World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
956 / 1,646

貴重な情報源

しおりを挟む
 「なぁ、大丈夫なのか?あんなのと一緒にいて・・・」

 「ん?まぁ・・・大丈夫だろう。それに、情報通のキングの部下だ。アタシらでは知り得ない情報だって持ってるかも知れない。何より腕も立つしな」

 ツバキが心配するのも無理もない。今は敵ではないとはいえ、彼は略奪や暴力で海を荒らす海賊であり、さらにはキングの元、大陸で裏家業も請け負うギャングの一員なのだ。

 シンやミア達のように、この世界の住人ではないWoFユーザーにとってはクラスの一つくらいにしか思わないだろうが、実際は漁を行う船や荷物を運ぶ貨物船などを襲撃するような、強盗行為を日常的に行う恐ろしい存在なはず。

 港街で造船技師として働いていたツバキは、海賊というものをより身近で見てきた。ウィリアム本人が海賊として名を馳せており、三大海賊の中でも最も大規模な船団を率いるエイヴリーとも顔が効くこともあり、その刃を向けられることはなかったが、グラン・ヴァーグの街では海賊の粗暴な行いが目立っていた。

 だが、ミアの言うことも一理ある。彼らはオルレラの研究員であったオスカーの情報を元に、本当にあるのかさえ分からない場所を目指している。それこそ、手掛かりになるであろう近隣の街リナムルを調べるにも、一つの街で情報収集を行わなければならない程だ。

 探しているのが街や国であるならまだいい。だが、ストレンジャーズ・サンクチュアリや、グリム・クランプという名に関しては、一切の情報を得ることが出来なかった。

 アークシティが関与しているであろう、非人道的な研究を行なっている研究所ともなれば、通常のルートで情報を集めるのは難しい。

 しかし、裏家業を生業とするギャングであり、大国の貴族や一部の政府の人間とも繋がりがあるとされているキングであれば、その辺りの黒い噂について何か知っている可能性は大いにある。

 「考えてもみろ。お前がオスカーとやらに言われた場所ってのは、公に出来ないような事をしてる研究所だろ?そんなもの、普通に聞いて情報が集まるような場所じゃないだろ」

 「それは・・・」

 「そこへ、だ。裏の事情にも詳しいだろう情報通のキングの部下が現れたんだ。これを利用しない手はないだろう」

 「そうか・・・そうだよな。正攻法でなるべく安全に、なんて甘えられないよな」

 ツバキの言う、危険を回避しなるべくトラブルを起こさぬよう巻き込まれぬよう用心するのは、決して悪いことではなく、寧ろミアも賛同する部分も多かったが、自ら命を狙われかねない案件に足を踏み入れようと言うのだ。そんな綺麗事ですむ筈もないだろう。

 「お前はそんなこと心配しなくていい。そう言うのは、アタシらのする事だ。それに、誰もオスカーって奴の願いをないがしろにするつもりはねぇだろうしな」

 ミアの励ましに、ツバキは黙って小さく頷いた。

 彼女の言うように、彼らは誰一人子供達を使った人体実験を行う者達のことを放っておくつもりはなかった。

 元々、女子供が悲惨な目に遭うことに対し、一種のトラウマのようなものを抱えているツクヨが、それを聞いて黙っている筈もなく、シンに関しても現実世界で受けた仕打ちや辛い経験から、その時最も欲しかった救いの手を、自ら差し伸べられるようになりたいと変わり始めた。そんな彼らが協力を拒むなど、それこそあり得ない話だ。

 「あ・・・あのぉ・・・」

 「ん?おぉ、これはこれはお嬢さん。俺に何かようかな?」

 ツバキとミアが、ダラーヒムのことに関してこっそり話していると、アカリがそのダラーヒムの元へと近づいていき、声を掛けていた。彼女にとっては、ミア達以外で初めて自ら声を掛ける相手だった。

 「みっ皆さんとお知り合いだったのですね。私、“アカリ“と申します。こっちは“紅葉“と言います」

 そう言って、胸に抱えた赤い鳥を見せると、紅葉も元気そうに挨拶がわりの鳴き声を披露した。

 「これはご丁寧に。俺は“ダラーヒム“と言う者で、こんな形だが植物学者をしている。目的地が同じだったもんでな、それまで同行するすることになった。よろしくな、アカリちゃん」

 何故自分がギャングであり海賊であることを隠し、アカリに嘘をつくのか納得のいかなかったツバキはダラーヒムに突っかかろうとするが、すかさずミアが彼を止めて宥めた。

 「なッなんでッ・・・!?」

 「まぁ待て。今はこの方がお互いに都合がいい・・・」

 ギャングや海賊がどう言うものなのか、アカリに今説明するのも手間でありそれを知ることで彼女を怖がらせてしまうかも知れないと思い、ミアはダラーヒムのついた嘘に便乗することを選んだ。

 「なぁ、ダラーヒム。アンタに少し聞きたいことがあるんだ」

 「何だ?俺に答えられるものなら答えよう」

 「アンタらはその、リナムルの周辺地域に詳しいのか?」

 「どうだろうな・・・。現地の人間達に比べれば情報の鮮度は落ちるだろうが、それなりには調べてきたつもりだが」

 「アタシらがリナムルへ行くのは、ある場所について調べる為なんだ」

 「ある場所?」

 「グリム・クランプって場所に聞き覚えはないか?ストレンジャーズ・サンクチュアリでもいい」

 ミアは周りくどい前置きは抜きにして、直接本題へと入る。ギャングとして裏の世界に通じる彼らなら、人体実験という非人道的な研究についても何か知っているのではないか。

 そして研究員達の使う隠語についても、聞き覚えがあってもおかしくない。寧ろ、彼らほど情報に詳しそうな人材を今のミア達は知らない。

 ミアの質問に対し、ダラーヒムは知ってか知らずか、少し悩んだ様子を見せる。恐らく言葉を選んでいるのだろう。話してもいい事と話せない事があるのか、全く何も知らないという雰囲気ではないのは確かなようだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...