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差し伸べられる異種の手
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身体を拘束する蔦は、それほど窮屈には感じなかった。恐らくこれも、シン達を捕らえた獣人達が、反対派の者達だったおかげだろう。
腕の自由はないが、じっとしていれば締め付けがキツくなる事はない。それに加えシン達が捕らえられている部屋も、人質を収容しておくにはそれなりにいい場所を用意されていた。これも彼らの、せめてもの計らいなのか。
夜の森は危険であることから、シン達を乗せた馬車を引く商人達。不測の事態があったとはいえ、日が落ちる前にリナムルへ到達。そして今、彼らの捕らえられている部屋の窓から外を覗くと、すっかり夜になっている事が分かる。
月明かりだけでは心もとない部屋に、掛けられた松明の炎による明かりと、パチパチと火の粉を散らせながら部屋を暖めている暖炉の音が心地よく響く中、ダラーヒムが獣人達のボスがいるという部屋へ連れていかれてからだいぶ時が流れた。
依然として彼が帰ってくる様子もなければ、獣人達に動きがある様子もなかった。
「彼、遅いね・・・。何かあったのかな?」
「実は自分だけ抜け出してたりしてな」
「奴に限ってそれはない。信頼を裏切るような男じゃない・・・」
沈黙の中口を開いたツクヨが、過ぎゆく時間の中で皆が考えていたであろう言葉を代弁する。ミアが茶化すように冗談を言ったが、ダラーヒムが主人であるキングの一目置く者達を裏切ることはない。それをより強く感じているのは、他でもないミアとシンだった。
信じて待つしかないとはいえ、ただ時間を無駄に消費し続けるだけの現状に不安を感じるのも事実。せめて何かしらの動きでもあれば、少しは気持ちの持ちようも変わってくるというものだが・・・。
捕らえられているとはいえ、普段と変わらない様子の大人組とは打って変わり、意外にも大人しくしている様子のツバキとアカリ。流石に彼らもこの状況に参ってしまっているのかと思いきや、それはとある唸り声のような音によって払拭される。
「ん?何だ、今の音・・・」
ツバキの方から聞こえたその音に、周囲を見渡すツクヨ。そんな彼にその音の正体を知る少年は、俯きながらいつもとは違う低めの声で答える。
「腹・・・減ったぁ・・・」
「たっ確かに。色々あって食事をする時間もなかったからね・・・。ホルタートを出発してもう夜だもんなぁ」
不気味な音の正体は、ツバキの空腹による腹の音だった。思い返せばツクヨの言う通り、ホルタートの街で昼食を取って以来何も口にしていない。
まして子供の身体では食べられる量も、その消化量もかなり制限されている事だろう。音はしていないとはいえ、アカリも同じ状況にあるに違いない。
しかし、捕らえられた彼らに食事が出されるとは到底思えない。何か手持ちにあれば何とか出来なくもないのだが、拘束具をつけたままでは何も出来ない。
すると、何人かの見張りが彼らに近づき、自分の配当分と思われる食べ物をツバキに差し出した。
「少ないが、何も入れないよりはマシだろう。・・・食うか?」
「いっいいのか!?」
「お前達の食事は用意されていない。しかし、俺達とて、まさか子供がいるとは・・・。余り物でよければだがな」
ツバキは空腹に耐えきれず、差し出された食べ物を口にする。渡されたのは森で採れる果物やキノコだった。持ち運びように加工されているようで、獣人の手から拘束されるツバキの口に、直接食べさせられる。
「うっ・・・!」
突然妙な声をあげるツバキに、毒でも盛られたかと焦るシン達一行。膝を立て臨戦体勢に入る彼らの動きに、獣人達も思わず武器を構える。
「どうしたッ!?何かされたか!?」
「・・・美味い」
「・・・・・」
「紛らわしいんだよ・・・。毒でも盛られたのかと思ったぜ」
ツバキの無事を確認し、一気に身体の力が抜けるシン達。敵意のなくなる彼らを見て、矛を収める獣人達も問題が起きなくて良かったと安堵しているようだった。
「とても携帯用に加工してあるとは思えない味だぜ!なぁ!アカリも食わせて貰えよ!きっと腰抜かすぜ!」
「そっ・・・そう?じゃぁ私も・・・」
恐る恐る獣人の持つ食べ物に顔を近づけるアカリ。意を決したように、目を閉じてかぶりつく。何度か咀嚼していると、その味に目を見開いて驚きの声をあげる。
「おいしい!街で食べた物にも引けを取らない味だわ」
「おいおい、そんな事言われるとアタシらも欲しくなるんだが」
「悪いな、お前達の分はまた今度だ。今は持ち合わせがない」
「まぁ、仕方がないか。ツバキやアカリの分を分けて貰えただけでも感謝しよう。ありがとう」
見張りをしている獣人達の心にも、それなり人間を憎む気持ちは残っていた筈だろうが、それでも素直に感謝の言葉を述べられると、今自分達がしている行いに罪悪感を感じたのか、シン達とは目を合わせようとしなかった。
余り物といいつつ、自分達の配当分を分け与える獣人の仲間の様子を見て、他の者達も手持ちに残っている食べ物を持ち寄り、ツバキ達の分だけではなくシン達の食べ物までかき集めてくれた。
「いいのか?こんなことをして・・・」
「好きでやっている訳ではない。だが、ボスのやっている事も理解できるし、反抗して対立する気もない。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・“ケツァル“の言うように、我々だけの力では限界があるのかもしれん・・・」
「ケツァル?」
見張りの獣人が口にしたのは、彼らをまとめるボスとは別の何者かの名前らしきものだった。どうやらその“ケツァル“と呼ばれる獣人は、ボスの考えを実現させる為に策を巡らせる参謀役らしい。
腕の自由はないが、じっとしていれば締め付けがキツくなる事はない。それに加えシン達が捕らえられている部屋も、人質を収容しておくにはそれなりにいい場所を用意されていた。これも彼らの、せめてもの計らいなのか。
夜の森は危険であることから、シン達を乗せた馬車を引く商人達。不測の事態があったとはいえ、日が落ちる前にリナムルへ到達。そして今、彼らの捕らえられている部屋の窓から外を覗くと、すっかり夜になっている事が分かる。
月明かりだけでは心もとない部屋に、掛けられた松明の炎による明かりと、パチパチと火の粉を散らせながら部屋を暖めている暖炉の音が心地よく響く中、ダラーヒムが獣人達のボスがいるという部屋へ連れていかれてからだいぶ時が流れた。
依然として彼が帰ってくる様子もなければ、獣人達に動きがある様子もなかった。
「彼、遅いね・・・。何かあったのかな?」
「実は自分だけ抜け出してたりしてな」
「奴に限ってそれはない。信頼を裏切るような男じゃない・・・」
沈黙の中口を開いたツクヨが、過ぎゆく時間の中で皆が考えていたであろう言葉を代弁する。ミアが茶化すように冗談を言ったが、ダラーヒムが主人であるキングの一目置く者達を裏切ることはない。それをより強く感じているのは、他でもないミアとシンだった。
信じて待つしかないとはいえ、ただ時間を無駄に消費し続けるだけの現状に不安を感じるのも事実。せめて何かしらの動きでもあれば、少しは気持ちの持ちようも変わってくるというものだが・・・。
捕らえられているとはいえ、普段と変わらない様子の大人組とは打って変わり、意外にも大人しくしている様子のツバキとアカリ。流石に彼らもこの状況に参ってしまっているのかと思いきや、それはとある唸り声のような音によって払拭される。
「ん?何だ、今の音・・・」
ツバキの方から聞こえたその音に、周囲を見渡すツクヨ。そんな彼にその音の正体を知る少年は、俯きながらいつもとは違う低めの声で答える。
「腹・・・減ったぁ・・・」
「たっ確かに。色々あって食事をする時間もなかったからね・・・。ホルタートを出発してもう夜だもんなぁ」
不気味な音の正体は、ツバキの空腹による腹の音だった。思い返せばツクヨの言う通り、ホルタートの街で昼食を取って以来何も口にしていない。
まして子供の身体では食べられる量も、その消化量もかなり制限されている事だろう。音はしていないとはいえ、アカリも同じ状況にあるに違いない。
しかし、捕らえられた彼らに食事が出されるとは到底思えない。何か手持ちにあれば何とか出来なくもないのだが、拘束具をつけたままでは何も出来ない。
すると、何人かの見張りが彼らに近づき、自分の配当分と思われる食べ物をツバキに差し出した。
「少ないが、何も入れないよりはマシだろう。・・・食うか?」
「いっいいのか!?」
「お前達の食事は用意されていない。しかし、俺達とて、まさか子供がいるとは・・・。余り物でよければだがな」
ツバキは空腹に耐えきれず、差し出された食べ物を口にする。渡されたのは森で採れる果物やキノコだった。持ち運びように加工されているようで、獣人の手から拘束されるツバキの口に、直接食べさせられる。
「うっ・・・!」
突然妙な声をあげるツバキに、毒でも盛られたかと焦るシン達一行。膝を立て臨戦体勢に入る彼らの動きに、獣人達も思わず武器を構える。
「どうしたッ!?何かされたか!?」
「・・・美味い」
「・・・・・」
「紛らわしいんだよ・・・。毒でも盛られたのかと思ったぜ」
ツバキの無事を確認し、一気に身体の力が抜けるシン達。敵意のなくなる彼らを見て、矛を収める獣人達も問題が起きなくて良かったと安堵しているようだった。
「とても携帯用に加工してあるとは思えない味だぜ!なぁ!アカリも食わせて貰えよ!きっと腰抜かすぜ!」
「そっ・・・そう?じゃぁ私も・・・」
恐る恐る獣人の持つ食べ物に顔を近づけるアカリ。意を決したように、目を閉じてかぶりつく。何度か咀嚼していると、その味に目を見開いて驚きの声をあげる。
「おいしい!街で食べた物にも引けを取らない味だわ」
「おいおい、そんな事言われるとアタシらも欲しくなるんだが」
「悪いな、お前達の分はまた今度だ。今は持ち合わせがない」
「まぁ、仕方がないか。ツバキやアカリの分を分けて貰えただけでも感謝しよう。ありがとう」
見張りをしている獣人達の心にも、それなり人間を憎む気持ちは残っていた筈だろうが、それでも素直に感謝の言葉を述べられると、今自分達がしている行いに罪悪感を感じたのか、シン達とは目を合わせようとしなかった。
余り物といいつつ、自分達の配当分を分け与える獣人の仲間の様子を見て、他の者達も手持ちに残っている食べ物を持ち寄り、ツバキ達の分だけではなくシン達の食べ物までかき集めてくれた。
「いいのか?こんなことをして・・・」
「好きでやっている訳ではない。だが、ボスのやっている事も理解できるし、反抗して対立する気もない。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・“ケツァル“の言うように、我々だけの力では限界があるのかもしれん・・・」
「ケツァル?」
見張りの獣人が口にしたのは、彼らをまとめるボスとは別の何者かの名前らしきものだった。どうやらその“ケツァル“と呼ばれる獣人は、ボスの考えを実現させる為に策を巡らせる参謀役らしい。
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