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希望の形
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暫くして話し声に目を覚ますと、そこには慌てて帰って来たツクヨと久しぶりのように感じる見慣れた姿の男がもう一人、椅子に座り真面目な話をしているようだった。
すると、目を覚ましたミアに気付いたのか、ツクヨがソファーの上で寝そべっている彼女の方へ顔を向ける。
「ぁっミア、起きた?シンが帰ってきたよ」
「なんか、久しぶりな気がするな」
寝起きの顔を二人に注目され、流石の彼女も恥ずかしさを感じたのか、顔を背けクッションに押し付ける。
「・・・帰ってたんなら、言えょ・・・」
意外な反応を見せたミアに、二人は困惑しながらもデリカシーが無かったなと反省しているようだった。
なるべくミアの方を向かないようにしながら、シンとツクヨはお互いの状況とこれまでに何があったのかの話を続けた。
その間にミアはソファーから起きて、乾いた喉と口を潤しにキッチンへと向かう。
ツクヨ側の話の内容は、グラン・ヴァーグからホープ・コーストへのレースを終えて、宴の途中で現実世界へと戻っていったシンのその後について、彼らが話し合った事とつい先日にオルレラという街で起きた怪異と、そこで知らされるアークシティの裏の面についてだった。
事細かく詳しい話という程ではなかったが、ツクヨの現実世界でのトーク技術を活かし、要点とこれからの目的について簡潔にまとめてくれていた。
問題は、現実世界へ行っていたシンの方の近況報告だった。
彼の方では短い期間に様々な情報が入ってきており、シン自身も全てを理解出来ている訳ではなかった。その中でも謎の深い部分は、今も尚アサシンギルドによって解明されることを祈るばかりだった。
その中でもツクヨの興味を強く引いたのは、現実世界へやって来ているという“イーラ・ノマド“という存在だった。
アサシンギルドの面々は勿論、フィアーズや現実世界のハッカー集団に協力していたデューン、そして何処の組織にも属していないイルなど。彼らが本来存在していた世界から、シン達と同じように何らかの異変に巻き込まれ、シン達の時代・世界へと転移してきた時代の放浪者。
謂わばイーラ・ノマドも、WoFにいるシン達と同じ異世転移してしまったのだ。自身が元いた世界へ戻ろうとする者もいれば、転移した世界で生きていくことを覚悟する者、望む者など考えることはそれぞれ違っていた。
だが、それが何故ツクヨの興味を引いたのか。それは彼の現実世界で起きた、ある事件が原因だった。思い出したくもない凄惨な事件。彼の妻と娘を襲った悲劇。
仕事から家に帰ると、彼を迎えたのは絶望するほどの静寂と、衝撃的な状況に最早何も感じなくなってしまった身体に吹き付ける、冷たい空気だった。
彼の家族は、自分の自宅で見るも無惨な姿で発見された。部屋は酷く荒らされ、必死にもがき抵抗したであろう彼女らの血痕が、そこら中に残っていた。
そこからツクヨの記憶は暫く無くなっている。無理もない。信じられない光景と、いつもそこにある筈の日常が突然一変し、この世で考えられる最悪のものへと変貌していたのだ。思考も正しく正常に機能していなかったことだろう。
やっと意識を取り戻し、落ち着いた時に彼が聞かされた事件の犯人だが、未だに見つかっていないのだと聞かされた。彼はそれにも言葉を失った。
あれだけの事があって、未だに犯人に繋がる手掛かりや証拠が見つかっていないのかと。警察は一体何をしているのかと、怒りすら込み上げてきた。
彼女らの遺留品を調べる中で、ツクヨは妻と娘が遊んでいたWoFというものの存在に触れることになった。
そしてWoFの世界へ転移したツクヨは、妻や娘は死んだのではなく、別の世界へ転移したに違いないと思うようになった。希望に携ことは、彼にとって生きる目的を持つためには大切なものだった。
それに彼やシン達のように、非現実的な現象にみま遭われている人間は多くいる。その線で彼女らが生存している可能性も、決して否定できないものとなっている今、夢幻のような彼の希望もゼロではない。
シンが現実世界から持ち帰った、イーラ・ノマドの話。異世界へ転移する者達だけでなく、異世界からやって来る者達まで現れた。ツクヨの思い描く幻は幻ではないという可能性を、より広げ始めたのではと彼は強く思うようになったのだ。
「本当に・・・現実の世界でそんな事が・・・」
「考えてもみればおかしな事でもないのかもしれない・・・。俺達だって、こうやってWoFの世界にやって来てるんだ。俺達だけがそんな事が出来るなんておかしい。偶然にしろたまたまにしろ、一般ユーザーに過ぎない俺達だけなんて・・・」
「他には!?他のユーザーもこっちに来てるのか!?」
思わず言葉と身体に力が入るツクヨを宥めながら、シンは他に現実世界で見てきた事、聞いた事を彼に話した。
「いたよ。俺達同じような異変に巻き込まれた人達が。今、その人達と一緒に行動してる」
「そうか。じゃぁWoFのユーザーであれば、可能性はやっぱりあるんだな?もっと色々調べればッ・・・」
シンの話と他のユーザーと行動を共にしているのを聞いて、目を輝かせ始めるツクヨだったが、シンは現実の世界で彼らが置かれている状況を伝える。
「ただ・・・残念だが、俺達は自由にいろんな事を調べられるような状況にはないんだ・・・」
「・・・どういう事だい?警察が邪魔しているとか・・・?」
「そうじゃない。実は俺達の他にも、異世界からやって来た奴らが元の世界に戻ろうと、色々動いていて・・・。なんて言ったらいいかな。大きな組織というかコミュニティを作り上げて、WoFのユーザーを調べ上げてるんだ。要するに囚われたり、監視されてるってことだ」
まるで別の世界の話をしているかのようなシンの話に、ツクヨは信じられないと言った様子で、それが嘗て自分達が暮らしていた世界なのかと確認する。無論、シンに嘘をつく理由もなければ、わざわざこんな手の込んだストーリーを用意するメリットもない。
悪戯にしてはやり過ぎだと思う程の話と、それを真剣に話すシンの様子は帰って本当の事なんだろうという現実味すらツクヨに感じさせた。
すると、目を覚ましたミアに気付いたのか、ツクヨがソファーの上で寝そべっている彼女の方へ顔を向ける。
「ぁっミア、起きた?シンが帰ってきたよ」
「なんか、久しぶりな気がするな」
寝起きの顔を二人に注目され、流石の彼女も恥ずかしさを感じたのか、顔を背けクッションに押し付ける。
「・・・帰ってたんなら、言えょ・・・」
意外な反応を見せたミアに、二人は困惑しながらもデリカシーが無かったなと反省しているようだった。
なるべくミアの方を向かないようにしながら、シンとツクヨはお互いの状況とこれまでに何があったのかの話を続けた。
その間にミアはソファーから起きて、乾いた喉と口を潤しにキッチンへと向かう。
ツクヨ側の話の内容は、グラン・ヴァーグからホープ・コーストへのレースを終えて、宴の途中で現実世界へと戻っていったシンのその後について、彼らが話し合った事とつい先日にオルレラという街で起きた怪異と、そこで知らされるアークシティの裏の面についてだった。
事細かく詳しい話という程ではなかったが、ツクヨの現実世界でのトーク技術を活かし、要点とこれからの目的について簡潔にまとめてくれていた。
問題は、現実世界へ行っていたシンの方の近況報告だった。
彼の方では短い期間に様々な情報が入ってきており、シン自身も全てを理解出来ている訳ではなかった。その中でも謎の深い部分は、今も尚アサシンギルドによって解明されることを祈るばかりだった。
その中でもツクヨの興味を強く引いたのは、現実世界へやって来ているという“イーラ・ノマド“という存在だった。
アサシンギルドの面々は勿論、フィアーズや現実世界のハッカー集団に協力していたデューン、そして何処の組織にも属していないイルなど。彼らが本来存在していた世界から、シン達と同じように何らかの異変に巻き込まれ、シン達の時代・世界へと転移してきた時代の放浪者。
謂わばイーラ・ノマドも、WoFにいるシン達と同じ異世転移してしまったのだ。自身が元いた世界へ戻ろうとする者もいれば、転移した世界で生きていくことを覚悟する者、望む者など考えることはそれぞれ違っていた。
だが、それが何故ツクヨの興味を引いたのか。それは彼の現実世界で起きた、ある事件が原因だった。思い出したくもない凄惨な事件。彼の妻と娘を襲った悲劇。
仕事から家に帰ると、彼を迎えたのは絶望するほどの静寂と、衝撃的な状況に最早何も感じなくなってしまった身体に吹き付ける、冷たい空気だった。
彼の家族は、自分の自宅で見るも無惨な姿で発見された。部屋は酷く荒らされ、必死にもがき抵抗したであろう彼女らの血痕が、そこら中に残っていた。
そこからツクヨの記憶は暫く無くなっている。無理もない。信じられない光景と、いつもそこにある筈の日常が突然一変し、この世で考えられる最悪のものへと変貌していたのだ。思考も正しく正常に機能していなかったことだろう。
やっと意識を取り戻し、落ち着いた時に彼が聞かされた事件の犯人だが、未だに見つかっていないのだと聞かされた。彼はそれにも言葉を失った。
あれだけの事があって、未だに犯人に繋がる手掛かりや証拠が見つかっていないのかと。警察は一体何をしているのかと、怒りすら込み上げてきた。
彼女らの遺留品を調べる中で、ツクヨは妻と娘が遊んでいたWoFというものの存在に触れることになった。
そしてWoFの世界へ転移したツクヨは、妻や娘は死んだのではなく、別の世界へ転移したに違いないと思うようになった。希望に携ことは、彼にとって生きる目的を持つためには大切なものだった。
それに彼やシン達のように、非現実的な現象にみま遭われている人間は多くいる。その線で彼女らが生存している可能性も、決して否定できないものとなっている今、夢幻のような彼の希望もゼロではない。
シンが現実世界から持ち帰った、イーラ・ノマドの話。異世界へ転移する者達だけでなく、異世界からやって来る者達まで現れた。ツクヨの思い描く幻は幻ではないという可能性を、より広げ始めたのではと彼は強く思うようになったのだ。
「本当に・・・現実の世界でそんな事が・・・」
「考えてもみればおかしな事でもないのかもしれない・・・。俺達だって、こうやってWoFの世界にやって来てるんだ。俺達だけがそんな事が出来るなんておかしい。偶然にしろたまたまにしろ、一般ユーザーに過ぎない俺達だけなんて・・・」
「他には!?他のユーザーもこっちに来てるのか!?」
思わず言葉と身体に力が入るツクヨを宥めながら、シンは他に現実世界で見てきた事、聞いた事を彼に話した。
「いたよ。俺達同じような異変に巻き込まれた人達が。今、その人達と一緒に行動してる」
「そうか。じゃぁWoFのユーザーであれば、可能性はやっぱりあるんだな?もっと色々調べればッ・・・」
シンの話と他のユーザーと行動を共にしているのを聞いて、目を輝かせ始めるツクヨだったが、シンは現実の世界で彼らが置かれている状況を伝える。
「ただ・・・残念だが、俺達は自由にいろんな事を調べられるような状況にはないんだ・・・」
「・・・どういう事だい?警察が邪魔しているとか・・・?」
「そうじゃない。実は俺達の他にも、異世界からやって来た奴らが元の世界に戻ろうと、色々動いていて・・・。なんて言ったらいいかな。大きな組織というかコミュニティを作り上げて、WoFのユーザーを調べ上げてるんだ。要するに囚われたり、監視されてるってことだ」
まるで別の世界の話をしているかのようなシンの話に、ツクヨは信じられないと言った様子で、それが嘗て自分達が暮らしていた世界なのかと確認する。無論、シンに嘘をつく理由もなければ、わざわざこんな手の込んだストーリーを用意するメリットもない。
悪戯にしてはやり過ぎだと思う程の話と、それを真剣に話すシンの様子は帰って本当の事なんだろうという現実味すらツクヨに感じさせた。
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