちいち相手にしている暇などない。それに、アズールが選んだ選りすぐりの者達とはいえ、下手をすれば何体か相手にする間に人数を失い、アジトにまで辿り着けないことも想定される。
しかし、アジトに戻ると口にした者も当然そんなことは理解していると、彼らに伝える。その上での強行策なのだと。
「途中で気付かれても、アジトまで強行突破する」
あまりにも無謀な提案に、一同は驚きの表情を浮かべる。
「追いつかれるだろ!?それに複数に追われたらどうするんだよ?」
「・・・どうしても追いつかれるとなったら、一人が殿となって少しでも長く食い止める。それしかないな・・・」
言葉を口にしている本人でさえ、声を震わせている。当然、誰がその“殿“を務めるのかと言う話になるだろう。一族の為とはいえ、誰も自ら死地に赴こうなどという命知らずはいないだろう。
だが、そこは本人も分かっていたようで、もしこの話に乗るという一同の賛成を得られるのなら、自らがその役割を買って出ると言い出したのだ。
「どうする?このままここに居ても、なんの解決にもならないぞ?」
「だがあのケツァルに従うのは御免だ。アズールはあんな事を言っていたが、裏切り者と言われてるような奴の指示になど従えるものか!」
「そうだ。アズールが同行者として俺達を選んだのは、奴に共感する派閥じゃないからだろ?ってことは、アズールも疑ってたってことじゃねぇか」
「ケツァルは“黒“だ。アズールは利用されちまうに違いねぇ・・・」
獣人族の間に、多種族と連むことなく独立する道を望む派閥と、ケツァルのように他の種族とも協力する道を模索するべきと唱える派閥に分かれていたことは、アズール自身も随分と前から気がついていた。
それにより獣人族が二つに分かれ、協調性を失いつつあることも。だが、獣人族をまとめる立場として、どちらか一方を選ぶということは、もう一方の派閥とは袂を分つ結果に繋がることに、彼は悩んでいた。
しかし、そんな姿を同胞達の前で晒すわけにはいかない。長となった者は、彼らの道標として一族を繁栄と平和、そして獣人族の誇りを重んじ示さなければならない。
本来、そんな彼を支える為の立場として、ケツァルとガレウスというそれぞれの分野で優秀な者達を幹部としていたが、あろうことかその二人が派閥のリーダーとなってしまっている。
どちらかに相談すれば、どちらかに加担していると思われ、余計な火種を産んでしまうと誰にも胸の内を打ち明けられず、ここまで来てしまった。
今回の一件は、偶然とはいえアズールが決断を下す為の機会となったのだ。ケツァルが本当に一族のことを重く捉えているのなら、本人であるアズールやガレウス、その他の多くの同胞達を救う策を講じる筈。
もし彼が裏切り者ならば、アズールを犠牲にすることはなくとも、少なからず自分を裏切り者だと派閥の溝を広げようとしているガレウスや、その一派の多くを犠牲にするかもしれない。
非道な判断と思われるかもしれない。しかしアズールは、同胞達の命を使って、ケツァルが裏切り者か否かを測る天秤にかけたのだ。
その為に彼にとって不利な状況まで用意して。
アズールが同行者として選んだ同胞の中に、ケツァル派の獣人は一人として選別していない。それどころか、ケツァルの意志に靡きそうな中立な思想を持つ者さえ連れてきてはいなかった。
敵だらけの状況、そして駒として扱うには犠牲に選びやすいガレウス派の者達だけで構成していた。そんな彼らは、案の定ケツァルに従うということを良しと思わず、例え獣人族の長であるアズールが従うと言っても、考えを曲げることはなかった。
「ならどうするよ?ここに居たって、あのヤベェ気配がこっちに来ないとも限らないだろ」
「アズールは、“ケツァルに従うかどうか“を自分達で決めろと言っただけだ。なら、俺達は俺達で出来ることをしよう」
「どうするつもりだ?」
目標を失い、どうするべきか悩む彼らの中で、自分達に出来ることをしようと先導する者が現れた。彼の言う通り、このまま手をこまねいていても何も始まらない。
それに、アズールは“何もするな“とは言っていない。彼はそこに注目し、自分なりにアズールの意志を汲み取ったようだ。
「アジトに戻ろう・・・」
「アジトって・・・正気か!?この気配、お前も気づいてないはずはないだろ?ケツァルじゃねぇが、このままアジトに直行するにしろ迂回するにしろ、気付かれずになんて無理だぞ!?」
「分かってるさ!」
「なら、どうするつもりだよ?見つかる度に一体ずつ袋叩きにでもするか?」
他の獣人達も、アジトに戻ると言い出した者に分かってて聞いているようだった。道中にいる獣を、いちいち相手にしている暇などない。それに、アズールが選んだ選りすぐりの者達とはいえ、下手をすれば何体か相手にする間に人数を失い、アジトにまで辿り着けないことも想定される。
しかし、アジトに戻ると口にした者も当然そんなことは理解していると、彼らに伝える。その上での強行策なのだと。
「途中で気付かれても、アジトまで強行突破する」
あまりにも無謀な提案に、一同は驚きの表情を浮かべる。
「追いつかれるだろ!?それに複数に追われたらどうするんだよ?」
「・・・どうしても追いつかれるとなったら、一人が殿となって少しでも長く食い止める。それしかないな・・・」
言葉を口にしている本人でさえ、声を震わせている。当然、誰がその“殿“を務めるのかと言う話になるだろう。一族の為とはいえ、誰も自ら死地に赴こうなどという命知らずはいないだろう。
だが、そこは本人も分かっていたようで、もしこの話に乗るという一同の賛成を得られるのなら、自らがその役割を買って出ると言い出したのだ。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる