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後片付け
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「観測に乱れがッ・・・!やはりオルレラの何処かにッ!?」
とある屋敷の一室で職務についていた男が、街を取り巻く空気の異変に気がつく。だが、オルレラの住人の中でこの異変に気付いたのは、この男だけだった。
男が特別だったのか異端だったのか。それとも他の住人がまともだったのか、おかしくなっていたのか。ミア達がオルレラとその周辺の異変に関与し、ツバキがオルレラを包む元凶を紐解いた事により、オルレラの住人達の記憶が改竄されていた事が分かった。
故に異変に気付けたと言うことは、その男はオスカーの作り出した記憶を惑わす空間の中でも、自分の記憶を保てていた事は間違いない。つまり、ツクヨが出会った修復士と名乗るニコラと同様に、オルレラに起きていること知りつつここを訪れた人物であることが分かる。
その男は、ニコラがオルレラ近郊の大穴の調査に訪れるよりもずっと前からオルレラにいた。それこそ、オスカーの記憶への介入抜きにして、自分が何のためにオルレラに留まっているのかを忘れてしまいそうになる程、男はここで何かを待っていた。
オスカーがオスカーになる前。後にその名を授かる彼がオルレラにやって来て、自我に目覚める。そして実験体に行っていた、当初の予定にない行為がバレ、事件を起こし失踪した後にオルレラでは密かに、アークシティからやって来た者達による捜索と証拠隠滅の為の動きがあった。
その者達の中には、潜入捜査のためにオルレラの住人と成り代わる者もいた。
現在、オルレラの異変を観測したこの男もまた、そんな潜入捜査の一員として、とある屋敷に忍び込んでいた。それが、ミア達のお世話になったエディ夫妻の邸だったのだ。
しかし男は、そんな捜査員の中でも非常に若く、少年から青年に変わる頃合いの歳で、組織に入ってから間もなかった。故に人手が必要な捜査任務に充てられた。
当初から記憶に関する研究や実験を行っていた組織の者達は、記憶への干渉に対する抵抗力を持っていた為、オスカーの影響を受けずにいられたのだった。
ミア達がエディ邸でこの男と遭遇した時には、既に立派な大人へと成長しており、エディほどではないがそれなりに歳も食っていた。記憶を改竄されているエディ達には、この男の成長のことなど覚えていられるはずもなく、あたかも初めからこの見た目だったかのような接し方をしていた。
誰にも気付かれることなく潜入していた彼らだったが、暫くして証拠隠滅が完了し撤退の命令が下る。だが、エディ邸に配属されたが故か、他の者達との接触や連絡を取り合う機会の少なかったこの男の元にだけ、その連絡が行き届かなかった。
結局この男は、オルレラにやって来た放浪者としてエディ邸の使用人としての人生を歩んでいくことになってしまった。この男も、最早本当の目的のことも薄れて来ており、それを自分の人生として受け入れていた。
だが、ツバキによりオスカーの作り出していた空間が解き放たれた衝撃により、彼の内に眠っていた潜入捜査員としての記憶が呼び起こされてしまい、自分が何者であるのかを思い出す結果となった。
組織がずっと探していたオスカーのものと思われる反応を観測した男は、直ぐにそれを報告しなければと動き出す。
街中の人々の記憶が戻り出すオルレラの中で、男はエディ邸で働く使用人という立場も失いつつあった。エディ夫妻の記憶が完全に戻れば、この男はエディ邸にはいられなくなる。
タイムリミットが迫る中、男はエディ邸を飛び出し、組織との連絡手段を探す。通信機器はデータが残る為、そもそも向こう側が受信してくれるという保証がない。手紙では信用に欠ける上に時間が掛かってしまう。
そこで男が思いついたのは、伝書鳩のように鳥類を利用した連絡手段だった。古くから使われていたとされる手段で、今も尚組織で使われていれば或いはこの情報を届けてくれるかもしれない。
直ぐに暗号化された文字で手紙を書き記すと、特殊な音色の指笛で組織の鳥を呼び寄せる。
「頼むッ・・・!まだ使われていてくれ・・・。私には時間が・・・」
だが、待てど暮らせど男の元に鳥がやってくることはなかった。焦りと困惑の中で、男は自分が組織から見放されてしまったのではないかと考えた。もしそうだとするならば、正常に戻った男を組織が生かしておく筈がない。
何とかして、今も組織の忠誠を誓っていることを証明しなければと、絶望に胸を締め付けられながらも、必死に他に思いつく連絡手段を考えるが、どんな手段を用いたいたのか思い出すことが出来ない。
ドチャッ・・・。
突然、男の側に空から何かが降って来た。
物音に振り返ると、そこには血面に激突し凄惨な姿で地面にへばり付く鳥の姿があった。
「うッ・・・!!」
思わず後退りした男が、それまで微塵も感じなかった恐ろしい気配を背後に感じる。身体中から吹き出す冷たい汗を感じながら、その気配のする方を向くと、そこには見知らぬ黒いコートを身に纏った、身長差のある二人組の人物が立っていた。
「なッ・・・何者だッ!?」
「お前如きが知る必要はねぇよ。やっと記憶が戻ったみてぇで悪いが、それがお前の幕引きの合図だったって訳だ」
フードを深々とかぶり、顔も見えない二人組の人物。口を開いたのは低い方の人物で、声色から男であることが分かる。
しかし、男にはその人物の声に聞き覚えはない。それに、組織の中にこのような黒いコートを羽織っている人物もチームも、男の記憶には一切ない上にそのような話を聞いた記憶もない。
始末を担当している者達なのか、或いは新しく組織の中で作られたチームなのかも知れない。男は何とかして身の潔白と組織への忠誠を証明しようと、これまでの出来事や、組織がずっと探していたオスカーの反応らしきものを見つけた事を説明する。
「頼むッ!信じて下さいッ!!連絡が行き届かなかっただけなんです!調べてもらえれば直ぐに分かる筈なんだッ!!」
生にしがみ付こうと必死に弁明し興奮する男とは裏腹に、全く動じる様子もなければ何かを語ろうとする素振りもない二人組の人物。
恐怖に震え出す男の声に、次第に小さい方の黒いコートの人物が笑い出す。
「ハハハハハッ!おい、コイツ何か勘違いしてるみてぇだぜ?」
「哀れな・・・。だが、何も知らぬがこの者にとって唯一の救いでもあるだろう・・・」
漸く口を開いた高身長の人物。彼も声色から男であることが分かった。しかし、男にとってそんな事はどうでもいい事でしかなく、二人が口にした勘違いと何も知らないということで頭がいっぱいだった。
「かっ勘違い・・・?何も知らないって・・・。一体どういう事だ?何がどうなってるッ!?」
焦点の合わなくなる視線と、ふるふると身を震わせ困惑する男に、身長の低い方の黒いコートの男が近づき、一言だけ男に答えを言い残す。
「俺達はお前の想像し得る人間じゃねぇって事だよ・・・」
思考が止まった男の身体を、鋭く冷たい物が貫通する。自分の内から溢れる生暖かいものを見つめながら、男は膝から崩れ落ち地面に倒れる。
「この者の主人らも、既にこの者の存在などとうに覚えていないだろう。これでこの街は、本当の意味で解放されたと言えるだろうな・・・」
「俺としちゃぁコイツに連絡させて、アイツらの慌てふためく様子も見てみたかったんだがなぁ」
「それでは困るのだ。彼らにはもっと強くなってもらわねば・・・。アークの刺客が差し迫れば、今の彼らでは太刀打ちできまい」
「へぇ~。そのアークの刺客ってのはどれだけつえぇんだ?船で戦った時のアイツよりもつえぇのか?」
「さぁな・・・。それより、死体はお前が片付けておけよ?やり方はお前に任せたんだ。後片付けもお前の責任だ」
「あ?誰も気にしねぇだろ、こんな奴。今更身元を調べても何も出てきやしねぇだろうし・・・」
そう言いながらも、低身長の方の男は殺した男の遺体と、脅しに使った鳥の死体を、沼のようになるそれぞれの影の中へと引き摺り込んでいく。
「それでも、だ。一切の証拠は残さない。それを徹底しろ」
「へいへい、分かったよ」
後始末を終えた黒いコートの男達は、その場であった出来事の証拠を全て消し去ると、ふっと何処かへと姿を消していった。それはまるで煙のように、音もなく気配すら感じさせず、初めから何もなかったかのように消えていった。
とある屋敷の一室で職務についていた男が、街を取り巻く空気の異変に気がつく。だが、オルレラの住人の中でこの異変に気付いたのは、この男だけだった。
男が特別だったのか異端だったのか。それとも他の住人がまともだったのか、おかしくなっていたのか。ミア達がオルレラとその周辺の異変に関与し、ツバキがオルレラを包む元凶を紐解いた事により、オルレラの住人達の記憶が改竄されていた事が分かった。
故に異変に気付けたと言うことは、その男はオスカーの作り出した記憶を惑わす空間の中でも、自分の記憶を保てていた事は間違いない。つまり、ツクヨが出会った修復士と名乗るニコラと同様に、オルレラに起きていること知りつつここを訪れた人物であることが分かる。
その男は、ニコラがオルレラ近郊の大穴の調査に訪れるよりもずっと前からオルレラにいた。それこそ、オスカーの記憶への介入抜きにして、自分が何のためにオルレラに留まっているのかを忘れてしまいそうになる程、男はここで何かを待っていた。
オスカーがオスカーになる前。後にその名を授かる彼がオルレラにやって来て、自我に目覚める。そして実験体に行っていた、当初の予定にない行為がバレ、事件を起こし失踪した後にオルレラでは密かに、アークシティからやって来た者達による捜索と証拠隠滅の為の動きがあった。
その者達の中には、潜入捜査のためにオルレラの住人と成り代わる者もいた。
現在、オルレラの異変を観測したこの男もまた、そんな潜入捜査の一員として、とある屋敷に忍び込んでいた。それが、ミア達のお世話になったエディ夫妻の邸だったのだ。
しかし男は、そんな捜査員の中でも非常に若く、少年から青年に変わる頃合いの歳で、組織に入ってから間もなかった。故に人手が必要な捜査任務に充てられた。
当初から記憶に関する研究や実験を行っていた組織の者達は、記憶への干渉に対する抵抗力を持っていた為、オスカーの影響を受けずにいられたのだった。
ミア達がエディ邸でこの男と遭遇した時には、既に立派な大人へと成長しており、エディほどではないがそれなりに歳も食っていた。記憶を改竄されているエディ達には、この男の成長のことなど覚えていられるはずもなく、あたかも初めからこの見た目だったかのような接し方をしていた。
誰にも気付かれることなく潜入していた彼らだったが、暫くして証拠隠滅が完了し撤退の命令が下る。だが、エディ邸に配属されたが故か、他の者達との接触や連絡を取り合う機会の少なかったこの男の元にだけ、その連絡が行き届かなかった。
結局この男は、オルレラにやって来た放浪者としてエディ邸の使用人としての人生を歩んでいくことになってしまった。この男も、最早本当の目的のことも薄れて来ており、それを自分の人生として受け入れていた。
だが、ツバキによりオスカーの作り出していた空間が解き放たれた衝撃により、彼の内に眠っていた潜入捜査員としての記憶が呼び起こされてしまい、自分が何者であるのかを思い出す結果となった。
組織がずっと探していたオスカーのものと思われる反応を観測した男は、直ぐにそれを報告しなければと動き出す。
街中の人々の記憶が戻り出すオルレラの中で、男はエディ邸で働く使用人という立場も失いつつあった。エディ夫妻の記憶が完全に戻れば、この男はエディ邸にはいられなくなる。
タイムリミットが迫る中、男はエディ邸を飛び出し、組織との連絡手段を探す。通信機器はデータが残る為、そもそも向こう側が受信してくれるという保証がない。手紙では信用に欠ける上に時間が掛かってしまう。
そこで男が思いついたのは、伝書鳩のように鳥類を利用した連絡手段だった。古くから使われていたとされる手段で、今も尚組織で使われていれば或いはこの情報を届けてくれるかもしれない。
直ぐに暗号化された文字で手紙を書き記すと、特殊な音色の指笛で組織の鳥を呼び寄せる。
「頼むッ・・・!まだ使われていてくれ・・・。私には時間が・・・」
だが、待てど暮らせど男の元に鳥がやってくることはなかった。焦りと困惑の中で、男は自分が組織から見放されてしまったのではないかと考えた。もしそうだとするならば、正常に戻った男を組織が生かしておく筈がない。
何とかして、今も組織の忠誠を誓っていることを証明しなければと、絶望に胸を締め付けられながらも、必死に他に思いつく連絡手段を考えるが、どんな手段を用いたいたのか思い出すことが出来ない。
ドチャッ・・・。
突然、男の側に空から何かが降って来た。
物音に振り返ると、そこには血面に激突し凄惨な姿で地面にへばり付く鳥の姿があった。
「うッ・・・!!」
思わず後退りした男が、それまで微塵も感じなかった恐ろしい気配を背後に感じる。身体中から吹き出す冷たい汗を感じながら、その気配のする方を向くと、そこには見知らぬ黒いコートを身に纏った、身長差のある二人組の人物が立っていた。
「なッ・・・何者だッ!?」
「お前如きが知る必要はねぇよ。やっと記憶が戻ったみてぇで悪いが、それがお前の幕引きの合図だったって訳だ」
フードを深々とかぶり、顔も見えない二人組の人物。口を開いたのは低い方の人物で、声色から男であることが分かる。
しかし、男にはその人物の声に聞き覚えはない。それに、組織の中にこのような黒いコートを羽織っている人物もチームも、男の記憶には一切ない上にそのような話を聞いた記憶もない。
始末を担当している者達なのか、或いは新しく組織の中で作られたチームなのかも知れない。男は何とかして身の潔白と組織への忠誠を証明しようと、これまでの出来事や、組織がずっと探していたオスカーの反応らしきものを見つけた事を説明する。
「頼むッ!信じて下さいッ!!連絡が行き届かなかっただけなんです!調べてもらえれば直ぐに分かる筈なんだッ!!」
生にしがみ付こうと必死に弁明し興奮する男とは裏腹に、全く動じる様子もなければ何かを語ろうとする素振りもない二人組の人物。
恐怖に震え出す男の声に、次第に小さい方の黒いコートの人物が笑い出す。
「ハハハハハッ!おい、コイツ何か勘違いしてるみてぇだぜ?」
「哀れな・・・。だが、何も知らぬがこの者にとって唯一の救いでもあるだろう・・・」
漸く口を開いた高身長の人物。彼も声色から男であることが分かった。しかし、男にとってそんな事はどうでもいい事でしかなく、二人が口にした勘違いと何も知らないということで頭がいっぱいだった。
「かっ勘違い・・・?何も知らないって・・・。一体どういう事だ?何がどうなってるッ!?」
焦点の合わなくなる視線と、ふるふると身を震わせ困惑する男に、身長の低い方の黒いコートの男が近づき、一言だけ男に答えを言い残す。
「俺達はお前の想像し得る人間じゃねぇって事だよ・・・」
思考が止まった男の身体を、鋭く冷たい物が貫通する。自分の内から溢れる生暖かいものを見つめながら、男は膝から崩れ落ち地面に倒れる。
「この者の主人らも、既にこの者の存在などとうに覚えていないだろう。これでこの街は、本当の意味で解放されたと言えるだろうな・・・」
「俺としちゃぁコイツに連絡させて、アイツらの慌てふためく様子も見てみたかったんだがなぁ」
「それでは困るのだ。彼らにはもっと強くなってもらわねば・・・。アークの刺客が差し迫れば、今の彼らでは太刀打ちできまい」
「へぇ~。そのアークの刺客ってのはどれだけつえぇんだ?船で戦った時のアイツよりもつえぇのか?」
「さぁな・・・。それより、死体はお前が片付けておけよ?やり方はお前に任せたんだ。後片付けもお前の責任だ」
「あ?誰も気にしねぇだろ、こんな奴。今更身元を調べても何も出てきやしねぇだろうし・・・」
そう言いながらも、低身長の方の男は殺した男の遺体と、脅しに使った鳥の死体を、沼のようになるそれぞれの影の中へと引き摺り込んでいく。
「それでも、だ。一切の証拠は残さない。それを徹底しろ」
「へいへい、分かったよ」
後始末を終えた黒いコートの男達は、その場であった出来事の証拠を全て消し去ると、ふっと何処かへと姿を消していった。それはまるで煙のように、音もなく気配すら感じさせず、初めから何もなかったかのように消えていった。
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