977 / 1,646
偽りの優しさ
しおりを挟む
突然眠気のようなものが、ミアとツクヨを襲う。誰かに言葉で伝えようとするが、身体の怠さと瞼の重みがそれを許さないほど急激に襲い掛かる。
何とか倒れないように踏み止まろうとするも、足がもつれてしまいとてもではないが立っていられなかった。
ツバキとアカリの時の異変で既に彼らの状態を知っていた、人質の移送中の獣人達は倒れそうになる二人の身体を受け止める。
「おい!急ぎコイツらを診れる場所へ!薬の準備もしておけ!」
「アイツらこんなに早くッ・・・!クソ!これが初めての実践投与になるけど・・・いいよな!?」
「構わねぇ!今コイツらに死なれたら、俺達やガレウスが真っ先に疑われんだ!どの道使ってみるしかねぇ!」
人質となった彼らを担ぎ、獣人達は当初予定していた移送先とは別に、彼らを寝かせられる部屋へと急遽向かう。そして最寄りのベッドのある部屋へ到着すると、そこに入ったことを見られないように慎重に扉を閉める。
「薬は!?」
「あぁ、用意してある。だが、まさかこんなにすぐに必要になるとはな・・・。効能についてはまだ確かではないが・・・」
「何もしないよりはいい!実験も兼ねてコイツらに打ってやってくれ」
すると、診療所のようにベッドが複数ある部屋にいた獣人が、奥から人数分の注射器を持ってきた。どんなものが含まれているのかは分からないが、どうやら彼らも人質であるミア達に死なれては困るらしい。
一本目の注射はツクヨに打たれる事となった。彼らの会話からも、その薬品が効果があるのかどうかはまだ臨床されていないらしいが、実際に使うということは命に関わる変化はないだろう。
ツクヨの腕に針が刺され、中身の液体が彼の体内へと押し込まれていく。外見上に変化は見られない。そこまで即効性のある薬ではないのだろうか。ツクヨに打たれた後、様子をみることもなく次にミアにも同じ注射が打たれる。
見た目の印象と身体の大きさ、そして獣人から渡された食べ物の量を見て順々に注射を打ち込まれていく一行。最後に打たれたのはツバキだった。流石に彼に注射を打つ時は、獣人達も少し揉めていた。
だがツバキには、睡眠以外の症状が現れ始めていた。病状が次のステージへと進んでいたのだ。ツバキの額からは汗が滲み出し、僅かにうなされ始めたのだ。
急ぎ彼らが注射を打つと、ツバキのうなされ具合は徐々に落ち着いを取り戻していく。どうやら彼らの薬は、それなりに効果があったようだった。
「ん?そういえばコイツらの中から、一人同行者が付くんじゃなかったか?」
「あぁ・・・だがそっちはもうどうしようもねぇだろ。それにボスの前で倒れられたら奴らも困るんじゃねぇか?いや寧ろ、向こうで倒れてくれれば奴らの悪事も表に出るかもな・・・」
彼らの言う同行者とは、他ならぬシンの事だ。彼も少しとはいえ、捕えられていた部屋で獣人達から食べ物を分けて貰っていた。移動中の彼に症状が現れ始めてもおかしくはない。
その頃、ダラーヒムの証言を確認しに向かっている獣人達とそのボスであるアズール。それに付き合わされているシンと、人間と協力関係を結ぼうとしているというケツァル。
拷問を受けていたダラーヒムは、同行者となったシンが肩を貸して歩いている。獣人達はその穢れた血の流れる人間に触れたくもないのか、彼の事をシンに任せた。
多少は意識も戻ってきたようだが、まだ身体に力が入らないようで一人では歩けない。
「おい、アンタ大丈夫か?」
肩を貸していることにより、彼と小声での会話が可能になった。けどられないように耳打ちするシンに、ダラーヒムは声を絞り出すように口を開く。
「ぁ・・・あぁ、見た目ほどではない。前にも見せただろ?俺の精霊・・・。アイツのおかげで、中身は徐々に戻りつつある・・・」
「あっ・・・あぁ?中身ぃ?」
「見た目だけ派手にやられたって訳だ・・・」
「これもアンタの作戦だったって訳か!?」
ボロボロの彼の状態を見て、自分の身も顧みないで作戦を遂行できる彼の度胸に、シンは驚きを隠せなかった。他の者達にバレぬよう、シンに注意を促したダラーヒムは彼らにも内緒にしていた、グリム・クランプについての情報を本当に掴んでいるようだった。
何とか倒れないように踏み止まろうとするも、足がもつれてしまいとてもではないが立っていられなかった。
ツバキとアカリの時の異変で既に彼らの状態を知っていた、人質の移送中の獣人達は倒れそうになる二人の身体を受け止める。
「おい!急ぎコイツらを診れる場所へ!薬の準備もしておけ!」
「アイツらこんなに早くッ・・・!クソ!これが初めての実践投与になるけど・・・いいよな!?」
「構わねぇ!今コイツらに死なれたら、俺達やガレウスが真っ先に疑われんだ!どの道使ってみるしかねぇ!」
人質となった彼らを担ぎ、獣人達は当初予定していた移送先とは別に、彼らを寝かせられる部屋へと急遽向かう。そして最寄りのベッドのある部屋へ到着すると、そこに入ったことを見られないように慎重に扉を閉める。
「薬は!?」
「あぁ、用意してある。だが、まさかこんなにすぐに必要になるとはな・・・。効能についてはまだ確かではないが・・・」
「何もしないよりはいい!実験も兼ねてコイツらに打ってやってくれ」
すると、診療所のようにベッドが複数ある部屋にいた獣人が、奥から人数分の注射器を持ってきた。どんなものが含まれているのかは分からないが、どうやら彼らも人質であるミア達に死なれては困るらしい。
一本目の注射はツクヨに打たれる事となった。彼らの会話からも、その薬品が効果があるのかどうかはまだ臨床されていないらしいが、実際に使うということは命に関わる変化はないだろう。
ツクヨの腕に針が刺され、中身の液体が彼の体内へと押し込まれていく。外見上に変化は見られない。そこまで即効性のある薬ではないのだろうか。ツクヨに打たれた後、様子をみることもなく次にミアにも同じ注射が打たれる。
見た目の印象と身体の大きさ、そして獣人から渡された食べ物の量を見て順々に注射を打ち込まれていく一行。最後に打たれたのはツバキだった。流石に彼に注射を打つ時は、獣人達も少し揉めていた。
だがツバキには、睡眠以外の症状が現れ始めていた。病状が次のステージへと進んでいたのだ。ツバキの額からは汗が滲み出し、僅かにうなされ始めたのだ。
急ぎ彼らが注射を打つと、ツバキのうなされ具合は徐々に落ち着いを取り戻していく。どうやら彼らの薬は、それなりに効果があったようだった。
「ん?そういえばコイツらの中から、一人同行者が付くんじゃなかったか?」
「あぁ・・・だがそっちはもうどうしようもねぇだろ。それにボスの前で倒れられたら奴らも困るんじゃねぇか?いや寧ろ、向こうで倒れてくれれば奴らの悪事も表に出るかもな・・・」
彼らの言う同行者とは、他ならぬシンの事だ。彼も少しとはいえ、捕えられていた部屋で獣人達から食べ物を分けて貰っていた。移動中の彼に症状が現れ始めてもおかしくはない。
その頃、ダラーヒムの証言を確認しに向かっている獣人達とそのボスであるアズール。それに付き合わされているシンと、人間と協力関係を結ぼうとしているというケツァル。
拷問を受けていたダラーヒムは、同行者となったシンが肩を貸して歩いている。獣人達はその穢れた血の流れる人間に触れたくもないのか、彼の事をシンに任せた。
多少は意識も戻ってきたようだが、まだ身体に力が入らないようで一人では歩けない。
「おい、アンタ大丈夫か?」
肩を貸していることにより、彼と小声での会話が可能になった。けどられないように耳打ちするシンに、ダラーヒムは声を絞り出すように口を開く。
「ぁ・・・あぁ、見た目ほどではない。前にも見せただろ?俺の精霊・・・。アイツのおかげで、中身は徐々に戻りつつある・・・」
「あっ・・・あぁ?中身ぃ?」
「見た目だけ派手にやられたって訳だ・・・」
「これもアンタの作戦だったって訳か!?」
ボロボロの彼の状態を見て、自分の身も顧みないで作戦を遂行できる彼の度胸に、シンは驚きを隠せなかった。他の者達にバレぬよう、シンに注意を促したダラーヒムは彼らにも内緒にしていた、グリム・クランプについての情報を本当に掴んでいるようだった。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。
いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。
元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。
登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。
追記 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる