World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
928 / 1,646

動かない身体

しおりを挟む
 霊体の怪物は突然、水を得た魚のように見に纏う魔力量を上げ、素早い動きをし始めたのだ。それはまるで、カプセルに閉じ込められていた先生の解放を待っていたかのように。

 「なッ・・・!?まだ強くなるのかよッ・・・。もうコイツを使っても抑え切れないぞ!?」

 ソウルリーパーは、その巨体で部屋中を縦横無尽に飛び回り、壁や床などお構い無しに透過していき、ツバキの狙いを定められないようにしている。

 「クソッタッ・・・!こんなの相手にしてられっか!先生ってのを救出できたんなら、もうこんな所にようは無いぜ!」

 ツバキはモンスターが飛び回っている内に、先生をカプセルから救出した少年の元へ向かう。一刻も早くこの場を去る為、彼は温存しておいた魔石を使い飛んでいくと、意識のない先生を抱える少年の身体を掴む。

 「時間がねぇ!しっかり先生のこと、掴んでおけよ!!」

 「ウンッ・・・!」

 少年は徐に魔法を発動させ、先生の身体を包み込むように光で覆った。ジェットのように飛び回るツバキのガジェットの事を考えれば、空中で振り回されるのは必然。

 それを考慮してのことだろうと、ツバキは少年の行動を尻目に、両足に積んだ魔石から一気に魔力を抽出し、モンスターの巨体を薙ぎ倒した時のように、エネルギーを足に集中させる。

 強い光を帯び始めたツバキは、飛び込んでくるモンスターの攻撃に合わせて、文字通りロケットスタートを決めて回避し、出口の方へと突き抜けていく。

 腕のガジェットを盾に扉を突き破ると、周りを見渡し上へ上がる階段を探すと、躊躇することなく階段へ向かって再び突っ込んでいく。

 しかしこのままで階段に激突してしまう。ツバキはタイミングを見計らい、床ギリギリを飛びながら勢いよく床を蹴り飛ばす。彼らの身体は上手い具合に角度をつけ、見事に階段にぶつかることなく、施設の地下へと登っていく。

 一息つくのも束の間、次に待ち構えているのは、入り組んだ仕掛けによって開閉する強固なハッチだった。こればかりは生身の身体で破ることは出来ない。

 ツバキはすぐに腕のガジェットの準備を整えると、再びタイミングを計り丁度の力が全て乗るところで、ガジェットを起動する。

 今度は地下の部屋でモンスターを薙ぎ倒した方の腕とは逆の腕に、エネルギーが集まる。続けてあんな大技を使えば、今度こそガジェットが壊れてしまう。

 クールタイムが過ぎていても、ガジェットの耐久のことも考慮しなければ、すぐに戦闘不能になってしまう。それ故の左腕なのだが、いよいよこれで後がなくなる形となってしまった。

 だがそれでも今は、窮地を脱することを第一に考えなければならない。彼の左腕に溜め込まれた力は、見事分厚いハッチを吹き飛ばし、漸く見慣れた施設の地下へと上がって来た。

 そこで遂に、ツバキの両足に取り付けられた魔石の魔力が底をつく。ガス欠のように勢いを失って煙を噴き上げる。宙を舞ったまま勢いを失ってしまい、コントロールを無くした彼らは、まるで放り投げられるように床に落ちる。

 「ぐッ・・・!ってぇ~・・・。おい、大丈夫か・・・?」

 「ゥ・・・ウン・・・」

 数々のモンスターとの戦闘と、地下の隠し部屋での大型ソウルリーパーとの戦いで、すでにツバキのガジェットと彼自身もボロボロだった。悲鳴をあげる身体に鞭を打って起き上がったツバキは、吹き飛ばされてしまった少年と先生の無事を確認しにいく。

 先生の身体は、依然意識を取り戻さぬまま床に倒れていたが、外傷は全くなかった。これも少年の掛けた魔法のおかげだろう。実験に使われて身につけた能力のようだが、今はその能力に救われた。

 少年の方は返事を返すことはできたようだが、ガジェットの速度と勢いに振り回され、いつの間にか身体のあちこちをぶつけていたのだろう。相当無理をしているようだった。

 這いずりながら、床に倒れる先生の元へと向かっているが、少年の足は曲がる筈のない方向へと曲がっていた。

 「お前・・・足がッ・・・!」

 救出した先生の無事を確かめた少年は、安心したのか一気にその身体から力が抜け、そのまま仰向けに倒れる。すると彼は、自ら自分のフードを外し始める。

 「先生・・・良かった、まだ意識が・・・」

 少年は目を覆うように手を置いている。泣いているのだろう、その声色も僅かに震えているのが分かる。それだけ、先生と慕っている人が無事だったことが嬉しかったのか。

 「お前・・・もういいのか?」

 フードを外したということは、彼の意識がここを離れることを意味する。そしてその魂は元の身体のあるべき場所へと帰っていく。

 「あぁ、もういいんだ・・・。それに、折角貰った身体も、こんなんじゃもう役に立たないしね・・・」

 少年の言う通り、彼の身体はボロボロの状態で、最早戦うことは疎か真面に歩くことすら出来ない状態にある。彼もそれを分かっていてフードを外し、消える道を選んだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...