World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
981 / 1,646

人の身に宿る獣の力

しおりを挟む
 朦朧とする意識の中で、何も口にする事なく歩み寄るケツァルに違和感を感じたシンだったが、耳鳴りが激しく内側から鳴り響くような頭痛が思考を鈍らせる。

 「・・・手を貸そう」

 「・・・?」

 倒れるシンの身体に触れると、まるで医者の触診のように様子を見ている。すると、懐からミア達が打たれた注射と同じものを手にし、シンの身体にそれを打ち込もうとする。

 「君達が口にした我々の食べ物・・・。あれはただの空腹を満たす為のものじゃない。魔力が制御できないだろ?我々獣人族以外にはそうなんだ。だがそれを克服することで、君達にも“獣“の力が宿る」

 「・・・獣の・・・?」

 「説明は道すがら・・・ね。今は抵抗力を上げる薬を君に打ち込む。これで少しは楽になる筈だ。アジトまでは私が運ぶ。・・・君達に力を借りるかもしれない。だが、無闇に殺されるだけよりかはマシだろう?」

 そう言ってシンの腕に注射を打ったケツァルは、力が抜けた彼の身体を持ち上げアズール達の後を追う。そこで、先程の話の続きを口にする。

 獣の力を宿した食べ物の話。それを人間が口にすることで、その体内に獣人達と同じ魔力の匂いや波動を宿す事ができる。かと言ってそれにより獣になることはなく、獣人達による感知を受けずらくなる他、一部の戦闘能力が向上するのだそうだ。

 しかし、プラスの面だけではないのが彼らを襲った症状の正体だ。種族間での違いを身体に宿すのだ。そこには当然、拒絶反応が起こる。余程のことがない限り、自力で回復することは不可能。

 その為の薬を、ケツァルはエルフ族と協力し開発していた。来るべき時の為に、獣人達の目を掻い潜り、恨みや怒りに盲信する彼らの目を覚まさせる力とする為に。

 一方、ガレウス派の獣人達により注射を打たれたミア達は、騒々しい音に目を覚ます。鼻を突くような臭いと煙が、彼らの寝かされている部屋にも立ち込めていた。

 「ッ・・・!?な・・・何だ?何が・・・」

 気を失う前に感じていた身体の怠さや違和感は、彼らから打たれた薬の影響か綺麗に抜けていた。今はむしろ、長い眠りから覚めたことでこれまでの疲れが無くなったかのようにスッキリしていた。

 徐々に冴えてくる感覚が、逆に周囲の音や臭いをいつも以上に手繰り寄せてしまう。研ぎ澄まされた感覚に違和感を覚えつつも、ミアはベッドから起き上がり外の様子を伺おうと、扉の方へとおぼつかない足取りで向かう。

 「この音は・・・?何が起きている・・・」

 扉に設けられた小さな窓から、覗くように外の様子を見る。すると、彼らが捕まっていたリナムルの大樹を用いた建物に、黒い煙と火花が舞っている。まるで建物自体が燃やされているかのように。

 「これは・・・」

 そこへ、同じく眠りから覚めた仲間達が、ミアと同じく感覚の冴えに困惑していた。

 「ミア・・・これは?言った何が・・・」

 「分からない。だが、どうやら脱出を急いだ方が良さそうだ・・・」

 困惑する彼らに、ミアは部屋の外で起きている状況を伝える。外から聞こえてくる何かの声と音に、まだ目覚めた感覚に慣れていない彼らは本調子ではないようだが、ここにいてはいずれ逃げ場がなくなる。

 ミアがいち早くこの感覚に慣れたように、時間が解決してくれるものだと信じ、誰がどのくらい動けるのかを確認すると、ミアは扉を蹴破り、外の様子を伺いながら逃げ道を探す。

 多くを口にしていなかったツクヨは、ミアと同じくすぐにその感覚に慣れたが、ケツァル派の獣人達から渡された食べ物を多く口にしていたツバキとアカリは、まだ周囲から聞こえてくる爆音による耳鳴りと、嗅覚を刺激する異臭に苦しんでいる。

 「見張りがいない・・・。火事か?それとも争いがッ・・・」

 寝かされていた部屋の前に見張りはおらず、それどころかそこから見える範囲に獣人達の姿は見当たらなかった。外からは僅かに獣人達のものと思われる声が聞こえてくるが、状況が全く把握できない。

 すると、下の階層の方で何かに追われるように逃げ込んできた獣人が、怯えるように悲鳴を上げているのが耳に入る。蔦で出来た手すりから身を乗り出し、ミアが下を確認すると傷だらけの獣人が、大きな別の獣人に迫られていたのだ。

 初めはガレウスという獣人なのかと疑っていたミアだったが、その獣人は今まで見てきた獣人達とは明らかに様子がおかしかったのだ。

 逃げ惑っていた獣人にトドメを刺すと、その手に付いた血を舐め取り、死んだ獣人の身体にかぶりついた。それこそ腹を空かせた、本当の獣のように死肉を貪り、更にその身に纏う凶悪なオーラを倍増させていた。

 「おいおい・・・何だありゃぁ・・・!仲間割れか?」

 「どうしたんだい?ミア。何を見て・・・うわぁ!?」

 悍ましい光景に、思わず尻餅をついて後退るツクヨ。獣人を食い終えたモンスターのような理性を失った獣は、再び獲物を求めて外へと歩いていく。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...