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神代 コウ

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襲撃者の正体

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 自身の脳内で思い描く現実の認識を、想像した通りに自身やその周りに影響させるという、WoFの世界の住人では扱うことのできない特殊な装備品となっている。

 ツクヨはその剣の能力を使い、窓の外を塞ぐ蔦や根っこを柔らかく脆いものに認識を置き換え、素早い剣技を振るう。

 すると、それまでいくら切り刻もうと両断することのできなかった蔦や根っこが、綺麗に切り落とされ地面に薙ぎ倒されていく。

 「よし!上手くいったね」

 これにより、大きな木による建造物からの脱出は叶う。後は脱出経路と次へ向かう為のルート、並びに安全確保が必要となるのだが、外へと繋がった窓から身を乗り出したツクヨの元に、感知してからではどうしようもない程の速度で、獣人の気配がやって来たのだ。

 「えっ!?」

 ツクヨがその時感じた気配は、確かに一人分の獣人のものと思われる気配だけだった。だが、いざその光景を瞳に映してみると、そこにへ傷だらけの獣人族と大柄なもう一人の獣人が戦っていたのだ。

 「なッ!?」

 一方的にやられているように見えた獣人が、吹き飛ばされてきた際にツクヨの存在に気がつく。彼からしたら、何故人間がこんなところにいるのかと言ったところだろう。

 血に飢えた魔物のように、涎を垂らし威圧するかのような咆哮を上げながら、その体表に浮き出た赤黒い血管を張り巡らせ膨張した剛腕を、傷だらけの獣人へと振るう。

 目にした直後に、全身を震わせるほどの悪寒を感じたツクヨは、目の前の異様な獣人をすぐに敵だと判断し、身体が直感的に動き出し手にした剣を振り抜く。

 だが、後ろに目でもついているかのようにツクヨの斬撃を躱し、一度その勢いを殺した拳を再び傷だらけの獣人へ向けて、まるで銃弾のように撃ち放つ。

 咄嗟に刃を振るったツクヨの行動により生み出された一瞬の隙をつき、傷だらけの獣人は足の筋肉を膨張させ脚力を増すと、一瞬にしてその場から消えると拳を放った異様な獣人の攻撃を躱し、カウンターの一撃をその狂気に満ちた顔面に入れる。

 衝撃波が周囲に飛び散り、一瞬の突風が吹き荒ぶ程の一撃だった。しかし、まともに入った筈の一撃にも、その狂気に満ちた獣人の身体は吹き飛ぶこともなく、首が少し横を向いただけだ。

 「ゔぅぅぅ・・・!!」

 「なッ・・・!?んの化け物がよぉッ!!」

 傷だらけの獣人が即座に拳を収め、次の一撃をお見舞いしようとしたところで、彼のその腕を掴み取り反対の腕に漲る力を握り締める。それはまるで、眉間に銃口でも突きつけられているかのような緊迫感を彼に与えていたことだろう。

 引き金に掛けられた指が動こうとしたその刹那、狂気に満ちた獣人の膝が折れ、片膝をつく。

 呆気に取られた獣人は、ゆっくりその視線を下に下ろすと、その魔物じみた獣人の片足が膝の下から綺麗に跳ね飛ばされていたのだ。そしてその背後には、布都御魂剣を振り抜いたツクヨの姿があった。

 「おいおい・・・刃も通らなかったんだぞ!?」

 「いいから早く離れてってばッ!」

 剣を翻し刃を返すツクヨ。だが目の前の獣も、ただ一方的にやられているだけではなかった。

 自ら地面を転がるように回避した獣は、切断された自分の足を掴み取ると、それをツクヨ目掛けて投げ飛ばした。すぐに飛んできた足を両断するツクヨだったが、その奥から片足を失った状態で飛び込んできた獣の蹴りを真面に喰らってしまう。

 巨大な大筒で腹部を打ちつけられたかのような衝撃を受け、ツクヨの身体はまるで人形のように後方へ弾かれ、壁に打ちつけられる。

 「ぐッ・・・!!」

 追い討ちを掛けようと、本来の獣の姿のように四つん這いになって地面に倒れるツクヨの元へ向かうとするが、重心を支える柱の一つである片足を掴まれる。

 人間によって窮地を救われた獣人は、明らかに様子のおかしいその獣の足首を掴むと、勢いよく後ろへと引っ張り、そのままハンマー投げのようにぐるぐると回転し勢いをつける。

 そして全力の力で遠くへと放り投げ、倒れるツクヨの側に駆け寄る。

 「何故お前から人間の気配がしなかった!?」

 そう言いながら、瓶に入った薬品をツクヨの身体にかける。すると、淡い緑色の光が彼の身体を包み込む。その反応から、彼らWoFユーザーが普段使う回復薬と同じ反応と効果があることが分かった。

 徐々に身体の痛みが引いていくツクヨは、薄れていた意識を取り戻す。

 「あれは一体・・・?何が起きたんです?」

 「俺達にも分からん。突然仲間達の様子がッ・・・今までそんな様子はなかったってのにッ・・・!」

 ふんだんに回復薬を使ってもらったおかげで、先程の獣から受けたダメージは身体からみるみる抜けていく。

 どうやら彼らも、あの様子のおかしくなった獣人に心当たりはなかったようだ。突然の変異、或いは裏切りが招いた事態なのだろうか。
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