World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
974 / 1,646

同行者という名の人質

しおりを挟む
 同胞にそれほど警戒心を抱かせてしまうガレウスとは、一体どんな獣人であるのか。彼がどれほど人間にとって危険な存在であるのか、過去の行いを例にいくつか取り上げるケツァル。

 その余りに非道な行いに、残されることが確定してしまっているツバキとアカリの表情は暗く沈む一方だった。

 怖がらせてしまった代わりに、ケツァルは自分と考えを同じくする同胞を、残された者達の見張り役として多めにおいていく事を約束してくれた。

 それは彼らが部屋で眠る前に、腹を空かせたツバキやアカリの為に自分の分の食べ物を分けてくれた彼らの事だった。反対派の彼らがいることである程度の抑制にはなるが、それでも安全が保障された訳ではない。

 「出来れば我々も、君達とは協力関係を結びたいと考えている。だが、この話もダラーヒムという男に掛かっている。彼の持つ情報に信憑性がなければ、私も君達を庇う事は出来ない・・・」

 「分かってる。俺達もそれを当てにするしかないからな」

 「いいか?最後にもう一度念を押していくが、同行する者と残される者のバランスをよく考えるんだ。私なら、どちらの生存も考えた力配分にするがね・・・」

 最後に意味深なこと口にしたケツァル。間も無くして、窓の外に待機させていた彼の仲間から合図が送られてきたようで、すぐ側にまでボス達がやって来ている事を伝える。

 床を軋ませる幾つかの足音と共に、シン達を捕らえていた部屋に獣人達のボスであるアズールと、幾人かの取り巻き。そして、一際大きな獣人がぞろぞろと彼らの前に姿を現した。

 「この男の情報とやらが本物であるかを確かめる為に、お前達の中から一人、人質として同行してもらう」

 煌びやかな装飾を見に纏い、獣人達を従えてやって来た彼こそ、獣人達ボスであるアズール。説明されずとも、その振る舞いと言動、そして先頭を切ってやって来たことからも、シン達も彼がボスであることを確信していた。

 そして彼が口にした“この男“という人物が、獣人達の間から引き摺られるように引っ張られ、シン達の目の前に差し出された。

 まるで放り投げるように床に投げ出されたのは、拷問により見るも無惨な姿へと変わり果てた、様々な物でつけられたと思われる無数の傷を負ったダラーヒムだった。

 あまりの凄惨な姿に、アカリは悲鳴を押し殺しながらその場にへたり込んでしまう。ツバキやミアも直視できないといった様子で目を背けていた。

 「酷い・・・」

 目を背けることなく、彼に意識があり呼吸をしているのかを確認しようとするツクヨ。

 そんな彼らの前に、一際大きな獣人が前にやって来てダラーヒムの状態にすいて語る。その様子から、この者がダラーヒムを拷問したと見て間違いないという確信を得た。

 そう至ったのは、拷問する時の彼の様子を楽しそうに語る声色と表情だった。

 「安心しろよ、人間。虫の息だが、こいつぁまだ生きてる。死ぬ一歩手前まで弱らせるのも大変なんだぜぇ?何つったって、人間はすぐ壊れちまうからなぁ」

 「おいっ!ガレウス!」

 余計な不安や心配をさせまいと、ケツァルが彼の話の腰を折るように割って入る。今はそんな話をしに来たのではないと、彼らを率いてやって来たアズールも、睨みを効かせて首を横に振る。

 「チッ・・・!」

 「さて、あまり時間を掛けたくない。誰が同行するか決まったか?」

 一切の無駄口を叩くことなく催促してくるアズールの問いに答えたのは、シンだった。

 「俺が同行する」

 「話が早くて助かる。ケツァルを事前に向かわせて正解だったな。では行くぞ。留守は頼んだぞ、ガレウス」

 「・・・了解」

 同行者を連れてこいとだけ言い残し、アズールは獣人達を連れて部屋を後にする。ケツァルが取り巻きに指示し、床に倒れるダラーヒムを拾い上げさせる。

 そんな彼らの後をついて行くシンは、去り際にミアとツクヨに目配せをして小さく頷く。後の事は二人に任せ、シンはダラーヒムが隠していた情報を確かめに、獣人達と共に森の奥にあるという“その場所“を目指す事となった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...