990 / 1,646
真っ直ぐな言葉
しおりを挟む
片腕を失い、銃弾を浴びた獣は地に倒れ動かなくなる。これもまた、巨大樹の中で倒した獣同様に消えることはない。その場に残されるのは、肉塊へと変わり果てた物と凄惨な血の跡だけだった。
「やっぱりか・・・」
「消えない・・・みたいだね。モンスターってのとは違うって事?」
「どうだろうな・・・それはアタシにも分からん。ただ、この世界の認識では、これはモンスターとして扱われないのかもしれないってだけだ・・・」
トドメを刺した獣の側に、ミアとツクヨが近づきその生態について何かわかることはないかと様子を見ている。しかし、二人にとってもこれまでに見たことのないイレギュラーな存在に、何の情報も掴めずにいた。
一匹目の時は、巨大樹の中からの脱出途中であり詳しくは調べられなかった。あの時に比べれば、状況的には僅かに余裕が生まれた。
だが、ここに長居もしていられない。戦場となっているリナムルでは、他にも各所で獣人達がこれと同じ者と戦っている。
獣人族に協力する姿勢を見せる為にも、今はガルムの仲間達を少しでも多く救ってやらねばならない。
最初に負傷していた獣人と、それを手当てしたツバキとアカリは、戦闘を終えたガルムともう一人の獣人の元へ駆け寄り、残りの回復薬を分け与える。
「おい、人間を野放しにしてることがガレウスにバレたら・・・!」
「そんな事も言ってられないだろ?現に俺もお前らも、その人間のおかげでこうして生きてる」
「戦力的にガルムだけでも十分だっただろ!?」
獣人が三人も集まれえば、先程の獣も倒せたであろうと主張するが、そんな彼にその自分がここへ来れたのは、ミア達に命を救われたからだと、巨大樹に逃げ込み窮地に陥っていたことを説明するガルム。
ガルム達の生存は、必ずしもミア達人間のおかげとは言い切れない。だが、あのまま巨大樹の中でミア達に助けてもらっていなければ、あの時既に死んでいたであろう事実を仲間に伝える。
すると、救われた二人の獣人はそれ以上何も言えないと言わんばかりに、口をつぐんでしまう。
「それより今は他の仲間達を!お前達も気配を辿り、他の救援へ向かってくれ」
「あぁ、分かってる!」
「絶対に一人になるなよ?必ず複数人で対応に当たるんだ」
ツバキ達の回復薬ですっかり元通りとなった二人の獣人は、ガルムが次に向かおうとしている方向とは逆の戦場へと向かう。
すると、彼らはその場を後にする前に、助けてくれたツバキとアカリにお礼の言葉と謝罪を述べていった。
「お前達人間を、まだ信用した訳じゃない。だが・・・怖い思いをさせて悪かった・・・」
「してもらった事に対する恩は忘れない。これは人間に対するものではなく、“お前達“対するものだ。ありがとう」
初めて獣人族と出会った時は、馬車を襲撃され殺されるかもしれないという恐怖を与えられた二人だったが、巨大樹に囚われていた時のケツァル派の獣人達といい、今目の前にいる獣人達といい、話してみれば理解のある者のようにも感じた。
「いいってことよ!困ってる奴がいれば、助けるのは当たり前だろ?」
「その通りですわ!無事で何よりです。この後も、どうかお気をつけて」
思いもしない真っ直ぐな言葉に、二人の獣人は顔を見合わせ呆然としてしまった。今の彼らには、ツバキやアカリのように裏表のない純粋な言葉が深く刺さる。
二人の獣人を見送り、ガルムはツバキとアカリを連れ、死体を調べるミア達に合流する。
「おい、すまないがそろそろ次に移動したい」
「あぁ、分かった」
「どうかしたのか?」
血溜まりに倒れる獣に興味を示すミア達が珍しかったのか、ガルムは彼らが何を調べていたのか気になったようだ。しかし、彼らの調べていたものは、このWoFの住人では知り得ない、理解のできぬ事だろう。
ガルムの問いに対し、ミアの機転により彼女の錬金術のスキルで何かされた痕跡を辿れないかどうかを調べていたと、それらしい言い訳でガルムを納得させることができた。
実際この獣も、獣人達を襲ったという人間に何かしらの手を加えられているに違いない。そういった反応を調べる為にも、錬金術のスキルや精霊の力は役に立つ。
ミアも自身の使役する四大元素の一つ、水の精霊であるウンディーネの力を借り、その獣の死体を調べていた。
その結果分かったのは、獣の死体の中に他の生物らしきものの反応を感じ取ったという事だった。それが細菌や微生物である可能性も否定できないが、ウンディーネがその反応を妙に気にしていたのだ。
今はそれが分かっただけでも収穫があったと思うべきと、一行はガルムが掴んだ次なる戦場の反応を追い、移動を開始した。
「やっぱりか・・・」
「消えない・・・みたいだね。モンスターってのとは違うって事?」
「どうだろうな・・・それはアタシにも分からん。ただ、この世界の認識では、これはモンスターとして扱われないのかもしれないってだけだ・・・」
トドメを刺した獣の側に、ミアとツクヨが近づきその生態について何かわかることはないかと様子を見ている。しかし、二人にとってもこれまでに見たことのないイレギュラーな存在に、何の情報も掴めずにいた。
一匹目の時は、巨大樹の中からの脱出途中であり詳しくは調べられなかった。あの時に比べれば、状況的には僅かに余裕が生まれた。
だが、ここに長居もしていられない。戦場となっているリナムルでは、他にも各所で獣人達がこれと同じ者と戦っている。
獣人族に協力する姿勢を見せる為にも、今はガルムの仲間達を少しでも多く救ってやらねばならない。
最初に負傷していた獣人と、それを手当てしたツバキとアカリは、戦闘を終えたガルムともう一人の獣人の元へ駆け寄り、残りの回復薬を分け与える。
「おい、人間を野放しにしてることがガレウスにバレたら・・・!」
「そんな事も言ってられないだろ?現に俺もお前らも、その人間のおかげでこうして生きてる」
「戦力的にガルムだけでも十分だっただろ!?」
獣人が三人も集まれえば、先程の獣も倒せたであろうと主張するが、そんな彼にその自分がここへ来れたのは、ミア達に命を救われたからだと、巨大樹に逃げ込み窮地に陥っていたことを説明するガルム。
ガルム達の生存は、必ずしもミア達人間のおかげとは言い切れない。だが、あのまま巨大樹の中でミア達に助けてもらっていなければ、あの時既に死んでいたであろう事実を仲間に伝える。
すると、救われた二人の獣人はそれ以上何も言えないと言わんばかりに、口をつぐんでしまう。
「それより今は他の仲間達を!お前達も気配を辿り、他の救援へ向かってくれ」
「あぁ、分かってる!」
「絶対に一人になるなよ?必ず複数人で対応に当たるんだ」
ツバキ達の回復薬ですっかり元通りとなった二人の獣人は、ガルムが次に向かおうとしている方向とは逆の戦場へと向かう。
すると、彼らはその場を後にする前に、助けてくれたツバキとアカリにお礼の言葉と謝罪を述べていった。
「お前達人間を、まだ信用した訳じゃない。だが・・・怖い思いをさせて悪かった・・・」
「してもらった事に対する恩は忘れない。これは人間に対するものではなく、“お前達“対するものだ。ありがとう」
初めて獣人族と出会った時は、馬車を襲撃され殺されるかもしれないという恐怖を与えられた二人だったが、巨大樹に囚われていた時のケツァル派の獣人達といい、今目の前にいる獣人達といい、話してみれば理解のある者のようにも感じた。
「いいってことよ!困ってる奴がいれば、助けるのは当たり前だろ?」
「その通りですわ!無事で何よりです。この後も、どうかお気をつけて」
思いもしない真っ直ぐな言葉に、二人の獣人は顔を見合わせ呆然としてしまった。今の彼らには、ツバキやアカリのように裏表のない純粋な言葉が深く刺さる。
二人の獣人を見送り、ガルムはツバキとアカリを連れ、死体を調べるミア達に合流する。
「おい、すまないがそろそろ次に移動したい」
「あぁ、分かった」
「どうかしたのか?」
血溜まりに倒れる獣に興味を示すミア達が珍しかったのか、ガルムは彼らが何を調べていたのか気になったようだ。しかし、彼らの調べていたものは、このWoFの住人では知り得ない、理解のできぬ事だろう。
ガルムの問いに対し、ミアの機転により彼女の錬金術のスキルで何かされた痕跡を辿れないかどうかを調べていたと、それらしい言い訳でガルムを納得させることができた。
実際この獣も、獣人達を襲ったという人間に何かしらの手を加えられているに違いない。そういった反応を調べる為にも、錬金術のスキルや精霊の力は役に立つ。
ミアも自身の使役する四大元素の一つ、水の精霊であるウンディーネの力を借り、その獣の死体を調べていた。
その結果分かったのは、獣の死体の中に他の生物らしきものの反応を感じ取ったという事だった。それが細菌や微生物である可能性も否定できないが、ウンディーネがその反応を妙に気にしていたのだ。
今はそれが分かっただけでも収穫があったと思うべきと、一行はガルムが掴んだ次なる戦場の反応を追い、移動を開始した。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる