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託される思い
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少女の身体のタイムリミットが近づいていた。しかし彼女はよく話してくれた方だった。ツバキをモンスターの攻撃から守りながら、最後の最後まで口を開き続けてくれた。
身体を模した魂が、元の場所へと帰っていく感覚が如何いったものなのか。彼にそれを知ることは出来ないが、その先生と呼ばれる人物は彼らの魂が元の場所へ戻ることを、辛い事・苦しい事だと考えているようだ。
だが、長くこの場所に留まることで、彼らの考えにも変化があったのだろう。目の前で同じ境遇にある仲間達が、嫌々謎の大人達に連れて行かれるのだ。そんなものを目にしたら、恐怖を覚えてしまうのも無理もない。
それも、連れ去った者達からすれば、感情なんてものを与えたのがそもそもの原因だと思っているに違いない。感情がなければ恐怖を抱くこともない。口が聞けなければ騒ぐこともない。
物言わぬ生きた道具として扱うことこそ、彼らを送ってきた者達のリスクのない扱い方だったのだ。しかし、そんな奴らに協力をしていた先生と呼ばれる人物は、何故彼らの意思に反する事をしたのだろうか。そして何故協力しているのか。
「私達が貴方に協力するのはね・・・貴方には私達に出来ないことが出来るからよ・・・。だから例え、元の場所にこの魂が戻ろうと。そこで怖い日々が待っていようと、先生を助けたいと思うの・・・」
少女は、自分達がツバキに自ら進んで協力する理由について話し始めた。だがこの分だと、きっと最後までは語られない。彼女の意思を尊重して、何も質問することなく彼は彼女の言葉に耳を傾ける。
「辛くて怖いのは・・・私達だけじゃないの。いつか先生が話してくれたの・・・。先生には、故郷に残してきた家族がいるって・・・」
それを聞いて合点がいった。先生はその連中に弱みを握られているのだろう。研究に協力しなければ、人質にとった家族が如何なるか分からない。そんなところだろう。
そしてそんな折、少女が張った魔法の障壁がモンスターの攻撃によって、打ち破られようとしていた。ピキピキと湖に張った氷にヒビが入るような音が聞こえてくる。
「・・・ごめんね・・・もう限界みたい・・・」
「そんな事はない。よく話してくれた・・・」
ツバキの言葉に、安堵したような表情を浮かべる少女。消えゆく彼女に協力を約束したツバキは、彼女の最後を見送る。再び彼の手に残されるレインコート。そして、彼女の魔力が消えると同時に、魔法障壁はモンスターによって打ち破られた。
彼の事情などお構い無しに突っ込んでくるモンスターを尻目に、ツバキは足のガジェットに取り付けられた魔石を新しいものと交換し、戦闘態勢に入る。
「こっちの気も知らないで・・・」
新たに装填された魔石の力を使い、目にも止まらぬ素早い動きでモンスターの攻撃を避けると、少女の着ていた白いレインコートを手に、強い敵意をその大型のソウルリーパーへ向ける。
「テメェが何の目的で邪魔してくんのか知らねぇが、立ちはだかるって言うんなら容赦はしねぇッ!」
目的となる場所を突き止めたツバキに、最早魔石を温存する理由はなかった。それに、親玉らしきこの大型のソウルリーパーさえ何とかして仕舞えば、取り敢えずの脅威は取り除ける。
先程は不意を突かれたが、今度は思いっきり力を込めた攻撃を打ち込める。銃の薬莢が飛び出すように、腕に取り付けられたガジェットの魔石が弾け飛び宙を舞う。
そして新しい魔石を装填したツバキは、雄叫びをあげて襲い掛かるモンスター目掛けて飛んで行く。大きく振られたソウルリーパーの攻撃を、足のガジェットを使った華麗な技で身を翻して躱すと、身体を捻り全身の力を使って渾身の力を右腕に溜めるツバキ。
彼の右腕に取り付けられたガジェットからは、これまでに見せたことがない程の蒸気を吹き出し、物凄いエネルギーが集約する。その力に悲鳴を上げるように、ガジェットからは金切り音のようなものが響く。
「保ってくれよッ・・・!獄炎掌ッ!!」
ツバキの腕に集められたエネルギーが炎の形へと変わり、赤黒い炎は彼の腕とガジェットを包み込むように纏われる。彼の放った拳に合わせるように、ガジェットが伸び更に加速力を加えてモンスターの頭部に、拳をぶつける。
炎を纏った拳は、霊体であるソウルリーパーにも命中し、その大きな身体を勢いよく薙ぎ倒して見せた。
身体を模した魂が、元の場所へと帰っていく感覚が如何いったものなのか。彼にそれを知ることは出来ないが、その先生と呼ばれる人物は彼らの魂が元の場所へ戻ることを、辛い事・苦しい事だと考えているようだ。
だが、長くこの場所に留まることで、彼らの考えにも変化があったのだろう。目の前で同じ境遇にある仲間達が、嫌々謎の大人達に連れて行かれるのだ。そんなものを目にしたら、恐怖を覚えてしまうのも無理もない。
それも、連れ去った者達からすれば、感情なんてものを与えたのがそもそもの原因だと思っているに違いない。感情がなければ恐怖を抱くこともない。口が聞けなければ騒ぐこともない。
物言わぬ生きた道具として扱うことこそ、彼らを送ってきた者達のリスクのない扱い方だったのだ。しかし、そんな奴らに協力をしていた先生と呼ばれる人物は、何故彼らの意思に反する事をしたのだろうか。そして何故協力しているのか。
「私達が貴方に協力するのはね・・・貴方には私達に出来ないことが出来るからよ・・・。だから例え、元の場所にこの魂が戻ろうと。そこで怖い日々が待っていようと、先生を助けたいと思うの・・・」
少女は、自分達がツバキに自ら進んで協力する理由について話し始めた。だがこの分だと、きっと最後までは語られない。彼女の意思を尊重して、何も質問することなく彼は彼女の言葉に耳を傾ける。
「辛くて怖いのは・・・私達だけじゃないの。いつか先生が話してくれたの・・・。先生には、故郷に残してきた家族がいるって・・・」
それを聞いて合点がいった。先生はその連中に弱みを握られているのだろう。研究に協力しなければ、人質にとった家族が如何なるか分からない。そんなところだろう。
そしてそんな折、少女が張った魔法の障壁がモンスターの攻撃によって、打ち破られようとしていた。ピキピキと湖に張った氷にヒビが入るような音が聞こえてくる。
「・・・ごめんね・・・もう限界みたい・・・」
「そんな事はない。よく話してくれた・・・」
ツバキの言葉に、安堵したような表情を浮かべる少女。消えゆく彼女に協力を約束したツバキは、彼女の最後を見送る。再び彼の手に残されるレインコート。そして、彼女の魔力が消えると同時に、魔法障壁はモンスターによって打ち破られた。
彼の事情などお構い無しに突っ込んでくるモンスターを尻目に、ツバキは足のガジェットに取り付けられた魔石を新しいものと交換し、戦闘態勢に入る。
「こっちの気も知らないで・・・」
新たに装填された魔石の力を使い、目にも止まらぬ素早い動きでモンスターの攻撃を避けると、少女の着ていた白いレインコートを手に、強い敵意をその大型のソウルリーパーへ向ける。
「テメェが何の目的で邪魔してくんのか知らねぇが、立ちはだかるって言うんなら容赦はしねぇッ!」
目的となる場所を突き止めたツバキに、最早魔石を温存する理由はなかった。それに、親玉らしきこの大型のソウルリーパーさえ何とかして仕舞えば、取り敢えずの脅威は取り除ける。
先程は不意を突かれたが、今度は思いっきり力を込めた攻撃を打ち込める。銃の薬莢が飛び出すように、腕に取り付けられたガジェットの魔石が弾け飛び宙を舞う。
そして新しい魔石を装填したツバキは、雄叫びをあげて襲い掛かるモンスター目掛けて飛んで行く。大きく振られたソウルリーパーの攻撃を、足のガジェットを使った華麗な技で身を翻して躱すと、身体を捻り全身の力を使って渾身の力を右腕に溜めるツバキ。
彼の右腕に取り付けられたガジェットからは、これまでに見せたことがない程の蒸気を吹き出し、物凄いエネルギーが集約する。その力に悲鳴を上げるように、ガジェットからは金切り音のようなものが響く。
「保ってくれよッ・・・!獄炎掌ッ!!」
ツバキの腕に集められたエネルギーが炎の形へと変わり、赤黒い炎は彼の腕とガジェットを包み込むように纏われる。彼の放った拳に合わせるように、ガジェットが伸び更に加速力を加えてモンスターの頭部に、拳をぶつける。
炎を纏った拳は、霊体であるソウルリーパーにも命中し、その大きな身体を勢いよく薙ぎ倒して見せた。
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