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鳥籠の中
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鳥類や獣達の声が何処からともなく聞こえてく樹海の中を、様々な形に変形した奇妙な根っこや草木を掻き分けながら進んでいく。シン達の先を行く獣人達のおかげで道は切り開かれていくが、ダラーヒムの大きな身体を支えながらでは消耗が激しい。
「大丈夫かい?」
汗を掻き息が荒くなるシンに寄り添うように心配した声を掛けたのは、彼らに協力的であったケツァルだった。
シン本人は、ダラーヒムを抱えている事と歩き慣れない獣道による疲労くらいにしか思っていなかったが、彼の身体にも着実にミア達と同じものが巡り始めていたのだ。
「あっあぁ・・・。少し疲れが出てきた・・・かな?」
「私から“アズール“に掛け合ってみよう。真相を確かめる前に人質の仲間を失っては、信頼に欠けるしな」
「アズール・・・?」
ケツァルの言うアズールという言葉に、眉を潜ませるシン。彼らはまだ獣人族のボスの事を知らない。道すがらケツァルは、アズールというのが獣人達をまとめているボスであり、今まさにシンとダラーヒムの命運を握っている人物であることを告げる。
「アズール?知らない名だなぁ・・・」
「我々は人間と袂を分かって長い。その間に長も何度か変わっているんだ。アズールは私達の代の代表に選ばれた、謂わば馴染みというやつだよ」
彼の話ではアズールとケツァル、そしてガレウスは幼い頃からの知り合いであったようだ。アズールは先代からのボスの血筋であり、その才能も魅入られていた情に熱い者であり、ガレウスは獣人達の間でも札付きの悪であり、他の種族を襲い度々問題を起こす厄介者だったようだ。
そしてケツァルは、文才に長ける者の血筋で古くは先代のボスの側近などもしていたようだ。その事もあって、彼は現獣人族のボスであるアズールの参謀役として支えているのだという。
「そこへ人間の起こした事件か・・・」
「事件・・・そうだな。ある日から・・・我々でも気付かぬ内に獣人達の暮らしていた村から、人知れず獣人達が消えるという現象が起こり始めた。それが所謂、人間達による我々への非道行為の始まりだったんだ」
恐らくそれが、彼らのいる樹海にいるという人間達による誘拐事件のことなのだろう。そしてそこでは実験が行われており、モンスターや動物達への薬物投与なども行っていたのだ。
「それが今向かっているところ・・・なのか?」
「期待するようなものがあるとは思わないことだ・・・。だが、きっと手掛かりになる。その為に俺は来たんだからな・・・」
「何?手掛かりだと?お前は場所を知っているんじゃなかったのか?それではッ・・・!」
言葉を続けようとしたところで、ケツァルは周囲の状況に気がつく。獣人達は足を止め、皆一様に彼の方を見ている。いや、見ているというよりも疑いの目を向けているといったところだろう。
そして獣人達の間を通り、アズールが近づいてくる。
「“それでは“・・・何だ?」
「アッアズール・・・!」
「ケツァル・・・お前を疑いたくはないが、皆はそうは思っていないらしいぞ。俺や周りの者に黙って、妙な薬を作っていたようだな。お前が森でエルフの奴らと会っているというのを目にした者がいる。・・・聞かせて貰おうか?」
シン達とケツァルを取り囲む獣人達の中に、ケツァル派の仲間はいない。アズールは元よりこうする為に人員を選んで連れてきていたのだ。疑いのあるケツァルと思想を共にする者達と遠ざけ、孤立させる。
「大丈夫かい?」
汗を掻き息が荒くなるシンに寄り添うように心配した声を掛けたのは、彼らに協力的であったケツァルだった。
シン本人は、ダラーヒムを抱えている事と歩き慣れない獣道による疲労くらいにしか思っていなかったが、彼の身体にも着実にミア達と同じものが巡り始めていたのだ。
「あっあぁ・・・。少し疲れが出てきた・・・かな?」
「私から“アズール“に掛け合ってみよう。真相を確かめる前に人質の仲間を失っては、信頼に欠けるしな」
「アズール・・・?」
ケツァルの言うアズールという言葉に、眉を潜ませるシン。彼らはまだ獣人族のボスの事を知らない。道すがらケツァルは、アズールというのが獣人達をまとめているボスであり、今まさにシンとダラーヒムの命運を握っている人物であることを告げる。
「アズール?知らない名だなぁ・・・」
「我々は人間と袂を分かって長い。その間に長も何度か変わっているんだ。アズールは私達の代の代表に選ばれた、謂わば馴染みというやつだよ」
彼の話ではアズールとケツァル、そしてガレウスは幼い頃からの知り合いであったようだ。アズールは先代からのボスの血筋であり、その才能も魅入られていた情に熱い者であり、ガレウスは獣人達の間でも札付きの悪であり、他の種族を襲い度々問題を起こす厄介者だったようだ。
そしてケツァルは、文才に長ける者の血筋で古くは先代のボスの側近などもしていたようだ。その事もあって、彼は現獣人族のボスであるアズールの参謀役として支えているのだという。
「そこへ人間の起こした事件か・・・」
「事件・・・そうだな。ある日から・・・我々でも気付かぬ内に獣人達の暮らしていた村から、人知れず獣人達が消えるという現象が起こり始めた。それが所謂、人間達による我々への非道行為の始まりだったんだ」
恐らくそれが、彼らのいる樹海にいるという人間達による誘拐事件のことなのだろう。そしてそこでは実験が行われており、モンスターや動物達への薬物投与なども行っていたのだ。
「それが今向かっているところ・・・なのか?」
「期待するようなものがあるとは思わないことだ・・・。だが、きっと手掛かりになる。その為に俺は来たんだからな・・・」
「何?手掛かりだと?お前は場所を知っているんじゃなかったのか?それではッ・・・!」
言葉を続けようとしたところで、ケツァルは周囲の状況に気がつく。獣人達は足を止め、皆一様に彼の方を見ている。いや、見ているというよりも疑いの目を向けているといったところだろう。
そして獣人達の間を通り、アズールが近づいてくる。
「“それでは“・・・何だ?」
「アッアズール・・・!」
「ケツァル・・・お前を疑いたくはないが、皆はそうは思っていないらしいぞ。俺や周りの者に黙って、妙な薬を作っていたようだな。お前が森でエルフの奴らと会っているというのを目にした者がいる。・・・聞かせて貰おうか?」
シン達とケツァルを取り囲む獣人達の中に、ケツァル派の仲間はいない。アズールは元よりこうする為に人員を選んで連れてきていたのだ。疑いのあるケツァルと思想を共にする者達と遠ざけ、孤立させる。
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