World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
960 / 1,646

意思を持つ声の主

しおりを挟む
 何か思い当たる節でもあるのか、突然言葉を失うシンの様子に察しのいいダラーヒムは異変に気付き、彼に対して質問を投げ掛けても期待するような回答は返ってこないだろうと、深掘りはしなかった。

 「まぁ仮に心があろうがなかろうが、今俺達を襲って来てるのは奴らだ。先ずは目の前の障害を退けることにしよう」

 「しかしッ・・・!あのモンスター達にもし、意思と呼べるものがあるのなら・・・」

 「言っただろ?何をした訳でもなく、俺達は今襲われている。もし何か理由があるのだとしても、その事実は変わらねぇ。俺達が気に病む必要はねぇって事さ」

 ダラーヒムはシンの内にある、もしこのモンスター達がWoFのユーザーを食らい意思を持ち始めたというのなら、現実世界で出会った変異種のウルフ“メル“と同じくその人物の意思や記憶の一部を引き継いでいるのではないかと考えていた。

 もしそうなら、人の意思を宿し自我を持つ魔物を殺すということは、人殺しと同義なのだろうか。そんな心配がシンの中に生まれていた。だが、どんな理由であれシン達が彼らに何もしていないのは事実。

 一方的に襲撃されたのであれば、ダラーヒムの言うようにこちらが何かを気に病む必要は何処にもない。強いて言うのであれば、襲い掛かる魔物を捕らえその真意を確認することができれば申し分ない。

 「気になるならとっ捕まえてから、聞いてみればいい」

 「え?」

 「お前が何を知ってるのか知らねぇが、この事はあまり周りに漏らさねぇ事だな。お前のように哀れみを持っちまう奴もいるかもしれねぇ。もしそうなれば、そいつらはこの事を機に病んじまうかもしれないからよ・・・」

 「・・・あぁ、わかったよ」

 現実世界へ一度戻っていたシンは、同じような経験をしている。目の前の敵をただ襲って来るモンスターだと思い戦っていたら、突然人の言葉を話し始め、こちらに同情を買うようなことをしてきた。

 こちらに助けてやろうという意思がなくとも、聞き馴染みのある人の声で命乞いをされた時、シンの手は思わず緩んでしまったからだ。人によってはトラウマになってしまう者もいるだろう。

 何も知らない方が今後のその者の為でもある。

 今はその内に広がる疑問を自分の中にだけで止め、密かにモンスター達への確認を行う為、シンとダラーヒムも戦いの渦中へと飛び込んでいく。

 戦いは商人達の雇った冒険者側が圧倒的に優勢だった。正規に雇ったギルドの者達ではないとはいえ、ここに集まった冒険者達もそれなりに腕の立つ者が揃っているようだった。

 危なげもなく迫り来るモンスターの群れを、悉く打ち払い倒していく。次々に数を減らしていくモンスターの群れに、これでは聞き出す前に終わってしまうと焦るシン。

 最初に相手をしたウェアウルフが、身の危険を感じたのか側にいたトレントの方へと逃げていき合流する。すると、それまで遠距離から別の冒険者を襲っていたそのトレントが標的をシンへと切り替え、先程の手負のウェアウルフとタッグを組んで再戦してきた。

 樹木を操るトレントの魔法は厄介だったが、それ程苦戦を強いられる相手でもなかった。シンはトレントの枝葉の中に隠れたウェアウルフを追いかけ、トレントに飛びかかる。

 必死に振り落とそうと暴れるトレントの動きに耐えながらも登っていくと、枝葉に身を隠したウェアウルフの鋭い爪がシンを襲う。だが、狭く足場の多い木の上は、アサシンのクラスであるシンにとっても十八番と言えるような戦場だった。

 素早い身のこなしで枝を次々に渡り、攻撃を仕掛けてきたウェアウルフの元へと急接近すると、陽の光を一身に受ける草原という場においても、その生い茂ったトレントの枝葉によって生み出された影を利用し、標的のウェアウルフを見事に捕らえる。

 ここなら周りの目を気にする必要もない。シンは影のスキルで縛り付けたモンスターに意思があるのかを確かめる為、言葉を投げかける。

 「お前達には意思があるのか!?何故俺達を襲う?」

 「グルルルッ・・・!」

 しかし、ウェアウルフは必死にもがくばかりで一向に喋る気配はなかった。シンとダラーヒムが考えていたように、魔物が意思を持っているというのは考え過ぎだったのか。

 すると突然、取り押さえたウェアウルフのモノとは違う、別の何かの声でシンに語りかける声が聞こえてきた。

 「ニンゲン・・・コトバ・・・ワカル・・・ノカ?」

 「ッ!?」

 そのカタコトの言葉遣い。シンにとっては懐かしいとすら思えるこの感覚。間違いない、何処かに意思を持つモンスターが紛れている。

 だが、その言葉の様子からも分かる通り、流暢に喋れるほど人間の言葉を話せるという訳ではなさそうだった。この事からも、正規のNPCキャラではないことが窺える。

 「誰だ!?何処から話している?・・・まさかッ!?」

 シンは、自分が飛び乗っているトレントの声なのではないかと、足元を確認しトレントの表情を伺う。しかし、その目は血肉に飢えた獣のように赤く光っていてとても正気とは思えなかった。

 語りかけてきた声の主であろうという見当を失い困惑するシン。すると、他の冒険者の手によって、彼の乗っていたトレントは攻撃を受け、唸り声を上げながら動きを止めた。

 「兄ちゃん、大丈夫かい!?」

 「あっあぁ、すまない・・・」

 「飛び乗るのは得策じゃねぇな。何されるかわかんねぇぞ!」

 その冒険者に悪気があった訳ではない。寧ろシンにとっては助けてくれようとした心優しき者だった。だが、それと同時に語りかけてきた声の主を見失ってしまい、再びその声を聞くことはなかった。

 彼が捕らえたウェアウルフもトレントも、その様子からはとても意思を持っているようには見えなかった。あの声の主はこの者らではなかったのだろうか。

 更なる疑問を残しながらも、戦闘は瞬く間に鎮静化していった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

処理中です...