World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
979 / 1,646

過去と動機

しおりを挟む
 アズールが連れていたのはケツァルの噂を耳にしていた者がほとんど。だが同行が決まった時点で、ケツァルもそれは覚悟していた事だった。

 何故自分が同行者に選ばれたのか。護衛という意味では、圧倒的にガレウスの方が適任であるのは誰の目にも明らか。

 だが、ケツァルはこれをチャンスと捉えた。ここでアズールを説得することが出来れば、獣人族の行く末に光を灯すことができるかも知れない。少なくとも、このまま人間を敵視し続け、シン達のような通りかかった者達を片っ端から襲っていては、いつか今以上の不幸が降りかかることになるだろう。

 恨むべきは人間という種族ではなく、彼らを襲った者達であると分からせる必要がある。その為にもケツァルは、犯人についての有力な情報を握る人物と、アズール達を唸らせるだけの力を持った人間が必要だった。


 そしてそんな人物が、今都合よく目の前にいる。ダラーヒムが情報を持っていたというのに関しては偶然だったが、ケツァルはダラーヒムがシー・ギャングの幹部である事を知っていたのだ。

 更にはそんな彼と行動を共にしていたシン達のことも、既に知っていたのだった。彼らを乗せた馬車を襲撃するよう仕向けたのも、ケツァル派の者達による縄張りへn侵入報告を上手く利用してのことだった。

 故に彼らを襲ったのは偶然ではなく、馬車の手配から下調べも既に根回ししていたのだ。

 シン達は先のレースで、一躍有名となっていた。海賊達を相手にあれだけの活躍が出来れば、アズールの前に連れてきたとしても申し分ないだろう。

 彼らの情報を得る為に、ケツァルは獣人族の他に森に住んでいるエルフ族との協力を持ちかけていた。

 一人で森を出ていくような用事を、アズールやガレウスに知られる訳には行かなかった。既に怪しまれていた彼は、エルフ族の協力を得て森に結界や幻覚などを引き起こすことにより、獣人達の目を欺きながら多方面との協力の根間らしを進めていたのだという。

 エルフ族も獣人達と同じく、同族の行方不明という事件に頭を抱えていた。その手法や法則性が、獣人族に起きていた事件と重なることもあることから、それをネタにエルフ族と手を組んでいた。

 同じ目的を果たす為に動いてもらう中、エルフ族の調査でとある奇妙な話を耳にすることになったケツァル。

 その内容は、彼と同じ獣人族のガレウスに関する噂だったのだ。

 アズールが獣人達の長になる前から、エルフ族と獣人族は協力もしなければ敵対もしないという関係性で、この樹海の中で生活してきていた。そもそも食や生態が全く違う彼らに縄張りなど必要なく、互いを気にしなければ争うこともなかった。

 それ故、互いに縄張りや不可侵領域などもなく、ただそれぞれの種族が集まる村や集落には関与しなだけの関係性だったのだが、その辺りからエルフ族と獣人族の間で行方不明事件なるものが発生し始めた。

 後にそれが人間の仕業であることが明るみになるのだが、その情報に埋もれるようにとある変化が獣人族の中に現れたのだという情報を、ケツァルは耳にすることになる。

 行方不明事件が人間の仕業である事を知り、それぞれの種族が湧き立っていた頃、それと同時期に獣人達のある一人が少しずつ魔力を強めていたのだという。

 魔力を敏感に感じ取ることができるエルフ族ならではの情報。実際彼らからその話を聞くまで、同じ獣人であるケツァルには全くその変化を見分けることが出来なかった。

 その魔力の上昇は、修行やトレーニングでどうにかなるような量ではないらしい。不自然に魔力を上げる獣人と行方不明事件。関連性を疑うには情報が少なかったが、ケツァルは独自にその者に探りを入れてみることにした。

 その獣人というのが、他でもない“ガレウス“という噂だった。

 互いに思考の反発から仲違いをしていたケツァルとガレウス。そんなガレウスは、同族を誘拐しおかしくされた事を恨み、激しい怒りを人間に向けるようになる。

 それこそ、ただ森を通り掛ろうとしただけの人間であっても。あまりにも見境の無い行いは、無駄な争いや恨みを買うだけだと止めたが、先に手を出してきたのは人間の方だと聞く耳を持たなかった。

 情報収集の一環の為、捕らえた人間に拷問を掛けていたのもガレウスだった。彼なりに何かを掴もうとしての事だったのだろうが、その拷問は人間に恨みを持つ獣人達によって、あまりにも楽しそうに行われていたのだという。

 当然その後処理も彼らが行っている筈なのだが、それを知る者達はほとんどいない。ボスであるアズールでさえ、ガレウスに一任してるようでその詳細までは知らない。

 エルフ達の話から妙に感じたケツァルは、エルフ達の力を借りながら片手間に調べてみることにした。するとどうしても、遺体の処理方法だけがどうにも腑に落ちない点が多かった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...