World of Fantasia

オスカー・フォルクマン

　オスカー・フォルクマン。

　オルレラの研究所にて、宇宙へ向かうロケットの燃料として、魔力を集め易い性質を持つ子供を使った、生物燃料の研究を行っている。

　特出すべき精神学に基づく研究の成果と、様々な精神病に効く特効薬の開発で目をつけられた彼は、最新鋭の研究と環境に恵まれたアークシティの化学部門に、とある仕事へと引き抜かれる事となる。

　故郷に妻子を残し、遠くの地にて研究を行うのは、家族を養う為でもあり守る為でもあった。

　彼らが行っていた研究は本来、道徳心のない行いであり到底許される事ではない。だが、人の探究心という抑えられぬ欲求を満たす為、表向きには至極真っ当な研究を行いながら、何処からか送られてくる人形のような子供達を使い、実験と研究をしていた。

　と、いうのが彼という男に与えられた役割だった。本来の彼には、名前はおろか人格すら与えられていない。

　皮肉なことに、彼が実験で扱っている人形のような子供達と、このオスカーと名付けられた男は何ら変わらない生い立ちを持っていたのだ。

　上記で語られた“オスカー・フォルクマン“という人物の歴史は、彼の中で構築された作り物の記憶でしかない。だが彼は、それを本当の自分の記憶だと思い込み、様々な人々と接していた。

　周りの人間も、それをおかしいとは思わず探ろうとはしない。彼に行われていたのは、記憶に関する実験だった。その被検体であった彼は、他者の記憶に影響を及ぼす不思議な力を身につける事に成功した。

　彼の他にも、何人かの成功例があり、彼らは各々の研究所で同じように周囲の者達の記憶に影響を与えながら、研究を行っている。

　勿論、人工的に生み出されたその能力を持つ彼らの成功例は少なく、失敗作と呼ばれた被検体はいくつも処分されてきた。

　検査結果に異常が見られない被検体には、実施試験として各地に設けられた研究所で研究を先導する“先生“としての地位を与え、彼らにとって都合の悪い記憶を操作しながら、不当な研究と実験を重ねていたのだ。

　しかし、とある予期せぬ変化がオスカーの身に起き始めた。それは、自分と似た境遇にある実験体の子供達に、情を抱き始めたのだ。

　人間の子でありながら、物言わぬ人形のような子供達を前に、感情を手に入れた彼は、実験を行っても何の感情も示さない彼らを憐れみ、言葉や感情を教え始めたのだ。

　無論、そんなことが知れれば彼は失敗作として処分されかねない。彼にもそれくらいの事はわかっている筈なのだが、彼の記憶の中に構築された自分の子供の存在が、同じ子供である実験体に触れ合う内に、想定外の感情を抱き始めるという反応が起きた。

　他の被検体が働く研究所では、オスカーの研究所とは違い、各々別々の実験体を用いて研究と実験が繰り返されていた。それこそ、人間の子供だけではない、様々な種族の子供を用いた非道な研究と実験の数々。

　それは人間の子供を扱うよりも慎重になる案件であり、監視や情報の流出には細心の注意が払われていた。その点では、オスカーの配属された研究所は、彼らによる監視が薄いというのも相まって、気づかれるのが遅れた。

　オスカーは言葉を覚えた子供や、感情を手に入れた子供達に、監視の目が向けられている時はそれを隠すように教えていたが、感情を持ってしまったことで、彼らは恐怖を感じるようになってしまった。

　定期的に様子を観に来る本家の研究員の前で、子供達は震えてしまった。今までにない反応を示し始めた実験体の子供を見て、様子がおかしいことに気がつく。

　だが、本家の研究員達はそれも実験の一環と捉えることにし、これまで通り実験を行うことをオスカーに命じた。しかし、感情を持ってしまった以上、これまで通りに実験を行うことが出来る筈もなく、オルレラの研究所からの報告は滞る事となっていく。

　研究と実験が行えなくなってしまったオスカーのオルレラ研究所に、本家の研究員が訪れる。そして事態を確認した彼らは、今度は感情を持った子供を使った研究をしようと、オスカーに実験体に感情を与えさせるように仕向ける。

　一時は許されたかと思い安堵するオスカーと子供達だったが、次に本家の研究員達が訪れた際に、感情を持った子供達が連れ拐われる事態が起こる。

　必死に抵抗する子供達とオスカー。しかし、別の場所に置いてきた妻子の事を人質に取られ、オスカーは何も出来なくなってしまう。

　泣き叫びながら連れ拐われる子供達を前に、目を合わせる事が出来なかったオスカーは酷く心を病んでしまい、何とかこの状況を変えることは出来ないかと考えた末、自分と感情を与えてしまった子供達の魂を、肉体という入れ物から解き放ち、この地に止める装置を密かに開発し起動させる。

　オルレラの研究所は機能を停止してしまい、本家の研究員達によって研究と実験の証拠となり得る物の撤去と消去が行われ、研究所は無人の状態で放置される事となったのだった。